マゴッタ chapt 6 マッシロじゃっけぇ
こんにちはkzfactryです。今回のマゴッタは色々盛り込んでいるうちに長編になってしまいました。相変わらず稚拙な文章なので読みにくいでしょうが、のんびり読んでいただいて楽しんで頂ければ幸いです。
kzfactry
緑色を基調としたお部屋。中央少し奥に籐で編んだ籠が置いてある。かなり大きなバスケットだ。なかには薄桃色に染められたシルクの布が敷き詰めてありその中ですやすやと眠っているのは…
ぴよぴよぴよ…
ズーラWooちゃん。寝ていてもとってもラブリー。♡型の泡風船を幾つも浮かべながら就寝中。すると
『グッモーニン♬グッモーニン♬あ〜さで〜す〜よ〜〜〜♬』
スピーカーマゴッタからモーニングコールが。せっかく設置したのだからとモーニングコール機能を付けたのだが気が効くんだか効かないんだか。
『…Wo…う…ウゥ』
Wooちゃんが目覚める。まだ眠そうで、緑の触手で目を擦り擦りしている。ちょっとぼっとした後
キョロキョロ
バスケットから元気よくぴょんと出てクリンクリン歩いて行く。行き場所は…
『Wooチャンサン、マダプリンマゴッタハデキテマセンヨ、ゴゴノサンジマデオマチクダサイ!』
フリッジマゴッタの断固たる態度。頼もしい。Wooちゃんにしては珍しく目をぎゅっとして不満そう。普段見えていないお口も山型になって不満を表している。それでも十分ラブリーだが。切り替えの早いWooちゃんはマゴッタとサーメNYANを起こしに行く。マゴッタのお部屋は白が基調で真ん中には白い毛糸で編んであるハンモックがぶら下がっている。たまに寝ぼけて落っこちたマゴッタがお尻にヒビを作っている。が、マゴッタはハンモックにこだわりがあるらしくガンとしてこの寝具を変えようとしない。…が、今マゴッタはハンモックの中には居ない。もう起きている様だ。さらにWooちゃんはサーメNYANのお部屋にも行く。サーメNYANのお部屋は部屋中珊瑚礁をモチーフとした部屋になっている。白、ピンク、オレンジ色、赤色と珊瑚の色もとってもカラフル。その中のいくつかの気に入った場所に白で染められたカシミヤ製の布が置かれてあり、それを寝床としている。何ヶ所もある。サーメNYANは気分で寝床を変えるようだ。その全ての寝床をチェックしたWooちゃん。
『う?』
サーメNYANも居ない。いつも寝坊助なのに。これは珍しい。Wooちゃん困った。その場でくるくる回り出す。そんな仕草もとってもラブリー。すると、ハウスマゴッタの後ろの方から音が聞こえてきた。
『!?』
トテトテトテトテトテッ
Wooちゃんにしてはかなり早いスピードで走り出す。二人が居なくて寂しいのかな?ハウスマゴッタの裏手に回り込むとマゴッタとサーメNYANが何かの作業をしている。……最も働いているのはマゴッタだけだが。
ペタペタ、ペタペタ
マゴッタが一生懸命絆創膏を貼っている。マゴッタの身長より大きな絆創膏だ。…壁紙とも言える?バーンチユナイテッドで痛めたハウスマゴッタのお尻のあたり。
『マゴッタシミマス…』
目をしっかり瞑って涙をちょっと滲ませながらハウスマゴッタが答える。痛そう。それにしてもホントに表情豊かなお家である。サーメNYANが心配そうに横で見ている。
『これで隙間風直る?』
寒がりのサーメNYANが心配そうにマゴッタに聞く。マゴッタは胸をドンと叩いて、
『大丈夫!ハウスマゴッタは強い子だから!!』
…家を直しているとは到底思えない言葉でマゴッタが答える。でも自信満々。て言うか隙間風が吹いていたのね。大変だったのかな?綺麗に絆創膏(壁紙?)を貼り終えると、
『アリガト、マゴッタ』
ハウスマゴッタがお礼を言ってくる。今日もこのメンバーは仲良しだ。すると
チャラララ〜チャラチャラ♬ チャラララ〜チャラチャラ♬ タタタタッ
風雲急を告げる、と言うような緊迫した音楽を鳴らしながらフォンマゴッタが走ってきた。いつもののほほんとしたムードではなく、緊迫したムードで走ってくる。マゴッタが慌てて電話に出ると、
『あんたぁマゴッタさんかのぉ?ワシら新井組とこれから抗争があるんじゃが、ちぃとメンツが足りん。あんたらちぃとマッシロコンフェまできんさい。スケバタラキしんさい』
……何やらVシネでよくあるような恐ろしげなセリフがフォンマゴッタから聞こえてきた。ドスの効いた声で。ブルブル。
『マゴッタは子供だからバトルは出来ません…』
マゴッタは震えながら電話していたが、……話を続けるうちに
『行くー!!すぐ行くよ!待ってて!♡』
急にマゴッタの態度が変わった。いよいよマゴッタもバトルに目覚めたのか?WooちゃんとサーメNYANも戦えるのか?マゴッタはハウスマゴッタに声をかける。
『ハウスマゴッタ、お尻ダイジョーブ?』
『…マゴッタ、ムリデス、マダウゴケマセン……』
ハウスマゴッタは申し訳なさそうに言う。ちょっと涙目。可哀想。
『いいよー、安静にしててね。僕らだけで行ってくるから』
『Wooちゃん♡ サーメNYAN♡マッシロコンフェに行くよ〜〜〜♡』
*
『……えーっと、この辺なんだけどなぁ…』
マゴッタはキョロキョロしながら何かを探している。横には緑の触手をフリフリさせて楽しそうなWooちゃんと眠そうな目で小ちゃいあくびをしているサーメNYAN。
『マゴッタぁ〜歩き疲れたにゃん…』
サーメNYANはすっかりくたびれたといった感じでコロンと横になる。…ハウスマゴッタからここまでいくらも歩いてないが…。右に左にコロンコロンしながらぐずり出した。……マゴッタがハウスマゴッタに移動機能を付けているのはどうもサーメNYANのこの行動によるところが大きいみたいだ。ぐずるサーメNYANにマゴッタは嫌な顔ひとつせず、
『サーメNYAN、大丈夫、来たよ♡』
すると何やら遠くの方から
……ィィィィイイイイ
何かが東の方から高速で近づいて来る。とてつも無いスピード。白っぽい何かがぐんぐん近づいてくる。
『……マゴッタッさーん…』
猛烈なスピードで近づいて来たのは電車の妖精さんかな?マゴッタを呼んでいる。…が、
ビュッンンンンン!!!
…通り過ぎてしまった。余りの風圧にマゴッタ達三人はその場でクルクルまわってしまった。電車の妖精さんはそのままの勢いでぐんぐん遠ざかる。???
『あららら、ノンゾMeさんはやっぱり止まれないかぁ』
マゴッタがため息をつきながら言う。ノンゾMeさんと言う電車の妖精さんはスピードが速すぎてこの辺では止まってくれないらしい。マゴッタコマッタ。するとそこへ
『エッサ、ホイサ、エッサ、ヨイヤサ』
掛け声の様な物が聞こえてきた。さっきのノンゾMeさんとは違ってえらくゆっくり黒い妖精さんが近づいてくる。
『セン爺!SINKAセン爺〜〜〜!!♡』
マゴッタが手をブンブン振って名前を呼ぶ。SINKAセン爺と呼ばれた妖精さんは蒸気機関車の妖精さんのようだ。頭の上に黒い大きな帽子(煙突?)から煙を出しながらえっちらおっちらやってくる。蒸気機関車の妖精さんだけあってかなり大きい。後ろに一両だけ木で出来た客車を引いている。年季の入った木製の客車だ。うーん、味がある。マゴッタ達の前までくると、
『よっこらそっこらどっこいしょ』 キキッ プシュー!
