2:アクアパレッサ王国 上
開いていた本が閉じると、先ほどまで発光していたのが嘘のように消え去り、本の前で手をかざした青年の姿は後かともなく消え去った。
オミングの中では、この光景を見るのは初めてではなく、むしろ日常茶飯事であった。しかし、今回は今までとは異なる謎の高揚感におのずと笑みが口からこぼれる、
まるでヒーローが何の躊躇いも無く人を助けるような、気持ちの良い感覚。
オミングは目の前で消えていった”彼”をただただ思い返していた。
すると、何かがこの場所に侵入してきた波長を感じた。このツンとした波長はアリシア…。
「流石だ、鳴上君。普通だったら意味不明な現状に戸惑って、判断が鈍ると思うが…彼は違う。根っから優しい人間だったのだと推測できる。まぁ、推測も何も我々は知っているから、推測する必要もないのだが。」
オミングの目の前に、この場所を作った御身。代表であるアリシアが音もなく姿を見せる。
オミングは波長で存在を知るためか、特に驚きもせずアリシアがいるであろう方向に顔を向ける。
クリーム色の髪をもった彼女からは笑みがこぼれていて、アリシアはそんな彼女に微笑んだ。特に何かを話すこともなく。
長い付き合いの彼女たちは、鳴上…その世界にとって”無関係の男”が受ける物語の行く末をただ見守る。
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本に手をかざした鳴上は、本から発せられた光と共に何かに全身をつかまれ、どこか別のところに投げ飛ばされた感覚を得た。
本に引き寄せられたのではなく、本に掴まれ、思いっきり投げられたような…何とも言い難い感覚だった。
目をあけて意識がはっきりしてくると、木材でできた建物と煉瓦でできた四角い建物の間にある路地に降り立っていた。
時間帯は夜、回りの音を聞くに活気ある街の様子。木材でできた建物では酒盛りをしているような陽気な歌や、酒の香りが微かに漂っている。
「ここは…。オミングさんが言っていた『アクアパレッサ王国』なのか?」
地面の感触や、話し声等、周囲に感覚を研ぎ澄ましてみるが、日本でさんざん聞いた母国語。地面は少しぬかるんだ砂利道といったところだ。
日本にいるかのようなか感覚はある種の懐かしさを覚えるほどである。
「まずは状況確認だ…。誰かに話をしてみる必要がある…。」
判断材料が少ない今、現地の人間に話を聞く他ない。ちょうど木材でできた建物には居酒屋の雰囲気がある。よそ者が突然入ったとて、お酒の力で何とかなる…と思いたい。
意を決して路地から抜け出す。
路地にいた為か、この場所のことをよくわからなかったが、夜であろうと明るいにぎやかな雰囲気と共に、客引きや酒を飲む武装した兵士まで幅広い人種が賑わいを見せていた。
周囲の建物は…昔授業で習ったことがある”ロマネスク様式”の建物をアレンジしたかのような建物が多く、室内からは光が漏れている。
逆を言えば自身の隣にある木材でできた建物は逆に珍しいようで、街を見渡してもここにしかないようだ。
「おうおう!兄ちゃん!!辛気臭い顔してねぇでこっちこいよ。飲もうぜ」
運がいいことに、髭が生えた大柄の男が店内からこちらに声をかけてきた。相当出来上がっているようで、絡み酒といったところか。
だが、話しかける手間が省けた分、こちらとしては都合がいい。
「お、おう…すまない。考え事しててな。付き合わせてくれ。」
呼ばれるまま店内に入ると、中は思ったよりも広く様々なコミュニティが各々で酒を楽しんでいた。
その中には獣耳を持った人間や甲冑を纏った騎士のグループなど多数ある。
「なんだそいつ?変な格好だなぁ。あぁ?兄弟!」
「うるせぇ、恰好なんてどうだっていいだろ!兄弟!…この兄ちゃんが辛気臭い顔して店前で立ってたんだ。うまい酒もマズくなっちまうようなもんよ。おめぇ名前は?」
「鳴上っていうんだ。さっきはすまない。楽しい雰囲気を悪くしてしまった…。飛び込みでの参加だけど構わないか?」
「ナガミか。また面白れぇ名前よ。俺様はカーチャー。西の山を仕切ってる頭目よ。そんでナガミを連れてきた兄弟分が、」
