自信喪失勇者2
有り余る力は、時間と共に段々収まっていった。覚醒したら、覚醒しっぱなし……なんてことになったら身体も精神も持たないし、それはそうだよな、なんて思いつつ……少しずつ薄れていく印を眺めていた。
色々、レッテルを張られたりもしたけれど、僕はちゃんとした勇者だったと思っていいのかな……まだ、世界のために何かしたわけじゃないんだけどさ。でも、その手掛かりは手に入れたような気がするんだ。それって、ずっと僕が求めていた前進、って奴じゃないか。そう……僕は一歩前進した。ついに歩き出したんだよ、勇者として……。
それとは逆に、逃道もなくなっていく気はした。アルトやバヌガスという、大きな協力者……いや、大きな強制力が働いていて、僕は彼らののぞむ、勇者の力というものを、有無をいわさず発揮させられる、というような……ある種の搾取に近いイメージをそこに抱いていた。なぜそんな風に思ってしまうのかというと、彼や、彼女達が、僕を騙す形で接近してきて……どうしても嵌められた、という意識が働いてしまうからだった。
「どうしたヒロカズ。不満そうな顔をしているな。私達に勇者としての力を開発されて、利用されることに、嫌気がさしているといったところかな」
「悪気があってやってるだろ。それ」
アルトからの視線を浴びることにはもう慣れていたが、今思うとそれは、ずっと、自分の手に入れた新しいオモチャを眺めるような、いやらしい視線だったと思う。
「姫様ってさ、やっぱ性格が悪くなるもんなのな」
「ちょっとした、可愛らしい天邪鬼のようなものさ。私は、優しいときにはちゃんと優しいだろう?」
確かに……。
「ふむ……覚醒したとはいえ、直ぐにめげる性格は相変わらずか……」
「別に、元に戻っただけだよ。ずっと気を張っていると疲れるだろ。それと同じさ。多分……」
アルトは、椅子に座っている僕の背後までつかつかと歩いて来ると、何をするのかと思ったら、頭上から覆い被さるようにして――僕の首筋を抱きかかえた。
「どうだ? 姫の抱擁は。嬉しいだろう」
正直嬉しいが、困る。
「悪いようにはせぬ。私のモノになれ」
「――ゴホンゴホン! ウーッ、ゴホン!」
「おっと」
激しく咳き込みながらシスター、メイが現れると、アルトはぱっと頭から離れた。
変な空気を断切るように、事務的に「おはようございます」というシスター。
「お、おはようシスター。昨日はよく寝れた?」
「普通です」
「そ、そう……」
結局シスター、メイも巻き込んでしまったわけだけど、具体的にこれからどうするかは決まっていない。あんまり彼女に無茶はさせたくないよな……ただでさえ世話になっているのにさ。
何というか……これからどうするかについて、今はアルトにも、バヌガスにも、助言を求めたくない。やっぱり、ここへ至る経緯に不満を感じてるのは事実なんだろうな。
悪い人達じゃないというのは第一印象で感じていて、それは事実なのだろうから、今感じている彼女らへの不満はそのうち払拭されるだろう。とにかく少しだけ時間を置きたい……それくらいのことは、許されたっていいだろう?
「ヒロカズ君、昨日はすまなかったね……驚かせてしまって」バヌガスが、椅子を引き、座る。「我々は、君を急がせるつもりはない。一刻を争う事態ではあるのだが、まだ猶予はある。君自身が譲歩して、協力を申し出てくれるまで、我々は待つつもりだよ」
「少なくとも彼は、覚醒はしたんだ。十分すぎる進歩じゃないか」
僕と違って、二人には風格、というよりは、余裕があって……僕に足りないものがそこにある気がした。
僕の考えていることは見透かされている。そして僕は、そんな自分の惨めさによって、彼らにどこかで反発をしている。
自分自身でいう言葉じゃないかもしれないけど……勇者だって人間なんだよ。
人間不信に陥ることもあれば、不安に押し潰されそうになりもする。
それの何が悪いっていうんだよ。
「おはよう。ヒロカズ」
「シアー……おはよう」
彼女には、まるで痛覚が存在しないようだった。そんな横顔に見えた。
「肩はどう?」
「順調よ。あなたって紳士なのね……いつまでも私の肩を心配して」
「ごめん。しつこかったかな」
「違うわ。そんな風に心配してくれる人が今までいなかっただけよ」
彼女は、アルトかバヌガスの従者かと思ったが、そんなわけでもなさそうだった。ただ……どこか……一流に見えた。それは、暗殺者としてとか、そういう意味で。
一度は彼らの前でひれ伏して見せたが、それは形式上、上の者にそう見せただけで、こうしていると、彼らに全く気後れしていないどころか、彼らのことを、気にも留めていない。この人も、僕に足りない物を持っている。僕は彼女に、少し嫉妬する。
「普段のあなたって、どこかさえないけど、昨夜のあなたには触発されるものがあった。ここに集まっている人達って、あなたの持っているどちらの面に触発されて集まって来た人達なのかしらね……」
そういわれてみて、気付いたけど、僕が妙に腹立たしく思っていたのは、僕の持つ二面性のうちの、片方だけを求められている気がしたからなのかもしれない。
正直、求められたところで、勇者としての力の発動は、あくまで自動的で……結局、僕自身の意識で制御してないような部分がほとんどだ。その時僕は何かに突き動かされていて、意識より先に、身体が動いてしまう。
「ちょっと心配なことがあるんだけど……昨日僕とシアーが交戦する前に、城の兵士を一人、殺しているよね。それが人間じゃなかったとしても、問題になるんじゃないか?」
「――城を出るまでは、誰にも気付かれていないわ。その後のことは知らないけど、どうせ、何事もなかったように同じような顔の兵士が立ってるんじゃないかしら」
「後で見に行ってみるよ。一応、シスターも気を付けておいてくれよ。何があるかわかったもんじゃない」
「じゃあ、私とヒロカズで行きましょう?」とシアー。
「バヌガスとアルトはちゃんとシスターを護ってくれよ。ある意味、あんた達が巻き込んでくれたんだから」
「いわれなくても護るさ。反抗期の勇者クン」
ちょっと頬をひくつかせつつも、シアーを連れて出る。ただ、ああはいっているが、必ず護ってはくれるだろう。
そこは絶対に信頼できるっていうのは……もう立派な仲間な気はするな……。
「君は、よくあの姫にあそこまでいえるな……それに、あのシスターともいい関係のようだし、両手に花か」
「は?」
「さえないなんていってしまったが、私も男を見る目が鈍ってしまったのかもしれないな」
いや……むしろ僕はアルトには気が引けていて……いや、引けてないのか?
「僕は子供の様に腹を立てているだけで……」
「その時点で、対等なのさ」とシアーがいう。「姫だって君の前では子供になる。この意味がわかるか?」
……どういう意味だ?
「大人の関係なんてつまらないものさ。アルトはきっと、そう思っているよ」
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