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神楽の守り人  作者: 白石 楓
IV.もう一人の神楽編
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第十五話後編 「逆心」

 神楽を探し始めて二日目の夜――次は突如として鈴音が消えた。


 その事件は神楽の守り人メンバーに衝撃を与えた。まさか鈴音も消えてしまうとは…。消えてしまった時期が夜の内であると分かっている事から誘拐の可能性が大きく考えられ、メンバーは警戒を強めると共に鈴音の捜索も同時に行なうことになった。


 しかしながら未だ二人の足取りは掴めず、捜索は困難を極めていた。動き回ったメンバーは身体的にも精神的にも疲労を感じ始めていたが、その中でたった一人、槍の使い手――岡崎麗奈はどれだけ時間をかけても必ず二人を見つけるんだと高く奮い立っていた。


「んー、神楽を見つけるのにいい方法はないのかなぁ…。」


 夜も更けた捜索終わりの帰り道、麗奈はコンビニで買ったアイスを口にしながら考えを張り巡らせる。


 ただ闇雲に探していても意味は無い。捜査の基本は情報収集と刑事さんも言っていたけれども、二人の軌跡を表しそうな情報は未だ見つかっていない。せめて、GPSなんかが着いていれば…とも思うが、そんなものが都合よく着いているわけが無い。


 とはいえ、神楽に関しては本当に何も無く消えてしまったのかという疑問が潰えない。神楽のことだ。何か考えがあって行動をしたのではないかと思うところもあるのである。だがまぁ、どちらにせよ――


「やっぱり地道に探すしかないのかなぁ…。」


 麗奈はそう言いつつ、大通りを抜けて住宅街に張り巡らされた一本の細道を進む。夜は全く明かりも人通りもない道。本来ならば誘拐があった後でこのような道を通るのはリスキーだが、家に帰るためには最低限通らなければならない道があるのだから仕方がない。


