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福-⑧

「おお、サクラ。大変だったな。うんこぶつけられたんやって」


三島さんのその言葉にサクラの顔が真っ赤に染まった。僕と鬼松が赤面するのは当然なのだが、その時は先生の顔も染まっていたし、その場にいた全員の顔が尋常じゃない形で固まっていた。


「ゆっきょちゃん! 言うたらいかんって言うたのに」


先生が小声で三島さんを制したが三島さんはお構いなしだった。


「うんこぐらい大したことないやん。洗ったらとれるし」


三島さんは眉毛を上げ、目を軽く見開いてそう言った。


「うんこ拭く時、手に付くこともあるだろ。おまえらのパンツにもちょっとはうんこついとるだろ」


三島さんはリズミカルに僕たちを指さしていってそう言った。僕に指先が向けられた時は「おまえパンツ見せてみろよ」と言われそうで、密かに心拍数が跳ね上がっていた。それは始め穏やかな表情で話していた三島さんの視線が、一気に厳しいものに変わっていたからもある。他の生徒たちにも普段は見せない鋭い視線を向けていた。


サクラは三島さんの隣に座り、俯いたままだった。


「サクラ」


三島さんは俯いていたサクラに呼び掛けた。サクラは俯いたままゆっくりと顔を横に向け三島さんと目を合わせた。


「おまえは正しいことをした」


三島さんはそう言って、口を真一文字に結び、大きく頷いた。それは本当に優しくて、サクラのことを誇らしげに思う微笑だった。


サクラの目からは涙が零れた。頬を伝う涙ではなく、机の上にポタポタポタと音を立て、勢いよく零れ落ちる涙だった。サクラは一回だけそれを拭うとそのまま伏せて自分の腕に顔を埋めた。


三島さんはいつも通り持参していた小説を取り出し、黙って読み始めた。


数秒後「泣いてきていいですか?」とサクラが鼻をすすって言うと、三島さんは先生の方を見てアイコンタクトし、「ええよ」と軽く応えた。


サクラが顔を伏せたまま立ち上がって部屋を出ようとした時、三島さんは「ああ」と声をあげ、サクラを引き止めた。そして目の前に置いてあった箱ティッシュを取って「はい」とそのまま差し出した。サクラは泣きながらも一回噴き出して笑い、その箱ティッシュを受け取ると、黙って一礼して僕たちの前から姿を消した。

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