5:再会 下
「陛下、フレアのギルド長補佐、ボイト様より書状が届いております。」
女王陛下が休む寝室は、200人入るであろう広さで、部屋の中央にピンク色を基調とした天蓋付きベッドがある。
歴史を刻んだ大きな絨毯が、歩くだけで歴史の流れを知れるようになっている。
「ボイト?あぁ、ドルチンのところにいる若い子だね…。王令で出産したばかりだと国全体に報告したばかりなのに、休ませてくれもしないのか。
後にしてくれるかい?今は少し休みたいんだ。」
「それが…。今までに見たことない表情でボイト様がいらっしゃいまして…。必ず見てほしいと懇願されています。
おそらく緊急な案件かと思われます。」
陛下は疲れた表情ではあったが、緊急の2文字を聞いた瞬間に、眉間に皺が寄った。
静かに左手を差し出すと、初老の使用人はボイトから受け取った書状を陛下に渡す。
「緊急事態ってのはいただけないね。国にかかわるかもしれない。どれどれ…。」
陛下は書状を受け取ると、ベッドの横に置いている小さい丸テーブルに手を伸ばす。
眼鏡を持ち上げ、耳にかけた。
…書状を開いて一番に飛び込んできたのは、壁に関する情報だった。
走り書きになってたであろう、字の汚さが目立つ。
(ドルチンはいつも書状で報告する際、読み手を考えて文字を綺麗に書くはず…。これは本当に緊急だってことだね。)
「ふん!出産していたから、"壁"について把握していないかと思ったのか。壁に関しては私も熟知している…。
ん?まて…なんだこれは…。」
2個目の項目に目が通った段階で、緊急性が一段階上がった。
青いヒュージの出現…。書状には新種も…とある。
(ドルチンが緊急で送ってきた書状だけあるな。ヒュージは非常に危険な存在だ。
しかし、俄かに信じがたい…。黒いヒュージの存在が確認されることは稀にあったが…。)
「ふむ、確かに緊急事態のようだ。私自身の出産時期に"壁の出現"、"青いヒュージの目撃"が起きている。
誰かが裏で糸引いて国を攻め込もうとしている可能性もあるね。念には念を入れておこう…。
レイヴァン!急ぎ近衛兵に伝えよ。非常事態だ、勇者にも声をかけろ。まずは身近な脅威である、ヒュージの討伐隊を組め。」
「はっ!拝命しました。陛下、作戦決行はいつ頃にしましょうか?」
「状況を見て、討伐はそのあとでいい。まずは戦力の貯えを徹底しろ。ギルドで戦える人間も押さえておけ。」
レイヴァンは女王陛下の発言をメモし、急ぎ城内に陛下の意向を知らせるため、陛下の部屋を後にした。
女王陛下について20年の使用人であるレイヴァンの慌てた様子に、女王陛下であるフレア・モンパディの脳裏に焦りが浮かんできた。
(万が一に備えるのは、トップとして当然の役目だ…。しかしこうも偶然が繋がると、嫌な予感しかしない。)
「ビえええええええ!!!!」
天蓋付きベッドの横にある小さいベッドに横になっていた、赤子…第一王女が泣き声を上げる。
先ほどのレイヴァンとのやり取りに反応したみたいだ。
すぐさま、部屋の外で待機していた侍女が2人入ってきた。
王女を丁寧に抱え、あやす。
「すまないね、お前たち。ありがとう。」
「いいんです!女王陛下!よーしよし、いい子ですねぇ~」
「王女様はお休みいただき、こちらは我々にお任せください!」
わが子であり、王女である赤子をあやす2人を見ながら、モンパディは笑顔を浮かべる。
(国民のため…わが子のためにも、国の危機に繋がり兼ねない部分は排除しておかないとね…。)
女王陛下の心は、未曽有の危機に立ち向かうための決心を固めた。
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女王陛下の発言の基に、各所に連絡をしたレイヴァンのおかげで、1時間程度で討伐隊の面々を抑えることができた。
城下町にある大きな居酒屋の2階の個室を利用し、それぞれの組織の代表が面を合わせる。
夜ということもあり、下の階では盛り上がりが少々聞こえる程度なので、話し合いには問題ない。
レイヴァンは今回の招集にあたって、改めて討伐隊が組まれることになった旨を伝え、出方を伺うことにした。
