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1:そこはどこにでもあってどこにもない場所 下

「頭をあげ給え。鳴上君。そして久々だな。」


礼をした後、聞こえてきた聞きなじみのある声色。間違いない、あの女…。八重歯さんから聞いていた”この場所の代表”だ。

そして目をあける。気づけば視界は真っ赤な絨毯にすり替わり、ベッドの掛け布団があろう場所とは程遠い場所に変化していた。


「な!?うわぁ!!」


目の前の変化に戸惑うと同時に、今度は転倒した。…理由は簡単。寝ていたはずなのにスーツ姿でいつの間にか立っていたからだ。


「ほほう。慣れていないと転倒するのか…。今後は対策を練っておこう。」


何故か自分の転び姿に関心している代表さんの目線を意識しつつも、体を起こす。

改めて周囲を確認すると、真っ赤な絨毯の上にアンティークを思わせる古めかしいテーブルとイス。ブラウン管のようなモニターを持つパソコンのような機械。

左右の壁には本が敷き詰められた本棚が並べられていて、イルカなのかシャチなのかわからない置物が部屋の隅に置いてある…。代表はそんな鳴上の姿を見て、きょとんとした表情をしつつも、テーブルに座りながら話を続ける。


「ん?部屋が気になるのか?ここは私の部屋だ。様々な情報が集まってくる中継点でもある。まぁ…簡単に言えば、面会場所兼仕事場だよ。私の許可なく入ることはできないプライベートルームといえよう。」


「なるほど…。プライベートルームね…。八重歯さんから、代表であるあんたに聞けばわかる的な話をされてここに来たんだが、まず俺をここに連れてきた理由を改めて聞いてもいいか?」


代表は、椅子に座りなおすと真剣な面持ちで鳴上を見た。

そして静かに口を開いた。


「連れてきた理由を話すには、大前提としてこの場所が”どのような場所”かを把握してもらわなければならない。簡潔に話すから、話を聞きつつ私の後ろにある窓から外を見てほしい。」


テーブルの真後ろにある窓に対して、右手の人差し指でさす。その姿もまた絵になるのが少し解せない鳴上だったが、今は理由が知りたいので、引き続き言われた通りに動く。

窓から見た景色は、無数の青い星が絶えず右から左へ流れ続けている幻想的な光景だった。それも一つ二つではなく、無数に。流れ星の如く、幾万…いや幾億…。それ以上の無数の星が雲一つない夜の世界に流れ続けていた。


「星のように見えるのは、生命が生命活動を終了した際に肉体から出る思念体…いうなれば魂だ。我々が今いる場所は、世界で生を全うした魂が必ず通る…いわば”見えない壁”といったところだ。」


「あの星は全て魂…。死んでいった者なのか…。」



「そうだ。あれは全て死んだ後の魂が流れ星の様にいたすら流れているだけだ。本人達には意識はないから、ただ魂だけが通っているだけだがな。この場所はいうなれば魂を傍観する場所といえる。」


魂が必ず通る”見えない壁”。そもそもそんなところがあったのが信じられないが…。

自分も一度死んでいる身なので、確証はないが話している内容は真実なんだろう。

よくよく窓の外を見ると、たまに黄色い魂が、流れ星の波から外れて消えていくのを見つけた。


「黄色い星…魂が波から外れて消えていったが…あれは大丈夫なのか?」


「あぁ…それは前回君と会った空間で話した、異世界転生や異世界転移ってやつ。自身とは異なる世界からスカウトされた魂が、ああやって勝手に抜けていくのだよ。まぁ、ここを通っている時点で、世界間移動に耐えられる魂になっているから、問題ない。」


「そうか…。ある意味わかりやすいな…。おっとそうだ、それで、魂を傍観する場所に連れてきた理由はなんだ?」



「連れてきた理由は簡単だよ。君が今見ている魂の波から抜け出した存在。”アンノーマル”を撃退、または追い出してほしい。」



「アンノーマル?」


アンノーマル…異常って意味だが、それを撃退や追い出すってなんのことだ?


