自信喪失勇者4
記憶の中の声を聴いて、確信に至った。
それは聖者のような声で、悪魔のようなことを囁く人間だった。
僕が背負った十字架を取り除く為には、それが一体誰なのかを突き止めなければならない。
アルトが、様子を見計らい、話し掛けて来た。
「もう大丈夫なのか?」
記憶の中の像が完全に結ばれたわけじゃないし、手掛かりとしては薄いけど……心理的にはかなり落ち着いて来ていた。
悲しみの中に沈み込んでいた「疑惑」が少しだけ浮かび上がってきて……そこを覗き見ることへの抵抗は収まってきている。
「僕を陥れた人間の声を思い出したんだ」と僕はいう。「思い出したのは声だけで、他はまだだけど……でも、もう、自分自身を責め続ける必要はなくなってきたから……」
自分自身の心を説伏せるのは大変だ。わかっていても呑み込まれそうになる。でも……もう大丈夫。
「直視することもできないくせに、忘れ去ることもできない記憶……。やっとそこに、メスを入れられそうなんだ」
「とにかく、よかったよ……お前の顔が、あまりにも辛そうだったから、心配したんだ。少し、その辛さが、私にも移ってしまったみたいになって……もちろんシスターのように理解してやることはできないかもしれないが、本当に心配したんだぞ?」
「十分さ。それで」
これからの自分の気持ちが、敵討ちへ向かうのかどうかはわからないけれど、以前の自分とくらべて、胸が晴れるような感覚があった。
「確たるものがあるわけじゃないけど、本当に戦わなければならないものが見えてきた。だから、自分自身の更なる記憶を辿るために……母と住んでいた家に行ってみようと思う」
今までは、自分自身の心に穴をあけるようなものだと思って避けていた。
今は、あの家には、僕の唯一の親族が住んでいて……その人は僕に憎しみを抱いている。
小さい頃は、僕を息子のように可愛がってくれた。だけど、母が死んで以降、塵を見るような目で睨まれてから、一度も目を合わせていない。
正直足が竦むけど……行くしかないよな。ここまで来たんならさ。
満足に足が動かなくなりながら、出掛けようとする。
「――どこに行くんですか。ヒロカズさん」
「おじさんのところに行ってくるよ」
「え――」
「はは……何年振りになるんだろうね……。すぐに追い返されなきゃいいけど」
数年分の凝縮された怒りをぶつけられるんならそれでもいい。逃げ続けていた僕が悪い。
「ある程度の辛辣さは覚悟の上じゃなきゃね……」
「私も行きます」
「いや、それは……」
「じゃあワシも」とバヌガス。
「私もだ」とアルト。
シアーは……姿が見えなかった。
「ま、いいか……」
結局ぞろぞろと仲間を引き連れて行くことになってしまって……道中、中途半端な奴だと思われそうだと感じ、何度も身を引き締め直した。
向き合うべきものと向き合うことをしてこなかったそのツケを払う時が来たんだよ。
後は心に任せる、そう思って、ドアをノックした。
「おじさん、久しぶりです」
彼は、一瞬目を疑う。それから、僕の背後にいる三人に視線をやる。
「何だよ。ぞろぞろと」
足が震える――。
「今更何しに来たんだ――とでもいうと思ったか? 入りやがれ」
「はい」
僕はいわれるまま、中へ入る。
懐かしさがこみあげて来る――。
「あのなあ、お前、どうなんだよ。調子はさ」
「何とかやってます」
「お前の、その――情けなさは、聞いてる」
「はい」
「まあ、座れよ。あんた達も。茶を淹れて来る」
椅子の位置も全部そのままで――僕は自分の席に座った。
ただ、緊張していて、母親との思い出を享受するまでには至らない。
「――それで、今日は何の用なんだ」
「一つは、おじさんに会いに来たんです。もう一つは、母さんの死について、原因を調査するためです」
「……何年……かかったんだろうな……。あの時、お前はまだ小さすぎた。オレは――一時とはいえ、そんなお前を疑っちまった。だから、オレからは会えなかったんだよ。どうしても……。どうしようもないのは、オレだ。お前は、あの頃から、何一つ情けなくなんてない。お前は、帰る家を失って、剣を握れなくなって――ガキなのに、それでも何とかしようとしてきたんだ。お前の周りは、全員敵になっちまったのにな。お前のことは全部、聞いてるさ……そこにいるメイちゃんから……」
「すいませんヒロカズさん。黙っておくようにいわれていたもので……」
「週末に、メイちゃんからお前の話を聞きながら酒を飲むのがずっとオレの趣味だったんだ。まあ、そういうことだ」
「よかったなヒロカズ」とアルトがいう。
本当に……よかった……。
「どちらでもいい、どちらか片側が踏み出せば解決する……しかしその一歩がこれほど遠いとは」とバヌガス。
「本当に、重みのある一歩でしたね。ヒロカズさん」
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