「東の山を仕切ってるドンテスだ!今日はとことん飲もうぜナガミの旦那!」
カーチャーとドンテスは、笑顔で鳴上を迎えると、4人座れそうなテーブルへと移り、3人で座った。
カーチャーもドンテスも身なりは動物の皮のようなものを着ているが、清潔感のある筋骨隆々な男たちといったところだ。どちらかというと山賊の様に動きやすさを重視した格好というべきか。
ドンテスがテーブルの下から空の樽ジョッキを一つ持ち、鳴上が座った席の目の前に置く。
すると、猫耳を付けたウェイトレスらしき女性が赤色の液体をジョッキに注いでくれた。
「この店の酒はこれ一本なんだが、味は天下一品なんだ!空のジョッキを置いておくと、今みたいに注いでくれるからよ。いちいち呼ばなくても酒が飲めるってわけだ!がっはっはっは」
カーチャーの笑いは店内に響くが回りも気にしていないようで、いつものことかといわんばかりな様子。
「ありがとうカーチャー。うまいな、この酒。店が繁盛しているのも納得できる。」
お世辞抜きで飲みやすくて香りが強く、様々なベリー系の果物を使った芳醇なアルコール飲料といったところか。
アルコール特有の飲み心地より、ジュースの様にサクサクといける感覚…気を付けないとすぐに酔ってしまいそうだ。
「そうだろう、そうだろうよ!…そういやぁナガミの旦那は見た感じ、異国の人間だな?表情を見るに来たばかりだろ。このドンテスにドーンっと聞いてくれや。」
「ありがとう、ドンテスさん。まさにその通りで、この街には来たばかりで…そうだな、ここはどういう場所なんだ?」
「俺らに”さん”はいらねぇぜ旦那!…それより、ここか?ここはアクアパレッサ王国の名店”アクアインガ亭”よ!料理や酒はもちろん、宿も併用している万能店でな!俺っちや兄弟と会合する時に使わせてもらっているんだ。肉や魚はもちろん、野菜だってここはうまいぞ!」
なるほど、アクアパレッサ王国にはしっかり入れているようだ。まずは一安心…。
それにしても”アクアインガ亭”か。店内に居座っているだけでも、客の雰囲気も陽気で楽しい雰囲気が伝わってくる。
このような場所は、自分自身が生まれた地元…生前の日本には無かった雰囲気でなんだか楽しい。
「そうか、だからこそ賑わっているんだな。納得がいった。酒はうまいし飯も美味い。終いには人も良いときた。カーチャーもドンテスもありがとうな。」
「いいってもんよ。大したことはしてねぇしよ。酒代も俺様が出すぜ。ナガミの旦那は今日はこの雰囲気を楽しいんでくれや!」
マジか…。懐が広いにもほどがある…。見ず知らずの人間を受け入れた挙句、代金まで!?
まぁでも正直ありがたい…。この世界に来たばかりで、お金の概念はまだ把握していない…。よくよく考えれば、カーチャーの申し出が無ければ無銭飲食になっていた。勢いで合わせるのは良くない…。
「ありがとう。真面目に助かる。正直この国には来たばかりでさ。護衛もつけずに一人できたもんだから、危うく飯も食わずに野宿するところだった。」
「おいおい、なんだ訳アリかぁ?俺っちも訳アリではあるけどよ、ナガミの旦那の方がよっぽど訳アリと見た。護衛無しでここまで来た根性といい、俺っち達を見ても驚きもしねぇ肝っ玉。ますますナガミの旦那の大物具合を感じるぜ。」
気は進まないが、ややこしくなるのでそれっぽい嘘をついた。ドンテスは目を開いて鳴上を見て「うんうん」といわんばかりに頷いた。
隣でカーチャーが酒を飲み干し、ジョッキをテーブルに置く。酒で出来上がってはいるものの、瞳は真剣そのもの。カーチャーは意を決したかのように鳴上に向かって口を開いた。
「ナガミの旦那ぁ…訳アリといっても相当だなァ!!ますます気にいたぜ…。
そうだ、1つ確認だが…ナガミの旦那は”エルル派”じゃないよな?」
「エルル派?すまない、よくわからないな。」
「ふぅむ…。カーチャーの兄弟、ナガミの旦那は嘘をついてない。無関係の人間だ。」
エルル派…派といっているということは、なんらかの派閥があるのだろうか?