「極稀に強い思念を持った魂が、魂の波から完全に乖離し、自我を持った特殊な存在になる、その魂を”アンノーマル”と呼ぶのだが…。すまない、次の予定が迫ってきてしまった。簡単に説明しようにもどうにも難しくてな…。続きはオミングから聞くと良い。目を瞑り、心の中でオミングを呼べ。そうすればオミングから声がかかるから、声が聞こえたら目を開くと良い。あの子は”世界の管理者”だ。私よりも何なら知っていることも多いから。頼りになる。」


唐突に話を切ったかと思えば、椅子に座っていたはずの代表は既にその場にはいなかった。

一瞬の出来事過ぎて居なくなったことに気づけなかった。どうやら忙しい中でも時間を作って会ってくれたようだ。



「なんか盥回しにされている気分だな…。まぁ…代表っていうぐらいだから多忙なんだろうさ。なんとなくだが、この場所が大切だってことがわかった気がする。」


魂が必ず通る壁…、アンノーマル…聞きなれない言葉が続くが、今後の自分には重要な内容だという感じが伝わってくる。

オミング…あの子というぐらいだから、恐らく人だと思うが、その人に聞けば全部教えてくれるのだろうか…?


…ここにいてもやることが無いと察した鳴上は、代表に言われた通りに目を瞑り、オミングの名前を思い浮かべつつ呼んでみることにした。


…反応がない。何か間違えただろうか?

ただ、ここで目をあけてはいけない気がする。とりあえず数回試してみよう…。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「鳴上様、こうして実際にお越しになられることを心よりお待ちしておりました。」


代表の話通りに呼ぶこと5回…。時間をおいて試した所為か、えらく時間がかかった気がする。

清らかな女性の声がしたので改めて目を開くと、周囲には巨大な本棚がこれでもかと置いてある空間に飛ばされた。

いや、正直…飛ばされたという認識があっているのか?場所が移ったっというべきか…。この移動方法には混乱しか生まれない…。それに、気づけば生前着ていた白パーカーにジーンズのいつものスタイルになっている。


…目の前にいるであろうクリーム色の髪の毛を持つ女性は、代表が言っていたオミングさんという方だろう。

彼女の見た目の特徴として、まず席に座っている、瞼は常に閉じていて、クリーム色の髪の毛が腰まで伸びていること。

そして何故か喪服を着ている…。何故?


「…?あんたはオミングさん…でいいのか?」


「えぇ…。その通りです。今後、鳴上様とは長い付き合い…いえ、永遠の付き合いになるだろうということで、お待ちしておりました。どうぞおかけください。ただいまこちらは閉館時間ですので、どちらに座っていただいても構いません。」


「わかった、ありがとう。」


この場所に出現した場所から一番近い長いテーブルの席に座る。5m先にオミングさんが受付コーナー越しに座っているといった構図だ。見た感じ、本がたくさん飛んでいたり本棚が無尽蔵にあるので、内部構造的に巨大な図書館といったところか。

改めて周囲を見回しても、自分がこれまで通過?してきた場所に比べると雲泥の差に感じるレベルで広い…。


「この場所の広さに驚きを感じているようですね。」


心に思っていたことを見透かされたかの如く、正確に自分の感情を読み取ってきた。

目を閉じていても、魂で感じ取るといった感じだろうか。


「いいえ、少し違います。魂はそのものの生命力を表す指標にすぎないため、具体的な事象を読み取ることはできません…。読み取るべきは、空気中の波長です。波長の乱れで、鳴上様がどこにいて、どの表情をし、どの感情でいるのかを読み解いています。」


「まじか…オミングさん目を閉じた状態でそこまで読み取れるのか…。というか、心の中が丸裸にされているようで、なんだかむず痒いな。」


「そうでしたか…それは失礼しました。知らないより知っていた方が良いと思いましたので、私と付き合う上で今後面倒毎にならないように配慮させていただきました。」


「なるほど、お気遣いどうも。俺は特に気にならないから大丈夫だ。…それで、代表から聞いたが、オミングさんは世界の管理者と呼ばれているようで…。わからないことがあれば貴女に聞いてくれってことを言われてきたんだ。」


オミングさんは少々驚いたような表情を見せ、微笑みながら頷いた。


「はい、何なりとお申し付けください。」


「ありがとう、まず第一にこの場所についてなんだが…。明らかに今まで通ってきた中でも異色な部分があるんだ。周りを見た感じでしか話せないが、一目見ただけでもわかるぐらいの膨大な広さと、宙を飛び交う本。それに加えて見上げれば、見たことないぐらい綺麗な星空だ。一体全体ここはどういうところなんだ?」


