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ニセモノ 前編

「あの子達うまくやれるかしら」


お絹さんは、窓の外に広がる穏やかな海を見つめていた。その時、彼女の方へ一人の女性が小走りで近寄ってきた。


「お絹さん、マラオより電報です」


お絹さんに紙切れが手渡される。


“メロンハニセモノダ”


「お絹さん、一体なんのことでしょう。メロンなんて扱っていませんよ」


お絹は、少し間をおいた後にハッとなにかに気がつき、思わずその紙を手から離した。


"まさか"


彼女は小走りで自らの机へと急ぐ。何なのかわからない女性は“お絹さん”と言いつつ彼女の後を追う。お絹さんは、厳重に鍵のかけられた棚を開け中から㊙の資料を次々と机の上に置いていく。


「あった、これだわ」


彼女は、一つの冊子を手に取った。


"最重要機密アジェンダ海賊掃討に関する作戦詳細"


「お絹さん、これは一体?」


「通称Mu作戦。今までも何度か掃討戦をおこなってきたけれど事前に漏洩して失敗しているのは知っているわね。これは漏洩を防ぐために作戦当日までどの船団が囮となっているのか明かされない作戦になっていたの」


だが女性は、まだよく理解できていない様子だっ

た。


「そして今日が決行日。見に覚えのないこの電報のメロンは夕張の隠語コードと一致するわ」


「ということはつまり…」


女性は、お絹さんの顔を見る。


「そう、第三十五輸送船団が囮よ」


お絹さんは、歯を噛みしめ、下を向く。そこには、初めての遠洋航海となる凪咲と楓がいる。頭の中に最悪のシナリオが浮かぶ。船団は全滅、そして商船は拿捕される。


「だとしても一体どうやって海賊を一点に集めるのですか?」


お絹さんは、顔を上げる。


「アメリア金貨よ。囮商船の積み荷は… 金貨数千枚。少なくとも数百億の価値があるわ。おまけに彼女たちはそのことをまだ知らないわ」


お絹さんはため息をついた。


「仕方がないわ。カナリア島に電報を打って頂戴。出港を妨害しなさい。その間に増援を送る」


直ちに電報が打たれたが、その返事は良いものではなかった。


"ユウバリシユツコウシタリ"


積荷を積み終えた彼女らは、予定より早く離岸していたのだった。同日正午頃、夕張を旗艦とする第三十五輸送船団護衛任務の封がすでに切られ、電波の届かない大海原を船団は進んでいた。輪形陣中央に輸送船、右に海風、左に山風、先頭に夕張という陣形であった。お絹さんの心配とは裏腹に航海の四分の三は、天候にも恵まれ何事も起こらなかった。


「う〜ん カツオ」


短距離通信リンクを介して、紫陽花姉妹と楓の声が聞こえてくる。


「お… "お"か… オキアミ!」


やることがない あじさい姉妹と楓は、リンクを使ってしりとりを始めていた。そんなときこれとその声を遮る形で明海の声が各艦に響いた。


「あそこが海賊の多いアジェンダ海峡よ。私たちはもうすぐそこを通過するわ。戦法は伝えた通り、2隻くらいで突っ込んでくるのが普通よ」


夕張の船首の向く先には、両側を大きな島に囲まれた海峡が姿を表した。ここを通らなくては、マラオにたどり着くことはできない。


「夕張より海風、山風に通達。全艦第二種戦闘配置!」


「山風了解!!いつでもやれるよ!」


「海風了解」


船団は、着実に海域へと迫っていく。人や物を運ぶ船や物を売る船、求人をする船そして漁船などその海域ではありとあらゆる船が行き来している。そしてその中に海賊も紛れている。まだ海峡ではないものの船団の周りにも段々と船が増えていく。


