3 きずものじゃがいもで肉じゃがを作ろう!
早番の仕事を終えた玲奈は、着替えてすぐに店の表から入り、夕食の材料を探す。
彩夏からメッセージで、
栗さん
肉じゃが食べたい!
おしえて!
とスタンプ連投で送られてきているから、今日のメニューは肉じゃがだ。
昨夜鍋を黒焦げにしてしまったリベンジをしたいらしい。
野菜のおつとめ品コーナーで、傷ありで値引きになっているじゃがいもと玉ねぎを見繕う。
「おや栗田さん、おつかれさま。今日は牛肉が特売だからさあ。うちは久々にすき焼きなの。子どもたちが食べ盛りだからこういう日でもないとすき焼きできなくってねー」
「田口先輩のとこは息子さん二人とも中学生でしたっけ? そりゃ食費かかるわー」
同じくこの時間であがりの先輩が、薄切り牛肉大パックを3つもかごに入れている。めちゃくちゃ肉が大好きな人である。
「いいですねー。うちも明日はすき焼きにしようかな。今日は肉じゃがなんで」
「あらいいわね。肉じゃがも好きよー。じゃあうちは明日肉じゃがにするわ」
しばらく話に花を咲かせて帰宅すると、彩夏が意気揚々スーパーの袋を下げてやってきた。
「栗さーん! あたし材料買ってきた! 近所のスーパーで特売だったの! 肉じゃがの作り方教えて!」
「あははは、かぶった」
肉はともかく、じゃがいもと玉ねぎは日持ちするからいくらあっても良し。2人いればすぐなくなる。彩夏は形から入るタイプのようで、チョコレート色のエプロンとバンダナをつけて気合を入れる。
「彩夏。これ貸してあげるから、じゃがいもの皮をむいて」
「はーい! あ、ギザギザ手袋! テレビで見たことあるやつだ」
「これなら手を怪我していても皮むきできるでしょ。皮を向いたら一口大に切って」
「ありがと! がんばってキレイに切るね!」
彩夏が皮むきをしている間に、玲奈は玉ねぎをくし切りにする。しらたきをざっくり切っておく。深型フライパンで肉と玉ねぎ、しらたきを炒める。
「じゃがいもできたよー!」
「おつかれさま。フライパンに入れて」
「おっけー!」
じゃがいも炒めて、ある程度火が通ったらめんつゆの出番だ。
「じゃーーん! 煮汁はめんつゆよ!」
「めんつゆ!? あたしが見た料理サイト、醤油と砂糖と酒とみりんって。分量も細かく書いてあったし」
「大丈夫大丈夫ー。めんつゆと砂糖でなんとかなるわよ」
玲奈の持っているめんつゆは3倍濃縮タイプだから、めんつゆ1、水3の割合で作り、フライパンに注ぐ。
煮立ってきたらお玉でアクをすくっていく。
「これ何してるの?」
「アク取りよ。アクは臭みとか苦味とか、美味しくない成分ね。これを取ると美味しくなるの。任せていい?」
「がんばる!」
彩夏が真剣な顔でアクをすくいとっていく。
浮いてこなくなったら、大さじ2の砂糖を追加してよく混ぜる。
「あとは落し蓋をして、弱火で煮詰めましょう」
「これだけ? もうすることないの?」
「ないない。ご飯は炊けているから、あとは待つだけ」
「わー。じゃあちょっとゲームしよっと」
彩夏は自分の部屋に行って、携帯型ゲーム機を持って帰ってきた。
「前に2週だけやってた乙女ゲームなんだけど、周回しようと思って。次はクロムかな」
「へぇ。ゲームねえ」
「テレビに繋いでもいい?」
「私ゲームしたことないからわからないけど、テレビにつなげてできるの?」
「もちもち。栗さんをゲームの虜にしてあげよう。そんで推しについて語り合おうよー」
玲奈は実家がうどん屋だったため幼い頃から空き時間は店の手伝いをしていた。ゲームとは無縁の人生だったので、初のゲーム体験である。
中世ヨーロッパを思わせるファンタジーなドレスやタキシードをまとう美男美女の恋愛ドラマ。
月9の西洋バージョンと思えばそれなりに楽しい。
ちょっとゲームのプレイを見ている間に肉じゃがができた。
「はいできあがり! お手軽肉じゃがよ! たくさん作ったから明日のお弁当にも入れられるわよ」
「わーい! いただっきまーす!」
彩夏は大口をあけて白米ごといっきに頬張る。
「あまじょっっぱーー! おいもホクホク、口の中でほぐれる。ああ、生きててよかった。肉にもお出汁がしみてて、最高。この肉じゃが一口で白米三杯イケるわ……めんつゆ様、神!」
「私も、いただきます。うん、うま! いいしょっぱさ!」
切ってしまえば傷物じゃがいもだって関係なし。味に遜色はないのだ。
玲奈の実家も、農家と直接契約していて農協が買い取りしてくれないような傷物や小さすぎる野菜を買い取って料理して提供していた。
「ふふふふ。やはり芋はうまい。どう料理してもうまい。お弁当用は別に取っておいたし、思う存分食べていいわよー」
「やった! じゃあ遠慮なくおかわり! チューハイも開けよ! そんでゲームの続きしよ〜! そろそろ夏の海イベントなんだ! 攻略キャラごとに恋愛イベントスチルがあってね」
チューハイでカンパイして、肉じゃがを食べつつこたつでぬくぬくゲームをする。
酒が入ったのもあって、彩夏のゲーム語りがアツい。
たくさん作った肉じゃがは、あっという間に空になった。