 家に着いたら夜ご飯は何にしようか、そんなことを考えていた、その時であった。


「…ん、あれは…?」


 街灯の下に映る人影。

 その人影が足を踏み出した瞬間、街灯の明かりがその人影の正体を暴き出した。


「か、かぐらぁ!?」


「よぉ、久しぶりだな。」


 薄汚れた黒の上着を羽織った神楽は片手を上げて麗奈に向かって挨拶をする。まさかの場所で神楽に出会った麗奈は目を見開き、声を大きくして言葉を続けた。


「神楽!いままでどこに行ってたの!?鈴音もどこかに消えちゃって大変だったんだから!」


「あはは、ごめんごめん!鈴音もちゃんと僕と同じところにいるよ。ちょっと作戦があってね?」


「そ、そうなんだ…!うちてっきり…。」


 麗奈は神楽や鈴音が無事であったことや、やはり何かの作戦として実行していたとの事を聞き、安心してため息混じりの言葉を吐く。


「そうだ。れいな、みんなって今どこにいるのか分かるかな?みんなに個別に会いたくてさ。」


「みんな?えーっとねぇ全員は分からないけど……」


 と言いかけたその時、麗奈は視線を落とし、同時に手中から白い冷気を放つ。


「…あなた、神楽じゃないわね。」


 顔を上げ、鋭い目で神楽に向かって睨みを効かせる。そして、その麗奈の回答を聞き、神楽は「くくくっ」と不敵な笑みを浮かべた。


「答えろ、何で俺が偽物だとわかった?」


「…だって、神楽はうちのことを《《れいな》》なんてちゃんと言わない。」


「そうかッ…ならばどうする!?」


 神楽は紫色の覇気を帯びた筆剣と、茶色の封印の書を取り出す。それと同時に麗奈は冷気で氷結の槍を作り出し、右手に携えた麗奈は迷わずに断言した。


「もちろん、殺すに決まってるでしょッ!」


「よかろうッ!来いッ!」


「――ッ!!!」


 麗奈はスニーカーで大地を踏みにじり、直後に突風が発生したと思うと同時に、麗奈は一気に神楽の目の前まで迫る。


「はぁぁあ!!」


 麗奈は神楽に向かって、突きの攻撃を連続して繰り出す。しかし、神楽の剣によって槍先の方向を流され、全て防がれてしまう。それならばと…


「くらえッ…!」


 左手で瞬時に氷の剣を作り、槍攻撃を防いだところに奇襲の斬撃を浴びさせる。だが、瞬発的な反射神経で槍の攻撃を流したのちに、氷の斬撃を筆の剣一本で受け止めてしまう。


「どうした?それがお前の本気かぁ?」


 あざけながら挑発の言葉を口にする神楽。神楽の姿でそのような言葉を吐かせること自体が、麗奈の心に火をつけた。


「――まだまだァッ!」


 甲高い打撃音がなり、二人はお互いに距離を取る。お互いすり足で移動し、睨み合いが続く。


「ここは少し狭いな。もっと広い戦場にしよう。」


 神楽がそう言った瞬間、封印の書がペラペラと風でめくれる姿が見え、麗奈は危機感を感じて氷の壁を作ってブロックする。すると次の瞬間、重低音の轟音が空間に響き渡ると共に、爆風が周囲の看板や瓦礫を吹き飛ばす。


 収まったと感じて目を開けると、そこには爆弾が突然落ちたのかと思うぐらいに、円形に開けた空間が広がっていた。


「…なっ。」


 地面のコンクリートにはヒビが入り、周囲の家屋は爆風によって粉々に吹き飛ばされ、標識は直角にねじ曲がり、人の腕や足の一部が瓦礫の中に閉じ込められていた。そんな光景を見た麗奈は、絶句するしか無かった。


「あははっ、アハハハハハッ!!」


 その円形の中心地にいる神楽は両手を広げ、高笑いを始める。


「最高…実に最高だ!これで存分に戦えるぞォ!」


「おまぇえっ…!罪のない人たちを意味もなく殺すなんて…許さないッ!」


「意味ィ?ふふふっ、意味かぁ。」


 麗奈は身体を震わせて怒りを露わにする。しかしながら神楽は、その怒りに反して笑みを浮かべながら言葉を口にした。


「意味ならあるぞ!俺と、お前の!相応しい戦いの場を用意するという意味がなァ!そのためなら、雑魚共の命など知ったことかァ!」


「…てめぇ…うちの好きな人の姿で…そんなことを言うなぁぁあっ!!」


 麗奈は冷気で周囲に無数の氷の刃を作り出し、神楽に向けて弾丸のように射出する。それに対し神楽は…


「――応用術、五月雨ェ!」


 本から表れた無数の紙切れが刃の形へと折れ曲がりら麗奈に向かって射出。お互いの刃が相殺し合う。だが、射出する速さは麗奈の方が早く、相殺しきれないと悟った神楽は真横に走って氷の刃を避ける。その様子を見た麗奈は予測打ちへと打ち方を変えた時、突如神楽は本の白紙を麗奈に向けてその場に留まり――


「――応用術、倍加。」


 向かってくる氷の刃を全て本が取り込んだと思いきや、人一人ぐらいの直径はあるのではと思うほどの巨大な氷塊が封印の書から、風を切って勢いよく麗奈へと射出される。


「まずいッ…!」


 麗奈は氷塊を捉えた瞬間、即座に目の前へ無数の氷の壁を展開する。しかし、氷塊の勢いは氷の壁ごときでは収まるはずもなく、氷の壁を砕きながら麗奈の元へと迫る。避けられないことを悟った麗奈は氷結の槍を身体の前に構えて、盾として氷塊を受け止める。


「うっ…!」


 摩擦でスニーカーに火花が散る。麗奈は数十メートルは引きずられるが、時期に氷塊は勢いを失い、その場に静止する。が、安心したのも束の間…


「おうらァ!!!」


 神楽は筆の剣で氷塊ごと縦に断ち切り、氷塊は音を立てて衝撃波と共に真っ二つに割れる。


 氷塊による死角からの攻撃であったが、これで終わるはずがないと考えて麗奈は一歩下がっていたため、斬撃を避けることが出来た。だが、次の瞬間、真っ二つに割れた氷の間から神楽が飛び出し、麗奈に向かって剣を振り下ろす。


「ぐっ…!」


 斬撃が当たった後に、大きな金属音が辺りに響く。重い斬撃、氷結の槍で勢いを受け止めるのがやっとであった。だが、その受け止めが致命傷となる。


「応用術――楔。」


 本の中から出現した緑色の楔は、まるで植物のツタのように受け止める槍から右手までもを侵食し、動きを止めさせる。そして、神楽は戸惑うこと無く、麗奈の右腕を切り落とした。


