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再始動勇者

 思えば、失われた十年だったと思う。

 幸か不幸か、僕は、遠回りしたものの、色んな人の手助けもあって、この家へ帰ってきた。

 僕を陥れた何者かは、隠れ蓑を使い、常に勇者を監視し、そして、そうしながら、怪しげな研究を続けている。

 その何者かは、頭脳と品性を持ち、着々と、事を荒立てることもなく……水面下で世界の支配を拡げている。

 表向きな被害は皆無……。

 しかし、腕利きの宮廷騎士団達でさえ、既に敵の手に堕ちているのかもしれない。

 複製人間の研究が始まって、少なくとも十年。

 もう既に、城内の殆どの人間が、入れ替わっているのかもしれない。

 それは、ありえない話じゃない……。

「どうしたんだ。改まって……」とアルトがいう。

「これからどうするかを決める話をしたい。だから、今日は全員集まって貰った。シアーを含めてね」

 これはある種の回帰であり、一通りの、運命を司る仲間達の集結の完了を意味する会議である。

「どちらにしろ、新しく入ったアキにも、一から説明したい。ここから再スタートするという意味も込めて」

 こうして集まってみると……ハイクラスな人間ばかりだ。

 アルト、バヌガス、メイ、シアー、ミライ、そしてアキ。

 女性率は高いが、そういう戦いじゃない。

 力で暴れればいいというものじゃない。

 ――アキ?

 アキだって、何かしらの力を持っている。

 そんなこともわからないのか。

 一々説明しなければならないのか……。

「察するに、勇者とそのメンバーが、ついに本気を出すということですかな?」

「そう思ってくれ。バヌガス」

「ヒロカズのおじさんは入らないのか」とアルト。

「入らない……そう運命がいっている」

「今日のヒロカズさん、何か『入って』ますね」とメイ。

「自分の世界にか?」とアルト。

「一々運命というものから説明しないといけないか?」と僕。「まず、仲間の育成から入らなければならなかったか……」

「もういい、進めろ」とアルト。

 アルトは、あれからしばらくして、いつもの調子に戻っていった。

 アキと仲良くしている間に、何か吹っ切れたらしい。

「まず……状況を各自、鮮明に思い出して貰うため、一から順番に再確認する。いいな」

「――早くしろといっている」

「――あ?」

「いつもこんな喧嘩腰なんですか?」とアキ。

「これが正常なんです」とメイ。

「では、状況を説明しよう……まず、僕が当時十二歳の時……僕が、母を殺害した」

「それって……本当なんですか?」とアキ。「何度聞いても信じられないんですが……」

「事実なんだよ。ただ、その時僕は、誰かに、何か暗示のようなものを掛けられていた。そして……そいつが全ての黒幕だ」

「そういい切れるのか?」とアルト。

「今一番有望な説だ。他に何かあるのか?」

「まあ、その人物をとりあえずの黒幕としておいても、問題はないでしょうな」とバヌガス。

「母は死んだ、そして、母の遺体は、おそらく、墓から持ち出された。複製人間の研究に使われたんだ。だから、その技術によって生み出されたミライは母の特徴を持っている。ついて来れてるか? アキ」

「ちょっと……難しいですが……何とか」

「十年前はまだ、研究は始まったばかりだった。だからこの時点では、複製人間による侵略は起きていなかったことになる。アルトとバヌガスに訊きたいが、状況がおかしくなってきたのはいつからだ?」

「気付いたのは最近だな。どこの国も、戦争を起こそうとしているのは確かなようだったから……」

「どうあがいても、尻尾を掴めませんでしてな……こうしてヒロカズ君を頼りにしてきたわけじゃ」

「ミライ、完全な複製はいつ完成したかわかるか?」

「そのデータは、ありません。ですが私のデータから更に数年はかかったでしょう」

「とにかく、研究段階から、完成~複製人間によって各国の中枢がほぼ掌握され掛かるまで十年ということだ。最近の動きはどうなんだ? シアーさん」

「動きはないよ。どこの国も、あれから全く、気味が悪いくらいに何もない。私が、複製人間を殺してから」

「まあ、それについては幸運……と考えていいんだろうか」

「各国の信頼できる人間に、内部の人間に対して警戒するようには呼びかけてある。それと同時に、複製人間についてもそれとなく伝えてある。それが効いてるのかもな」

「いつの話だ?」

「ミライが来て、複製人間が判明したあたりだよ。最初に複製人間が殺されたことによる警戒もあっただろうが……とにかく、そのあたりのことは、我々は一応結託してやっている。お前はお前の出来ることをやればいい、と思ってな……実際、お前はお前で色々やっていたわけだから」

「わかった。そのあたりのことは任せるよ。確かに自分じゃどうにもできない部分だ」

「まあ、もうしばらくは硬直したままなんじゃないか? お前が黒幕を炙り出すまでは何とかこのままいきたいところだな」

「黒幕の件だけど……声だけははっきりと覚えている。だけど、姿がわからないんだ。どうしても」

「顔を見られないようにしていた可能性はあるな」

「そうかもしれない」

「十年前の、母親の交友関係は調べたか?」

「母の日記がどこかに残ってる可能性はある。書いていたならだけど」

「母親の知り合いを全員当たって話をして回れ。声で判るんだろう?」

「聴けば判る」

「決まりだな」

「じゃあ、話を戻そう。僕が、母を殺し、家に居られなくなって……シスター、メイにそこからお世話になる。アキと会ったのもその頃だな」

「はい」

「それからずっと……僕は燻り続けていた。十年……本当に長い年月だった」

「そろそろ私の番か?」とアルト。

「そしてアルトと出会った」

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