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自信喪失勇者3

 もし、シアーが殺した兵士が、本当に人間だったら後味が悪いだろうなと思いながら見に行くと、彼女のいった通り、全く同じ顔の人間が昨夜と同じ場所に立っていた。僕は、あの高圧的な兵士の顔は絶対忘れないから、間違いない……めちゃくちゃ嫌な奴だったからな……本当に……。

「あの様子だと、騒ぎにするつもりはないみたいね……アレを殺しちゃった私が、厳罰に処されることもないわ。なんせ、生きてるんだから」

「生き返ったのか?」

「中身が変わったのよ。もちろん何者かによって前の中身が殺されたことは気付いているけど、それ以外の被害はないのだから、そこまで問題にはしないでしょうね」

「仲間が殺されたのにか?」

「仲間じゃないわ。手下よ。それも、捨て駒の」

「ああ、そう……」

 ある意味、急襲されたんだから、もう少し慌ててもよさそうなもんだったけど……外から見る限りは平和そのものだった。

「あいつら、見張りが殺されて警戒しないのか? いつも通りに見えるけど」

「警戒レベル自体はちょっとあがってるんじゃない? しばらくは近付かない方が無難ね」

 シアーがあまりにも涼しい顔をしているので、僕も昨日のことが、何でもないことだったような気がしてきた。

「ここにずっといたら人目に付くわ。帰りましょ」

「あのさ……僕はずっと、勇者として不甲斐なかったからだと思ってたんだけど、この街って、あんまり人の温もりとかが、感じられないんだよな。もちろんシスターは例外だけど、やっぱり基本的に、どこかおかしいのか?」

「そうだとしても、ヒロカズが勇者として不甲斐なかったのは変わらないんじゃない。まあでも、あなたに酷く当たってた人間の中に、実際おかしいのは混ざってるかもしれない」

 シアーと少し寄り道をして、街中を歩き回っていると、今まで気付かなかった違和感が――勇者を見る、どこか、殺意の籠った視線が――襲い掛かって来る。

「何か、凄い見られてる気がする」

「いつものことじゃないの?」

「そうなんだけど、疑心暗鬼なのかな……」

「襲われても、昨日の調子でやればいいじゃない」

「そうなんだけど……むしろさっさと襲ってくれた方が楽かもしれない。精神的に」

「そうね――ある意味、勇者と表立って敵対しないからこそ、今、こういう事態になっているというのはあるのかもしれないわ。つまりそれが一つの策略としてあるのなら、向こうからヒロカズに手出しはしない。嫌がらせくらいはあるけど、勇者を覚醒させない程度に収めている。そして、裏では着々と侵略を進めている」

「僕を怖れるなんてことがあるのか?」

「実際、今、それによって成果を上げているというのもあるし、そもそも、怖れなら先代勇者によって十分植えつけられているじゃない。そして、やっぱり……あなたにもその力がある」

「僕が気付かなかったばっかりに、世界は酷く歪みつつある……」

「上手くやられてしまったのは事実だけど、落ち込むのはまだ早いんじゃない? 大体、歴代勇者だって、何もさせずに世界を救ったわけじゃなくて、ある程度の犠牲を払っていた。遅いか、遅くないかを決めるのは私の仕事じゃないけど、ヒロカズは別に遅くはないと思う……。ヒロカズは、まだまだこれから良くなっていくよ。多分だけど」

「多分、ね……でも、ありがとう。シスター、メイの慰め以外でそんな風にいわれたことがなかったから、少しやる気になる」

「今まで君を落ち込ませて来たものが、策略だった可能性は高い。もう少し自信を持たないと、奴らの思い通りになる……ということも考慮に入れた方がいいな」

 そういう風に考えたことは今までなかったな……と思い、母のことを思い出そうとした。

 母の最期の顔は思い出せるのに、その他のことは、記憶に鍵が掛かって何も思い出せなかった。

 母は何で、死んだんだっけ……。

 ただ、足が震えるだけで、そこからは、何も進まない。

 僕は考えることを止める。

 しっかり深呼吸して、普段の自分に戻るまでにそう掛からなかった。でも、まだ少し震えている……。

 シアーのいう通りなら、一度、自分の過去を振り返ってみるべきなのかもしれない。僕を陥れた奴の顔が、その鍵の掛かった記憶の中にあるかもしれないしな……。

「早い話が、お前を嵌めた奴がいるということか」

 帰るなり、アルトに相談した。何というか……自分でも情けないと思うけど、彼女達に感じていた反抗心よりも、自分の悩みを聞いてもらいたいという気持ちの方が勝っていた。

「シスターは何か心当たりはないか? 勇者の一番の理解者だろう?」

 シスターは天敵を見るような目でアルトを見る。「知りません。お城の人達はみんなヒロカズさんに冷たいですけどね」

「ヒロカズ、余計なことを口走るなよ。シスターはご機嫌ななめだ」

「は?」

 ああ……朝の……。

 何でこいつは、急に抱き付いてきたんだろう。

 まあ、普段から行動がよく解らないところがあるしな……。

 そして大体、いちいち考えるのをやめよう、となるのだった。

「とりあえずさ、いきなり正面切ってやり合うってのは無しだ。僕も色々探りたいことがあるし、現状、騒ぎにもなっていない。とにかく、少しずつ探りを入れる……」

「その意見には賛成だよ」とバヌガス。「事を荒立てるのはまだ早い。ワシも城を見てきたが、気味が悪いくらい平常を保っていた。もしかしたら、こちらの動きは全て把握されているのかもしれぬ。その上で泳がされているという可能性も考えておかなければな」