えらい掛け声と共に蒸気の様な汗をかいて(蒸気なのかな?)SINKAセン爺さんが止まってくれた。……止まってくれたと言うより、疲れて一休みという感じで止まったが。
『まぁったく今時の若ぇモンは速けりゃいいと思ってやがる、本当に味気ねぇっちゅーかなんちゅうか…』
SINKAセン爺は停まるなりノンゾMeちゃんが過ぎ去っていった方角を見ながらぶつぶつと文句を言い出した。……どうもちょっと前にノンゾMeちゃんに抜かれてしまったらしい。それこそあっという間だったそうだ。ちょっとご機嫌斜めだったがマゴッタ達の方を見ると笑顔になった。
『おお、マゴッタ、この間はえらくトウエドさんが世話になったらしいの、ありがとな♡』
SINKAセン爺はトウエドさんのご近所さんだが丁度あの日はお出かけの最中で居なかったらしい。しかし他の妖精さんからマゴッタ達の活躍を聞いたそうだ。感謝感謝と満面の笑み。
『ほんにトウエドさんのタップダンスは強烈すぎてのう、体のあっちこっちのボルトが緩んでしまって困っとったんじゃ、ほんまに有り難う。ささ、乗ってくれ』
SINKAセン爺はマゴッタ達に客車に乗る様に促す。
『ヨッシャ、行くぞ〜〜〜!ほりゃさ、どっこいさ!!』 プシュー!
SINKAセン爺はハイテンションで気合を入れて始動する。
ガッシュン ガッシュン ガッシュン ポー!
とっても力強いSINKAセン爺の走り。パワフルなお爺ちゃんだ。……スピードはゆっくりだが。ガタゴトガタゴト車体を鳴らしながら西に向かうSINKAセン爺が巡航速度に乗ったくらいで
『ズン、ズン、ズンズンズンズン、コマツナの親分さん♬』
…歌いながら客車に小松菜の妖精さんが入ってきた。とってもハイテンション。体はマゴッタと同じくらいで大きくはない。デフォルメされた様な可愛らしい車掌さんの格好をして葉っぱの髪の毛を七三分けにしている。その上にちっちゃめの車掌さんの帽子がちょこんと乗っている。
『おや〜〜!マゴッタじゃぁないの!この間のトウエドさんの時はほんと助かったよ!!シンバ公園で光合成がてら日光浴をしていた時何度トウエドさんに踏み潰されそうになったことか……ヨヨヨヨヨ。しかしマゴッタのおかげでトウエドさんはタップダンスをやめてくれた。なんてまあ素晴らしい!嬉しい!!マゴッタのおかげ!!!あんたはエライ!!!!ちょっとまちねぃ!』
そう言うと小松菜の妖精さんは一度引っ込んだ後、箱を三つ持って現れた。
『こちとらエドッコだぃ!このBOSコマツ世話になったまま何のお返しもなしじゃぁ男が立たねぇ!食いねぇ食いねぇ駅弁食いねぇ!ハマハマのシューマイ弁当食いねぇ!!』
そう言ってマゴッタ等に渡した駅弁は伝統のハマハマのシューマイ弁当。
『『わ〜〜〜♡有り難う!』』
喜んだのはマゴッタとサーメNYAN。二人共喜んでシューマイ弁当を開ける。……しかし、Wooちゃんは…
『う〜……』
一人だけ嬉しくなさそう。モジモジしてる。
『あれれ〜?タマゴちゃんどうしちゃったのかな〜?』
BOSコマツさんが心配そうにWooちゃんの顔を覗き込む。
『Wooちゃんシューマイ弁当食べられないみたぃ…』
マゴッタがそう申し訳なさそうに言うと、
『が〜〜〜〜ん!!ヨヨヨヨ…!オイラとしたことが…ど〜して、ど〜してなの!』
BOSコマツはそのまま膝から崩れ落ちると、
『し〜らけど〜りと〜んでゆ〜く南のそ〜ら〜へ、ミジメ、ミジメ♬』
そう歌い出した。……どうにもにぎやかな妖精さんだ。しょぼんとしたまま車掌室まで戻ってしまった。可哀想。しかしマゴッタとサーメNYANはご機嫌。
『『いただきま〜す♡』』
ぱくっ 『おいし〜い♡』 パキッ 『あ、箸折れたぁ…』
…二人とってもわちゃわちゃしながら景色を見たりすっかり旅行気分。駅弁を食べた後サーメNYANは一番陽の当たる特等席でうとうと。Wooちゃんは列車の揺れに合わせてメトロノームのように揺れている。マゴッタも窓の外の景色に夢中だ。
『次は〜、チャズオカ〜、チャズオカ〜』
スピーカーを通したBOSコマツさんの声の後、
『ズン、ズンズンズンズン、コマツナの親分さん♬』
…BOSコマツさんはテンションを取り戻したらしい。また駅弁を三個持って走ってくる。
『食いねぇ食いねぇ駅弁食いねぇ、今度はチャズオカ自慢のタイライス絶対に美味しいヨ!』
サーメNYANはピヨピヨとお休み中。Wooちゃんはお弁当を見て困った顔をしている。
『すいません、Wooちゃんは食べられません…』
またマゴッタは申し訳なさそうな顔をする。
『が〜〜〜〜ん!ヨヨヨヨ、知らない!知らない!知らない!……し〜らけど〜りと〜んでゆ〜く♬……』
BOSコマツはしょんぼりと戻っていってしまった。可哀想。マゴッタはせっかくいただいた駅弁なのでちゃんといただくことにする。二つ目のお弁当なので流石に食べるのはゆっくりだ。それでもタイライスの美味しさにマゴッタはニコニコしながら食べていると、
『次は〜、ミャイチ〜、ミャイチ〜』
『ズン、ズンズンズンズン、コマツナの親分さん♬』
……BOSコマツさんはまたまた駅弁を三つ持ってきた。
『食いねぇ食いねぇ駅弁食いねぇ、今度こそは間違いねぇミャイチ名物TENムース弁当だ〜!』
……それも綺麗に食べたマゴッタは気絶する様に寝てしまった(気絶しただけか?)。
*
『次は〜、ガッシン〜、ガッシン〜』
『ズン、ズンズンズ……ありゃりゃ?タマゴ達寝ちゃったかぁ。ショボボ〜ン。も〜いや、も〜いや、こんな生活!』
マゴッタ達が寝ているのを見てガックリ肩を落としたBOSコマツだったが、それでもマゴッタ達が寝ている横に駅弁を三つ置いていった。…置いていったと言うより、今までの残りもあるので積んでいったと言うべきか。今度の駅弁にはオカカンライスと書いてありとっても美味しそうな絵も書いてあるが、三人ともすっかり夢の中。…マゴッタだけは顔色が青いが。
ガクン、プシュー!
SINKAセン爺が止まった。新しいお客さんかな?