「今回お集まりいただいたのは、女王陛下から新種のヒュージ討伐のために、討伐隊を組むためです。
フレアのギルド長、ドルチン様よりいただいた内容によると、青いヒュージが3体、新種の赤いヒュージが1体、領土に出現中とのこと。」
集まった4名の男たちは、今回の現状をわかりやすく書き留めた大きな紙を凝視する。
そこには集まるに至った経緯と、今後の流れが事細かく書いてある。
「よかった…。討伐隊が組まれることになって一安心ですよ…。まぁ…一安心なんてしてはいけない状況なのはわかっていますが…。
ギルドとしては、討伐隊に快く参加する。ことがことだからな。出し惜しみはしない。」
第一声をあげたのは、今回の現状を緊急として捉え、女王陛下に書状を送った張本人。
フレアのギルド長、ドルチン。いつもが靡いている美しい髪が、束ねた状態であり、首筋には冷や汗がなぞる。
「自己紹介はいらないでしょうが、念のため。フレア・イントマス近衛兵長、アンザだ。
今回は緊急事態とのことで、俺だけだが参加させてもらう。近衛兵としては、討伐隊に加わる意向を示そう。
それにしてもヒュージの新種か…。」
第二声はアンザ。"壁"を調査している近衛兵の隊長格。レイヴァンの緊急の招集により、30分ほどで国に戻ってきた。
日頃の調査疲れも相まっているのか、何か様子がおかしい。妙にそわそわしている…。
「アンザ様、討伐隊に参加表明ありがとうございます。
ただ、いかがされましたか?先ほどから心がここについてきていないようですが…。」
「あ、あぁ…レイヴァンさん、流石の推察力…。
申し訳ない…。何故か、朝方の記憶がなくてな。大事な何かを忘れている気がする。…国に誰かを送った気がするんだ。
それに重大な何かを忘れている気がする。国に伝えなければならない何かを…。」
アンザと親しいレイヴァンから見ても、普段のアンザとは思えない様子に不自然さを感じた。
(重大な何かとはなんでしょうか。気になるところではありますが、他のメンバーの意向も確認せねば…。)
レイヴァンは心配しつつも、もう2人のほうに目を向ける。
大柄の二人組は、山の頭目を背負う若き獅子達だ。
「確かにこいつぁ、変だな。"壁"の近くにいたせいでおかしくなっちまったんじゃねぇか?がっはっはっは!どう思う?兄弟!」
大きな声とともに鍛え上げられた肉体を震わせる、ドンテス様は東の山の頭目。
今回は国の一大事として、参加をお願いしている。
「そうだなぁ、だがおかしくなっちまうのも無理はねぇ。俺らもあの壁やらヒュージには困ってたところだ。
ドンテスの兄弟ともども、討伐隊に力を貸すぜ。」
もう片方はカーチャー。西の山を拠点とする頭目だ。
この二人の力添えは、非常に戦力になる。彼らが仕切る炭鉱夫は元冒険者も多い。戦力増強には一役買ってくれるはず。
「お二人ともありがとうございます。今回の一件は国の存亡に関わる危険な状態です。作戦を練りたいのですが…」
「おいおい待てよ、まだ勇者様が来ていないぜ!話は彼女に聞いてからにしようや。」
カーチャーが、レイヴァンの話を横切る。
確かに今回の一件は勇者無くしてでは、いくら戦力を積もうとも、危険かもしれない。
勇者の参加は万が一の保険として、作戦に組み込む。正義感の強い彼女は、連絡の段階ですでに快く承諾してくれている。
少々集合に遅れてしまっているが、それも魔物討伐のために動いてもらっているからである。
すると、しばらくして階段を駆け上がる音が鳴った。おそらく、件の勇者様だろう。
部屋の前まで足音が聞こえたと思うと、扉が静かに開く。
「皆、すまない。北側の領土で魔物の討伐をしていて遅れた。」
凛々しいいで立ちで現れた、フレア・イントマスの"勇者"は、事の顛末が書かれた紙が広げられているテーブルに駆け寄った。
その独特なオーラを纏った姿に一同は目を"勇者"に集中させる。
「初めて近くで見たが、姉ちゃん…強いな。」
ドンテスが雰囲気だけで強者だと語った。レイヴァンは思わず、生唾を飲む。
「お忙しいところすみません。今回の討伐隊編成に参加いただきありがとうございます!
比嘉様」
何を隠そう彼女は、フレア・イントマスが抱える"勇者"比嘉 里美、その人である。




