微速前進勇者3
「ヒロカズ。お前達、アルトちゃんのことを姫、姫っていってるけど、何なんだ?」とおじさん。
「え? ああ……ちゃんと訊いたことがなかったな、そういえば……」僕はそこに至って、初めてそれに気づかされる。「多分だけど、国賓レベルの人間なんじゃないかな……アルトと、あと、バヌガスは」
「ちゃんとその……待遇しなくていいのか?」
「いいんじゃない?……本人達がそれでいいっぽいし、お忍びだしね……変に特別扱いしない方がいいと思うよ」
確かに、アルトとバヌガスについて、僕は知らなすぎる。
まあ、正直、知ったところでどうこうっていうのはないから、どうでもいいといえばどうでもよくて、むしろ、このままの方がいいとさえ思う。
「まあ、アルトはアルトだし、バヌガスはバヌガスなんだよおじさん。どこの誰とか、関係ないよ」
聡明などこかの御姫様をやっているアルトの姿を想像する……。
全く、違和感がない……。
最近は、僕も前進しているという感覚があるせいで、二人に後れを取っているとは思わなくなってきていた。
だから余計に、それに関してはどうでもよくなりつつあるんだよな……二人がどこの誰なのかっていうことがさ。
「ヒロカズ!」ドアを開けるなりアルトが叫ぶ。「ちょっと来てくれ!」
「何だよ」
「早く!」
おじさんが、あれが姫? という顔でこっちを見る。
もしかしたら、アルトの素はあれなのかな……。
「行ってくるよ」
「気をつけてな」
何というか……もうアルトを値踏みする期間は過ぎているんだよ。
もう、アルトがどんなやつでもいい。
目の前にいるこいつが、アルトなんだからさ。
「――見ろ、勇者の剣がなくなっているんだ……。これは大事件だぞ……」
……。
最初にアルトと一緒に訪れた時にそこに持たせてあった剣は、消えていた。
「売れたんだろ」
「売り物ではないと聞いたぞ。最初にお前と来た時に店員にも確かめた。間違いないはずだ」
何で訊いてるんだよ……。
いや、ないよな……こいつがあの剣を買おうとしたとかは……。
「すいません。あそこにあった勇者の剣のレプリカはどうしたんですか?」
「ああ……盗難だよ。今朝、店を開けた時にはもうなかったから、深夜に忍び込まれたのかな……」
「だってさ。まあ、惜しい剣だったな」
「探すぞ」
「惜しい剣だった」
なぜかはわからないが、アルトはあの剣に執着しているらしく……結局探す羽目になる。
「当てが全くないな」と僕。「もう街の外に持ち出されてるんじゃないか?」
「じゃあ、本物はどこにある?」とアルト。
「本物はとっくに失われてる。先の魔王との戦いの際にな。諦めろアルト」
「……」
「一国の姫にも不可能なことはある。諦めろ」
「お前との思い出の剣だったから……」
「は?」
「もういい。一人で探す」
あ。
……行ってしまった。
店に戻り、少し、店員と話す。
「あの子、よく店に来てね……やたらあのレプリカを触りたがるんだよ。まあ、こうなるんだったら、売ってあげるべきだったのかな……別に、そこまで値打ちのあるものでもなかったから」
……。
「ただいま」
「おう……アルトちゃんは?」
「……帰ってこねーんじゃねーかな」
僕は部屋へ向かう。
「おい、喧嘩か?」
「……」
無視をし、ドアを閉める。
ベッドに横になり、天井を眺める。
……。
「ふざけんなよ」
印が、光り出していた。
アルトが……多分、襲われるのだろう。
剣を盗んだ犯人か何かに。
「お? お出かけか」
「行ってくる」
「ちゃんと連れて帰って来いよ」
何に腹を立てていたのかわからない。
アルトを襲おうとしているやつに対してなのか、何なのか――。
わからなかった。
「アルトを離せよ、馬鹿野郎」
弱かった。
剣を盗んだ奴も弱かったが、それよりも、何か、自分自身が弱くて――。
情けなかった。
「大丈夫か、アルト」
「ヒロカズ……」
「帰ろう」
……。
店員に取り戻した剣を見せると、無料で譲ってくれた。
剣を抱きかかえたアルトと一緒に、帰る。
「ただいま」
「おお、早かったな」
「ただいま。ヒロカズのおじさん」
「あ、それ――勇者の剣じゃねえか」
「貰ったんだよな。アルト」
「貰った」
「よかったなアルトちゃん」
「うん」
アルトはそういうと、自分の部屋へ走って行った。
「何かあったのか?」
「さあ、よくわからないや」
「まあでも連れて帰ってきたんだ……お前はよくやったさ」
「そうかな」
「そうさ。これでよかったんだ」
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