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神楽の守り人  作者: 白石 楓
IV.もう一人の神楽編
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第十八話前編 「受け継がれる思い」

 負傷を免れたアンコと扇浦、そして途中から合流を果たした神楽一行は、傷ついた猿之助・未歩達を連れて、猿之助の両親が経営する病院へ搬送した。


 未歩は幸いにも大きな負傷はしておらず、全身の打撲のみで命に別状はなかった。扇浦による咄嗟の防衛が功を奏したのであろう。しかし、猿之助に関してはかなり重症であった。


「…できるだけの処置はしたけど、おそらく内臓から出血しているわ。精査のために今すぐ大きな病院へ搬送が必要よ。私の知り合いに掛け合ってみるから、息子は私に任せてちょうだい。」


 待合室で待機していた神楽たち三名にはそのような説明が猿之助の母よりあった。一見、落ち着きのある口調で話してはいたが、荒い呼吸や滴る汗などから、かなり深刻な状況であることに違いないと分かった。とはいえ三名が今出来ることはなく、とにかく無事を祈るのみであった。


 こうして残されたアンコ、扇浦、神楽の三人は時刻も深夜帯ということもあり、一度家へと帰ることにした。だがその前に、一つだけ明らかにしなければならないことがあった。


「神楽、なぜ突然姿を消した?答えろ。」


 待合室に響く威圧的な声。

 扇浦は睨みつけるかのような鋭い目付きで神楽に問いただす。扇浦の調子に心配しだすアンコをよそに、神楽は答えた。


「…京都の祖父の神社まで帰っていたんだ。あそこは安倍家代々の本家だ。そこまで行けば、新たな力を身につけられると思って向かった。」


「…誰にも何も言わずにか?」


 扇浦が引っかかる点としてはそこであった。祖父の家に向かうのは別に咎めることでは無い。だが、突如姿を消したことで結果的に本物の神楽と偽装され、多くの負傷者を出す事態となってしまった。なにか連絡手段として残していれば、誰かに伝えていれば、被害は多少抑えられたかもしれない。だからこそ、理由を知りたかった。


「…何も言わずに向かってしまったのは反省してる。ごめんなさい。言い訳になるかもしれないけど、当時の俺は誰かと関わることが億劫になっていたんだ。だから京都へ向かうことを誰にも伝えられなかったし、連絡手段も無くした。こうなるとは思っていなかったんだ、、本当にごめんなさい。」


 神楽は二人に対して腰を折り、何度も深く頭を下げた。


 それを聞いた扇浦は黙り込み、その場にはギクシャクとした雰囲気が立ち込める。その間に挟まれたアンコは、この状況をどうにか切り抜けなくてはと焦りを感じ始めたその時、部屋の扉が音を立てて開いた。


「扇浦さん。彼を…兄を責めないでください。」


 そこに現れたのは、先程までベッドで寝ていたであろうはずの未歩であった。


「きみは…!体は大丈夫なのか!」


 扉を開けて入っては来たものの、体はふらついて壁に寄りかかっていないと歩けないレベル。表情にも疲れが見える。しかし、未歩はいつものような淡々とした口調で言葉にした。


「全然大丈夫です。このぐらいならなんともありません。」


 そして、神楽と未歩は久しぶりに顔を合わせることとなる。


「未歩…。」


 未歩と顔を合わせた時、神楽は目を合わせることもそれ以上の言葉を口にすることも出来なかった。


 妹である未歩とまともに顔を合わせたのは、愛桜の訃報を知らせた時以来であった。未歩が元々、愛桜を契約者の道に進ませた自分のことを嫌っていることは知っていたし、愛桜のことをとてつもなく愛しているのも知っていた。


 未歩の愛する妹でもあり、自分の家族でもあった愛桜を死なせてしまった。守れなかった。その事は影となって二人の後を付け、神楽には後悔・自責・絶望を。未歩には憎しみ・怒り・悲しみが残った。だが、


「神楽…私はあなたに謝らなくてはなりません。今まであなたにしてきた非礼。そして感情的にあなたを拒絶してしまったこと。本当に申し訳ありませんでした。」


 芯が強く淡白な性格の未歩が神楽に向けて深く頭を下げた。それは神楽にとって想像も出来なかったことであり、神楽は一驚を喫する。そして、驚きの感情もある中、神楽はやっと未歩に言葉をかける。