「あぁ、すまない旦那。”エルル派”ってのは、アクアパレッサ王国の民が使う差別用語みたいなもんでな。ここから西にあるエルルの民のことを言うんだ。旦那も知っているとは思うが、現在アクアパレッサ王国の東にあるマイカス帝国と戦争中だ。みんな領地を奪って自国を向上させるために全力で動いているっぽいんだが…なんだかきなくせぇ。」
「エルル派のやつがいたら、"アクアパレッサを巻き込むな"って形で、袋叩きに合う可能性があってよ!だから念のため聞いたんだぜ。無関係なら問題ねぇ。」
なるほど…領地を広げるために戦争か…。
オミングさん曰く、アンノーマルは一目見ればなんとなくわかる…とのことだが、隣国同士が戦争をしているとなると、探す範囲を広げるのは悪手かもしれない。今はとにかく活動拠点を抑えて、協力者を募る方を優先した方がよさそうだ。。
カーチャーとドンテスは西と東の山のリーダー…みたいなので、協力を願えればいいが…。今はとにかく情報が少ない。協力を願うのは親交を深めてからの方がいい。
「そうだったな。確かに戦争中だった。ここに来る最中でも生々しい傷跡がちらほら見えた。戦争とはいえ、ああいうのを見ると胸が痛くなる。」
「旦那も見たか。あの生々しい傷跡。近頃は魔物も使役して戦場に向かわせてるって噂だぜ?まったく困ったもんだ!
西と東がぶつかり合ってるからよ、その分俺様と兄弟の山で、物資の供給の量が増えててな…。情報供給を含めて愚痴るためにも今日はアクアインガ亭で合流ってわけだ。」
カーチャーが溜息をもらす。心底参っているようだった。
それにしても…アクアパレッサ王国の西にある国と東にある国が戦争をしているのであれば、中継点でもありど真ん中にあるアクアパレッサ王国も何らかの被害や対策をしていると思うのだが…。
「西と東でぶつかっているんだったら、中央にあるアクアパレッサ王国も被害があってもいいと思うが…戦争の様子1つないな」
「アクアパレッサ王国を統治している有名な王女様がいるからな。この時間なら王国内を巡回しているぜ。アクアインガ亭にはまだ顔をみせてないから、そろそろ来るんじゃないか?俺様もサシで飲んだことがあるからわかるが、豪快な女性よ!」
有名な王女…なるほど。戦争を上手く回避するために尽力している王女がいるのか…。
そうなると、相当な手腕だが…王女の立場で戦争を回避する国を作り上げるなど…できるのだろうか?
