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7 うどん屋な玲奈の実家でうどんを食べる!

 休日。約束通り彩夏を連れて、1時間近く電車に揺られて帰省した。

 木製の看板に、筆文字で大きく【栗田屋うどん】と書かれている。

 硝子格子の引き戸には営業中の札が下げてある。

 東京都心から一時間足らずで来ることができる場所だが、玲奈が子どもの頃から変わらない店の佇まいは、全体的に昭和レトロ感が漂う。


 メニューも、祖母渾身の手書き木板がぶら下げられている。


「わぁ。初めてきたのになんか懐かしい感じがするよ」

「あはは。褒め言葉として受け取っておくわ。ここは母方のばあちゃんがやっている店なのよ」

 

 お盆と年始は帰省しているため、感慨もなにもあったものではない。

 引き戸を開けて中に入ると、見知った常連客たちが出迎えてくれた。

 常連客以外に、ちらほら初めて見る若い女性客がいる。

 昼時は近所のじいちゃんばあちゃん、サラリーマンが来ることが多いため、オシャレ女子が来るのは珍しいことだ。


「おぅ、玲奈ちゃん。おかえり」

「ただいまー」


 調理場の方から祖母と、電話で話していた従業員らしき若者が顔を出す。


「玲奈、ほら雇うって言ってた子だよ」

「どもどもー。あんたが孫の玲奈さん? 俺、ばあちゃんに雇われた三池天哉みいけてんやっていうんだ。よろしくー」


 二〇代なかば、明るめの茶に染められた髪、軽いノリ。端的に表現するならチャラ男である。

 あまり栗田屋に来るタイプの客層ではない。

 玲奈の困惑が伝わったようで天哉が答える。


「彼女のマンションで同棲していたんだけどさ、先月彼女から婚姻届渡されてねー、そういうの重いから別れよって言ったら追い出された。んで、金ないし仕事ないしでさまよって、この店の前で倒れて拾われたんだよねぇ。住み込みでまかない付き、こんないい条件出してくれるとこ他にないよ」


 絵に描いたような元ヒモだった。

 祖母は困っている人を放っておけないタイプだから、天哉を住み込み従業員として雇う事にした。

 

「ドラマみたいな展開ね……。真面目に店のために働いてくれるならなんでもいいわ。ばあちゃん男手がほしいって言ってたものね」

「ハッハッハー。玲奈さんものわかりがよくて助かるよ」

「お客様には礼儀正しくね」



 あいているカウンター席に玲奈と彩夏が座ると、天哉はすぐ伝票ボードをエプロンのポケットから出す。

 

「玲奈さんとお友だち、注文なににする?」

「私は肉汁うどん」

「あたしは、えーと…………どれも美味しそうだしお手頃価格だし迷うなぁ。あれ! あれにする!」


 カウンターの壁に貼ってあるお品書きを見て、彩夏は迷いながらも指をさした。

 

「はい、肉汁うどん、カレーうどんね。おまちくださいませー」


 意外にもしっかり注文をとって厨房に持っていった。


「天哉くーん、こっちにお冷追加、おねがーい」

「はーい」


 天哉は若い女性客のテーブルにお冷を運んでいく。


(まさかの新しい客層ゲットとは、世の中何がどう転ぶかわからんね)


 十五分ほどして玲奈と彩夏が注文したうどんが運ばれてくる。

 茹でたてで、湯気が立ちのぼる。

 栗田屋のカレーうどんは、ルーではなくカレー粉から作る黄色いカレーだ。


 彩夏はオシャレ着にカレーうどんの汁を飛ばさないよう、店に設置してある紙エプロンをつけて臨戦態勢になる。


「うわぁ! 懐かしい感じのやつ! エプロンをこうして、こうして! よっし! これで汚れないぞー! かかってこいやぁ!」

「何と戦っているのよ」

「カレーうどんと戦うんだよー。いただきます!」


 うどん一杯でここまでテンション高くなれるのは才能かもしれない。玲奈は笑ってしまう。


「あまからぁい! 麺はつるつるしこしこ、おいしい!!!! 豚肉の薄切り、柔らかくていくらでも食べられちゃうね」

「そうでしょそうでしょ。冬の一番人気よ。2番目はこの肉汁うどん」


 玲奈は自分の食べているうどんを指す。

 かつおだしの汁、甘じょっぱい醤油ベースて味付けしてある一品だ。


「それもおいしそう! 次来るときは肉汁うどん食べる!」

「次も来てくれるなんてありがたいわ」


 あっという間に食べ終えた。スープまでしっかり飲み干している。

 のんびり話して、会計をする。


「ばあちゃん、ごちそうさまー。今日も美味しかったよ」

「ありがとう、玲奈。お友だちもありがとうね」

「へへへ。おばあちゃん、うどんおいしかった! また来るね!」

「笑顔になってもらってありがたいねぇ。いつでもおいで。ばあちゃんがうまいうどん打ったるから」

「わーい!」


 昼営業もそろそろ終わりの時間だ。

 カウンター席では、天哉がまかないの大盛り天ぷらうどんを勢い良くすすっている。


「うめーー! ばーちゃーん。とり天もう一個もらってもいい?」

「仕方ない子だねぇ。揚げるからちょっと待ちな」


 食い意地のはった元気な子が来て、張りあいがあっていいようだ。祖母は笑顔で厨房に入っていく。


「天ぷらうどんもおいしそー! 次の次は天ぷらうどん食べる!」


 天哉の天ぷらうどんを見て、彩夏がよだれを垂らす。


「彩夏は全メニュー制覇しそうね」

「制覇するする! 美味しいもん!」

 

 ここにも食欲魔神がいた。

 気に入ってもらえて何よりである。

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