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6:蟲毒 下

「どうなっているの…?」


手持ちの武器である槍を振り回しつつ、ヒュージやホーンラビットといった大量に発生している魔物をなぎ倒す日々。

あれから、どれぐらい経っただろうか。



コールダイル神を経たのち、フレア・イントマスの現女王陛下により別の世界から呼び出された彼女は、

"南"にある国境付近で発生したダンジョンに挑み続けている。



ほぼほぼ城下町に還っていない彼女だが、問題ない。

招集がかかった時のみ戻るようにと、女王陛下の指示を受けているからだ。



それにダンジョンの近隣にある村でお世話になっている上、帰る必要性が更に無かった。

一人で旅をしている気分と、浮かれていたほど。



「みんな…どこに行ったの?」



今まで城下町や国の情報は、"連絡の石"を用いた定期連絡を聞く以外に方法はない。

その状況でしか近況を聞けないのに、数日前、定期連絡がこなくなった。

些細な事でも連絡してきたアンザや、物価の情報を逐一教えてくれるレイヴァンでさえ。



「はぁ…はぁ…。流石にお腹すいたなぁ…。いつもなら美味しいにおいが漂ってるのに…。」



緊急の連絡…”討伐隊の会議に出席してほしい”…という連絡を最後に途絶えている。

この連絡に気づけなかった私が出席できたかというと…。もちろん出席はできなかった。

ダンジョン内では連絡がこない欠点を偶然見つけてしまった。携帯でいう圏外になっていた状態なのだろう。



「寒いなぁ…。このあたり…。」



そして、連絡が来なくなった"異変"は、今まさに体感という形で彼女の周囲にも起こっていた。

お世話になっていた村の人々が、日課のダンジョン攻略から戻ってくると、誰一人いないのである。


いつも通りの風景とはいえ、今までに体感したことのない静けさを感じる。



「アントル村長~?ジョゼット~…。うん、おかしい。

夜で周囲は魔物も活発化しているし…。村の外に出るなんて考えられないんだけど…」



村を吹き抜ける風が、いつもより冷たく感じる。

これまで孤独に魔を対峙してきており、一人でいることには慣れている…つもりだったが、ここへきて孤独を恐れ始めていた。



(明らかに変だ…。レイヴァンさんに急ぎ連絡を…!)



不安という懸念が、彼女の心に危険信号を徐々に流し始める。

懐にしまっていた、"連絡の石"を取り出して、左手で擦る。しかし、何も反応がない。



「ううん…通話もできなきゃ、光りもしないかぁ…。ダンジョンを行き来してたから壊れちゃったかなぁ…。

…状況も状況だし、一度フレア・イントマスに戻ろう。帰らない理由が見つからないもんね…。転移魔法!」




"勇者"である比嘉里美は、右手を地面に構え、転移魔法を用いて戻ろうとする。

…がしかし、何も起きない。


「おかしいなぁ。魔力の練り方を間違えたかな?…もう一回!転・移・魔・法!転移魔・法!転移……あれ?」



魔力の練り方や発音が悪かったのかと思い、魔力の流れを意識しつつ唱えてみたが何も起きず。

それどころか魔力が流れていった痕跡が見えない…。



「この状況…魔力が世界から無くなっているってことだよね…?女神様と交信しないといけない状況になってるなぁ…。」



彼女は右手の指についた白い指輪に息を吹きかける。

この白い指輪は、コールダイル神が転生時に万が一の時に連絡して、と渡されたアクセサリー。

息を吹きかけることで、コールダイル神にコンタクトをとることができる。過去に何度か使用しており、都度アドバイスをもらっては危険を回避できた。


(今回もアドバイスをもらおう…。)


息を吹きかけると、徐々に白い指輪は黒く変色した。



『里美ちゃん?大丈夫?私から呼び出すことができないから、心配してたよ。』



「コールダイル神様、いつもお疲れ様です。」



『いつも通りの挨拶…生前の所作って染みつくものなんだね…。うん、それ聞いて安心した!大丈夫みたいだね!』



魔力を介していない神の指輪であるならば…!と駄目もとで呼び出してみたが、成功した。

しかし、交信をして初手に心配されるのは今回が初めて。コールダイル神の声色も心配しているような雰囲気を感じる。



「コールダイル神様…今、私の周囲で変なことが起きているんです。魔力がなくなっているというか…人がいなくなったというか…」




『そう、そうなんだ…。私もその件で里美ちゃんと話をしたかった。魔力も人も、国も、私の監視が及ばない規模で書き換えられている…。

言い回しが難しいのだけど、要するに隅々まで監視していた私をしり目に、短時間で"世界"を書き換えられたの…。』



「世界を書き換えるって…そんな、大層な…」



世界を書き換える…?コールダイル神様以外に可能なのだろうか?

