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遠出する勇者4

 正午過ぎまでは3人組と街を歩きまわっていたが、途中から別行動を取ることにした。

 アルトの国には、剣闘士たちがかつて戦っていた円形闘技場がそのまま残されている。

 僕はどうしてもそれを一目見に行きたくなって、一人でその場所を訪れていた。

 ……。

 今はその場所は使われていないものの、かつてそこで行われていた殺し合いが、アルトの剣に対する執着に繋がっていると思われる。

 自分が大した剣士でないとしても、何かが、燻りはじめるのを感じる。

 僕はその中心部に吸い込まれていく。

「自分の死を観賞するために集められた人間達」の歓声が聴こえてくる気がする。

 人間って、人間の死ぬところを見たい生き物なんだな……。

 それが「快感」なんだということを、嫌というほど思い知らされた気がする。ここに立ってみて……。

 剣を抜き――目を閉じて――剣と対話する。

 そして再び目を開いた時――そこに何かが居た。

 何かが、走り出した。

 僕もそれに合わせて間合いを取る。

「あんた、何なんだ?」

 何かは、答えない――。

 代わりに、重たい剣が降って来て――。

 僕はそれを剣で受け止める。

 これは夢ではない。

 僕は叫び声を上げながら――何とかその剣を跳ね返した。

「何とかいったらどうなんだ」

 何も聴こえていないか、あるいは、僕を殺すこと以外の意識が存在しないか――。

 仕方ないな――。

 僕は印を浮かび上がらせる。

 少しの間なら、もう、任意に力を使える。

 何かがせまってきて――。

 僕の剣が、何かの心臓を貫く。

 そうすると、夢から醒めたように、何もなくなっている。

「何だったんだよ」

 寒々しい空の下に、乾いた拍手が響いた。

「お見事でした。特に最後の一突き――あれは私にも躱せなかったでしょう」

 騎士の姿をした男が歩いてきた。

「今のは、あんたの仕業か。何考えてるんだよ。危ないだろ」

「すみませんでした。勇者の力というものに興味がありまして――お詫びは後でさせてもらうつもりです」

 何か、やな感じの男だな。

「しかし、勇者が力を取り戻したという話は本当のようだ。先ほどの剣闘士は、当時のままを、かなりの再現度で具現化させたものだったのですが……」

「名乗れよ。この国の騎士は亡霊をけしかけるだけで自分の名前も名乗れないのか?」

「噂に聞いていた勇者とは違うようですね。失礼しました。もっと弱気な勇者を想像していたもので……」

「名乗れ」

 僕は、剣の切っ先を向けてそういった。この場所が、僕をそうさせているみたいだった。

「やりますか? 挨拶代わりにでも――」

 男も剣を抜く。

「やめろ」

 アルトの声――。

「おっと、これは不味いところを見られてしまったらしい――」

「わざとらしいぞブラウン。剣を仕舞え。ヒロカズもだ」

 僕とブラウンと呼ばれた騎士は、いわれた通りにする。

「嫌な予感がしたんだ。始まる前でよかった」

 アルトが僕に歩み寄ってくる。

「お前も、安い挑発に乗るな」

「殺されそうになったんだぞ。変な魔術で」

 アルトがブラウンを睨むが、ブラウンはむしろそうされることで逆に嬉しそうな顔をしている。

「癇に障るやつだが実力者だ。ヒロカズはこいつと組んでもらうことになる」

「は?」

「嫌だろうが、既に決まってしまったことだからな。変えることは出来ない」

 相変わらず厳しいというか……いつもよりちょっとキツく感じる。

「まあ、そういうことなら仕方ない。よろしくブラウンさん」

「こちらこそ」

 ブラウンは丁寧な会釈をしてみせるが、妙に皮肉的だった。

 確実に性格が悪い……。

「帰るぞ」

「ん? ああ」

 僕達はブラウンをそこに置いて立ち去る。

「いいのか?」

「一度頭を冷やしたほうがいい。お互いにな」

「まあ、確かに……」

 振り返ると、ブラウンが不敵な笑みを浮かべていて、僕はすぐに目を逸らした。

「仲間なんだよな、あれ」

「仲間だ。一応な……」

 あれと一緒に調査をするということになると……かなり面倒なことになりそうだった。

「一人で調査しちゃだめかな」

「任せる。が……多少は問題にはなるかもな。勇者が協力的じゃないってあいつがいいふらすかもしれない」

「すげーやりそうだな。そうしている姿が脳裏に浮かんで来る」

「やるんだよ。あいつは。人が嫌がりそうなことを。とことん」

「なんでそういう奴って評価されるんだろうな」

 そういって、アルトと前に話した内容を思い出した。

「もしかしてアルトがいってたのって……」

「あいつだよ。といっても、あいつはもう殆ど大っぴらに自分の中身をさらけ出しているけどな」

「昔は違った?」

「昔はもう少しまともだった……というより、もう少し取り繕っていた。あそこまで酷くなりだしたのは最近の話だな。まあ、隠す必要がないところまで来たんだろう。地位が」

「ああ、そう……」

 やっぱり一人でやろうかな……。

 勇者の評判が落ちるのは慣れてるし……。

 でも、ここに根を張る、ということを考えると――あいつと組まないといけないかもしれない。

「善処……するしかないのか」

「無理はしなくていいぞ。本当に。私でも拒否するかどうかかなり悩むレベルだ」

「まあ、考えておくよ。何回かやってみて、どうにもダメそうなら断るっていう感じにするかもしれないし……。もしかしたら頼りになるのかもしれない」

「いや……気を付けた方がいい。事故に見せかけて怪我をさせることがよくあるんだよ。あいつは」

「最悪だな……」

「それに、あいつはお前に妙に興味を持っているみたいなんだ……。だから、狙われるかもしれないと思って来てみたが……案の定だったわけさ。そういう意味では、あいつもわかりやすい性格をしているのかもしれない」

 僕は、溜息を吐いた。

 どう転んでもロクなことになりそうにないスタートを切ろうとしている、このうんざりした感じ……。

 だけど……そういう感じの相手に僕のポリシーが通用するかどうかを試す、いい機会だと思って……なんとか頑張ろうと思う。

「すまないな……別の人間を推したかったんだが、あいつが自分で強引に話を決めてしまってどうにもならなかった。やはり皆、あいつと揉めたくはないんだろう。誰も見ていない所で、何をされるかわかったもんじゃないからな」

「何か、白の会の方がましだった気がしてきたよ」

「いや、白の会の方がまだましかもしれない。冗談ではなく……」

 仲間なんだから流石にそんな酷いことはされないだろう、と既にいえないところが凄い。

 まあでも……これも運命か……。

 とりあえずは、そう思うことにした。

 そうすると、不思議と嫌さ加減が軽減されたように思う。

 僕のいつもの乗り切り方で乗り切ろう。

 ブラウンを。

「アルトも『仕事』が始まるんだろう? お互い、大変かもな……」

「私は慣れている。お前の方が心配だよ」

「そっか」

「まあでも、お前は乗り切るだろうさ。なんせ、勇者だからな」

「そうだった。僕は勇者だった……」

 そう考えると、ブラウンも何とかなる気がする。

 ちょっとめんどくさいけど……何とかなる。

「――何とかなるー!」

「気を確かに持てよ……ヒロカズ」

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