「いや、未歩の感情は当然のものだ。謝る必要は無いよ。顔を上げてくれ。」


 その言葉で未歩は顔を上げる。そして、神楽は真正面から未歩の目を見て話した。


「俺の方こそごめん。元を正せば、愛桜を契約者として歩ませてしまった自分が悪かったんだ。あの時――愛桜が契約者として戦いたいと意思を見せた時、当時は戦力がまだ足りなかった。そして何より愛桜には、これ以上悲しむ人たちを見たくないという強い意志があったんだ。」


 だが、それでも悩んだ。

 契約者は悪魔と戦うことであり、命の保証はない。自分にとっても愛桜は大切な家族だ。失いたくはないと思っていた。だが、彼女の意思で選んだ選択を言葉一つで閉ざしてしまうのは、彼女の人生や理想を否定することになるのではないか。そう考え――


「だから愛桜と共に契約者として戦うことに決めた。もちろん、契約者は危険な事だ。けど俺は…俺なら守れると思ったんだ。愛桜は命に代えてでも守りきると心に決めていた。でもっ…俺は守れなかった!愛桜は俺のっ…俺のせいで…俺の手で…殺してしまったんだ…っ。」


 無機質な床に水滴が落ちる。


 安倍晴明の血を継ぐ者。三大神器を持つもの。自分には力があるのだと全て驕っていた。実際は見かけだけの強さであり、自分自身には本当の強さは備わっていなかったのだと痛感した。それをもっと早くに気付けていれば、愛桜を失うことはなかったのかもしれない。そんな後悔が神楽の涙には含まれていた。


 そんな涙を流す神楽の元へ未歩はゆっくりと近付き、未歩はハンカチを差し出した。


「いえ、あなたは何も悪くありません。もう、誰も責めるつもりもありません。だってこれは、愛桜が自分の意思で選んだ道なのですから。彼女が命をかけてあなたを救おうと選択したのです。それなら私は愛桜の選択を肯定する。それが姉としてできる全力です。」


「ぐっ…ごめんっ…ごめんっ…ごめんっっ!!」


 神楽は未歩の言葉の前に、ただ泣いて謝ることしか出来なかった。


「それに、昔私たちの命を救ってくれたのはあなただそうですね。愛桜の手紙から知りました。私はそのことを知らなかった。愛桜があなたに懐く理由も分かりませんでしたし、あなたが愛桜を唆しているとも思っていました。だから、その…遅くなりましたが…。私たちを助けてくれて、ありがとう。」


「っ…!!」


 その未歩のありがとうという言葉に神楽は救われた気がした。


 今までの自分は覚悟も勇気も足りない半端者だったと思っていた。だが、そんな半端者だった自分でも確かに救えた命がある。人がいる。だからこそ、自分はここで立ち止まれない。


「未歩…俺はこれからも悪魔たちと戦わなくちゃならない。悪魔の作る悲しみを断ち切るために。そのために、力を貸してくれるか?」


「えぇ、もちろんよ。それに今までの私は無力だったけど、今は違う。私は愛桜の契約を引き継いで契約者になったの。だから今度は愛桜の思いも引き継いで共に戦うわ。」


「未歩が契約者…?そうか、そうだったのか…。」


 神楽が戦闘中の仲間の元へ辿り着いた時、未歩の持つ見覚えのある赤き刀身があるのを認知していた。その理由が契約の引き継ぎだったのだと事象が繋がった。


「私も兄と…仲間と…そして愛桜と共に戦う。そう決めたから。」


「未歩…ありがとう。」


 愛桜の死によって引き裂かれた兄妹の関係。しかし今、愛桜が残した遺言によって再び二人の関係が紡がれた。


 そこでめでたしめでたしとなれば良かったのだが、納得していない者がまだひとりいた。


「二人とも話の途中すまないがまだ問題は終わってないぞ。私は神楽の弁明で納得出来なければ本物と認められない。元はと言えば…」


 ここで注釈だが、扇浦はヒートアップすると余計なことまで口にしてしまう。これは比較的深い付き合いのあるアンコがよく知っている。そしてこの流れはまさにそれであった。そんな嫌な予感を感じ取ったアンコは会話の間に割って入った。


「あーもういいじゃない!結果的にこうなってしまっただけで神楽ちゃんは悪くないわ!誰にも会いたくない時期なんて誰にでもあるもの!それに、今は責め合うよりも協力することが大事よ!ねぇそうでしょ?」


