表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/37

再始動勇者3

「この辺りの宿屋でいいだろ」

「じゃあ、荷物を預けてくる。そこで待っていろよ」

 こっちの都合はお構いなしか、と思ったが……別に用事があるわけじゃ無かった。

 これまで僕をあざけりに来た人間達を元に類推し、アルトがそれにあたる人間じゃない、ということは、少しずつ認め始めていた。

 ただ、どこかでその二つが地続きになっている可能性は否定できない。

 自分を理解、あるいは信用する人間が現れることを祈ったことはない。

 だから期待はしていなかった。

「無断でいなくなってはいなかったな」

 月の満欠けのように表情が変わる女だと思った。

 いうに及ばず、僕は表情の変化に乏しい。

 アルトという女は、そんな僕の中に潜り込んで――何かを変えてしまう気がした。

「英雄神話のような勇者は求めてはいないが、自分のいったことは守って貰わないとな」

「一々ひとこと多い仲間だ」

「勇者がもう少ししっかりしていれば、一々いわずとも済むんだが……」

「……」

 何でもない言い合いをすることが、ずっとなかった。

 そんな相手がいなかった。

 少し生意気で、適度に殴り合える相手……。

 ただ時々、本気でいらっと来て――。

「――口を閉ざすな。口を閉ざすとろくなことがないぞ」

 確かに……その通りだ。

「でも、お前に全部いい返していたら、キリがないよ」と僕はいう。

「だったらずっといい返していればいいじゃないか。それこそ、永久に……。そうだろう? 寂しい勇者さん――」

 僕が色を失った状態から抜け出せなかったのは、誰にもいい返せなかったからだ。

 といっても、目の前に居るこいつ以外で、そういうことが出来る人間は、やっぱり居そうにないけれど……。

「ヒロカズ。お前の思考は判りやすくて嫌いじゃないぞ」

 僕だって、段々、アルトに対して嫌な感じがしなくなっている……だから、そのうち、こいつと一緒に居ることが当たり前になる。

 そんな未来が見える。

 でも……どちらにしろ、期待には応えられない。

 それは変わらない。

 ただ、ずっと灰色だった世界に、色彩やコントラストが戻ってきたような感覚が、少しした。

 もちろん状況は変わっていない。

 それでも……救われた気がした。

「いいよ。もう、仲間で」

「ただの仲間ではないぞ。世界を救う仲間だ」

「だからそれは無理だろ」

「無理ではない。お前が思い込んでいるほど、お前は弱くない」

「根拠がない」

「根拠が世界を救うわけではない」

「また、屁理屈が始まった……」

「屁理屈ではない。真理だ」

 意識を巡らせて、何かを捉えようとして――それに失敗する。

 僕にとって真理とは、とらえようのないものなのかもしれない。

 目の前のこの、アルトのように。

「わかった。お前が真理だよ」

「……まあ、いいだろう。少し馬鹿にされている気がするが……」

「いや、ホントに、素直にそう思ったんだよ。今。唐突にね」

「本当か?」

 アルトが、覗き込んでくる。

「本当だって」

 僕は照れて目を逸らす。

「怪しい」

「とにかくさ、あんまりアルトの期待には応えられないだろうけど、それでも仲間になるっていうなら、いいよそれで」

「期待には応えてもらうさ」

 思ったより頑固だな、こいつ……。

「これから、どうするんだ?」とアルト。

「予定はない」

「街を案内してくれ。来たのは初めてだからな」

「まあ、そのくらいならいいけど……」

 世界を救うなんていうのは、今の自分からしたら大逸れていて、かといって今すぐやるべきことも見つからず……ある意味それは、暇つぶしのいい口実にもなった。

 だから僕はアルトを案内することに決めた。

「この街は、治安はどうなんだ?」

「いいとも悪いともいえないな……。ただ、場所によってはあまりよくないかもしれない」

 そもそも、あまり関わり合いになりたくない、という……まあ、それはいいか。

「どこもそんなもんさ。どうやっても、そういう人間がたむろする区域は出てくる」

「まあでも、ましな方じゃないかな……殺人事件とかも、たまにあるけどね」

 生ある者は必ず死ありというけど――母の顔が浮かぶ――まともな死に方をしたいよな。

「どうした?」とアルト。

「……? どうもしないが?」

「顔が怖いぞ」

「え?」

 僕は自分の顔を触る。少し、硬いかもしれない。

「大丈夫大丈夫」

「なら、いいんだが……」

「時々おかしいんだよ、僕……精神的にさ。だから気にしなくていいよ」

「そういわれると逆に気になるんだが……」

 案内してくれ、といいつつも、アルトは人目を盗んでいつの間にか姿を消すことが多かった。

「子供か」

 僕はアルトの腕を掴んで連れ戻す。