とっとこと
入ってきたのは狸の妖精さん?まだ子供のようだ。ちっちゃくて丸っこい体にやたら大きな帽子をかぶっている。自分の体と大きさが変わらないくらいの大きなカウボーイハット。よく見るとかぶっているのではなく紐を首にかけて背負っている。後ろから見るとカウボーイハットが歩いている様に見える。うーん、オシャレ?さん。このちっちゃい狸の妖精さんはトコトコと客車に入ってくると、後ろを振り返りつつ
『PONメコマ〜!PONメコマ〜!はよしいや〜』
と誰かに呼びかける。すると、先に来た狸の妖精さんよりさらに一回り小さい狸の妖精さんが現れた。こちらの狸の妖精さんはつば広の麦わら帽子を、やはり紐で首にかけて背負っている。二人兄弟のようだ。慌てた様子で客車に入ってくる。
『PONムジナあんやん、待って〜な、置いてかんといてーな!』
PONメコマと呼ばれた子ダヌキの妖精さんは紙袋を持っていた。何かの菓子折りの様に見えるが。そのPONメコマがマゴッタ達三人が寝ている席まで来た時
『うわ〜、駅弁ぎょうさん買うてはるなー、えらいぶげんしゃさんやな〜〜〜』
くんくん
駅弁の匂いと沢山積まれた駅弁の迫力にふらふら〜っとマゴッタ達の席まで近づいて鼻をくんくんさせている。
『こら、PONメコマ、やめやにおぐでね、そやからアホや言われるんや』
『だって、PONムジナあんやんが高いからって買うてくれないオカカンライスまでぎょうさん積んであるでなー、けなりいわ〜』
PONメコマと呼ばれた子ダヌキの妖精さんはまさに指を咥えて駅弁の方を見ている。まだ子供なので自分の欲望に素直なようだ。PONムジナはそんな弟を困った顔で目を細めて見ながら
『よけまいせんとなんぞ忘れんなや〜。早よ行こな〜』
そう言ってPONムジナは弟を引っ張って行こうとした……ら、目が合った。四つも。???。
キラーン うるうる
サーメNYANとWooちゃんだった。今の騒ぎと匂い?で起きたらしい。
くんくん、くんくんくんくん
Wooちゃんが匂いを嗅ぎながらPONメコマの持っている紙袋に近づく。続いてサーメNYANも。
くぅぅぅぅ キラーン
Wooちゃんのお腹の虫が鳴り出した。すっごく寂しそうな顔。可哀想。するとサーメNYANが
『お菓子持ってるにゃん?駅弁と交換しておくれにゃん』
そう言ってオカカンライスを二つ差し出してきて、その駅弁の箱越しにPONムジナを見てくる。じーっと見てる。じ〜〜〜っと見てくる。PONムジナは動揺する。
(はわわ。袋の中のなんぞはダイヤのシチテンバット五個入り。オカカンライス一個分くらいの値段や。オカカンライス二つ。…でも新井組さん達に持っていくお土産として買うたのに…)
…PONムジナは狸の皮算用を始めたようだ。WooちゃんはうるうるしながらPONムジナを見てくるし、サーメNYANの目力は強いし。ぐらぐら。なんなら横にいるPONメコマもうるうるとしてPONムジナを見てくる。
(う…) ポンッ
そこへサーメNYANがオカカンライスの箱の上にもう二つ駅弁の箱を乗せた。見ると、ミャイチ名物TENムース五個入り惣菜付き弁当。蓋が透明なのでとっても美味しそうな駅弁がダイレクトにPONムジナの目に入った。
……………
気がつくとPONムジナはすごい勢いでオカカンライスを食べていた。
ばくばくばくばくばくばく
『美味しいねPONムジナあんやん♡!』
PONメコマも顔中にご飯粒をつけながらすごい勢いでオカカンライスを食べている。いつの間にか二人共マゴッタ達の後ろの席で対面シートに座って駅弁を貪っている。
ばくばくばく
…二人あっという間にオカカンライスを平らげてしまった。丸っこい体がさらにお腹が大きくなっていて今にも転がり出しそうなくらい丸っこい。二人ともまだちっちゃい子ダヌキなので駅弁一つでお腹いっぱいになったようだ。…駅弁三つ食べたマゴッタって…。
『PONムジナあんやん、お腹いっぱい〜♡』
『ほんになー♡伝説のミャイチのTENムース駅弁は帰りまで取っとくにー。今日はついとったな〜。ほんなにしてもろうて、ういこっちゃ…』
その時PONムジナの視界に対面シートの向こう側に座っているWooちゃんの姿が見えた。PONメコマはこちらを見ているので見えていない。まだ顔にご飯粒をつけてニコニコしている。Wooちゃんは紙袋からオシャレな菓子箱を緑の触覚で取り出すと、
かぱぁ
顔中が口になりジョーズの様な歯が。なんならびっしり生えたその歯は外側に向かって開いている。さすがWooちゃんレベルアップしたのか?凶悪さが増している。
ばくんっっっっ!
(ひぃ!!がおやっっっ!!!)
PONムジナはWooちゃんのあまりの変貌ぶりに震え上がってしまった。当のWooちゃんはモッチャモッチャとシチテンバットを食べると、
『ううぅぅぅ♡!』
ご機嫌でクルクル周りだし、ピンクのオーラを発し出した。その時回転を終えたWooちゃんとPONムジナの視線がピッタリ合う。Wooちゃんはとっても嬉しそうにニコッと微笑んでちょっと体を傾ける。とっても愛らしい。……さっきの捕食シーンを見ていなければ。さっきの捕食シーンを見てしまったPONムジナは…
(あわわわわわ、忍法“シンダフリ“!)
そう念じると、ぐったりして動かなくなってしまった。シートにころんと転がってしまい、ぴくりともしない。この子ダヌキ達には何か特殊な能力がありそうだ。しかしそれを見たPONメコマはのんびりしたもので、
『PONムジナにいちゃんお腹いっぱいになって寝ちゃったぁ』
そう言うと本人はまだ眠くないのか、嬉しそうに窓の外の景色を楽しみ出した。
*
『次は〜マッシロコンフェで〜す♡』
ノンゾMeちゃんの可愛らしい声が聞こえてくる。さすがノンゾMeちゃん、すでに終点のトットオカまで行って乗客を乗せて折り返してきている。素晴らしいスピード。そのノンゾMeちゃんの客車から出てきたのは
(初めて来たとばい、マッシロコンフェ…)
降りてきたのはまだ若い秘密結社L-PANのメンバー、Lキヨシン。レッサーパンダの妖精で構成されている秘密結社L–PANのメンバーにしては背が高い。それにブロンズ色の長髪にキリリとした眉毛。とっても美少年(美レッサーパンダ)だ。今回の彼のミッションはマッシロコンフェでのスケバタラキ。先輩であるマッシロ支部のLピロシンからの依頼だった。raccoon dog(狸の英名)から取ったRADカンパニーに潜入するのにスケバタラキして欲しいとのことだった。マッシロコンフェはまだL–PANのメンバーが一人しかいないらしい。そこで若くて有能なトットオカのL–PANのエース、Lキヨシンに白羽の矢が立ったのだ。
(Lピロシンしぇんぱいはどこにおりんしゃると?)
周りをキョロキョロする。するとちょうどそこへ
『おお、Lキヨシンさんね、よう来ちゃった』
Lピロシンは自分よりかなり背が高いLキヨシンの肩をポンポンと叩きながら嬉しそうな顔でそう話しかける。とてもいい人のようだ。このレッサーパンダの妖精さんはブラック色の髪をオールバックにしている。髪のセットもちっちりしていてダンディなおじさまと言う感じの妖精さんだ。
『お世話になるとですね、Lピロシンしぇんぱい。今度の任務は重要げな聞いちょりますですね。そしたらですね、言われとったトットオカ銘菓のトオルモーンと……』
『そがいに慌てんなや。それはわしが食うんじゃのうて東の方からくる通訳のえずいダイシェンシェイに渡すんじゃそうじゃ。本部よりそう言われとる。なんでもRADカンパニーのメンバーも遠いい所から来とるから言葉がやねこいんじゃと』
Lキヨシンは一瞬キョトンとした顔になった。
(エズ…シェンシェ…ヤネコ…マッシロ支部の専門用語やろうか?)
Lキヨシンはちょっと困ったが、そこは秘密結社L-PANのエリート隊員でもある有能な彼の事
にぱぁ
太陽の如き眩しいスマイルでやり過ごすことにした。
『さすがLピロシン先輩ですね、勉強になりますですね』
……何かイマイチ会話が噛み合っていない空気が流れる。Lキヨシンの額から冷や汗がつつっと。しかしここで彼に救世主が現れた。
*
シュッポッポー!
『よっさ、どいさ、よっこらさ』
SINKAセン爺が現れた。真っ赤な顔で掛け声をかけながら一生懸命走ってくる。…心なしか…と言うか明らかにマゴッタ達を乗せた時よりお疲れの様だ。まさに疲労困憊といったお姿。大変そう。
プッシュンッ、シュー!