 アンコは焦りながらも神楽をフォローしつつ、扇浦に対して真剣な瞳で見つめて同意を求める。まるで、下手なことを言うなとばかりに見つめてくるアンコに押され、扇浦は深く頷いた後に口を開いた。


「ん…まぁアンコの言う通り、結果から見て神楽の行動を責めてしまったところはある。少し言いすぎた、済まない。だが、次からは最低でも連絡手段は持っておくようにしてくれ。」


「分かった。本当にごめん。」


 お互いの非を認め、とりあえずその場を保つことは出来た。としても問題はここからだ。


「みんな家へ帰る前に一度合わせておきたいことがある。まずもう一人の神楽の正体についてだ。」


 目の前にいる神楽が本物と仮定するならば、麗奈達を襲った神楽は何者なのかという疑問が生まれる。


「私たちが持っている情報は、神楽の失踪と同時期に現れて鈴音を誘拐。その後は麗奈に接触し襲撃。鈴音の誘拐場所が分かり今に至る。そういえば神楽、どうして私たちの場所がわかった?」


「ぇ…一回家に戻った時に母から聞いたんだよ。それで神器を使ってひょいっと急いで向かったらあのタイミングで合流した感じかな。」


「神器でひょいっとか…あれ移動にも使えんだな…。」


 猿之助もそうだが、伸びる系の能力を持つ神器ならば移動手段に用いることも少なくは無い。最も、神楽の場合は他の人にその姿を見られても代償の関係上あまり関係の無いことのため適している。戦うために授けた神の気持ちを考えると不憫でならない。


「そしたら麗奈ちゃんの状況も聞いてるかしら?」


「…あぁ母から聞いたし、実際に見てきた。腕を切られて全身傷だらけ…代償で獣化までしている…。しかも俺の姿で襲ったんだ。絶対に許せない。」


 神楽は拳を強く握り、静かな怒りを露わにする。そして扇浦は話を続けた。


「問題はそこなんだ。神楽も見たと思うが、相手は姿も声も神器ですらも全く一緒なんだ。神楽はその正体をなんだと思う?」


「うーん、そうだね…。」


 目の前に現れたもう一人の自分。姿や声だけでなく、世界に一つしかない神器でさえも同じように思えた。とはいえ、それだけでは何者かを断定することは不可能だ。なぜなら…


「…残念だけど、俺は過去に同じ神器を持った者と遭遇したことがある。持ったというより模倣という能力に近いと思うけどね。」


 そう、マオを失ったあの時に自分と同じ神器を持った者と対峙したことがある。その者は教祖様から貰った能力だなんて口にしていたため、おそらく模倣系統の能力なのではと考えられるが、つまりは場合によっては神器は同じ世界に似たものを作り出すことが出来るということになる。


 もちろん、それができるなら姿や声だって変えられる。事実、祖父は式紙によって姿や声そっくりのダミー人形を作っていたのだから偽物を装うことは能力によっては簡単に出来る。故にもう一人の自分が何者かなど断定はできないのだ。


「…要するに、能力によっては偽装も可能だということね?」


「うん、アンコの理解であってるよ。それか…あまり考えたくはないんだけど、本当にもう一人の自分っていう可能性もあるとも思う。」


 どんな原理でドッペルゲンガーが誕生するかは分からないが、神や悪魔がいる世界だ。何が起こっても不思議では無いだろう。


「なるほどな。それで、神楽はあいつの元へ向かうのか?まぁ質問せずとも分かるが…。」


 扇浦の問いかけに、神楽は真剣な顔で頷いた。


「…あぁ、もちろん行くさ。あいつが何者であろうと、仲間を傷付けたことは許せない。それに鈴音だっている。明日にでも発つつもりだよ。」


「分かった。明日戦うにしろ戦力は多い方が良いだろう。時間を決めて、行ける者はみんなで行こう。」


「…そうだね。」


 偽物の神楽を倒し、そして鈴音を救い出すために、神楽たちは一丸となって立ち向かうことを誓ったのであった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 翌日の夜、扇浦のブルーの外車に乗せられて、神楽の守り人メンバーは指定された横浜のコンテナ倉庫場まで向かっていた。