「そんなに有名なのか?その王女とやらは。」
「あたぼうよ!隣国の王族の評判に比べたら、アクアパレッサ王国の王族は聖人君主だぜ。俺っちも何度もあってるが、いいやつ過ぎて困る!ギルド撤廃運動を確立して実現した際には、行動力も評価されて今じゃ国の英雄のような立ち位置よ!」
「す、すご「たのもぉぉぉぉぉう!!!!!!!」
凄いなと言おうとした矢先に、店のドアから勢いよく何者かが現れた。
赤色の長い髪の毛を靡かせ、勢いよく入ってきた身長2mほどの女性は、一言で店内が静まり返るほどの声量で声をかけてきた。
さっきまで騒いでいた店内が嘘のように静まり返っている。この女性がもしかして…。
「この国に不審者が突然現れたから急遽武装して巡回に着た!誰だ!お前か?いやそこのお前か?」
指をさしつつ、客を吟味し始める赤髪の女性は、バキバキに割れた腹筋を見せつけるドレスのような恰好と最低限の皮装備のような恰好で、不審者とやらを探しているようだ。
突然現れた…から察する限り、恐らく不審者は俺のことだろう。
「なんだ、藪から棒に。ハスティ王女、今日は随分と威圧的だな。」
「むっ?カーチャーか。いや、先ほど私の防衛魔法に国民以外の生命体が侵入したと引っかかってな。侵入者の魔力の数値が尋常じゃないのだ。もしかしたら隣国のスパイなどが侵入してきた可能性もあったので、強気に言ったのだ。許せ!」
凛とした立ち姿、胸の大きさ、腹筋の割れ具合…どれをとっても規格外で、王族らしからぬ野性味あふれる女性だが、礼節は弁えているようで、カーチャーや他の客に対して軽く一礼した。
「カーチャーよ、申し訳ないが不審な人物はみなかっただろうか?」
「不審な人物ねぇ…すまん、わかんねぇ」
ハスティ王女は「なるほど」と返すと、すぐに別のテーブルの客に声をかけに行った。
その姿を見計らって、ドンテスが俺の耳に手を当てて小声で、話しかけてきた。
「来たばかりで知らねぇと思うから話しておくぜ。ちょうど1か月前ぐらいに隣国のスパイが侵入した際、アクアパレッサ王国の物資が盗まれるっていう被害があったんだ。食料から、武器まで総勢8000万ギギほどの被害だぜ?そりゃ、王女様も威圧的になるわけさ。」
「なるほど、スパイね…。」
アクアパレッサ王国はギギというお金を使うらしい。相場こそわからないが、ドンテスの冷や汗具合を見るに、相当な金額なのだろう。
スパイが実際に被害を出したと考えると、国のトップに立つ王族からしたら”国の問題”としてとらえている可能性がある。
カーチャーやドンテスの為にも、ここは早めに名乗り出た方がよさそうだ。
「そこ!何をこそこそしている!まさかドンテスの横にいるそのものこそが不審者…」
「すまねぇ、ハスティ王女。こいつは俺っちの客人でナガミってんだが、遠い国から護衛もつけずにここに来たようで内情をしらねぇみたいでよ。聞こえやすいように耳元で話したんだ。」
「そうか…。確かに不審者の生命反応とは違うようだ。すまない、ナガミよ。」
「いや、気にしないでくれ。国の問題のようだし、躍起になるのは、内容が内容なだけにわかるよ。」
「ご厚意感謝する。」
勇ましさの中に可憐で美しさも兼ね備えているハスティ王女は、またも一礼で返してくれた。
王族が客人に頭を下げるのはわからなくもないが、店内にいるどこの人間に対しても頭をいちいち下げている。
この誠実さこそが、王女が慕われている要因なのだろう。
というか、俺が不審者じゃないならだれが…。
.....しばらく探し回ること数分。
ハスティ王女が不審者を感じ取ったようで、カウンターの下に背中に背負っていたでかい包丁のような武器を構えた。
「ここだな…おい!でてこい!出なければこのまま切るが問題ないか?念のため言っておくが、100%切断するからな。」
するとカウンターの下から、泣きながら眼鏡をかけた女子高生……女子高生!?なんで制服姿の女の子がカウンターの下から出てくるんだ?