「すまん。つい、珍しくてな……」

「しっかりしてくれよ。仲間」

「そう。私は仲間だ」

「あんまり嬉しくないだろ。こんな勇者の仲間は」

「またそれか」

「仕方ないだろ。十年これなんだから」

「十年間それで、これからもそのままという考えをやめろ」

「いうのは簡単だ」

「そうやって永久に引き籠もっていればいい」

「……何だと」

「もういい……こんな勇者の仲間はやめだ。私は一人で何とかする」

 アルトは一人で行こうとする。

「おい、そっちは……」

 ……まあいいか。

 もう、他人だ。

 ……。

 いつもの状態に戻っただけなのに、妙に寂しさを感じた。

 いや……慣れよう。この状態に。

 どちらにしろ、あいつの期待には応えられないんだから、これでよかったんだよ。

 ……十年間それで、これからもそのままという考えをやめろ……か。

 本当に長い間、沈黙していた、手の甲の印が輝きだした。

 わかったわかったわかりました。行けばいいんでしょ――。

 そうして、僕はアルトを救い出すために、走り出した。


 ……。


「と、いうわけで……僕はアルトと出会った」

「かっこよく助けたところは聴かせてくれないんですか?」とメイ。

「それはもういい」と僕。「話が長くなってきたので、ちょっと端折るぞ」

「賛成だ。疲れてきた」とアルト。

「……その後、そこのバヌガスさんが訪ねてきて、いつの間にか仲間になっていた。そして、そこのシアーが国王暗殺に行くところを僕が止めました」

「ヒロカズさん、何気に活躍してませんか?」とメイ。

「その辺りから、段々調子が戻ってきた」

「錆びついていた勇者の能力がまともに機能しはじめたのですな」

「まあ、そういうことだ。封印されていた、ともいえるが……」

「で、その後……何だっけ?」

「おい」とアルト。「しっかりしろ」

「確か……シアーが殺してしまった門番が翌日何事もなかったように復活し……とりあえず、事態は膠着した……」

「それが複製人間ですね!」とアキ。

「正解!」

「楽しそうだな……」

「暗くなるのは向こうの思う壺だからな。それでいいんだぞ、アキ」

「よかったです。ヒロカズさんに褒められてしまいました」

「よかったですねぇ」とメイ。

「で、その時僕は、自責の念に囚われていて、それと同時に、一部の記憶に鍵が掛かっていることをようやく自覚し始める」

「それは仕方なかったと思います」とメイ。「十年という時は、必要だったんです」

「僕は何とか鍵を抉じ開け――それから、おじさんと和解し、この家へ戻ってきた」

「本当に、よかったと思います。それは」とメイ。

「殆どメイのお陰だったと思う。この十年、生きて来れたのはさ……」

「なんかしんみりするな」とアルト。

「いい話ですな」

「ちなみに、アキの手紙はおじさんのところで止まってたので、その時初めて手紙の存在に気付く」

「山になってたからな……」

「ずっと返事がないのによく送り続けてましたね、アキさん」

「返事がない方が燃えました」

「強いな、おい」

「まあでも、泣いちゃいましたけどね」

「そして……ミライが研究所を抜け出して……僕の所へ来た。ミライは、どこか母に似ていて、一部母をベースとした複製人間だと告げられる」

「まあ、事前にすげ替わった門番を目の当たりにしていなければ、信じなかったな、私は」とアルト。

「ミライ、何かある? いっておくことは……」

「特にありません」

「次。これが最後」

「私の番ですね」とアキ。

「そう。アキがこの街……いや、この家へやってきた。ようやく話が追いついたね」

「しかし、仲間が増えたもんだな」とアルト。「女は多いが……」

「まあ、ありがたいことですな」とバヌガス。

「別に戦争しようってわけじゃないんだからこれでいい。戦うといっても……僕が一人でケリをつけないといけないような戦いだし、多分、そうなってくるんじゃないかな」

「私も戦えるが」と黒衣の女――シアーがいう。

「それはそうだけど、僕が倒したいんだよ。僕を、こんな風にしたやつをさ」

「どちらにせよ、勇者の力が再度覚醒し始めたということを悟られれば、向こうから刺客が送られてくることもあるでしょうな。その時は、ワシや、彼女の出番もあり得る」

「まあ、それは……」

「例の、声の主を探すのも、あまり悟られないようにすべきじゃないか?」とアルト。「まあでも、本人にしか声が判らないから無理か」

「とにかく、いざとなったら戦えるようにしておくよ」と僕。

「お前、剣を振れるようにはなったのか?」

「まだ、試してない」

「試せよ」

「そうだな……それも追々……」

 棒じゃダメかな、と思う僕であった……。

↓で★やブックマーク、感想等をいただけると助かります。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