 集まったメンバーは神楽、扇浦、未歩、アンコ、そして猿之助だ。


「おい猿之助、こんな怪我なのになんで来たんだよ!」


 神楽は叱るような強い口調で言う。それに対し猿之助は微笑をしながら、


「いやぁ、一世一代の戦いに行かない訳にはいかやろ。」


「だけどその怪我は…。」


 胴体、上肢には包帯が巻かれていた。何せ、緊急の止血術を施して翌日だというのに動いていいはずはない。それなのに猿之助は…


「心配せんでええって!歩くのは問題ないって言われてるし、無理はせんよ!それに、神楽の大事に関われないことがたまらなく嫌なんや…。」


「…猿之助。」


 彼の真面目な顔から出たその言葉は、笑顔の裏に隠された本心であった。


 神楽はいつも一人で突っ走ってしまう。そして気が付いたら彼の背中は遠く、置いてかれてしまう。ここを逃してしまえば、もう二度と会うことも叶わないかもしれない。相棒、親友として関わってきた猿之助にはそれが耐え難いことであった。


「猿之助くん、残念だがその怪我であれば戦闘には参加できないことは理解していてくれ。」


「あぁ、分かってる。」


 扇浦は運転しながらも再度、猿之助へ警告を入れる。


 今回戦闘できるとしても扇浦、アンコぐらいであろう。未歩は軽度の怪我とはいえ十分に動けたものではないし、猿之助は言わずもがなだ。


 考えたくはないが、もしここで負けてしまえばここにいる者の命は全てないだろう。麗奈をあそこまで痛ぶった奴だ、奴の殺意は本物。結果がどうであれ今できる最大限で勝つしかない。それはメンバー全員が言葉を交わさなくとも理解をしていた。


「…コンテナ倉庫場には着いたが、夜だから見にくいな。」


 色とりどりの大きなコンテナと、それら貨物を収容する倉庫が立ち並ぶ。コンテナ倉庫場と伝えられたのみでどの場所に行けば良いのか細かいところはわからない。何か目印があるのだろうか…


「…ん、あれは?」


 暗闇が支配する中、その中で一際輝きを溢す大きな倉庫が一つあった。


「もしかしたらこの倉庫かもしれない。みんな、準備はいいか?」


 その掛け声に覚悟を決めたメンバーは頷きで返す。


 偽物の神楽を倒し、鈴音を取り戻す戦いが始まろうとしていた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 静寂に包まれし倉庫内に、複数の足音が反響し合う。


