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再始動勇者7

 いくつも階段を昇り降りした先に母の墓がある。

 子供の頃何度か見に行って……それからは行っていない。

 今となってはもう、あそこに母は居ないとわかってはいるけど……何となく足が向かっていた。

 母親を殺したのは自分だ、という意識はまだある。

 何かしらの暗示の元、そうしたのだとしても、僕がその手で殺した。

 その感触がまだ残っている――。

 母がそのことを許してくれているのかが、わからない。

 ミライに訊くのも怖い。

 だから……こうして僕は、何もない墓へ向かっているんだと思う。

 不思議だよな。訊こうと思えば訊けるのに、何の答えもない、空白の墓前に向かっている。

 実際ミライに訊いたところで、返ってくる答えはわかっている。

 そんなことを訊いても、虚しいだけだ。

 だから……僕は空白の場所へ向かっている。

「母さん……久しぶり」

 僕は空っぽの墓に向かって語り掛ける。

「こうして話し掛けるのは初めてかもしれないね……子供の頃は、自分の考えに、整理がついていなかったから」

 空っぽの墓は空っぽの墓らしく、僕に何も語り掛けて来ることはない。

 それはとても一方的で……だけど必要な、僕の償いだった。

「仲間が……たくさんできたんだ。それで、心の余裕ができたのかな。だから、謝りたくって。母さんに」

 ……。

「ごめんなさい。母さん。僕が母さんを殺しました。本当に……」

「馬鹿野郎」

 髪を、くしゃくしゃにされる。

「お前じゃねぇよ。お前がそんなことをするやつじゃないって、姉さんもわかってるんだ。何をいうのかと思ったら、馬鹿だな、お前は、本当に」

 振り向くと、おじさんだけじゃなく、みんなの姿があった。

「今日は姉さんが死んだ日だから、みんなで墓参りしようって話になってな……お前は……お前の意思を尊重しようと思った。すまないな。あとを付けちまって」

「水臭いぞ。ヒロカズ」

 アルトが歩いて来て、花を添える。

「ほら、お前の分」

「ありがとう」

 僕はアルトに手渡された花を――そのまま母さんへ手向ける。

 みんなぞろぞろとやってきて、思い思いに祈りをささげていく。

 母さん……やっぱり償いは、形のある方法でするよ。

 今日はその報告ということにしよう。

 それでいいかな。母さん。

 何もない場所に――母が居る気がした。

 母さんが求めていないとしても、償うし――償わせる。

 これは、ケジメなんだ。

 そうしないことには、ちゃんと生きていけそうにない。

 僕はこの先も、生きていくから――そうする必要がある。

 死んでしまった母さんは何も求めないかもしれない。

 だけど僕は、そうはいかない。

 僕は、自分のためにそうしようとしている、ということに気付いて――償いというものが何なのかわからなくなる。

 でもそれが、自分が生きるためにすることだと気付いてから、変にめそめそしようという気がなくなった。

 これから生きていこうという人間が、なんでそんな風にならないといけないのか。

 そう考えて――僕はそういう想いと決別する。

「これは、僕が生きるための戦いだ」と僕はいう。「今日ここにきて、それに気付けたんだ」

「そうか」とアルト。「良かったな」

「ああ」

「よし、帰るか」とおじさんがいう。「話もついたみたいだしな」

 僕は一体何と話していたんだろうと思い――それが母の幻影であり、それを創りだしている自分自身だと気付いた。

 ここへこなければ僕は自分自身と話すことさえできなかったんだ……。

 不思議だな……と思った。

「ミライ……」

「ヒロカズ、ここが私の墓なんですね……」

「そういうことに……なるのかな」

 どういう気持ちなんだろう。

 自分自身の墓を見るっていうのは……。

 ミライはしばらく墓を眺めてから、「帰りましょう」といった。

 僕とミライは、みんなから少し離れて歩く。

 みんなが、僕とミライに遠慮するみたいにして、その間を保って歩いている気がする……。

 僕は、どうしていいのかわからない。どう声を掛けていいのか……。

 僕が黙っていると、ミライが口を開く。

「私は、死というものを何度も経験して……それがどういう意味を持つものなのかということが、普通の人達より、どこか、遠のいているような感じがします」

「……」

「ですが、今の私には、やっぱり死は存在します。今の私が死ねば、もう替わりはありません。ヒロカズや、皆さんと出会って、あの家で生活して……それが……その感覚が少しずつ戻って来ているような気がするんです」

「死にたくない、と思うようになった?」

「はい……そうだと思います」

「それってすごい、進歩じゃないかな……例えば、無限に新しくミライが複製されるとして……じゃあ生命の条件って何だ、って考えると、それは、死にたくない……つまり、生きたいと思うことに起因するんじゃないかな……。僕が十年間、生きて来れたのも……もちろんただ、運によるものもあるんだけど……少なくとも、僕自身がそういった、生命の条件を満たしていたからなんじゃないかと思うんだ。そしてミライも今、それを満たそうとしている……。色々あったけど、そこに行き着けたってことは、まだ、幸福になるチャンスがあるってことなんだよ……。生きて、生きて生きて……それで、生きててよかったって思えたら幸せだろ? そこに向かって、進んで行けばいいんだよ。ミライも、僕もね……色々あったけど、ただそうするだけでいいんだ」

「わかりました。一番重要なのは、それなのですね」

「多分ね……だから、変に考え込むことも、まあ、いいんだけどさ……その、一番重要なことを忘れさえしなければ、色んなことがあるけど、左右されず生きていける。幸福を目指すことが出来る」

「不思議なのですが……私はもう、幸福なのかもしれません」

「え?」

「多分、ヒロカズも、ここに居るみなさんも……既にその先へ向かっていて……私はその中に居るだけで幸せなんです。もちろんまだ、死ぬつもりはありません。ですが私はもう、十分に満たされているのでしょう」

「ミライ自身の幸せは? って思ったけど……それ自体がミライ自身の幸せなら、それでいいのかな」

「構いません。でも、欲をいえば、ヒロカズの母になりたい……」

「それがあったね」

「はい」

「いいことだと思うよ。だってさ……それくらいはいいよね、って思えるから」

「そうですか?」

「当事者の僕がいうんだから間違いない。それはいいことだよ」

「はい……」

「でも、もう少し待ってほしい。蹴りがついたら、思う存分、母さんになってもらうから。みんなが引くくらいにね……」

「楽しみです」

「本当に? ミライも引いてしまうかもしれないよ」

「それはありません。なぜなら、私は――」

 ミライはそういおうとして、止める。

 その先は、全てが終わった後に。

 そう思ったから――その言葉を胸に秘める。

 それは既に僕もわかっている言葉だけど、実際に確認し合うのとは別で、大切にしまっておこうと思う。

 全てが終わるまでは。

「おい、遅いぞヒロカズ」

 気づくと、みんなからかなり遅れて歩いていた。

「急ごう、ミライ。置いていかれるよ」

「はい――」

 僕達は幸福に向かって走っていた。

 それはもう――すぐ傍にあった。

 今日はそのことに気付けた、とても良い日だった……。

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