遠出する勇者7
ブラウンと決裂して、時間が余ったので……街歩きをすることにした。
連日に渡って力を発動した分、何か、気分転換でもして、英気を養わないとな……という考えのもと、ふらふらと目的もなく歩いた。
まだここへきて二日程度しか経ってないため、いまいち道がわかってないんだよな……。
あいつにもらった図面が地図として役立ちそうではある。
それに関してはよかったかも。
「ヒロカズさーん」
大きく手を振るアキが、橋の下に見える。
この街は立体交差が多く、街自体が二段構造になっている。
なぜそうなっているのかという理由は全くもってわからないけれど……それが結構迷う原因になる。
「待って、今、そっちに行く」
どこから降りればいいのかこれまたわかり難い。
僕は適当な路地に入り込み、下を目指す。
折れ曲がった細道にある階段を下りて……若干遠回りしながら……しかし何とかアキの所に辿り着いた。
「一瞬迷いかけた……」
「ちょっと複雑ですよね。この街。私もかなり迷いました」
「もう少し慣れるまでは、ちょっと不便かもね……この街の構造」
この図面にも、細かい路地までは描いてないし……。
「アキは、何やってんの?」と僕。
「フフフ……食べ歩きです」とアキ。
「そりゃあいいね。僕も参加していい?」
「もちろんです。甘いもの中心ですが」
「好き好き、甘いもの」
「次は、噂のクレープ屋さんなんです。かなり、伝説の……」
「それは期待できそうだね……。丁度、色々力を使ってさ、お腹も減ってたんだよ。これがまた」
ああ、やっぱりブラウンなんかの相手をしてるより、こっちの方がいいと思いながら、アキと喋りつつ、クレープ屋を目指す。
「ヒロカズさん、なんかすごく楽しそうですね」
「ホント、楽しいんだよ。さっき凄く楽しくないことをやらされてた反動でさ」
「大変なんですか? 例の……」
「ああ、もう、やっつけちゃったけどね。ちょっかいが酷過ぎて」
「よかったんですか?」
「いいのいいの。向こうが悪い。それよりほら、屋台が見えて来たよ。そんな奴のことよりクレープ優先だろ」
「ですね!」
僕達は、口の周りについたクリームを指摘し合いながら仲良く食べ歩いた。
街の中には公園もあり、その中に屋台がちらほらあって、どの店も盛況だった。
「結構いい街だな。こうしてみると」
「ですね。今日は屋敷の中に籠っていようかと思ったんですが、出てきて正解でした」
「他のみんなはアルト邸?」
「はい。二日目にして真面目さを発揮して――何か仕事を探していたみたいです」
「別にいいのに。アルトの使用人が困るだけだろそれ」
「ですよね!」
「これはある種のアルトのお返しなわけだから、堂々と滞在すればいい」
「私も吹っ切れてからは、そういう考えになっちゃいましたね」
「僕はアキ派だよ。ホントに。その考えは、尊重されてしかるべきだよ」
それから、二人でハトに餌をやったりして、まったりと時間をつぶした。
アキは終始楽しそうで、それを見ていた僕も、とにかく、楽しかった。
その時間が――。
こういうのって、やっぱり必要なんじゃないかと力説したかった。
だってアキとあそこで出会わなければ、本当にぱっとしない一日だったわけで……。
もちろんそのまま調査を続けてもよかったんだけどさ。
でも、それだと、多分、今夜、ブラウンの顔が夢の中に出てきてたと思うから。
――そんなのは嫌だろう?