「…来たか。」


「あぁ、お望み通り来てやったぜ。」


 倉庫内の高所に座っていたカグラは立ち上がり、神楽と仲間たちの姿を見て口を開いた。


「責任感の強い私なら一人で来るとも思っていたが、仲間と共に来たみたいだな。まぁ良い、一人ずつ始末する手間が省けた。」


 そう言うと、カグラは2・3メートルはあろう高所から降り、式紙によってふわりと着地する。


「鈴音はどこにいるんや!答えろ!」


 猿之助が叫ぶように問うと、カグラは後ろを向いて指さした。


「鈴音はあそこさ。見えるかい?」


 指をさした2階の端に視線を送ると、そこには柱に縛りつけられた鈴音の姿があった。


「鈴音!大丈夫か!」


 その後ろから扇浦が叫ぶ。しかし返答は無い。

体も動いているし意識はあるようだが…どこかぐったりとしているように思える。服もやけに乱れ…


「…あぁ、今は返事できないのではないかな。ちょっと乱暴しちゃったからね。」


「乱暴ってお前…まさか…」


 ぐったりとした様子に乱れた服。扇浦の脳内では最悪の事態が想定されたが、カグラの微笑によってそれは確信に繋がった。


「おまえぇッ!そんなことは許されないぞ!」


「ふははははっ!怖い怖い!そんなに怒らなくてもいいじゃないかぁ。ただの娯楽だよ。」


「彼女は…鈴音はお前の都合のいい遊び道具じゃない!神楽、あいつは許せん!やるぞ!」


 扇浦は怒りのまま神器を携えて戦闘態勢に入る。それに呼応するように、猿之助含むほかのメンバーも武器を携える。だが、


「ちょっと待ってくれ。」


 メンバーたちの前に腕を広げ、待ったをかける神楽。予想もしてなかった神楽の動きに驚きを隠せないメンバーであったが、次の瞬間――さらなる衝撃の言葉を口にした。


「戦う前に、お前にひとつだけ頼みがある。」


「…ほう?この期に及んで頼み事か、聞いてやろう。」


 打ち合わせにはなかった唐突な神楽の提案に対し、メンバーは顔を見合せる。その最中、神楽は言葉を続けた。


「…俺が一人でお前を倒す。だから、俺の仲間には手を出すな。」


「な、おい神楽!」


 まさかの提案に、猿之助達は驚きの表情を見せる。しかし、神楽が言葉を撤回することは無かった。


 仲間は共に戦うつもりであっただろう。それぞれの思いもあるし、可能であればそうした方が力の差は埋まる。だが、メンバーの大半は傷を負い、扇浦は神器が半壊、残ったアンコも戦闘向きかと言われると微妙なところはある。みんなの思いも叶えてはあげたいところであるが、仲間を守るためにも一人で戦うことを決断した。


「はははははっ!この俺にタイマンを貼る気なのか!?勝てるとでも?」


 カグラは笑い声を上げながらも余裕の表情を見せる。


 しかしながら一人で戦って勝算はあるかと聞かれたら頷けはしない。神楽同士の対決であるがその正体は不明だ。だが、それを今更どうこうできる問題では無い。なら答えはひとつ――


「――勝てるかどうかじゃない、勝つんだ!」


「良い意気込みだな、よっぽど自分に自信があると見える。だが、私と一対一の勝負ならばお前が勝つことはない。なぜなら、お前は過去の私だからだ!」


「…な…過去の俺!?」


 衝撃的な事実がもう一人の自分によって語られる。目の前にいる瓜二つの自分…その正体は未来から来た自分だと言うのだ。


「ふはははっ!驚いたであろう?だが本当のことさ。私はお前の未来の姿、つまりはお前の手の内も弱さも全てを知っている。それどころか、力でいうなら私の方が上回っている。こんな条件でどう負けるというのだ!」


「…だったらなぜ…。」


「…ぁあ?」


 静かに呟いた神楽に対し、未来の自分であるカグラは声を上げて聞き返す。すると次の瞬間、神楽は大きく声を荒らげた。


「だったらなぜ!お前は仲間たちを傷つけるんだ!」


「はは…はははっ!」


 カグラは両腕を天に向かって広げ、大声で笑った。


「はははっ!そんなの簡単さ!仲間なんてものは要らねぇからだよォ!」


 カグラはしばらく壊れたかのように笑っていたが、その笑いが収まると落ち着いた口調で言葉を紡いだ。


「いいか、教えてやる。お前は無力だ。それ故、大きな戦いがある度にお前は覚悟を決めきれず、仲間や家族、大切な人々を守ることが出来なかった。なら逆転の発想さ。仲間を失うなら、覚悟を決められないなら、最初から仲間なんて作らなければいい!ただそれだけの事だ!」


「…だから仲間を殺すのか?」


「あぁ、そうだ。過去の俺から何もかもを奪えば覚悟を決めるなんてこともしなくていい。そして安倍神楽は英雄となる。どうだ?ハッピーエンドだろ?」


「…はっぴーえんど?ふざけるな!確かに世界は平和になるかもしれない。だけど、残されたお前はどうなんだよ!お前はそれで幸せになれるって言うのか!」


 《《幸せ》》という言葉に触発され、カグラは舌打ちをする。


「…っ、幸せなんて俺には要らねぇんだよ。そんなんは許されない、あってはならないんだ…。」


 カグラが放ったその言葉は、何か特別な思いがこもったような…そんな言い方が神楽には引っかかった。


「さァ、話はおしまいだ。これを聞いてもなお、お前は一人で立ち向かうのかぁ?」


「…神楽。」


 神楽の隣で猿之助達は心配そうな眼差しを向け、声を掛ける。


 勝算の悪い掛けなのは分かっている。それでも――


「…悪いみんな。俺一人で戦わせてくれ。俺を…信じてくれ。」


 仲間からの返事はなかった。しかし、止めようともしなかった。それは、きっと神楽なら打ち倒してくれると仲間は信じたからである。


「はは…本当に勝てると思ってんのか…。いいだろう!なら、自分の無力さを嫌というほど噛み締めるがいい!」


 カグラは暗黒色の覇気を纏った創造の筆と、封印の書を備える。


「お前を倒して、未来を超えてみせる!」


 神楽も同じく神器を携え、ここに未来の自分との戦いが幕を開ける。

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