『ふぅ!参ったわい。久しぶりのマッシロコンフェはきつかった〜。しかしせっかくマゴッタ達が乗車してくれたんじゃから頑張っちゃったわい』
SINKAセン爺はまさにグロッキーの体で止まる。とっても疲れた顔をしているが、同時に満足そうでもある。SINKAセン爺もとっても人のいい妖精さんだ。すると、そのSINKAセン爺の客車からさらに大きな掛け声が聞こえてきた。
『ヨッコラドッコイショ!』 『にゃにゃ、にゃん!』『う〜〜〜、うぅ!』
…なにやら怪しげな掛け声だが、そちらの方に目をやると…マゴッタが宙に浮いて足をバタバタさせていた。??。よく見るとマゴッタは何か風呂敷のようなものを背中に担いでいる。その結び目がマゴッタの首(胴体?)に結んである。どうもその背負った風呂敷が客車の出入り口に引っかかって降りられないようだ。それをBOSコマツとサーメNYAN、Wooちゃんが後ろから押し出している、と言うことらしい。一旦表に出てから荷物を風呂敷に入れ直しては?…などとは言ってはいけない。みんな大真剣。マゴッタはつま先をプルプルさせて前に伸ばして頑張っている。やがて
PON!! 『『うぁ〜〜〜!!』』 どさどさ
豪快な音がして四人とも客車の外へ転げ出た。勢いで荷物に潰されているマゴッタはキュウっとなっている。マゴッタの背負っている風呂敷はなんとマゴッタそっくり。その名も風呂敷マゴッタ(そのまんま)。荷物がいっぱい入っているせいか上を向いている顔の模様がちゃんと苦しそうになっている。マゴッタの顔は地面にめり込んでいる。しかしさすがマゴッタ。いつまでも倒れてはいない。
『ほっ!』 すぽんっ
掛け声一発起き上がった。風呂敷マゴッタはマゴッタの倍くらいの大きさがあるが、ものともしないで担いでいる。う〜ん、さすがマゴッタ。
『BOSコマツさん、本当にありがとう♡全部美味しくいただきます♡』
そう言ってまだ尻餅をついているBOSコマツに深々とお礼を言う。…このマッシロコンフェに来るまでに更に駅弁が増えたと言うことらしい。さすがBOSコマツ。ドーンと太っ腹だ。
『なーんのなんの、大恩人のマゴッタの為だからね、アタシャエドッコだしね!美味しく食べてね♡』
BOSコマツは大満足の表情でマゴッタの肩をポンポンと叩く。
『うんうん、いいよ、いいよ〜マゴッタの為だからネ。あたしゃエドッコでフトッパラだから、うんうん』
『素敵にゃん♡』 『うぅ〜♡』
サーメNYANもBOSコマツの足元ですりすりしているしWooちゃんまで(自分は食べないのに)餌付けされてしまったようだ。…タマゴ達は結構現金なようである。さらにそこへ
『よーよーよー』 『なーなーなー』
小さくて丸っこい子ダヌキの妖精が客車から、まさに文字通り転がり下りてきた。賑やかな妖精さんが六人もいるとなかなかわちゃわちゃする。
__それを見ていたのがLキヨシンとLピロシン。
『ありゃ?ありゃRADカンパニー(本物)から来られた妖精さんじゃないん?それにあのタマゴの妖精たちは……やっぱり!通訳のダイシェンシェイじゃろお!』
Lピロシンがわちゃわちゃ集団を見てびっくりした様な顔になった。…が、その後少し困った顔になる。
『う〜ん、先にLキヨシンしゃんと打ち合わせしたかったとが、あずったのう……しかたないけえ出たとこ勝負じゃ、たちまち行くんちゃい!』
*
…Lキヨシンはチョビってしまっていた。チョビるとは妖精用語(?)でちょっとだけちびってしまうと言う専門用語。しかし彼はそれにも気づかないほど驚愕していた。全身震えて膝はガクガク。やっとの思いで立っている。L–PANのエリートメンバーであるLキヨシンだからこのくらいで済んだのかもしれない。RADカンパニー(本物)から派遣されて来ているPONムジナとPONメコマは気絶(シンダフリ?)してしまっている。BOSコマツは完全に腰を抜かしており、内股で地べたにしゃがみ込んでアワアワと震えている。
___その中でLピロシンだけはしっかり二本足で立っていた。左手にLキヨシンから受け取ったお菓子を入れておいた紙袋を持ち、右手は手を前に差し伸べたまましっかりと自分の足で。その後ろ姿を見たLキヨシンは
(しゃ、しゃすがLピロシン先輩、男の中の男ばい)
Lキヨシンは感動。……しかしLピロシンは実際は立ったまま白目を剥いて気絶していた。何があったのか?
もっちゃもっちゃもっちゃ
『う〜〜〜〜♡!!』 ほわわわ
そう、衝撃を受けている妖精さん達はWooちゃんの捕食シーンを間近に見てしまったのだ。初めて見るBOSコマツは本当に腰を抜かしてしまっているし、PONメコマは余りのショックに気絶、一度見ているはずのPONムジナも恐怖のあまりにシンダフリ。……ちなみにこの五人は全てチョビっていた。可哀想。しかしその原因を作った張本人は柔らかなピンク色の光を出してとっても嬉しそう。トットオカトオルモーン十二個入りの効果は絶大だったようだ。…味はWooちゃんしかわからないが。マゴッタとサーメNYANは日常の光景なのでいつも通り。ニッコニコしている。おかげで全体的にシュールな光景になってしまった。
『こんにちは〜、僕マゴッタ♡スケバタラキに来ました〜!』 『がんばるにゃん♡』
ニッコニコ。……場違いこの上ないがマゴッタ達はまだ子供なので場の空気を読むのが苦手。しかしこれにLキヨシンは救われた。
『こ、こんにちは、RADカンパニー(潜入)のLキヨシンです。私とこのLピロシン先輩は新井組さんから頼まれてスケバタラキで来ました。どうぞよろしく』
さすがエリートのLキヨシン。ショックを受けた直後とは思えないくらい素晴らしい挨拶。…しかしなぜか足が内股で腰が引けている。どうも自分がチョビってしまっていることに気づいてしまったらしい。相手に気付かれない様にとの配慮か?さすがエリート。それだけではなくまだ腰を抜かして地面にしゃがみ込んでいたBOSコマツに手を差し伸べて引き起こしてあげる。なんて素晴らしい好青年。しかしそのLキヨシンの動きが一瞬止まる。
(…あれ?この人は、地元トットオカの出世頭のBOSコマツ先輩じゃないかな?)
『ありがとね、ありがとね、ありがとね〜〜〜♡ハーびっくりした』
『あの、もしかしてトットオカ出身の出世頭であるBOSコマツさんじゃあないですか?』
その言葉を聞いたBOSコマツは一瞬何のことやらと目が点になったが、次の瞬間顔が真っ青になり、Lキヨシンの口を押さえながら小脇に抱えてすごい勢いで走り出す。え?誘拐?そのままSHINKAセン爺の反対側まで走って行くと
『や、やだなぁ〜〜〜、誰かと間違えちゃっているのかなぁ?ワタシはエドッコだもんね。だもんね。だもんね〜〜〜♡』
BOSコマツは大汗をかきながらLキヨシンを説得(?)しようとしている。…BOSコマツには何か秘密があるようだ。
『いや、私地元はトットオカなんですけど、地元トットオカから花形の職業である車掌さんになったBOSコマツさんの事は有名ですから』
LキヨシンはBOSコマツに会えて感激した様子。さらわれた(?)のにBOSコマツをすごく尊敬しているようだ。
『やだな〜やだな〜やだな〜〜〜、と、とにかくそれは他の妖精さんには喋っちゃダメよ、ダメなのよ』
BOSコマツはそう言うと慌てて客車の中に帰って行った。
『……?』
Lキヨシンは呆気に取られた後、どうにも釈然としない顔になった。
___その二人のことを見ている妖精さんがいた。SINKAセン爺だ。SINKAセン爺は渋〜い顔をしながら二人のやりとりを見ていた。
『なかなかあやつは治らんのう…』
*
『来〜〜〜〜い!!このワシ、DOSコイが貴様等に至高の“ツブアン”カエデマンジュウを奢らせてやるわ!』
DOSコイと名乗った鯉の妖精さんは硬そうな木のバットを両手で握り締めている。…怖い。
『何を!この荒井ゴシゴシが貴様等に究極の“コシアン”カエデマンジュウを贈呈させてやるわい!!』
荒井ゴシゴシと名乗った狸(偽物)の妖精さんは大きな球を握っている。DOSコイ目掛けて投げつけるつもりなのか?やはり抗争なのか?怖い。
しかし、よく見ると、DOSコイは赤いツバ付きのキャップを被り、上半身は白を基調とした袖が短めのユニフォームを着ている。胸にはオシャレなデザインのKOIダースと書かれたワッペンが貼ってある。
ここはマッシロコンフェにあるZUNZUNドーム。マッシロコンフェのスポーツの聖地らしい。そう、これは抗争ではなくサンカクベイスと言う立派なスポーツ。投げたボールをバットで打って点を取ったり取られたりする健全なスポーツだ。…抗争のように見えたのはあまりの迫力からか?しかし健全なスポーツと言うには不健全なセリフがあるような。負けた方が相手の好きな“カエデマンジュウ“を奢ると言うことになっているらしい。…いや、食べ物が絡んでいるだけに余計に真剣なのか?