誰だっていやなはずだ。
「でもさ、本当の意味で、アキが元気になって、よかった」
「……」
「世界を救うとかいうけどさ、それと天秤に掛けても、そっちの方が嬉しい気がするんだよ。本当に……。それって、実感がほしいってことなのかな」
「世界を救うことは、立派だと思います」とアキはいう。「でも……どこか遠い出来事ですよね。それって。多分それを実際にしようとしているヒロカズさんにとっても、そうなんじゃないでしょうか」
「確かに、遠い。もちろんそうなればいいなと思うし、でも、実際そうなったとしても、それはどこか遠い出来事のままな気がする。だからといって、世界を救うことが不要っていうわけじゃない。けれど、本当に大切なものって、それとは別に、すぐ近くにあって……それと、その遠くにある出来事は、どこかで繋がっている。そのつながりを意識することこそ、大事なのかもね。それを見失うと、片方だけでなく、その両方を失ってしまう気がするよ」
「ついに来ましたね。ヒロカズ語録!」
「そんなのがあったんだ? というか、今出来た?」
「いえ、私が初めて出会った時からそれはあって……ずっと更新され続けているんです。どんどんよくなっていくんですよ、本当に……」
「照れるね、そういわれると」
アキは、僕がいった言葉をなぜかずっと大切にしてくれていて……それだって、何かしらの、世界を救うことに対する大きなモチベーションになる。
やっぱり、意識としては……遠くに居る大勢の人間よりは、近くに居る誰かのことを意識した方が、気持ちよく世界を救えるんじゃないか? などと考える。
そして僕達は、そんな話をしながら……帰路に就いた。
僕はもう十分何かを補充できた、という実感があり、そこでやっと、アルトの仕事のことがちょっとだけ気掛かりになり始める。
まあでも、こっそり後を付けて様子を見に行ったりとかするわけにもいかないだろうしな……。
んー……悩む。
「どうしました?」
「ちょっと、アルトが心配で」
「好きなんですか?」
「――どうしてそうなる」
「だって……」
仕方ない、事情を話すか……。
「婚約者、ときましたか」
「どう思う?」
「本人が納得していると、中々難しいんじゃないでしょうか。こう、部外者がどうこうすることは……」
「そうなんだよな。それに、変に妨害すると、大きな問題に発展する」
「政略結婚ってやつですもんね。間違いなく」
「それでさ……今度、後をつけてみようかなと」
「え?」
「だって、一回見ときたいだろ、相手」
「まあ、見たいですが……」
「ほんとにアルトが納得してるのかも、気にはなる」
納得しようがしまいが、って感じだとは思うが……。
「じゃあ……私も同行しようかな……ほら、暇ですし」
「見たいんだろ?」
「見たいです」
「よし、決定だな」
二人でやれば、怖くない。
「見つかったら、怒られちゃいますよね」
「いいよ。謝れば済む。見るだけだしな」
むしろ、ちょっとくらい怒らせてやった方が……いいのかもしれない。
「見つからないことに越したことはないけどね」
「それで嫌われたらちょっとショックです。私」
「意外と仲がいいよな。アキとアルトって」
「なぜなんでしょうね」
「波長? いや……それは違い過ぎるから、そうじゃなく、別の何かが……」
「共通点といえば、ヒロカズさんを好きなことくらいじゃないですか?」
「そうなのか?」
「え……だって」
「だって……なんなんだ?」
「まあ、そういうことなんです」
「……」
「何にしろ、大変な障害ですから、ヒロカズさんは頑張って乗り越えて……幸せを掴んでくださいね」
「いや……そこまでする気は、今のところない」
「でもどこかで認めてますよね。ヒロカズさんは、それが本心じゃないっていうことを」
「まあ……ね……。正直そのことに関しては嫌だし、何より、アルトの態度が気に入らない」
「……」
「これは、復讐なんだ……アルトに対するね……。だから、いざとなれば、何がなんでも邪魔してやる。本当のアルトが姿を見せるまで、どこまでも追及してやろう、って……。それが本心さ」
「やっぱりでした。本当のヒロカズさんって、そういう人なんです。でも、今回は、結構危ない橋なんじゃないですか?」
「どちらにしろ、それをアルトが望むかどうかに帰結する。つまり、僕がそれを、アルトから引き出せるかどうかに懸かっているんだよ。その頑なに閉じられた鍵の掛かった扉を抉じ開けて、アルトの本心を外側にさらけ出せるかどうかに全部懸かっている。そして……それが出来ない限り、本当の仲間とはいえないんだよ。誰が何といおうとね」
アキが、拍手してみせる。
「それを待っていました! やりましょう」
「まあでも、一回見てみないとね……」
勢いの中に、慎重さも介在するような……不思議な心境だった。
「それは賛成します。まずは一回見る。それから考えましょう!」
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