基本的に女神が世界を管理している…という話は、別世界からの転移時に説明を受けている。

その管理をしている女神様であるコールダイル神の目を搔い潜る、世界の書き換えとはいったい何だというのだろう?



『ははは、情けない話なんだけどね、私も目を疑ったよ。

この世界を作った私ですら、短時間で世界を書き換えるなんてこと出来ないもの…。それに、こちらからの干渉がほぼ出来なくされているのも痛い…。

私が介入できるようにするため、里美ちゃんには私の指示通りに動いてほしい。お願いできるかな?』



「は、はい。問題ないです。私は何をすればいいでしょうか?」



『えっとね、今この世界は正史を辿るはずだった道筋から外れて組み替えられてしまっているんだ。

簡単に言うとね…今存在している人間たちは、"世界"を書き換えられて"世界"から歪んでしまった存在。それらがカギになっているようで、彼らが存在すると、世界が元に戻らないみたいなんだ。

姿かたち、声は一緒でも、元の世界の彼らとは別の存在になる。』



「つまり…どういうことでしょうか…?」



『ごめんごめん、説明が回りくどかったね…。

今この書き換えられた"世界"には、ゆがみの原因である生命体が5名いる。どうやら里美ちゃんの仲間を模した姿を持った存在のようだね。

えぇと、ドルチン、フレア・モンパディ女王陛下、アンザ近衛兵長、カーチャー…あと…生きている人が1人かな?

申し訳ないのだけど、それらを排除してくれるかな?もちろんそれらは偽物だから、躊躇いなく槍で処理してくれる?』



どれも名を知った、私によくしてくれた面々だ…。


(なるほど、この状況…偽物の彼らによるバグ…みたいなものなのかな?だとしたら、指示に従って元に戻すのは大事だよね…?)



「…わかりました。コールダイル神様の言う通り、その偽物を処理すればいいんですね?」



『うん、ごめんね。酷な事お願いしちゃって…。どれも偽物だけど"世界"が拒絶するように、抵抗してくるとは思う。だけど、君なら問題なく倒せるでしょう。

里美ちゃんの魔力を一時的に半日使えるように何とかしたから、時間少ないけどお願いできるかな?』



「わかりました…!では排除してきます…。終わり次第ご連絡します。」



比嘉里美は、左手で魔力の流れを感じ取ると、そのまま黒くなった指輪に息を吹きかける。

すると指輪は白くなっていき、コールダイル神の声が聞こえなくなった。まるで通話を終了するかのように。



「まぁ…本物は別にいるってことだし…。偽物なら問題ないよね…?さっさと全員殺して、元の"世界"に戻らせてもらわないとね…。」



"勇者"比嘉里美は5名の偽物を排除すべく、右手を地面にかざす。

彼らの場所は何となくわかっている。半日しか魔力が持たないのであれば、急ぐ必要がある。




「…転移魔法。」


彼女の紅く染まった"深紅の槍"が小さく揺れ、魔法陣の中へと消えていった。














・・・・・・・・



「ごめん、里美ちゃん。」


コールダイル神の首筋には、無数の槍先が構えられていた。




そして、体には無数の"漆黒の槍"が貫かれている。






槍に沿って血が滴り、コールダイル神の足元には赤い池ができていた。



「まさか、女神である私を…襲うなんて…ね。い、今の現状、里美ちゃ…ちゃんに喋れたら、どれほどよかったか…。」



意識が朦朧としてくる。私はもう長くはないだろう。



「私の"世界"…心残りは、私の子供たちを救えな…グッ」



コールダイル神の視界は鈍い音とともに、一瞬で見えなくなった。

首筋に大量の槍が貫き、首が捻じれ飛ぶ。

槍には意思がない。しかし動きは、それ以上しゃべるな。と言わんばかりだった。



「そろそろかな?」



捻じれ飛んだ女神の首は蹴っ飛ばされ、着地面に赤いシミを作った。

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