「なるほど…アリシア様は詳細に話さなかったのですね…。彼女の説明放棄には悩まされていますが…ここは鳴上様に免じて一旦おいておきましょう。」


どうやら、代表はアリシアというらしい。そういえば代表の名前を聞いていなかった。


目を閉じているのにもかかわらず、表情がコロコロ変わっているように感じる。

なぜここまで表情を感じることができるのか。これも波長によるものなのだろうか…。



「鳴上様、ここはですね…想像と創造が折り重なって1冊の本となり、物語として読むことができる場所です…もちろん”入ることも”できる一種の場所と呼べば…。

いえ、鳴上様の世界で分かりやすく表現するのであれば…無数の妄想達が現実となって、妄想を記録し、実際に入ることができる図書館です。最も、全ての世界からの妄想や想像などを集約しておりますので、広さは常に広がり続けております。おそらく現在はどの場所よりも広いでしょう。」


「なるほど…確かに見た目は図書館に見える…。ん?今話をしてくれた中で気になる点があるんだがいいか?」


「えぇ、何なりと。」


「ありがとう。入ることができるって話だが、その本が記した異世界っていう場所に行くことになるのか?」


それを聞いたオミングさんは少し頬を膨らませた。怒っているようだ。


「鳴上様、異世界という発言は今後なきようにお願いいたします。どの世界からも世界は世界として認識される上、どの世界に立っていても自身が存在する世界は、間違いなくその世界そのものなので、この場での”異世界”という発言は間違いです。」


「なるほど…?つまり、どの世界にいようが世界は世界だと。異世界なんて言葉は不適切…ということか。」


「その通りです。鳴上様の世界では、異なる世界と書いて”異世界”と読むようですが、正直どの世界にも共通して、自身が今現在存在する世界を侮辱する差別用語のようなものになります。世界に存在している生命は全てその世界が絶対の居場所なのです。その居場所を異世界というくくりで纏められてしまうと、その場に存在する生命が遺伝子レベルで同じ人間であっても、全て異なる存在である!と断言する発言にもなりかねません。」


異世界という単語が差別用語…。なるほど、難しい考え方だがなんとなくわかる気がする。


「そうか、それはすまなかった…。」


「いいえ、世界によっては差別用語と捉える場合がございますので…失礼ながらご指摘をさせていただいた次第です。

さて…本来の質問の答えですが、本に記された世界に行くというよりかは、世界に存在する…という認識が正しいです。説明が難しいので、簡潔に申し上げますと…本の表紙がドアだとして、本の中身が”世界”そのもの。世界の登場人物に読み手が追加されることになります。行くのではなく、もともとその世界にいる存在している生命になるだけです。

それと補足ですが、本に記された内容は基本的には読めません。なぜなら、その世界で最も流用されている言語が使われるからです。」


なるほど…。世界に行くのではなく、元々その世界に存在した人物になるのか…。


「それって所謂…世界から世界への転移と違うってことか?」


「えぇ…お考えの通りです。世界から世界への転移は、魂が直接世界間移動をしている為、異常なほどの負荷がかかります。その場合、招待した側の世界が何らかの力を使用し、対象を世界に存在させることで、世界転移を行うことができます。

しかし…我々がいるこの場所は世界ではありません…。どの世界とも繋がっている”場所”と呼ばれていて、どの世界においても絶対にたどり着けない…ある種の矛盾を抱えた場所です。転移以前に、既に世界に存在しているので、転移する必要などありません。

簡潔に例えますと、扉の開け閉めで簡単に出入りできる2つの部屋あったとして、世界に転移する際は、その扉を開けて隣の部屋に行くだけです。

ですが、この場所の立ち位置は、二つの部屋の境界線になります。扉は常に開いている状態です。

境界線から隣の部屋に移動しようにも、部屋にいるのではなく、扉があいた境界線に立っています。つまり、どちらの部屋にも入っている扱いになっているので、転移ではなく、そのまま一歩前に進むか後ろに進むかで世界に入れます…。すみません、難しい説明になってしまいました…。ご理解いただけましたでしょうか?」


思ったよりもすごく複雑な場所にいることが分かった。どの世界にもつながっていて、どの世界からも入ることができない場所…。あの黒髪ロングめ、とんでもないところに連れてきたな…。


「ここって、相当凄いところなんだな…。この本1つ1つが存在する世界なのか…。」


「はい…。日々世界は増え続けていく一方で、覚えるのも大変です。しかし、世界に変わりはございませんので、いつも目を通してしっかりと覚えています。」


この無数に存在する世界を全部覚えているのか…。それに新たに追加された世界まで…。

まったく、代表といい、八重歯さんといい…どういう境遇を通り抜ければ、この場所を管理するような人物になれるのだろうか…。


「私からしてみれば、鳴上様はかなり特別だと思います。私は”世界の管理者”と呼ばれていますが、鳴上様は”世界の救済者”と呼べると思います。」


”世界の救済者”…?