「ひっぐ…ひ…ごめんなさい。でます…。だから切らないでください…。」
「むっ?不審者にしては、高価な生地を使用した奇怪な服を着ているな…。魔力こそあれど、使い方を把握できていない…。ふむ、貴様、名は何と申す?」
「え、えっと…比嘉 里美です…。」
「なるほど、特徴的な名前…か。だとすれば、貴様は”マイカス帝国”が行っている”勇者召還”で呼ばれた人間だな。何故ここにいる?」
ハスティ王女は女子高生を睨みつつ、武器を下す素振りも見せず戦闘態勢を崩さなかった。
ハスティ王女の表情を見るに、勇者召還…?とやらがヤバそうな雰囲気だ。
「そ、それは…。私は”マイカス帝国”で勇者召還によって召還されました…。でも、環境が劣悪で、私の友達が次々にころ、こ、殺されてしまって…。ひっぐ…。死に物狂いで”あの場所”から抜け出してきました…。」
「それが何故、帝国から遠く離れた隣国のアクアパレッサ王国にいる?」
「私はスキルとして、”瞬動”を持っているので、自分や物に対して瞬間移動をすることがでぎます…。スキルを応用して短距離であれば高速で瞬間移動ができるので…できるので…頑張って死に物狂いで逃げて逃げて…それで…」
確かによくよく見ると、背中は縦に傷が入っており、靴は片方無く、足には無数の傷が見えていた。
修羅場を潜ってきたのは確かなようだ。
「ふむ…みなまで言うな。よく頑張った。」
「あ、ありがとうござ…ぁ!?な…」
「だが、本人への冒涜に当たる行為はいただけぬ。」
気が付けば大きな包丁のような武器が腹を貫通しており、血が滴り落ちていた。
ハスティ王女の動きが一切見えなかったが、ごく当たり前のように目の前の女子高生を刺した。店内では血が噴き出しているのに、一切汚れていない…。…ん?よく見たらハスティ王女の左手が光っている。まさか、刺しながら店内が汚れるのを防いでいるのか…!?
「うわぁ…おっかねぇぜ…。」
「王女様、一切の躊躇いもないな…。」
回りの客も困惑しているようだが、刺したことに対して妙に納得している面々も多い。
目の前で人が刺されているのに悲鳴すら上がらない…。人の生き死には、この世界において軽いのかもしれない。
「頑張って嘘八百を並べても無駄だ。”マイカス帝国”から逃げてきたと言ったが、不可能だ。勇者召還といえば聞こえはいいが、実際は国にこき使われる”戦争奴隷”を召還する。帝国が戦争奴隷に何も施しをせずに野放しにすると思うか?」
ハスティ王女は、血が滴りつつもまだ意識がある女子高生のスカートが引きちぎり、太ももに指を刺した。
血液で赤く染まった白いパンツらしき下着と、痛々しい傷跡を前に俺は思わず息を吞む。
「貴様は”戦争奴隷の証”である”隷属の腿枷”を付けていない。それが何よりの証拠だ。枷をつけていれば一定距離に達すると自動で帝国に強制送還される上に、万が一自力で外しても外した瞬間に帝国に強制送還される。帝国は奴隷を絶対に逃さないために過剰なまでに枷に細工を行っているのだ。それゆえに貴様は勇者召還で呼ばれた人間ではないことは確信が持てる。
…だが、帝国がこのような手段を使って潜入させるほど外道ではないのは確か。”戦争奴隷”というが、国の財産として扱うと聞いているからな。このようにほぼ死にかけの状態で送り込んでくるとは思えぬ。それに本人に成りすまして潜入する辺り…禁術を使って忍び込んだ”エルル派”の人間だ。」
そう告げると、意識がなくなったのか…動かなくなっていた女子高生を振り払い、武器を背負いなおした。
「な、なんだって!?こいつぁマイカス帝国の人間じゃないのか!?」
ドンテスが驚きつつ死体を見る。すると女子高生の姿からみるみる変化し、若い男性へと変化していった。
「そうだ。このものは”エルル派”のスパイだ。エルル派は、擬態の禁術に手を出し、わが国でも物資の強奪をした…との情報がある。このように人の死の直前に擬態して、人を騙す行為も平気でやる者たちだ。同情の余地も無し。」
「ひ、人の死の直前…?ってことはさっきのお姉ちゃんはもう死んでんのか…?」
「まじかよ…”エルル派”のやつら、そこまでやるのか…。」
「戦争も嫌だけど、”エルル派”のやり方はもっと嫌ね。人の命をなんだと思ってるの…。」
人の死の直前に擬態…。ってことは、先ほどの比嘉って子はもう亡くなっている…?
奴隷という言葉で勝手に判断していたが、帝国よりも”エルル派”の方が外道な国のようだ…。