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再始動勇者16

 夜明けとともに、シスターに起こされた僕は、ツェンを見送った。

「また遊びに来てもいいんだぞ」

 一度振り返り――しかし何もいわず立ち去るツェン。

「また、来てくれますかね……」

「さあね。そればかりはわからないよ」

 それは運命に任せよう、と僕は思う。

「シスターは寝直さなくていいの? 代わりになんか仕事があればしておくけど……」

「あ、いいです。いつも起きてる時間と、そこまで変わりありませんでしたので」

「そう……ならいいんだけど」

「何か不思議ですよね……ヒロカズさんの周りには、色んな人が集まる力があります」

「ツェンのことなら、たまたまだよ……といいたいところだけど……認めざるを得ない。それは……」

「きっと、必要な出会いだったんです。私にはわかります」

「最近は本当に、必要な出会いしかなくて、ちょっと怖くなるくらいだよ」と僕はいう。「何かが起こる前触れみたいにさ……」

「十年分の出会い……」メイが呟く。「どこかで留まっていた運命が、動き出したんですよ。きっと……」

 いわれてみれば、その通りだ。

 僕に今起きている出来事は、十年分の運命の蓄積だ。

「流石はシスター、メイ。いい得て妙だよ、その、いい回しは……」

「さて」シスターは気持ちを切り替えるようにそういった。「今日も仕事が沢山ありますし、がんばりましょうか」

「人がいっぱい住んでるからね……この家」

「今の所、6人家族ですね。洗濯ものだけでも、かなり……」

「アキは外で働いてるし、おじさんは何をしているのかは知らない……ミライは家事を手伝ってくれているが、バヌガスは地下に籠って何もしてないよね。アルトはいうまでもなく――」

「何もしてませんね……」

「まあでも、ミライが来てから負担は軽くなった?」

「なりましたよ。正直、助かっています」

「良かった……シスターに多大な負担を強いるところだったね。毎度のことながら助かるよ」

「いえ……私の義務なんです。これは」

「シスターにも、いつか恩返しをしないとな」

「どんな風にしてくれるんですか?」

「え? えーっと……」

 どんな風にといわれても困る。

「私を、どんな風に、してくれるんですか?」

 何かを迫られている気がする。僕は困る。

「嘘です。いいですよ、何もしてくれなくても。私は今、十分幸せですから」

 まただ……。

 また、みんな、何もしてないのに、幸せだといい張る、例の……。

 僕は肩を落とす。

「どうしましたか?」

「自分の……甲斐性の無さにうな垂れているところだ」

「自覚してしまいましたか……」

「ああ。最近、その自覚に襲われ始めたところだったんだ。多分、仲間が出来て、余裕が生まれて来たから、気付き始めたんだと思う」

「でも、ヒロカズさんにはやらなければならないことがありますから……どう考えても、そちらを優先すべきだと思います。それで……私は、待っています。もちろんその後に、ヒロカズさんがどうするかは自由です。でも、ちょっと期待してしまいますけどね……」

「考えておくよ。約束はできないけど……」アルトのことが脳裏に浮かぶ。「シスターは、やっぱり大事な人だから」

 シスターが仕事に戻り、僕がまたキッチンへ入ると、今度はそこにアルトがいた。

「お、起きて来たか」

「お前、途中で私を起こしたよな……何だったんだ?」

「ダコタ・シアセンの娘と思しき人物と遭遇し、捕まえてきて、ここで話をした。さっき帰って行ったぞ。自分の足で」

「――起こせよ」

「――だから起こしただろう」

「……まあいい。で?」

 さっきあったことをそのまま話した。大して何もなかったともいえるけど……。

「まあ、ある意味不幸な子供だな」とアルトはいった。少し、突き離すようにして……。

「実際会ってみたら、いい子だと思うさ」

「だったら尚更だ。もっと鈍感で、頭の悪い子供の方が幸せだっただろうさ」

「いや、それはないね。そう思うのは、最初だけさ」

 アルトは――何か思うところがある様子だったが、すぐにそれは消える。

「今回の件は穏便にことが運ばない可能性も大いにある。あんまり敵の娘と干渉しない方がいいぞ。お前のためにもいっておくが……」

 本当にそうだろうか。

 敵だと認定された全てを完全に切り捨てなければならないのだろうか。

 それだと、勇者を貶める人々と同じじゃないか?