『RADカンパニー(偽物)魂の一球だ!』
荒井ゴシゴシと名乗った狸(偽物)の妖精さんが大きく振りかぶった。ダイナミックなモーションから右腕をしならせながら豪速球を放つ。
『ワハハ、甘いわ!』
カンッ ボテ、ボテ、ボテ
……DOSコイの声は勇ましかったが打ち損なってピッチャー前にボテボテと転がった。
ドスドスドス
DOSコイは立派な髭が生えているがそれを左右にブンブン揺らしながら走っている。…走ってはいるが、遅い、とっても遅い。…よく見ると(…けっして走るスピードが遅いからじっくり見られると言う意味ではない…)髭が生えていると言うからだけではなく、年齢的にも結構なお爺ちゃんのようだ。KOIダースは三人とも同世代のお爺ちゃんグループらしい。これでは流石に一塁に間に合いそうもない。ピッチャーの荒井ゴシゴシがそのままボールを捕って簡単にアウトかな。実際荒井ゴシゴシは左手で簡単にボールを捕り、右手に持ち替えて投げようと……して、…??
じ〜〜〜
荒井ゴシゴシが捕ったボールを見つめている。更にじ〜と見つめる。おもむろにポケットからハンカチを取り出し
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ、ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
…ボールを拭き始めた。ボールに付いた土の汚れが気になったらしい。一生懸命拭いている。更にボールをぐるぐる回して汚れが付いていないか入念にチェックする。
にぱぁ
笑顔になった。納得したらしい。一塁にボールを投げる。
『セーフ!』
……そりゃそうだよね。バッターのDOSコイは一塁ベースにすでに着いていてはあはあ言いながら手を膝について休んでいるところだ。
『あれ?』
ピッチャーの荒井ゴシゴシは?顔でそれを見る。…思っていたよりもはるかにのんびりした試合のようだ。さすが妖精国ジパン。基本のんびりしている。次のバッターは
『次はこのワシDONTコイじゃ!このワシのジョッセイ滝をも昇ると言われた鯉の滝登り打法見せちゃる!!』
バッターボックスにいるやたらヒゲが立派な鯉の妖精が目を炎にしながら宣言する。かっこいい。しかしそれを聞いてたまだ息の荒いDOSコイが
『ジョッセイ滝は言い過ぎじゃろ、DONTコイ。山奥すぎて行くだけで参ってしまうわい。落差もすごいしのぅ。せいぜいクサズーリの滝くらいにしとかんか?近所だしのぅ』
……何やらローカルな話題が入っているみたいだがどうにも威勢がつかない。
スカ スカ スカ 『ストライクアウト!』
…実際あっという間に三振してアウトになってしまった。
『カタキはワシが討ってやるぞ、BATCHコイじゃ、かかってこんかい!!』
スカ スカ スカ 『ストライクアウト!』
…デジャブ?二人目のBATCHコイもあっという間にアウトに。う〜ん、この鯉の妖精さん達は威勢のいいお爺さんだがサンカクベイスの実力はあんまりないのかな?三振して膝をついたBATCHコイが
『スケット殿、後は頼むぅ…』
『まかせて♡』
時代劇調の鯉の妖精達に対してマゴッタはとってもライト。軽い。子供なので空気を読んだりとか雰囲気を出したりとかは出来ない。しかしマゴッタは小さい手で器用にバットを持つとやる気満々でバッターボックスに立つ。果たしてマゴッタにバットが振れるのか?心配になるような持ち方だ。ピッチャーの荒井ゴシゴシもニヤリと笑う。カモだと思われてしまったようだ。
(ふふふ、スケットを頼んだと言うからどんな奴らが来るかと思ったらまさかこんな子供とはな。今回もしっかり究極の“コシアン”カエデマンジュウはいただきだな)
どうもサンカクベイスの勝負にかこつけて鯉の妖精さん達から究極の“コシアン”カエデマンジュウをせしめているらしい。…悪い妖精さんなのかな?そのまま荒井ゴシゴシは振りかぶって
『ふふふ、貴方にもとっくりと聞かせてあげますよ。私の究極の“コシアン”カエデマンジュウの食レポをね。指を咥えてしっかり聞きなさい!』
…荒井ゴシゴシは結構嫌味な性格のようだ。しかし投げる球は豪速球。唸りを上げてマゴッタに襲いかかる。
『マゴッタスピン!!』
ぐるぐるぐる ギューン
マゴッタがバットを持ったまま強烈なスピンを始めた。まるでヘリコプターのプロペラの様。その手があったか。高速で回転するバットがボールを捉える。
カンッ!
『え…っ?』
目が点になった荒井ゴシゴシがボールの行方を追うと、綺麗にレフトスタンドに入った。ホームラン。マゴッタ凄い!ご機嫌なマゴッタはマゴッタダンスを披露しながらベースを一周する。荒井ゴシゴシはまだスタンドの方を見ているがその顔からは涙と鼻水が。可哀想。一回表は二点取って終了。ベンチで荒井ゴシゴシが呆けている。
『荒井ゴシゴシ、そんなに落ち込むことないよ。まぐれまぐれ』
『そうだそうだ、荒井テモミの言う通りだ。この荒井ランドリも付いている、任せとけ!』
三人の狸(偽物)の妖精さんは仲良しみたいだ。励まし合っている。とっても美しい光景。その間にバッターボックスに立ったのはLピロシン。
『RADカンパニー(潜入)の時期エースと名高いこのLピロシンがRADカンパニー(潜入)の為にこの打席を捧げると誓おう。RADカンパニー(潜入)よ永遠なれ!』
……やたらRADカンパニーを押す。やはり組織に潜入するのは大変な苦労があるらしい。KOIダースの守備はと言うと、DONTコイ、BATCHコイの二人は一塁側の外野、しかもラインギリギリくらいの所に居て二人でしゃがんでお茶を啜っている。……?自分達のベンチから一番近い場所だったからか?あまり守備には前向きじゃないようだ。どうやって守るのだろう?DOSコイはグローブを持ってキャッチャーの位置でドーンと座っている。…三人とも動かなくて済むポジションを好むようだ。マゴッタは三塁側の内野守。サーメNYANはセカンド(サンカクベイスにはセカンドはないが)の奥にいる。…と言うとピッチャーは?
『う〜〜〜♡』
ラブリーなWooちゃんがピッチャーマウンドに。嬉しそうにピョンコピョンコしている。それを見たLピロシンが怯む。Wooちゃんの捕食シーンを思い出したか?トラウマになってしまったか?
(う……、しかし、頑張れLピロシン!これはバトルじゃない、サンカクベイスだ。噛みつかれるわけじゃないんだ!)
Lピロシンは心の中で自分を鼓舞すると、武者震い(普通に震えてる?)しながらバットを構える。
マウンドにいるWooちゃんは左の触覚の先でボールを持っている。…すると。
するするする
右側の触手がどんどん短くなる。短くなった分だけ左側の触手が伸びてきた。右側の触手は先っぽの長い部分を除いて全部引っ込んでしまった。逆に左側は今までの二倍程の長さに。その長い触手を投げ縄のように振り回し始めた。
ぶん ぶん ぶん!
『なんだ、何だ何だナンダ!?』
Lピロシンは狼狽えている。…Lピロシンじゃなくても狼狽えるよね。触手の回転スピードが上がってきた。
ビュン!!
ピッチャーより遥かに左の方から超速球が。
ドーン!!
