再始動勇者18
「アルト」
暗がりで、アルトに向かって――何かを放り投げた。
アルトがそれを、片手で受け取った。
「何だ?」
「――カエル」
アルトはそれを思い切り振り被り――。
僕の顔面に投げつけた。
僕の顔面に張付くカエル……。
「緊張をほぐそうと思って」と僕。
「随分余裕じゃないか……」
「余裕なんだよ」
カエルが、地面に落ちて、飛び跳ねる。
暗闇の中へ消えていく……。
「僕は本来の僕へ戻り、そして、それ以上の何かを手に入れてしまった……」
「……」
「つまり、余裕なのさ」
「ダメな気がするぞ」
「アルトにもわかる時が来る。さ、行こう」
緊張が無ければならないというくだらない幻想を振り払い――城壁を遠くから眺められる場所に陣取った。
「どこから侵入する気なんだ?」とアルト。
「城内への侵入ルートはいくつかある。今回は出来るだけ穏便にいきたいところだな……」
「待て、なぜそんなことを知っている?」
「知っていちゃダメか?」
「理由をいえ。いつどこでそれを知ったんだ」
「――」
思い出そうとして――記憶がグチャグチャに崩壊した。
「わからない」
「おい」
「脳が変だ」と僕はいう。「だが、城への侵入ルートは確かなものだ」
「私は、お前を信用していいものか、迷い始めているぞ」
「何なら帰ってもいいぞ。足手まといだからな」
「は?」
「足手まといだ」
あ、怒ってる怒ってる――。
「――何なら帰る?」
「今のお前は明らかに変で――監視が必要だ」
「ああ――そう。ご自由に」
何なんだろう。僕は。
僕は。誰なんだろう。
「さっさと終わらせよう。一瞬で」
何が待つ勇者だよ。おせーんだよ。お前は。
一生引っ込んでろ。
「ついてきてるか、アルト」
「ああ」
「遅れたら、置いていく」
「は?」
僕は速度を上げる。
暗闇と同化しながら走る。
自分自身の姿が――見えなくなる。
「――おい――ヒロ――」
気づくとアルトが居なくなっていた。
少し待つと、遅れて姿を現す。
「最初から無理だったんじゃないか? 勇者について来るのは」
「何なんだ……お前は。お前は誰だ?」
「僕は僕だろ? えーっと……」
一々いいだろ、そんなことは。
なぜ自分が誰なのかということに拘るんだ?
ああ、馬鹿だもんな、お前。
「なあ……アルトに合わせて、説明しながらゆっくりいかなければならないのか? 効率が悪い」
「……」
「それでもついて来る気なのか?」
「……行く。お前が何者なのか、見定める為に」
「そんなことはどうでもよくないか?」
僕は再び闇の中を走り出した。
ジョシュア・シアセンも中々いいところまでいったよな。
勇者を危険視し、殻の奥底へ追い込んだ。
そもそもヒロカズは、勇者の受肉先としては、本当に欠陥品だった。
いつまでもウダウダしやがって……本当に腹が立つ。
ただ、その分、完全に反転してしまえばこちらの物だ。
いいかヒロカズ君。記憶がないのは、オレが出てきてるからなんだよ。
馬ー鹿!