 実際のことは何も見ずに、ただ、敵だからといって、そこには何の実際的判断もなく、頭も使わない。

 そうやって、簡単に決めてしまっていいものごとか? それは。

「アルトのいい分もわかるが、これに関しては譲るつもりはない。ツェンと一対一で話して、僕が決めたことだ。お前の入る余地はない」

「そうか。勝手にしろ」

「でも……できればアルトにも、彼女と対面してほしい。これはまあ、僕の願望さ」

 また、うちに来るかもしれないしな……期待は出来ないが。

「全く……面倒事を次から次へと抱え込む勇者だな」

「頼む。出来るだけ気にかけてくれ。彼女のことは……」

「皆にもそう伝えておくが……作戦に支障が出ても私は知らないからな」

「何かあれば、その問題を僕が受け入れる。つまり、その時は、多分……僕が何とかするよ」

「本当に、面倒で、曖昧で……だけど……そんな勇者に付き合うと決めた以上、こちらもそれに出来るだけ沿うようにはする」

「助かる」

 直ぐにアルトが折れてくれたのは、意外だった。

 ちょっと前なら、しばらくは引き摺りそうな感触だったけど……。

 以前より、信頼されているのかもしれない。

「本当に勇者を信じるのなら……今回のお前の行動は、意味のあるものだし、手抜かりが起きるとすれば、こちらの方なんだろうな……。私はそれに関しては、見誤りたくないと思っている。もしそれを見誤れば――私の立場はなくなるだろうからな」

「考えすぎじゃないか?」

「いや――それはあるんだよ。私がお前と対立して――私が酷く間違っていたということが明らかになれば、私はお前の仲間であることを辞退するだろう。お前が許すといっても、多分私はそうする。だから――私が間違いそうなときははっきりいってくれ。こんな性格だから――中々いうことを聞かないかもしれないが」

「今まで、アルトが間違ったことをいったことがないって思ってたんだけど、それだけ慎重だったってことか?」

「お前がそう思っているかどうかは別として、私は慎重だよ。お前から見ていつも正しいように見えるのは、それだけ考えて発言してるからに過ぎない。だから……いつか間違える。お前の目の前で……。そういう日はそのうちくるだろうさ」

 アルトがそんな風に思っているとは、思わなかった。

 ただ単に、アルトは凄いなって……そんな風にしか思っていなかった。

 正しいことをいうために、アルトは考えて考えて……考え抜いている。

 そういう性格だったんだな、と思って……やっとそこで、アルトという人物を少しだけ理解した。

 確かに、簡単に正解ばかりいえる人間なんてそう居ないよな。

「ちょっと私への評価が下がっただろう。私こそ、見せかけの評価で固まった人間なのさ」

「別に、下がってないよ。むしろ、もう少し理解したい。アルトがどう考えて発言し、行動しているか……そういうところを僕は知りたいんだと思う」

「じゃあ私はそれを知られないように発言していかないとな」

「なんでだよ」

「私は臆病なんだ。だから、そういう風にいわれると、酷く落ち着かなくなる」

「僕に対しても、壁があるのか?」

「ある。ないと落ち着かないからな」

「そう……か」

 確かに、それのせいで、今までアルトを理解できなかったのかもしれない。

 そう思うと――今までなぜ理解できなかったのかということを、理解することができる。

「まあ、無理はしなくていいよ。とりあえずは」

「とりあえずは?」

「じゃあ、ずっと」

「本当だな?」

「本当だって」

 嘘――。

 僕は今、嘘を吐いている。

 だって仕方ないだろう?

 彼女を知りたいという欲求が、ここにあるんだから。

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