大砲の弾が真横を通るとこんな感じなのか?Lピロシンは再び立ったままチョビって気絶してしまった。
*
Lキヨシンは震えていた。
(あ、あんな恐ろしい球はトットオカスタジアムでは見たことない……)
当然打ち返せる気もしない。と言うよりバッターボックスに立つのが怖い。さすがのエリート諜報部員のLキヨシンでもWooちゃんの超能力の前ではなす術なしだった。…が、そのWooちゃんがマウンドに居ない。あれ?よく見ると一塁側の外野でお茶しているDONTコイとBATCHコイのお茶会に参加している。遠くて見づらいがお茶菓子まで出して本格的にお茶会しているみたいだ。
『あれれ〜?、Wooちゃん飽きちゃったかな〜〜〜?』
マゴッタはちょっと困ったという顔をしたが、閃いた、と言う感じで
『じゃあマゴッタがピッチャーやるね♡!』
…子供なので話が簡単。マゴッタはトコトコマウンドまで行くとボールを持った。
(……ほ〜〜〜)
Lキヨシンは心底ホッとする。取り敢えずあのWooちゃん(モンスター)と対戦しなくて済んだらしい。しかし、ボールを持ったマゴッタは
『マゴッタスピン!』
叫ぶと高速回転し出した。…タマゴさん達はみんな回るのが得意らしい。
ビュン! バン! 『ストライク!』
豪速球が放たれた。しかし、Lキヨシンはちょっと驚いたが、
(速い……、だけどこの位ならトットオカのKZミーン程じゃないな)
地元のピッチャーと比較したらしいLキヨシンは落ち着きを取り戻した。第二球、
ビュン! カンッ!
マゴッタのボールに綺麗にバットを合わせて打った。エリートのLキヨシンらしい教科書通りの綺麗な打ち方だ。ボールはライト方向へのライナー。…ライトというと?
Wooちゃんはピンク色に光っていてDONTコイとBATCHコイは気絶して転がっていた。…何かがあったらしい。しかし誰もボールを捕る人がいない。
(よし、ランニングホームランだ!)
Lキヨシンは確信すると凄いスピードで走り出す。さすがエリート。しかし、
『にぁ〜〜〜〜ん♡!』
何処からともなく現れたサーメNYANがネコの本能でボールに向かって一直線に飛んでいく。まさに飛んで行くという表現がピッタリなスピードだ。
パシッ!!
綺麗にキャッチ! 『アウト!』
Lキヨシンは走っている格好でピタッと止まってしまった。
(…あのタマゴどこから現れた!?三人とも超人のチームなのか!?)
三人目のバッターはPONムジナ。弟のPONメコマが応援している。
『にいちゃ〜ん、頑張れ♡』
『おう、任しとけ!』
しかし、当のPONムジナは手ぶらだ。バットを持っていない。?。マゴッタは子供なので気にしない。マゴッタスピンから豪速球を放った。
『忍法コマ手裏剣!』
そう叫ぶと、糸が巻きつけられた木製のコマを背中のカウボーイハットから出した。そのモーションのまま紐を握りながらコマを投げる。コマは高速回転しながら…
カーン!
空中でマゴッタの投げたボールを捉える。……バットの替わりにコマを使ったのね。難易度が百倍くらい増しているような気もするが、PONムジナはちっちゃいのでバットがそもそも持てないのかも知れない。サンカクベイスではバットでなくても構わないようだ。素晴らしいルール。
ポーンッ
ボールはセンター方面への凡フライ。コマでここまで飛ばしたのだからたいしたものだ。しかしこれならサーメNYANの楽々守備範囲……、と思ったら
じ〜〜〜 クルクルクル
コマを見てる。じ〜っと見てる。コマはまだ勢いよく回っている。ちょっと触る。コマの回転が乱れたがまだ勢いがあるのですぐ安定して回り出した。サーメNYANは回っているコマを初めて見たのかな?とにかくボールのことは忘れてしまっているらしい。その間にPONムジナはもちろん走ってい……る?いや、転がっている。側転の要領でクルクルクルクル回っている。結構早い。ちっちゃくて丸っこいPONムジナなら普通に走るよりこの走り方のほうが早いのか?
『忍法横走!!』
PONムジナは加速しながら回転していく。よく見ると並んでWooちゃんが転がっている。触覚を車輪のように丸くして器用に転がる。楽しそう。一塁ベースを回ったところでPONムジナに参加したのかな?二人で楽しそうにクルクル回って転がっている。…誰がボールを取りに行くのかな?マゴッタはサーメNYANとWooちゃんを見てちょっとボケッとしたが、ハッとなってボールに向かって走り出した。
テテテテ クルクルクルクル 『ホームラン!』
…ランニングホームランが成立したようだ。こうして何とも呑気なサンカクベイスの試合が進行していく。
*
いよいよ最終回の五回裏、得点状況はKOIダース五点、新井組四点とKOIダースが一点リードしている。ツーアウトだが一塁にはPONムジナが出塁している。マウンドには相変わらずマゴッタ。…なんかすでにヘロヘロになっている。マゴッタピンチ。サーメNYANはマゴッタの後ろの方にいるが……すでに飽きてしまっているらしい。得意のお尻時計を見せてくれている。午後の三時にはまだ時間があるようだ。…と言うことはまだ起きてくれないのかな?Wooちゃんは…マゴッタの横でお休み中。普通に完全に御就寝中。寝ていてもラブリー。ハート型の泡風船が幾つも浮いている。今日はだいぶおやつを頂いたので眠くなっちゃったのかな?
三塁側ベンチでは荒井ゴシゴシがマゴッタ以上にヘロヘロでベンチに座り込んでいる。何ならマゴッタよりも疲れているようだ。荒井ゴシゴシは一人でずっとピッチャーをやってきたので、疲労もピークに達している。……それと三人のスーパータマゴ達の相手をさせられた精神的疲労もあるようだ。むしろその方が大きいか?
両脇に荒井テモミと荒井ランドリが付いてマッサージしたりタオルで扇いだりと荒井ゴシゴシのケアに一生懸命。この三人も本当に仲がいい。
『た、頼むけぇ、頑張ってつかぁさい〜』 『『うんうん、うんうん』』
荒井ゴシゴシの祈りのような声援が。それに相槌を打つ両脇にいる荒井テモミと荒井ランドリ。盛り上がってきました。
バッターボックスにいるのはPONメコマ。やる気満々で目が炎に燃えている。
『あんやん、必ず打つからのー!』
『PONメコマ、おまいはちょかすけやき気合い入れや〜!』
『あんやんいらんこと言うなや〜〜!』
PONメコマはちょっとこけたがまた気合を入れ直す。だいぶ疲れているマゴッタがそれでも一生懸命スピンしながらボールを投げてくる。もうすっかりボールに力が無い。ヘロヘロだ。
『忍法ナベブタ!』
そう叫んで背負っている麦わら帽子からシュッと取り出したものは…鍋の蓋?焼き物の。もうこうなると何でも有り。PONメコマは鍋の蓋を両手で持ってボールに向ける。
コンッ グルンッ シュッ!
左側の鍋の淵でボールを捕え、蓋の丸みに沿ってグルッと方向を変えたボールが一塁方向に向かって飛んでいく。打球に勢いはないが守備をする妖精さんは……あれ?珍しい、BATCHコイがちゃんと前を向いている。ボテボテのゴロ。しかもPONメコマはまだ忍法横走を習得していないらしく、トテトテとのんびり(本人は大真剣だが)走っている。これは流石に楽勝でアウトでしょう。KOIダースの勝利か?敢闘賞はマゴッタか?
…すると何故かBATCHコイがスコアボードにちらっと目をやる。五点対四点最終回ツーアウト。これ以上のシュチュエーションは無い。ヒーローインタビューの準備か?
するっ ペシンッ!
BATCHコイがボールをトンネル!!…と言うより明らかにボールを跨いだ。そして尻尾(尾びれ?)でさらに外野の奥の方までボールを弾いた。???お爺ちゃん妖精だと思っていたが、とてもそうは思えないくらいの俊敏な動き。
『あれれ〜〜〜?』 キラーン!
…わざとらしい程ののんびりした声をBATCHコイが出す。…?それをお尻時計を作りながらサーメNYANは見ていた。しかし、片目を閉じるとそのままゴロゴロし出す。すでにサンカクベイスには興味がないらしい。寂しい。BATCHコイは自分で弾いたボールをえっちらおっちらのんびり追っかける。…ん?横目でランナーの様子を見ているように見える。少し減速する。あれ?また加速したぞ?もう結構な距離を走っているが全然息を切らせていない。
PONメコマは外野でそんな事が起こっているとはつゆ知らず一生懸命トテトテベースを回っている。まだ子供の妖精なので三塁を回った頃にはヘロヘロになっていた。
『頑張りや〜〜!PONメコマ!もうちょいや!!』
すでにホームベースを踏んだPONムジナが一生懸命弟を応援している。外野フェンス近くでやっとボールに追いついたBATCHコイは右手で掴んでそのままホームベースに向かって投げる。
ゴウッ!!
