福-④
塾に通い始めてからの僕と鬼松は本当に幸せだったし、三島さんとサクラのお陰で、小一の時に受けた心の傷は徐々に癒されていった。
小学四年に上がってからは、学校でも頻繁にサクラと話すようになった。しかもみんなの人気者であるサクラの方から、僕と鬼松の方に来てくれたので、僕たちを見る周りの目も少しずつ変わっていった。
ただサクラにくっついて他の生徒が集まりだし、五人も六人もに囲まれると、僕と鬼松はそれだけで恥ずかしくなり閉口した。更に意見を求められるとやはり赤面して、上手くは話せなかった。それでも僕たちのクラスにおける認知度と地位は確実に上がっていった。
小学五年に進学する時、またクラス替えが行われたが、その時も奇跡的に僕と鬼松はサクラと同じクラスになった。五年には宿泊学習があり、六年には修学旅行があったので、その時のことを想像して、内心引っくり返りそうなぐらい喜んでいた。
そしてなぜか一学期のクラス委員長に僕が任命された。女子の委員長がサクラでなければ、絶対に拒否していたが、その時は、ただサクラと話す時間が増えるだろうという理由で、後先考えずに引き受けた。
実際サクラと話す機会は増えたが、二人っきりになることはほとんどなく、大概鬼松が一緒だった。しかしそれで分かったことは、僕はサクラと二人っきりになると上手く話せないということだ。鬼松がいた方が落ち着いて話せた。鬼松も同じようなことを言っていた。僕たちはまさに半人前だった。
五年の六月に入ると学校行事として生徒会選挙が行われ、クラスの代表として出たサクラは副会長として当選した。任期は半年で、サクラ以外の生徒会役員は六年生だったことから、サクラの注目度や評価は更に上がった。
そのことを素直に喜び、ただ友達というだけで僕と鬼松は鼻高々に思っていた。塾の帰り道だけでなく、下校の時間が一緒になった時は、僕と鬼松とサクラの三人で下校することもあり、そこにはただ好きな人と一緒に帰れるという喜び以外の優越感もあった。
塾でもサクラが副会長になったことは話題になり、塾の先生は喜んでいた。
三島さんは話に乗ってこず小説を読んでいたが、先生が「ゆっきょちゃんは小五から中三までずっと会長だったんよ」と発表したことで、否応なしに話題の中心に引き摺り込まれていた。
特にサクラは活動内容や失敗談などを聞いたがっていたが、三島さんは、その場では余り話そうとしなかった。
ただ四人で帰る道すがら、三島さんが会長をしていた時の話をいろいろと聞かせてくれて、サクラも興味深そうに聞いていた。
そんな三島さんのことを、自分のことのように自慢したくなっていた僕と鬼松は、やはり半人前の子供だった。
サクラが僕たちの学年でただ一人の生徒会役員で、しかも副会長になったことで、三島さんが当初から言っていた、サクラに対する心配事が、徐々に表面化するようになっていた。半人前の僕たちは随分と遅くまでその変化に気付かなかったし、気付いた後も何一つ友達らしいことが出来なかった。