再始動勇者14
深夜に目が覚めて、ふと窓の外を見ると――そこに人影があった。
見間違いかと思ったが……確かに誰かいた。
そいつは僕と目が合うと、反射的に、姿をくらませた。
僕は庭へ出て――それから正面の通りを見渡すが、もう人影はなかった。
白の会かもしれない。
「おい、アルト」
「――んあ?」
僕は寝ているアルトの肩を揺すって起こす。
「何だ……もう」
「外に怪しい人影がいた」
アルトは目をこすりながら何とか身体を起こす。
「明日の朝でいいだろう。それに……見張りがいないわけではない」
アルトはそういうと――ぱたんとベッドに倒れた。
駄目か……。
僕はどうしても気になって、コートを着て、外へ出ることにした。
夜の街は、穏やかな人々が眠りにつき、その代わり、不穏な何かが目覚めていて――どこかからそんな存在が、こちらを窺っている気がした。
とはいっても……僕も、どちらかというと夜の生物だった。
誰も居ない街が好きだったし、深夜活動して、日の出とともに教会へ帰ることも昔は多かった。
隠れ蓑を一枚一枚剥がすようにして、闇の深い場所を確認していく。
正直、慣れているのでどうということはない――。
ちなみに、シアーが最初、この街で夜の間うろついていた時も、直ぐに把握した。
どういうわけか、夜の方が調子がいいんだよ。
だからまあ、見つけられると思ったんだ――。
「君は……誰だ?」
誰かが、頭を抱えてうずくまっていた。
「勇者、コワい」
闇の中に手を伸ばし――腕を掴み上げる。
子供だ。
十歳そこらの少女――服装は白い。
「こんな夜中に出歩いてたら、勇者よりもっと怖いものが出るだろ。幽霊とかさ」
少女はちらっとこちらを見て、「勇者、コワい」と繰り返した。
自覚症状がないだけで、僕は本当は怖いのかもしれない。
敵からしてみたら……。
「お前は、矛盾している」と僕はその子にいう。「お前は勇者が怖いという。じゃあなぜ、勇者の家の前に居たんだよ」
「……」
「深夜に他人の家の前でこそこそされるほうがよっぽど怖いだろ。勇者は安全で、危険なのは、お前の行動だ。わかるな?」
少女は、恨めしそうな目で僕を見る。
「どういう理由で家の前に居た? 何をしに来たんだ。それは、人にいえない様なことなのか? そっちの方が、よっぽど恐ろしいと思わないか?」
複製人間じゃないだろうな……。
少女は、勇者を怖れるのが癖になっているみたいで……話にならなかった。
「家はどこなんだよ。一人で帰れるのか」
とりあえず、暗闇から連れ出す。
小さな女の子だったが、どこか目は据わっていた。
「名前は?」
「ツェン・シアセン」
「ダコタ・シアセンとの関係は?」
「……」
質問のし過ぎで何に答えていいかわからなくなっているのかもしれないが、名前だけは答えた。
ダコタの娘かな……目元が似てる気がする。
どうするべきか悩む。
元々深夜に徘徊していたとはいえ、放置して帰るのも気が引ける……。
仕方なく、手を引いて歩くと、抵抗せずについて来る。
「勇者は怖いっていうけど、暗いのは怖くないんだな」
ダコタと同じような目で僕を見ているが、そこまで拒絶感はない。
まだ、救いはある……。
それに、子供なら、敵対関係を飛び越えて、そこに何らかのつながりが生まれる可能性もなくはない。
とにかく、連れ帰って……明るくなったら、自分で帰らせればいい。
心配なのは、確かだからな。
「いつも、こんな夜遅くまで起きているのか?」
「……」
「学校は?」
「いってない」
返答があった。
この子が特殊な境遇に置かれているのは確かなんだろう。そういう意味では、僕と同じで……それに対する反発も多少はあるのかもしれない。
「学問を教えてくれる人はいるのか?」
「先生がいる」
「そうか。なら大丈夫だな」
まあ、学校にいっていない子供がいないわけじゃない。僕も途中からいってないし……。
それに、白の会に居るのなら、それなりの……教育もあるだろうと思う。勇者に対する間違った認識を植えつけたりとか、そういう、ね……。
「どうして僕が怖いの?」
「勇者を放置していれば、私達の住む場所は、全て奪い尽くされてしまうの」とその子はいう。「何一つ残らないの」
「……僕がそんな風に見える?」
「見える」
たまたま一つの闇の中へ乗り合わせた価値観の違う二人。
僕から見えている世界とこの子に見えている世界は違う。
ただ、僕の目は闇に慣れていて――だからこの子との接点が生まれる。
「確かに、僕の中には危険な力がある。だけどそれは、自分から君達の住む場所を奪いに行くような力じゃないよ。むしろ逆だ。この力は――ただ、誰かを護るために発動する。基本的にはね」
「……」
「信じて貰えないかもしれないけど……君達が僕や、周りの人間を損ねない限りは何もしない。それは約束する」
もう、手遅れなのかもしれないけどね……それに関しては。
「やっぱり、勇者は危険」とツェンはいう。「コワい……」
「……」
本能的にそれは正しい。
僕はどうしても、この子の敵にならざるを得ないのだから。
「一時的に……今夜だけはそういうのはやめよう。朝になったらさよならでいい。それでどうだ?」
「……」
手から伝わってくる緊張が、一瞬ほぐれた気がする。
別に、今夜だけでいい。
この子に、僕が敵でないことを知らせたい。
状況がそうさせてくれないことはわかっているけど……最期には敵同士になることがわかっているけど……今だけは、そうすることが出来る。
それは希望にも遺恨にもならない様な、些細な時間だけど、なぜかそれが必要な気がした。
玄関の前で、ツェンが立ち止まる。
「朝までの間だ。何もしない。歓迎するよ」
少しの説得で、地に根の張った彼女の足は離れ――家の中へと導かれた。
「ようこそ。勇者の家へ……興味があったんだろ。ほら。早く……入りなよ。今は敵も味方もない。ほんの少しの間だけど……僕達の交流を深める時間だよ」
物音を聞きつけて、シスター、メイが起きてくる。
「――どうしちゃったんですか? その子」
「朝まで保護することにした。朝になったら自力で帰らせるよ」
「そうなんですか……とりあえず、何か、準備しないと」
シスター、メイはキッチンへ。
僕達もその後に続いた。
テーブルについて、しばらくすると、紅茶と菓子が差し出される。
「ごゆっくり……えーっと」
「ツェンだ」
「ツェンちゃん、ゆっくりしていってね?」
「……」
警戒は解けていない。
まあ……当たり前か。
僕が菓子を食い、紅茶で流し込むと……ツェンも手を付け始める。
夜明けまで、3時間、といったところか……。
さて……何の話をするべきかな……。
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