「バヌガス公、それはいくらなんでも考えすぎではないか?」

「どちらにしろ、僕を能無しのままにしておきたいなら、表立ってこちらに仕掛けてくることはないよ……だから、水面下の、とても静かな戦いになるんじゃないかな」

 それまで、ずっと黙秘していたシアーがいう。「それなら、私の仕事だな。しばらく私に任せてくれないか? たとえ情報収集だろうと、ヒロカズが下手に動くとよくないよ。私がやれば足がつかない。私に任せなよ」

「いいのか?」

「そうだな……ヒロカズは今まで通り能無しを演じろ。私も付き合ってやる」とアルト。

 演じてたわけじゃないんだけど……「いいよ。その方針で行こう」

「全員一致でいいな」とアルト。意義は無し。

 こうして僕達の方針は固まったのだった……。


    *


 能無しを演じる、とは……。

 今まで何の意識もせず僕はシスター、メイに慰められ続けていたんだが、いざ、演じるとなると……何か、プライドのようなものが、邪魔をして……。

「早く演じないかヒロカズ。それでも勇者か」

 罵言を浴びせられながら気付いたのは、僕には、演じる才能がないということだった。

「もういい、やめだ」と僕はいう。「シスターもありがとう。付き合ってくれて」

「どうするんだ?」とアルト。

「さあ……わからないな」

 僕は全てを投げ出してどこかへ行こうとする。当てがないのはいつものことだ。

「仕方ない……シスター、出て来るよ。あいつが何かしでかさないか、看ておかないとな。本当に手間の掛かる勇者だ」

 泣言をいうつもりはないが、一晩中、自力で鍵の掛かった記憶の中身を取り戻そうと試みたがダメだった。思い出そうとする度に、母の最期の顔が現れてきて、耐えられない……。

 ヒーラーでも癒せない傷を僕は受けている。

 どういう境地に達すれば僕は記憶の鍵を開くことができる?

 ぐっと拳に力を入れ、ただ、立ち向かおうとする。

 意識の中の、核心のようなものに触れ――いざとなると、やっぱり力が抜けていく……。

 僕がそうまでしてまのあたりにしたくないモノとは、何なんだ?

「――何なんだよ! アルト!」

 アルトは驚いて、しまっていた。

「――ごめん」

「精神ステータス異常」とアルトは恨めしそうにいう。

 そうなんだよ。僕は精神ステータス異常者だ。君のいうことは、いつも正しいよな。

 アルトとの間に流れる空気さえおかしくなってしまった気がする。

 ただ、さえない勇者、という偽装は、出来ている。

「で、どうするんだ」とアルト。

「とりあえず……資金稼ぎだよ。シスターにもいくらかは納めないといけないし」

「彼女がそういったのか?」

「いってないけど、納めるんだよ」

「腕輪も取り返さないといけないしな」

「別に取られたわけじゃない」

 不運が重なっただけだと思っていた人生は、実はそうじゃなかった、としても……ここから浮上するにはどうしたらいいんだ?




 ――目の前に浮かんで来る、母の顔――。


 ――心臓にナイフを刺され――どく――どく――と血が流れている――。


 ――「みんな道連れにして、地獄へ堕ちていこう」――。


 ――どく――どく――どく――。


 ――誰かが耳元で、囁く――。


 ――「「みんな道連れにして、地獄へ堕ちていこう」」――。


 ――僕は首を振って、顔面にねっとりと付きまとう重たい粘膜のようなものを振り払おうとした。それは僕が浴びた母の返り血で――。


 ――その日、僕は地獄へ堕ちた。




「どうしたんだヒロカズ。今日のお前は本当におかしいぞ」

「……帰る……」

「おい! ヒロカズ!」

 ……。

 教会へ帰り、しょぼくれる。

 肩を窄める。そして、子供の様に小さくなる。

 そんな僕を照らす――光がある。

 確か、血まみれだった子供の僕を、こうして受け入れてくれたのも彼女だった。

「シスター、メイ……」

「本当に変わらないですね。あなたは」

「思い出したんだよ。少しだけだけど」

「大丈夫ですよ。あなたはそんな人じゃない」

「僕が母さんを殺したんだ」

「大丈夫、大丈夫……」

「僕が、母さんを」

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