何とびっくり、レーザービームのような豪速球がホームに向かって飛んで行く。ノーバウンドで唸りを上げながらDOSコイのグローブに向かって一直線。
よたよた コテンッ
ヘロヘロだったPONメコマが転んだ。
『『!!』』
何故かBATCHコイとDOSコイがギョッとした顔をする。するとDOSコイはレーザービームのように飛んできたBATCHコイの返球をキャッチする直前にグローブを閉じ、グローブの背でボールを弾いた。
ペシンッ 『しもうた』
DOSコイはあまり慌てたように聞こえない声を出し、弾いたボールを追っかける。それを外野で見ていたBATCHコイが何故かホッとしている。起き上がったPONメコマがホームベースにタッチするのと弾いたボールを拾ったDOSコイがタッチしに行くのがほぼ同時だった。結果は…
『ホームラン!ゲームセット!!五対六、RADカンパニー(混成)の勝利!!!』
何とかホームベースにたどり着いたPONメコマは疲れてコテンと転がってしまった。しかしとっても嬉しそうに
『やったよ♡!あんやん!!』
『ようやったPONメコマ!ようやったなぁ!!』
ぎゅ
兄弟で抱き合って逆転勝利を喜んでいる。美しい光景。そのシーンを見た荒井ゴシゴシが
『…ふふふ、ふはは、ふははははははっ!完全勝利!!わしらRADカンパニー(混成)は永遠に不滅じゃ〜〜〜!!!』
『『そのと〜り!!』』
荒井ゴシゴシはセリフは勇ましかったがとっても嬉しそうにPONムジナとPONメコマに抱きついて喜んでいる。結構素直な妖精さんなのかもしれない。荒井テモミと荒井ランドリもその輪に加わる。そこへ
『やっぱりRADカンパニー(潜入、混成?)は凄いんじゃ〜〜!RADカンパニー(潜入)は永遠なんじゃ〜〜〜!!RADカンパニー(ヨイショ)が大好きじゃ〜〜〜〜!!!』
……何だかえらく気苦労を感じさせられるセリフを叫びながらLピロシンが歓喜の輪に加わる。オトナの事情を感じてしまうのは邪推しすぎなのか?
『Lピロシン先輩の言う通りですね!さすがRADカンパニー(潜入、混成?)は凄いですね!!RADカンパニー(潜入)は最高ですね!!!RADカンパニー(ヨイショヨイショ)が大好きですね〜〜〜!!!!』
そう言うとLキヨシンも歓喜の輪の中に加わる。……う〜ん、Lキヨシンの言葉には更に気遣いを感じるような…しかしさすがエリートのLキヨシン、Lピロシンの言葉に合わせてきっちりスケバタラキしている。うーん、頼れる。
そこへKOIダースのメンバーも集まってきた。
『いや〜、もうちぃとじゃった。ギリギリやったけど今回もやられてしもうた、おめでとう』
そう言ってDOSコイは荒井ゴシゴシに握手を求める。荒井ゴシゴシも満面の笑みで握手を返す。
『あんたらぁもぶち頑張ったけえいい試合になった、ありがとの〜』
二人でがっちり握手。素晴らしい。するとDONTコイとBATCHコイの二人もやって来た。二人とも両手に紙袋をたくさん持っている。
『今回もあんたらに負けてしもうたけぇあんたらぁの好きな究極の“コシアン”カエデマンジュウ買うてきたよ、至高の“ツブアン”カエデマンジュウもあるしのぅ』
DONTコイが両手に持っていた袋をどさどさっと置く。するとBATCHコイもどさどさっっと紙袋を置き、
『アーンビンもあるし、ワララビンモチもあるぅき、どんどん食べんさい♡』
鯉の妖精は三人ともニッコニコしながら大量の甘味を置いていく。一体どれだけ用意していたの?と疑問が湧くぐらいの量がある。
『そがいにえっとかわぁでもええじゃろうにのぉ』
荒井ゴシゴシはそう言いながら嬉しそうに究極の“コシアン”カエデマンジュウを一つ取り出す。丁寧に袋を破りながら
『ほいじゃあわしの食レポ聞かせちゃるけかばちょたれたらいかんがな』
そう荒井ゴシゴシは言うと満面の笑みで究極の“コシアン”カエデマンジュウに向かって
『あ〜〜ん♡』 カパァ
……と、突然荒井ゴシゴシが影に包まれた。ドーム球場なのに何で暗くなったのかな?荒井ゴシゴシは疑問に思いつつも振り返ると物凄い牙がびっしりと生えた口が視界一杯に広がっていた。ブラックホール?地獄の門?
___この時なぜか荒井ゴシゴシは過去の事を思い出していた。自分の死を悟ると見えるというあの走馬灯と言う現象なのか?
〈ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシッ〉
《母ちゃんまだ洗い物終わらんの?》
《まだじゃ、汚れとったらお腹めぐけぇの》
荒井ゴシゴシの母親は一生懸命水洗いをしている。慈姑、無花果、檸檬、とっても丁寧に一つ一つ手洗いしている。それが母親の仕事なのだ。大変そうだが洗っている姿は楽しそうに見える。母親は水洗いが大好きなのだ。荒井ゴシゴシはその母親の背中に取り付くと
《母ちゃんわしにもカエデマンジュウ買うてつかぁさい、みんな食うとるけぇわしも食いたいき》
《カエデマンジュウなんて高いけぇ買えんよ。我慢しんさい》
《嫌じゃ嫌じゃ、カエデマンジュウ買うて買うて買うて……》
_____
『…母ちゃん…』
『ゴシゴシ、あんたこんな所で横になってると服が汚れちゃうよ!』
…えっ?突如現れた女性の狸(偽物、だが本人化ける気無し)の妖精さんが荒井ゴシゴシを立たせてシマシマ模様のフワフワの尻尾で荒井ゴシゴシに付いた土汚れをはたき落す。丁寧に落とす。更にハンカチを取り出して荒井ゴシゴシをゴシゴシし出した。
『母ちゃんくすぐったいよぅ…』
『何言ってんの、こんなに汚して!朝からカエデマンジュウカエデマンジュウうるさいから様子を見に来てみれば、もう!』
……あれ、走馬灯ってそう言うのだったっけ?先ほどの回想シーンはどうやら今朝の事のようだ。荒井ゴシゴシのお母さんはとっても元気。よかったよかった。
『『『荒井モミモミさん♡♡♡!』』』
KOIダース三人の声が綺麗にハモった。三人とも目が♡型になっていてお爺ちゃん達とは思えない素早い動きで荒井親子の側に寄って来る。
『いやぁ、相変わらずお綺麗で…♡』 『『うんうん♡』』
『今日も素敵です♡』 『うんうん♡』
『甘味たくさん持ってきましたのでお土産にどうぞ♡』 『『うんうん♡』』 キラーン
…何かやたら揃っていてコーラスの様にも聞こえるKOIダースの賞賛ラッシュ。サーメNYANは何かに気づいたようだ。と言うより今までの試合の流れに合点がいったと言う感じか。サーメNYANは目を細めてKOIダースのメンバーを見ている。もちろんマゴッタとWooちゃんはそんな大人の機微などわからない。マゴッタは結果負けてしまったがいい試合ができたとニッコニコ。Wooちゃんは荒井ゴシゴシから頂いた(奪った?)カエデマンジュウが美味しかったのでニッコニコ。
『あら、KOIダースの皆さん、うちのゴシゴシが何時もお世話になって本当に有難うございます♡それにこんなにお土産頂いて何てお礼を言っていいやら…』
荒井モミモミと呼ばれた荒井ゴシゴシのお母さんはちょっとだけ他所行きの表情と態度を作り(大人!)KOIダースの三人にお礼を言う。
『そのぅ…もしよかったら一緒にお好み焼きなんかどうかなってみんなで話してたんじゃがのう』
あれ?錦鯉の妖精さんだったっけ?って思うくらいKOIダースは三人とも真っ赤っかになって握り合わせた手の親指同士をくりくりさせてテレッテレな感じで荒井モミモミさんに言う。……鯉の妖精だけに恋してるってダジャレかな?鯉の妖精さんは惚れっぽいのかな?ひょっとしてこのサンカクベイスは接待サンカクベイスだったのかな?