まあ何にしろ、ジョシュア・シアセンとの長きにわたる戦いもこれで終わり。
やっと結末だよ。
地下への扉を抉じ開けて、魔術機械を破壊して廻る。
他の国にもあるかもしれないが、とりあえずここのは全部破壊しつくしておかないと、厄介だからな……。
「一々神に近づこうとするんじゃねえ!」っと……。
オレはそういってめぼしい魔術機械を破壊しつくすと、ジュシュア・シアセンの姿を探した。
どこに隠れているのかな~。
「おっ、前勇者の、義弟さんじゃないですか」とオレ。「こんなところで出会えるとは」
「また……放し飼いになっちまったか……」
「放し飼いとは失礼な。これが本来の姿だ。そっちこそ、いつまでヒロカズの中にオレを封印すれば気が済むんだ?」
「一生だよ」
「うざいな……お前らが黒幕だっていうことを、ヒロカズにいうぞ」
「ヒロカズに罪は無いが……お前にはある。黒幕はお前だよ」
「そう……オレが黒幕で……あんたが黒幕その2ってところか。ヒロカズにとってはつまんない幕引きだな」
「ヒロカズは知らなくていい。勇者はもう必要ないし……世界は我々が支配する。そろそろ世界は勇者と決別しなきゃならないんだよ」
「自らが神になってか?」
「我々が、全ての生命をコントロールする」
「それで、戦争を起こして、計画に邪魔な人間達にはまとめてご退場していただくわけか。流石に、気付き始めている人間もいるからな……そこまで馬鹿じゃなかったんだよ。あんたらが思う程、人間は」
「みんな道連れにして、地獄へ堕ちていこう」と、誰かがいった。
暗がりから、前勇者と、その妻が現れる。
「よ、現勇者。というか、俺の息子かな」
「久しぶりね……ヒロカズ」
二人は、不自然に若いままだった。
「それが……世界を救うために必要な行為か」とオレはいう。
「俺は地獄へ堕ちてもいい。だが、世界は救う」と前勇者はいう。
「ジョシュアはどこだよ」
「ここにはもう居ない」
「お前らは……生命の定義をはき違えた、生ける屍だよ。お前らがやろうとしていることは、救済ではなく、ただの、生きた屍の大量生産だ」
「……」
「お前らからしたら、ヒロカズの愚図の方がよっぽどまともだよ。ヒロカズは、複製人間を通して、とっくにそのことに気付いてる。なあ、ヒロカズ」
「ああ……そうだね」と僕はいう。
「ヒロカズにもばれちまったな。どうする?」とオレ。
僕の意識が少しだけ浮上する。
どういう状況だ? これは……。
「ヒロカズ、黙ってろ」とオレがいう。「頭の中がややこしくなる」
そうはいわれてもな……。
「さあ、どうするんだ。観念するか? 前勇者パーティーの皆さんよ」
前勇者が前へ出て、剣を構える。
「抜け殻のお前が、勝てるとでも?」とオレ。
オレは剣を抜く。
妙に短いんだよな……ホント、何なんだこのクソ剣は……。
ヒロカズがまともな武器を持っていた試しがない。
まあいい……ハンデだ。
「複製人間、といっても色々調整可能でな……元のままと思わない方がいい」と前勇者。
「お前らは、どうしても神が気に入らないらしい。だが、お前らがそうやって創り直そうとしている世界の方がよっぽどクソだと、どうやったら気付かせられる?」
「私は、生まれ変わってよかったと思っています」とヒロカズの母。「これでよかったのです」
「自分の息子が母親を殺したと思って十年思い悩んでいるのにか」
「ヒロカズには申し訳ないと思っています。ですが、全てが終わった後――ヒロカズも、新世界の一員となれます。この私のように」
「ああそうかい」
ミライを寄こしたのはどいつだ? この中には居ないか……。
「姉さん、こっちへ……」
勇者の義弟が、ヒロカズの母を連れて逃げる。
どうせ複製人間だ。
無限に涌いて来るからな……。
目の前のこいつだってそうだっていうんだから、本当に面倒なものに手を出してくれたもんだ。
ジョシュア・シアセン……。
「さくっと殺させてもらう」
――。
前勇者にそこそこ手こずっている間に、逃げられたな……。
アルトは……今頃その辺でオロオロしていることだろう。
確か、仲間が捕えられているんだった。
オレは地下牢へ向かい、それらしき人物を探す。
「よう。シアー。元気か」
「ヒロカズ……?」
「どこからどう見てもヒロカズだろ」
鉄格子を――力尽くで抉じ開ける。
「行こう」
「何者なの――あなた」
「ヒロカズだって。でも、無事でよかった。いい女なのに勿体ないからな。何もされてないか?」
「されてないわ。不自然な程に」
「まあ、ヒロカズの仲間だから大目に見られていたか……」
あとはアルトを拾って……。
「脱出」
「何が、脱出――だ。どうなっているか説明しろ」
「もう終わった。ジョシュア・シアセンはどこかに逃げられた」
「ダメだったんだな?」
「まあな。でもまあ――今のうちに説明しておくか、あんた達に。オレからヒロカズに説明するのは中々難儀するんだよ。意識がごちゃごちゃになってしまうんだな」
しかし、このまま定着させれるんじゃないか、っていうくらい、今回は安定している。
勿論そんなことは無理だって、わかってるんだけどな……。
↓で★やブックマーク、感想等をいただけると助かります。よろしくお願いします!




