9 豆腐チキンナゲット量産中!
休日。玲奈が朝食後の洗い物をしていると、壁の向こうからでかい声が聞こえてきた。
「ナゲット食べたぁい!」
ちょうどつけっぱなしにしているテレビでバーガー屋のナゲット期間限定セールのCMをやっている。
たぶん同じチャンネルを見ている。
数分も経たずにチャイムが鳴った。
「栗さーーん! あたしナゲット食べたい! たくさん食べても太らないやつ作って!」
「買って、じゃないとこが彩夏よねぇ。それじゃまず鶏ひき肉と豆腐を買わないと」
「ひき肉はわかるけど、豆腐も?」
「そうよー。豆腐を入れるとヘルシーなの」
買い物袋を持って、早速スーパーに出かけた。
「あ! とろチョコ新作出てる!」
彩夏はスキップしながら、冬季限定とろけるチョコに目を奪われる。
パフェが好きだと言っていたけど、甘いもの全般に目がないらしい。お菓子コーナーの新作棚を右に左に行き来している。
玲奈はというと、酒コーナーの缶をかごに入れる。
「ナゲット作るならウーロンハイもあったほうがいいわね」
「栗さん、梅酒とくんたまとサキイカも買おう!」
服装はオシャレ女子なのに、彩夏が入れてくるツマミは飲んべぇのオッサンが好きなやつだ。
「本命を忘れるんじゃあないわよー。ほら、豆腐とひき肉」
「そうだった! ナゲットナゲット。こんなにお安く低カロリーで作れるなら、あたしたくさん食べても良くない? 15ピースいける?」
「流石に太るんじゃないかな」
木綿豆腐3個パック、豆腐はいくつあっても困らない。それと鶏ひき肉。今回はももひき肉だ。割引品でも今日中に使えば問題なし。
お会計して、帰りしな商店街を歩いていく。
そこかしこにクリスマスイルミネーションが輝いている。
「クリスマスケーキも自作いっちゃう? いっちゃう?」
「スポンジ台とホイップクリームと好きなフルーツを買えばできるわね」
「シャインマスカット! 絶対マスカット!」
「またお高いもんを」
「クリスマスケーキくらいは奮発したいじゃん」
クリスマスケーキを自作したいだなんて、どっぷり料理沼に沈んでいる。
部屋に帰ってすぐナゲットの準備に取りかかる。
豆腐をキッチンペーパーでくるんで耐熱容器で3分チンする。
その間にボウルにひき肉を入れて捏ねておく。チューブしょうがに醤油と日本酒、片栗粉を少々。
レンジから豆腐を出して、粗熱が取れるのを待つ。
「すぐに入れないの?」
「チンしたては熱いからひき肉に火が通っちゃうわよ」
豆腐が冷めたらボウルに入れてこねこね。揚げ物用に使っている鍋を火にかける。
「あとは揚げるだけよ。彩夏。スプーンで一口大ずつ落としていくの。やってみて」
「わー、すごい簡単だね! あたしにもできるやつだ」
彩夏は鼻歌を歌いながらタネを油の中に滑り込ませていく。ジュワジュワ音を立てる肉。
だんだんフチが白くなり、白からきつね色に変わっていく。
肉の焼けるいい香りがただよう。
「よし、ここで菜箸でひっくり返す!」
「はーい!」
くるんとひっくり返して、いい焦げ色になっている。
「あー、早く食べたいーー! すんごく美味しそう! ナゲットになってるよ!」
キッチンペーパーを敷いたバットに取って、残りのタネも次々に揚げていく。
山盛りのチキンナゲットが完成した。
豆腐でかさ増し&低カロリー化しているからチキンナゲットでありながらヘルシー路線だ。
「えへへ。ひとつだけ味見するー」
「私も」
ついでに買ってきたウーロンハイを開けてカップに注ぐ。
肉汁がしみだす熱々のチキンナゲット。
小皿を3つ用意して、ケチャップ、塩、レモン汁味変も楽しめるようにして口に放り込む。うまい。しょうがのおかげで臭みも抑えられている。我ながら上出来だと、玲奈は心の中でガッツポーズする。
「ナゲットうんまぁ! ウーロンハイウーロンハイ! もいっこ味見する!」
彩夏も玲奈も味見は一個だけですまなくて、味見味見と言いながらあっという間に一山が消え去った。
味見とは。
二人でごまかし笑いしながら、また作って揚げた。