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5 ぽかぽかミルフィーユ鍋を作ろう!

「あー、寒ぅ」


 彩夏は晴雨兼用の折りたたみ傘を傾けて空を見上げる。

 デザインが可愛いくてすごく気に入っているけれど、小さめだから肩が濡れてしまっていた。



「栗さんみたいにしとけばよかったぁ。せめて可愛いポンチョとか検討するかなあ」


 お隣の玲奈は特大傘にレインスーツ、長靴というカンペキ防水スタイルで出勤していた。


 お昼はスマホで推しているマンガの最新巻を読みながら、弁当を食べる。前に教えてもらった卵焼きサンドだ。ちょっとアレンジしてスライスチーズも挟んである。


「おつかれさまでーす。あ、功利さん今日もお弁当? 明日とかさ、たまには外で一緒に食べない? このあたり美味しいレストランいっぱいあるからさ」


 先輩がモグログというレストラン口コミサイトを見せながら、いつくかオススメの個人店教えてくれる。どれもランチは一食1500円オーバー。


(先輩がセレブすぎる)


 毎日外食に行けるのはすごいと、彩夏は素直に感動する。彩夏は節約して節約して、好きな店のパフェを月一回食べるのが精一杯なのに。引越し費用にけっこうかかって貯金がすっからかんだから、お高いランチもパフェもおあずけだ。



「特にこの店の鍋がすごく美味しくてねー。最近寒い日が増えたからすごくいいよ。お腹の中から温まるし、野菜たっぷりでヘルシーだし。一食2000円だけど、まぁ許容範囲よね」

「鍋ものかぁ」


 お鍋食べたいと玲奈にメッセージすると、まかせろというスタンプが返ってくる。

 彩夏は わーい! とありがとう! のスタンプを押してアプリを閉じる。


 遅番のメンバーに引き継ぎを終えたら、意気揚々帰路につく。

 彩夏はひとりっ子だから、姉ができたようで嬉しいのだ。面倒みがいい姉御肌の人がお隣さんで良かったと心から思う。


「栗さーん! ごはん!」

「おかえりなさい彩夏。今日はミルフィーユ鍋にするわよ!」

「やったー!」


 ハーフサイズの白菜のラップを取って、使うぶんだけ房から剥いで洗う。

 大ざっぱなざく切りにする。


「なんとなんと。今日はいい感じの国産豚バラが安くなってたのよ」

「こんなにたくさん! 食べ放題だね」


 大サイズパック、しゃぶしゃぶ用バラ薄切り。普段絶対買えないやつだ。


「交互に重ねて鍋の中に入れていくのよ」

「はーい」


 白菜、豚、白菜、豚。

 土鍋の中にぐるりと白菜&豚のドーナツができあがる。


「真ん中にはヒラタケ。いい味が出るから。こうやって縦に割いて、あとは煮込むだけ」

「ふむふむ。並べるだけ煮込むだけなんて楽チンだね!」

「そうそう。楽な上に美味しいなんて最高よね。覚えといて損はないわよ」


 水とかつおの顆粒だし、少々のお酒を注いだら、蓋を閉めて煮込むべし。


 蓋の穴からいい香りの蒸気が吹き出してくる。

 仕上がるのを待つ間にちょっとカードゲームをする。中学校、高校でひっそり持ち込んで、昼休みにやっていたゲーム。

 トランプだ。


「ふふふふふ。さー、栗さん。どっちがジョーカーかわかるかなー!」

「こっちでしょ。私の上がり!」

「あーーーーーーっ!」


 玲奈のハートの3とクローバーの3が天板の上を滑る。

 三戦三敗。


「栗さん強すぎるよう」

「彩夏は顔に出すぎなのよ。嘘つけないタイプでしょ」


 玲奈は笑いながらキッチンを見に行って、土鍋を持って戻ってくる。


「そこの雑誌、鍋敷きにするから置いて」

「本を鍋敷きって、大ざっぱすぎるよ。鍋敷き買おうよ」

「代わりになれば何でもいいのさ」


 懸賞パズル本は鍋敷きになった。

 小さめのどんぶりとレンゲ、タレの小皿、忘れちゃいけない缶チューハイ。

 缶を開けてプラコップに半分ずつ注ぐ。


「さ、いただきましょ。タレはポン酢とゴマダレ、好きなように使って」

「わー! いただきまーす! はふはふ。ポン酢合うわぁー。白菜にも豚の旨味がしみてて最高〜」

「私もいただきます。うーん! 肉うまぁ。ヒラタケもコリコリしておいしぃ!」


 白菜自体はほんのり甘みがある野菜。煮込んでクタクタになっているところに染み込む豚の脂と旨味。

 ゴマダレもまったりしていて、口の中にいい香りが広がる。

 あっという間に鍋の中の具がなくなっていく。


「ああ、おいしすぎて箸が止まらないよ。あたし毎食これでもいいかも」

「まだまだこれからよ。うどんを入れるわ!」

「うどん! やった!」


 冷凍うどんを鍋に放り込み、薄切りしたかまぼこと十字の切り込みをいれたしいたけも投入。


「あとは煮る!」

「わー。冷凍うどんも入れるだけなんて、いいねいいね!」

「本当は手打ちうどんが美味しいんだけど、今から打つわけにもいかないからねぇ。時間が足りないわ」

「そうなんだ。あたし、手打ちうどん食べたことない」

「ならそのうち連れて行ってあげるわ。私の実家うどん屋なの。特にかけうどんがすっごく美味しいのよ。しかも昔も今も変わらず500円」

「美味しいのに安いの? 食べたい! 栗さんちのうどん、楽しみー!」


 シメのうどんも豚と白菜の旨味が染み込んでいる。

 冷凍うどんでも結構美味しいのに、うどん屋の娘が美味しいと褒めちぎる手打ちはどれほどのものなのか。


 休みが合うときに食べに行こうと約束をして、鍋のシメをおいしくいただいた。


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