代表からは特に言及はなかったが、オミングさんから見た自分は救済者なのか…?


「救済者とは恐れ多い…。そんな名誉ある称号、俺にはもったいないですよ。それに自分はまだこの場所にきてから多分1時間もたってないですし、まだまだ知らないことだらけで…。」


「1時間…?鳴上様、この場所にやってきてから、どのぐらいの時間が経ったかご存じないのですか?」



どれくらいの時間…?自分が死んだあと、代表に連れてこられて…。八重歯さんの病室で横になってて…。アリシアの仕事場に行って…。いや…体感でも1時間も経ってないような気がする。


「いえ、まったく…。」


「アリシア様は全く…。肝心なことを申し上げていないですね…。

鳴上様、貴方の世界でいう時間の概念でお話しますと、貴方は死亡時からここに至るまでに、4256年8ヶ月27日、12時間11分24秒経過しています。

この時間は鳴上様の魂と存在の修復に使われたようですね。」


……?

4000…なんて?


「い、いや、ここに来てからまだ全然時間がたってないはずだ…」


「この場所は簡単に入れるほど容易な場所ではないのです…。ほぼ消えかけていた貴方を修復するためには、八重歯様の病室で魂力の回復ならびに存在を維持するための休息時間が必要だったと、伺っています。」


だからオミングさんは、俺がこの次元に着た瞬間に”お待ちしておりました”って言ったのか…。4000年以上前から俺自身が来ているのを知ったうえでの出迎えだったみたいだ。

それにしても4000年以上も俺自身が存在するために魂の修復をしていたのか…。俺がいた世界はもう知らない世界なのかもな…。


「情報の衝撃に苛まれているところ申し訳ございません。この場所で経つ時間はどこにも属していないので、時間経過に関する世界の変化を心配をする必要はありません。試しにこちらの本をご覧ください。」


そういうとオミングさんは左手で指パッチンをした。

指パッチンと同時に受付のテーブルにA4サイズほどのノートが出現し、宙を舞う。宙に浮かびつつ、ノートが開いたかと思えば、こちら側に寄ってきた。



「これは、貴方の人生を纏めたノートです。本来であれば人生を纏めたノートの閲覧は私の管轄外ではありますが、この場所に存在する者たちの控えとして私の方で預かっています。内容を見てもらうとわかるように、鳴上様の今までの歴史が刻まれています。そして指定した時期に移動することが可能です。」


マジか…。このノート凄い…。いつでも未来でも過去に行けるとかとんでもないな…。

よくよく見ると、今までの喧嘩の記録や、人助けの詳細なやり取りまで全部事細かく記載されている。


「た、確かに…。中身を見てびっくりだ…。まさか隠れてお菓子を食べたことまで書いてあるとは…。最後のページは…破り取られているがこれは?」



「そのノートブックは魂を記録するものです。生きていようが亡くなっていようが、関係なくすべてに平等に1冊ご用意されます。

鳴上様ノートの最後のページが破り取ってある部分が気になりますか?…アリシア様からお話はすでにあったと思いますが、世界転移を行われるルートを強引に剥奪する場合は、そうやって破いてしまうのが手っ取り早いので破ってある…といったところです。」


そこまでして、俺自身をこの場所に連れてきた理由…。

アリシアは、アンノーマルを撃退、もしくは追い出してほしいと言っていた。


「なるほど…。ただ、そうまでして、どうして俺をこの場所に連れてきたのかがよくわからないんだ。それにオミングさん…代表から聞いた話では、アンノーマルを撃退するか追い出すようにと言われてるんだが、肝心な部分はオミングさんに聞けって言われていてな…。その…撃退することについて知っていることを教えてくれると助かるんだが…。」


「アリシア様は肝心なことを私に全て説明させるのですね…。今後のお茶会ではクッキーをマイナスさせていただきます…。さて、異常な魂と書いてアンノーマルと呼ぶその存在は、いうなれば”世界に存在してはいけない介入してきた魂”です。世界を記した本で例えるのであれば、本に直接ペンで登場人物を書くようなイメージの存在です。」


