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再始動勇者2

 ――降雨。

 一過性のものだと思い、そのまま、全身に浴びながら歩いた。

 よく、この世界に生れ落ちた意味を考える。

 そもそも、この世界とは、何だ?――それは虚偽にまみれた、酷く冷たいものだと感じる。

 父と母に教わった護るべき世界は僕を否定し、僕はその声に応える力を失った。

 世界にはずっと薄雲が掛かっていて、光が差すことは一度もない。

 十年――僕はずっと、そんな世界に生きていた。

 見る間に雲が晴れ――そしてその光の先に、誰かが居た。

「おーい」

 遠くから、手を振る誰か――。

 重そうな荷物を背負い、駆け寄ってくる。

「遠路はるばる、勇者を訪ねて来たんだ。良ければ勇者の家まで案内していただきたいのだが……」

「勇者は僕だが」

「おお、そうであったか。なら話は早い」

 水も滴る、いい女……。

 少しだけ見惚れたが、直ぐにどうでもよくなる。

「私はアルトリア。今日から勇者の仲間にしてもらうぞ」

 満面の笑みでそういわれる。

 僕は……思案して、「やめとけ」といい残し、踵を返そうとする。

「待たんか」

 手を――引っ張られる。

「お前に拒否権はない。ヒロカズ――であっているか? 名前は」

「合ってる」

「随分元気のない勇者だ……良い噂は聞かないが」

「だったら――」

「待て」

 ぐい、と引っ張られる。いい加減しつこいな……この女。

「私を仲間にしろ。これは命令だ、ヒロカズ」

 僕は腕を振り払い「勝手にしろ」といった。

「いったな? そうさせてもらうからな」

 めんどくさいやつと出会ってしまった、と思った。

 どうせこいつも、僕のことを責める人間の、一員だ。

 付きまとわれるのは、あまり気分がいいものじゃない。

「しかし、濡れてしまったな……」

「……」

「まあでも、晴れてきてよかった」

「……」

「無口だな。ヒロカズ」

「何を話せっていうんだよ」

「……成程……鬱屈した精神を持つ勇者か」

「喧嘩を売りに来たのか、お前は」

「アルトでいい」

「?」

「気軽に、アルトと呼べ」

「何が目的だよ」

「勇者に興味があってな」

「僕はそういう奴が一番嫌いなんだが」

「そういうな。別に否定しに来たわけではない」

「本当か?」

「ただ、見定めた結果、ダメだと思えは否定はするな」

「するんじゃないか」

「見定めるといっただろう。見定めもせずに否定するような人間なら、私もお前に嫌われることを甘んじて受け入れよう。しかしそうでないならそれで嫌われる謂れはない。お前は、お前を肯定する人間以外は嫌いなのかもしれないがな」

 なんだこの……腹立たしさは。

「残念ながら、お前はもう私を仲間にするといってしまった。今更反故にすることはできん」

「何度もいわせるな。勝手にしろ」

「ああ勝手にさせてもらう。そういったということを忘れるなよ。私のせいにされてはかなわん」

 なぜ僕は仲間になりに来たやつに、こんな風にいわれているのだろう……と思いつつも、自分の中の何かが少しずつ奮い立つのを感じた。

 それは今までにない経験だった。

「それで、家はどこなんだ?」

 街の門を潜るなり、アルトはそういった。

「家はない。泊まるなら、教会か、宿屋に泊るんだな」

「私はそれでいいが、お前はどうするんだ」

「さあ……」

「帰る家がない勇者、というのは初耳だな」

「……で、どうしたいんだ?」

「どうしたいも何も、私は勇者の仲間になりに来た。後は勇者に任せるさ」

 本気でいっているのか? それ……。

「勇者は、いないのと同じだぞ。その仲間になる、というのなら、止めはしないが」

「仲間になるといっている。そうだな……ヒロカズはいつも通りの勇者を演じてくれ。私がそれを判断する」

「……そうはいわれても、特にやることはない。金策をするか、気が向いたら魔物と戦いに行くかもしれないが……それに関しては、あまり芳しい結果は出ないと思ってくれ」

「剣が握れないという噂は本当だったか」

「正直、放っておいて欲しい、っていうのが本音だけどな……もう」

「そうはいかないんだ。お前には頑張ってもらわなければならない」

「何を、どう、頑張ればいいんだよ」

「それはこれから判る」

 自分には、もう、勇者としての劣等感しかない。

 普通の勇者であれば、この十年の月日があれば、何かを成し遂げていた筈だ――。

 しかし、自分には、何もない。

 目を凝らしても、そこに印はない。最後にそこに印がはっきりと現れたのが、もういつなのか覚えていない。

 後はもう、自分を待ち伏せているのは……勇者は終わりだよ、という一言だけだった。

 その一言があれば、僕は勇者を辞められる。

 とても簡単な話だと思わないか?

 とても簡単な話なんだよ。それは……。

「僕はもう頑張らないよ。多分ね……勇者という概念は、消失するか、あるいは別の、似て非なる何かへ移り変わる。僕の中にあるものは、ここで終わりさ」

「そこにあるのなら、終わらないんじゃないか?」とアルト。「お前が生きていて、そこに何かがある限り終わらないさ。それともお前は死ぬのか?」

「……」

 確かに、死ぬわけじゃない。死ななければ消えない。

 簡単な論理だ。

「とにかく、期待には応えられない」

「どれだけ頑なにお前が拒んでも、お前の中にそれはある。だから、期待にはいつか応えてもらう」

「できたらやってるよ」

「まだ、私はお前を理解しているとはいえないが、少なくとも、既に、周りの多くの人間達よりは、お前を理解し始めていると感じる。いいか? お前の周りの人間達は、間違っている。勇者というものを完全に勘違いしている。お前はその周囲の考える勇者像に合わせようとするばかりに、何の力も出せなくなっていく。呪われていくんだ……どうだ、近付いてきたか?」

「それはただ、人のせいにしてるだけだろ」

「お前は自分のせいだと思いすぎている。そもそもこれまでの勇者とお前の状況が違い過ぎていたとしたら、それを周囲が理解することはない」

「話にならないな。人のせいにしたって仕方ない」

「安易な正論にしがみ付くと正論に自分を潰されるぞ。馬鹿者が」

 何でこいつは、こんなに腹が立つんだろう……。

 街の人間に後ろ指を差されても、そんな風に思うことはあり得ない。

 まあ、いい……放っておけばいいんだから。

「――お、また無視か? 段々お前のパターンがつかめて来たぞ。私には、お前の考えが手に取るようにわかる。街の住民達ではこうはいくまい」

「そもそもそんなに僕に興味持ってないよ。誰も」

「おかしな話だな――そんな他人行儀な街人達の期待になぜ応えようとする? 勇者としての義務感か?」

「だから……そろそろ終わるんだよ」

「いや、始まるね」とアルト。「私が来たからには、お前は、勇者というものを始めざるを得ない。残念ながら、それが真理さ」

「真理? 真理って何さ」

「運命ともいう」

「やっぱり、話にならない……こんな話にならない奴は、初めてだよ」

「どういたしまして」

 もう絶対に喋らない。こいつの前で口を開かない。

 そう誓った。

 でもそれは無理だったし、こいつのいう運命は、正しかった。

 今になって、しみじみそれを感じるよ……本当に。

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