荒井モミモミと荒井ゴシゴシの親子は両手一杯にお土産袋を持つ。かなりの量だ。ちょっと重そう。すると荒井モミモミさんが荒井ゴシゴシを見ながらニコッとして
『ほらゴシゴシ、お爺ちゃん達にお菓子のお礼を言って帰りましょう』
がきぃぃぃぃぃん!!! ぱたぱたぱた
ん?何か物凄い音がしたかと思ったらKOIダースの三人がみんな倒れてしまった。まるで銃撃されたように一瞬で倒れた。キラーワードは“お爺ちゃん”か“帰りましょう”か?その両方?さっきまで錦鯉のように真っ赤っかだったKOIダースの三人はマッシロになっている。……マッシロコンフェだけに。
荒井モミモミさんは悪気は一ミリも感じられない素敵な笑顔でゴシゴシと共に帰っていった。
『母ちゃん、一緒に食べようね♡』
『一回で食べたらお腹壊しちゃうからね、ゆっくり楽しみましょう♡』
…一番大人だったのは荒井モミモミさんだったようだ。いつの間にかPONムジナとPONメコマの兄弟がカウボーイハットと麦わら帽子から出した扇子でKOIダースの三人を煽いであげている。二人ともお土産袋を持ってニッコニコ。お礼に煽いでいるのかな?それとも救急処置か?LピロシンとLキヨシンは二人ともお土産を持っていない。二人とも自分達の役割を忘れずRADカンパニー(本物)への潜入を優先させ、甘味のお土産を賄賂(?)として活用したらしい。
『いや〜、流石にRADカンパニー(本物)本家の方は気遣いの方も一流ですね♡』
『ほんとほんと、使っている扇子のセンスもほんと素晴らしい♡』
……ヨイショ?L–PANの潜入とは太鼓持ちになる事なのだろうか?しかし、新井組ではなくPON兄弟に接触を計っているのはさすがL–PANのエージェント。本質をわかっている。……PON兄弟は二人ともまだちっちゃい子供だが。
*
『いよ〜〜〜〜しっ!休養充分、完全復活じゃあぁ〜〜〜〜!!』 ポポーーー!
SINKAセン爺の雄叫びが響き渡る。カッコいい。大興奮してすごい勢いで蒸気を出している。うーん、頼れる。…しかし
とことことこ
『ごじょーしゃ有難うございま〜〜〜す♡』
ノンゾMeちゃんの嬉しそうで素敵な声が聞こえてきた。よく見るとタマゴ達三人がノンゾMeちゃんの客車に乗り込もうとしている。…ノンゾMeちゃんはサンカクベイスの試合の間にクニサンエンパイヤまで戻って折り返してきたらしい。さすがノンゾMeちゃん、物凄い能力。しかも息一つ切らせていない。
『…えっ……』
SINKAセン爺の目が点になる。???
最後に乗り込もうとしていたサーメNYANがちょっと立ち止まり、
『ノンゾMeちゃんにも誘われたにゃん♡グリーン車には“アイス”も“サキーカ”もあるからお礼したいって言われたにゃん♡』
ぼしゅ〜〜〜ん!! もわもわ
爆発したような勢いでSINKAセン爺の身体中から蒸気が抜けた。更にとどめとばかりに頭の上からリング状の蒸気がクルクル回りながら登っていく。……SINKAセン爺の登りのダイヤには遅延が発生しそうだ。
『チョコレートもあるって♡』 『う〜♡』
マゴッタ達の嬉しそうな声も聞こえてくる。…子供とは現金なものである。
PONムジナとPONメコマの兄弟がSINKAセン爺の客車に乗り込んできた。ノンゾMeちゃんは彼等の住んでいるガッシンには止まってくれないのでこの兄弟にはSINKAセン爺に乗るしかない。しかし
『…機械トラブル(?)により発車が少々遅れます…』
ん?なんかえらく小さい声でアナウンスが。よく見るとBOSコマツが車掌室の扉をすこーしだけ開けてちっちゃい声でアナウンスしている。ちっちゃい帽子も目深に被って顔を隠すように。どうしちゃったのかな?ちょっと可哀想。すると
にぱぁっ♡
今日最高の笑顔のLキヨシンが現れた。手に袋を持っている。その袋を差し出しながら、
『これ地元トットオカのワケーノシンスですね。あのですね、トットオカ以外では食べられん聞いとーとです。是非地元トットオカを思い出して食べて欲しかです』
そう言って袋をBOSコマツに渡し、両手で握手をして手を振りながら去っていく。うーん、好青年。
『…ワケーノシンス…トットオカにいた時はまだ子供だったから好きじゃなかったんだよなぁ…』
BOSコマツは袋を開いて中を見ながらポツリと言う。
『いい若者じゃないか、…もういい加減クニサンコンプレックスと向かい合ったらどうじゃ?』
気絶していたと思われたSINKAセン爺がBOSコマツに話しかける。
___この二人の妖精の付き合いの歴史は長い。まだSINKAセン爺が若くて妖精国ジパン中を縦横無尽に走り回っていた(?)頃からの付き合いである。
『…トットト、トットト言われて随分馬鹿にされた…』
SINKAセン爺はため息をつきながら答える。
『それはお前がいつも“とっとーと?”“とっとーと?”って言うてたからじゃ。ちゃんとみんなの顔を見ていたか?一生懸命働くお前にみんな親しげに話しかけてたよ。決して馬鹿にしていたわけじゃないんじゃ』
最初の頃は言葉が理解してもらえないとあまり喋らなかったBOSコマツだったが、一生懸命“エドベン”を覚えコミュニケーション出来るようになってからは持ち前のサービス精神が発揮されて“シャSHOW”と言う即興芸名を名乗り、SINKAセン爺の客車でコントを披露していた。何せ昔はクニサンエンパイヤからトットオカまでは丸々二日くらいかかっていたので乗客達はとても退屈していたのだ。なので当時流行り出していたコントを披露してくれるBOSコマツはたちまち人気者になった。…ただBOSコマツはそれをコントが素晴らしいのではなくて、言葉のコミュニケーションが出来るから皆んなが喜んでくれていると勘違いしていたのだ。
『BOSコマツ、ほんとにお前のコントは面白くてワシも何度も脱線しそうになったわい。そんな皆んなを楽しませて人気者のお前がクニサン出身のふりして地元のトットオカの者を知らんぷりじゃ地元の者が可哀想じゃ。それにほれ、見てみい…』
SINKAセン爺の指し示す先にはPONムジナとPONメコマ兄弟がいた。PONメコマが“シンダフリ”をしている?兄のPONムジナから教わって忍法“シンダフリ”を覚えたのか?…いや、どうも食べ過ぎで横になってうんうん言っているらしい。PONムジナが自前の扇子で弟を扇いであげている。
『…あんやん苦しい〜〜…』
『いい加減にしいや、PONメコマ。そら伝説のTENムース弁当とカエデマンジュウとアーンビンとワララビンモチまで食うたらそらそうなるで』
PONムジナは困った顔をしているが扇子で扇ぐ手は止めない。優しいお兄ちゃんだ。
『あの兄弟はガッシンの土地言葉じゃ。わしゃジパンの国中あちこち行ったが、その土地の言葉に触れるのが大好きでのぉ、最近はおぬしも知っての通り歳をとって体力が落ちて遠い土地まで行けなくなってしまってな。土地の言葉が聞けなくなって寂しくてしょうがなかったんじゃ。BOSコマツ、あの二人の話を聞いて微笑ましくはならんか?』
『………』
BOSコマツはLキヨシンから受け取った紙袋を持って肩を落としながら遠目にPON兄弟を見る。PON兄弟を見ているBOSコマツをSINKAセン爺は優しい目で見て、それ以上は何も言わなかった。
『それじゃぁクニサンエンパイヤに向けて出発じゃ〜!』 ポッポー!
ガッシュン、ガッシュン、ガッシュン!
力強くSINKAセン爺は東に向かって走り出した。
*
読んでいただけました?今回は駅弁を題材に書こうと思って書き出しました。私自身電車はほとんど乗らないのですが駅弁は大好きで、販売しているところを見かけるとついつい買ってしまいます。今は採算性の問題などで食堂車が廃止されていると聞きました。それにマナー等の問題で車内で駅弁を食べるのも中々難しいと聞きます。寂しいねぇなどと思いながら書き上げました。
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