「ん-ーっと、つまり、世界に強制的に入ってきた存在…って認識でいいのか?」


「そうですね、本来は”存在してはいけない魂”といってもいいでしょうか。それらはかなり強力な個体で、一個体で世界そのものの理を粉砕したり、世界を抹消できたりします。」


アンノーマルってそこまで危険な奴なのか…。言葉で言われてもあまり想像はつかないが、とにかくヤバそうな存在だってことは俺でもわかる。


「その、ヤバそうなやつに対して撃退や追い出しって…俺じゃ無理じゃないか?せいぜいできるのは喧嘩で身についた肉弾戦なんだが…。」


「えぇ、そちらで問題ありません。肉弾戦だろうが何だろうが、貴方は既に人間ではありませんので…。この場所に来て存在できている時点で、それぞれの世界の神の上に立つ者みたいな立ち位置です。アンノーマルの対処も少しコツをつかめば容易かと。鳴上様の人生ノートを見る限りでは貴方が一番適任だと思います。」


コツつかめばね…。喧嘩で培った肉弾戦でも、今まで調整しながら体の動かし方のコツをつかんで苦難を乗り越えてきたので、確かに自分のスタイルに合う気がしなくもないが…果たしてそんな簡単にコツをつかめるだろうか?

ただ、自分がやっていたのはただの喧嘩だ。アンノーマルがどれほど危険なのかわからない部分も多いし、慎重になる必要がある。


「最初の質問への回答ですが、どうして鳴上様をこの場所に呼び出したか…ですね。それは簡単です。世界から世界を行き来できる魂の耐久性、正義感を強く持つ魂の強さ…必要な技能等すべてが条件に適しているからです。世界を行き来できる者は、この場所にもおりますが、ごく少数です。それほど稀少で特別な存在です。

鳴上様はその条件をクリアし、選ばれた魂です。これで回答になりましたでしょうか?」


自分では認識していないが、そこまで特別な存在だったのか…。

だからと言って何か変わることはないが、呼ばれた理由、アンノーマルを撃退したり追い出したりする理由がなんとなくわかった。


「つまり…世界観を移動できて、且つアンノーマルと接触できるから呼ばれたってことでいいか?」


「はい、その通りです。回りくどくて申し訳ございません。

現在アンノーマルが発生している世界が一つございます。論より証拠、実際に見てみた方がわかりやすいかと思われます。

早速ですが、この『アクアパレッサ王国』という世界に行ってみてください。この世界には、転生者もおりますので、必要に応じて協力関係を結ぶのもありかと思います。世界に入る時は、世界の本を開き手をかざして瞬きをすれば良いです。」


オミングさんが、再度左手で指パッチンをすると、今度は広辞苑もびっくりの分厚い本が俺の目の前に現れて開いた。

開いたページは強い光を放っており、文字が見えない。


「なるほど、現地の人間と協力してもいいのか…。わかった。オミングさんありがとう。じゃあ早速…」


「すみません。大事なことをお話していませんでした。こちら側に戻るタイミングは世界を救えたか救えなかったかの2択のみです。言い方を変えますと、ここで鳴上様が『アクアパレッサ王国』に向かった場合、しばらく戻ってこれないうえに、我々とコンタクトができません。

なので、今のうちに質問があればお答えします。大丈夫ですか?」


おっと危ない危ない…。世界に入ったらしばらく戻ってこれないのか…。


「すまん、そうとは知らずに…。それなら、聞きそびれていた、アンノーマルを撃退する方法を教えてもらってもいいか?」



「そうですね…。ある時はお茶を一緒に飲んだり、ある時は戦ったりです…。すみません、アンノーマルそれぞれに自我があるので、曖昧にしかお答えができません…。それと見分け方ですが、感覚で分かります。この者はこの世界に居てはいけないと。そう思える者こそがアンノーマル…です。」


開いた本の前で手をかざす仕草をやめて、オミングさんに質問すると、申し訳なさそうな声色で、これまでの経験を生かした回答が返ってきた。

アンノーマルの撃退または追い出し…思ったより骨が折れそうな雰囲気だ。


「つまり、話を纏めると…アンノーマルは如何にもヤバそうなやつで、撃退の仕方はアンノーマルの…願望を叶えれば…いいのか?」


本が目の前で開いているので、オミングさんが見えないが「そうです。」といわんばかりの頷きを感じる。


「まぁ…行ってみりゃわかるだろう。何より、それが俺のこの場所でのあり方になりそうだしな。」



本に向けて手をかざして、瞬きをした瞬間。何かに全身を掴まれる感覚が全身を襲った。




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