「があぁぁあぁあっ!!」


 切断された断面からは激しく血が吹き出し、直後に強い痛みが麗奈を襲う。


 痛い、痛い、痛い。

 痛みが切られた腕から全身を伝わり、脳を震わせる。切り落とされた腕は垂れ落ちた自身の血で鮮血に染まり、直後に自分の手が切り落とされたことを視覚で認識する。


「オラァッ!!」


「ごはっ…!」


 直後、腹部に神楽からの回転蹴りが入り、数メートル宙に飛ばされた後に体は激しく地面に打ち付けられた。


「う…ぐっ…。」


 痛みが、恐怖が、危険信号を発し、自身をこの場から逃せようとしてくる。だが、こんなところで負けていいはずがない。


 地面に横たわりながらも、片手で冷気を出し、切られた腕を凍結させて止血を行う。だが、これは応急処置にしか過ぎない。早く次の行動に移さなければ、今度は殺られる。殺られると分かっているのに…。


「――無様だなぁ。」


 麗奈は長い髪を捕まれ、神楽の無表情で見下す姿が視界に移る。


「あれだけ意気込んでおいてこのザマ…。もっと本気を出して欲しいものだな。」


「く…。」


 顔を無理やり上げられて喉がつまり、思うように声が出せない。


 体も思うように動かず絶望的な状況。だが、まだ麗奈は諦めてはいなった。最終手段のフルバーストさえ解放すれば、望みは少ないがまだ勝機はある。しかし厄介なのは、あの封印の書だ。


 日本に現存する神器の中でも強力な力を有するとされている神器が三つ存在する。一つ目は、時空を操ることが出来る神楽鈴の槍。二つ目は、物質である全てを断ち切る断絶の刀。三つ目は、神楽の持つ封印の書だ。


 封印の書は、その名の通り悪魔を封印するための神器だ。しかし、封印するだけではなく、封印した悪魔の力を自身の力として扱えるようになる。応用術というのはその力を駆使して行っている。他にも、式神を操ることが出来る能力もある。故に、神楽がどのような悪魔を取り込んだかによって戦い方も、勝敗の結果も変わってくるのだ。だからフルバースト技をしても防がれる可能性が高い。つまり、これは可能性の低い掛けだ。だが、ここで最低でも致命傷を与えなければ他の仲間にもきっと危害を加えに行くだろう。それだけは避けなければならない。


 辛うじて勝ったとしても自分はまもなく命を落とすだろう。ならば、もはや肉体すらも必要ない。やるべき事はひとつ。どんな代償も厭わない、命をかけた解放術。いや、さらにその先を超えた――


「…ぉ…。」


「ん?」


 突如、言葉を発し始めた麗奈に違和感を覚える神楽。次の瞬間、


「…おーばぁ…ぶれいくッ!!」


 言葉を唱えると共に、切られた右手に備えていた槍だけが天空へと吸い込まれ、槍の姿が見えなくなったと思えば、突如として漆黒に染った雲が空間を覆い尽くす。影を作り出すその雲から、一粒の白き物質が神楽の元へ降り注ぐ。


「…雪か…?」


 神楽が反応して空を見上げたその時、天から槍が神楽の元へと落ちてくるのが見え、神楽は麗奈を離してその場から離れて回避する。


 地面に突き刺さった槍は直後に、槍を中心として地面へと氷の結晶の紋様が輝かしく浮かび上がらせ、神楽が瞬きをしたその一瞬で…


「これは、結界か…。」


 神楽と麗奈を閉じ込めさせるドーム型の氷の空間が生成された。


 団長より聞いていた神器最強の大技――オーバーブレイク技。


 フルバースト技の上位互換とも呼べる技である。フルバースト技が解放ならば、オーバーブレイク技は限界突破。その神器の持つ能力の限界を突破し、力を発揮する最強の技。神器との親和性が最高潮に達した時、行うことが出来るとされているが、未だに限界突破術をどのように出すかの原理は捉えられていない。そのため、密かな伝承としてのみ存在を語られてきた。しかし、死の淵に立った麗奈にはわかった。今ならば限界突破術を放てると。


「ほう?俺を閉じ込めて一体どうするつもりだ?」


「…ははっ、」


 その質問に、麗奈は笑いながら答えた。


「知ってる?物質っていうのは全て凍るのよ。水も、細胞も、空気も、冷やし尽くせばね。」


「――ッ!?」


 瞬きをした刹那、2本の氷のムチが真空から出現し、神楽に向かって攻撃を開始する。そのムチの存在を認知した瞬間、驚くべき反応速度で右手の創造の筆と左手の封印の書で受け止める。