「おお〜!見て見て美味しそうな果物売ってるよ」


警戒監視とは名ばかりに楓は双眼鏡で小型船の上に並ぶ品物を見ていた。祭りの多いこの時期は特に多く、大型船舶の航路ギリギリまで小型船が行き交っている。


「楓!しっかり仕事して」


双眼鏡を覗きながら凪咲は妹に手をやいていた一方で夕張ではトラブルが起こっていた。


反応レイテンシが遅くなってる」


画面が点で埋まってしまうほどの船舶のせいでレーダーの解析に演算装置の多くのリソースが割かれ想定外の負荷が夕張の動きを鈍くしていた。


「まずいわ。このままだと戦闘時に影響がでてしまう」


"やむを得ない"明海は、机の足元に並ぶスイッチの一つを切った。画面から解析の結果が消えるとともに船外で回転していたレーダーアンテナは減速し停止した。


「夕張より各艦に通達、対艦警戒を厳とせよ」


楓は、"はっ"と双眼鏡を除き込み、ぐっと目を凝らした。


「山風より通達。左舷に雷跡!回避して!!」


複数の薄い雷跡が品物を載せた小型船の下をくぐり接近してくる。


「全艦一斉回頭。取舵いっぱい」


明海の号令と共に5隻は船体を大きく傾けながら左へ曲がっていく。夕張の艦首スレスレを魚雷が通過する。


「酸素魚雷?!なんであんな高価なものを彼らが持ってるの」


明海は驚いた。数億はする酸素魚雷を海賊ごときが扱えるはずがないのだ。楓が気づかなければ確実に側面に食らっていた。


「海風より通達。右舷より高速艇5隻接近」


「山風より通達。左からも3隻来るよ」


船と船の間を通り抜け複数の魚雷艇が飛沫をあげ接近してくる。明海は“多いな”と思う。


「夕張了解。船団最大速力!海風、山風!商船に十分注意し攻撃開始!山風は、左舷をお願い」


タービンがうなり、スクリューが水をかき混ぜる。


「わかってる。主砲及び副砲、榴弾装填」


夕張と海風の砲塔が回転し、計7門の主砲が右舷の魚雷艇を捉える。射撃予告の信号旗がマストにたなびく。わけがわからない小型商船が慌てて射線上から退避しようとする。


「海風、右舷砲撃戦開始 。斉射!」


慌てふためき逃げ惑う船舶の上を勢いよく海風の砲弾が通過していく。


「着弾いま」


魚雷艇の奥に2つの水柱が上がる。あちこち素早く動く魚雷艇を仕留めるのはたやすくない。


「夕張 零式弾装填完了。第一斉射!!」


発砲煙とともに5発の零式弾(クラスター弾)が放物線を描きながら打ち上げられる。


「零式弾時限信管作動いま!」


爆煙とともに夕張の5発が魚雷艇の真上で爆発する。花火のように数百の焼夷弾子が先行する2隻の魚雷艇に降り注ぐ。船外に剥き出しで置かれた魚雷に誘爆したのだろう。1隻が轟音とともに黒煙が空高く立ち上がった。もう一隻からも火の手が上がる。


「1隻爆沈。続けて撃て! 」


「海風了解!偏差修正。主砲及び副砲第2斉射」


5門の副砲が魚雷艇を射程に捉える。凪咲は、”あたって”と願う。7発の榴弾が魚雷艇を目指し飛んでいく。


「着弾!」


一発が側面を貫通する。瞬く間に黒煙が上がり海の中へと消えていく。


「一隻撃沈!」


凪咲は、“よし”と心のなかで思う。一方で山風も戦闘状態に入った


「山風左舷砲撃戦!!目標魚雷艇!榴弾行っちゃえー!!」


2門の主砲と5門の副砲が火をふく。次々と魚雷艇の周りに水柱が立ち上る。


「主砲再装填。副砲連続発射!」


装填の短い副砲は、休む暇なく砲弾を撃ち出す。水柱が魚雷艇を包み、一隻からうっすら黒煙が上がり速度が落ちる。


「目標敵損傷艦。第2斉射いっちゃって!」


次々と薬莢(やっきょう)が甲板に金属音を響かせ転がっり、たちまち炎をあげ1隻が沈んでいく。


「いっちょ上がり!」


だが海賊もやられるばかりではない。残存艦艇から魚雷が次々と投下される。左右から複数の雷跡が船団を目指し進んでくる。


「各艦魚雷回避!!」


"わかってる"楓と凪咲の声がかぶる。


「海風増速!面舵一杯」


○○○ 


1機の複葉機が海域上空はるか彼方を旋回している。


「こちら観測機。作戦艦艇に通達。当該海域において該当艦船が交戦状態に入りました」


???「法外な値段だったけど、飛行機は役に立つね〜全艦に通達。作戦開始!」


つづく


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