 攻撃は失敗した。だが、むしろこの状況に麗奈は仄かな微笑を浮かべていた。そして次の瞬間、神楽の周囲に氷の刃が無数に展開されていた。


「空気中の物質を凍らせて瞬時に氷塊を作ったか!やるなァ!!」


 氷の刃が一気に神楽の元へと降り注ぎ、ガラスが割れたような甲高い音が無数に響くと共に、その場は氷煙によって視覚出来なくなる。


 唯一、今の自分に出来る最大限の抵抗。麗奈は飛びそうな意識を何とか留めながらも、その末を見守る。


 そして、しばらくして煙が霧散した後――なんと神楽は無傷で息ひとつ荒らげることなくその場に立っていた。


「戦術は褒めてやりたいところだが、この攻撃は見飽きた。対処法はわかっている。」


「ふふっ、そう?だけど、これから起こることは対処出来るかな?」


「…なに?」


 神楽は視線を動かし、周囲の状況を把握する。すると、急速に土で出来た地面が内側から氷で覆われていく様子が確認できた。


「…なるほど。つまりこの結界内の温度を下げて凍らせようって考えだな。だが、それなら君も共倒れになるが?」


「はははっ、そんなの知ってるよ。本当はもっと色々できるんだけどね、でも、これが限界。あなたとうちはここで死ぬ。」


 空気は徐々に白みを帯びはじめ、吸い込む空気が肺をバチバチと痛め始めているのがわかる。そして、倒れ込んだ麗奈の体は先端から徐々に淡い水色に変色し始めていた。その姿を見て、神楽は大きく鼻で笑う。


「笑えるな。自己犠牲にも程がある。そんな自己犠牲で何かに繋がるとでも思ってるのか?」


「えぇ…まぁ…そうね。うちのやれることは、やる。それが、どんな結果に…行き着いたとしても…ね。」


「ほう?自身の行動が《《悪い結果》》になったとしてもか?」


 麗奈は荒くなる息遣いを立てつつ、言葉を発した。


「えぇ…最後まで、うちの、信じた道を…進み続ける…!この先の未来を見れないのは、残念だけど…。」


「とんだ大馬鹿者だな。呆れるよ。」


 神楽は大きく息を吸い込んで、ゆっくりとため息を吐き出す。


「…さて。」


 しかしながら、悠長なことは言ってられない。神楽はここを耐え抜く方法を考えなければならない。だが、もし麗奈の言っていることが本当ならば、ずっと耐え抜くのは不可能であろう。ならば、一番手っ取り早いのはこの空間から抜け出すことだが…。


 そしてもうひとつ疑問があった。それは麗奈の容態だ。麗奈の体は徐々に淡い水色…氷のようなものに侵食されているが、対して自分の体に何もそういった変化は無い。もしかしたら、術を使った代償が出現している可能性もあるが…もしも意図的に自身の体を凍らせているとしたら…。


「術…抜け出す…氷…。そうかッ!!」


 その瞬間、神楽は筆の剣を握りしめ、倒れ込む麗奈の体に剣を突き刺そうとする。だが…


「ふっ…もう遅い…よ?」


 麗奈の体は氷によって結界が貼られ、剣は麗奈の体まで到達することは無かった。


「くそっ…。」


 なぜ麗奈を殺そうとしたのか。それは、これが術によって引き起こされていることが関係している。契約者は神との契約で神器を授かっている。つまり、契約者が亡くなれば神器も自動的に消え、術が解くことになる。だが、その弱点を知っていた麗奈は、全ての氷結させる力を自身の体の氷結へと注ぎ込み、硬度の高い氷で閉ざすことによって命を完全に絶たれることを防いだのである。相手も自分も実力差はあれど同じ人間。同環境下であればほぼ同時に命が潰えるのは目に見えている。


「…よくもやってくれたな、このクソアマが。」


 自分が亡くなっても絶対に倒したいという自己犠牲精神には心底驚かされる。あれだけ弱っていたにも関わらず、自己犠牲だけでここまで対抗してくるだなんて大馬鹿者と言ってもいいだろう。だがまぁ――


「――俺も、その力さえあれば、また違ったのかもしれないな。」


 神楽はその場に立ち尽くして空を見上げる。

 次第に体の細胞は生命活動を止め始め、白い息はその存在を無くし、神楽は氷像となってその場で佇んだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

ここからは徐々にクライマックスに近づいて参ります!

もしここまでお読み頂いて、まだ続きが見たいと思われた方がいたら、下の評価ボタンを押してもらえると嬉しいです!


場合によっては続編や外伝も出そうと考えているので、よろしくお願いします!

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