第八話
体を休めることに徹したゴールデンウィークも終わり、愛は初めて花屋に出る。初日だが自分は出勤しなければならないので一緒にはいけない。心配している自分をよそに、愛はスキップしながら初出勤に向かった。結さんには何かあったら連絡をくださいと、メッセージは送ったが、愛のことだからおそらく送られてくることはないとは思う。
愛のことも心配だがそれよりも心配なのは自分だ。いつもなら完璧に準備をしてから行動するのが自分のスタイルだったが、今回は片腕しか使えないこともあり、どこか準備不足のような気がしてならない。真心の体調がよくなかったこともあり、打ち合わせの時間も少ない。正直不安な要素が満載だ。
出勤の時間になり、真心の運転で会社に向かう。
うちの会社は大通りから少し中に入ったところの静かなところにある。父さんが目立つのが嫌いで、創作は静かなところだからこそ捗るらしいからこう言った立地になった。幸い駅は徒歩10分以内にあるし、少し出れば大通りで飲食店も多々ある。働く環境は悪くはないと思う。
会社につき、久々にあった社員たちと挨拶を交わす。人数的には30人ほどの会社だが、個人個人がかなり優秀なため、仕事の効率も生産性も高い。ここにいる人をほとんど雇ったのが自分であることがちょっとした自慢だ。そこに新しく仲間が増えるので今日は失敗できない。10人ほど入る会議室に新入社員6人は集まっていた。緊張しているのか、かなり静かだった。自分が入室すると目線が自分に集まった。
「採用試験以来だね。そんなに硬くならずに楽にして聞いて欲しいのだけど。そのために社長と真心、愛と一緒に研修旅行に行ってもらったんだけどな。」
真剣に聞いているのと、緊張して静かにしているのは違う。緊張しているということは様々な事柄が頭の中でごちゃごちゃになっていて、話は頭に入ってはこない。だからこそ、うちでは勤務開始を1ヶ月遅らせてでも、緊張感を軽減させるために、トップである社長たちと旅行に行かせている。
「緊張するのも無理ないか。今日が初日みたいなものだからね。僕とは歳の近い人たちばかりだから仲良くして欲しいんだけど。」
自分と同じで大学卒業してまもないか、専門学校を最近卒業した人ばかり。アルバイトとしては働いた経験はあるにしろ、実際に雇われて仕事するのでは、責任の重さが違う。
「真心のことは知っていると思うけど、まずは僕が誰なのか説明しないとね。渡邉寛、22歳。年齢は近いけど一応君たちの上司になるから。」
他にも、真心との関係性や、会社にほとんどこないことなどを説明した。もちろん、あまり踏み込んだことは話さない。最初は驚いた表情もあった。毎年同じような反応をされるので慣れている。まだ今年はいい方だ。昨年までは、自分よりも年上の人がいたためなんとなく気まずかった。
「一通り僕のことも知ってもらったことだし、本題に入るね。まずはプレゼントを配ろうかな。」
そう言って部屋の外にある段ボールを取りに行った。
「全社員に配っているけど大事にしてください。これ結構高いから。」
段ボールの中身は少し大きめのタブレットとこのためだけに父さんが作った特注のカバー、それとカバーの中に入るメモ帳だ。特注のカバーは入社時期によってデザインを変えている。
「これは自由に使ってもらっていいけど、タブレットには色々と制限をかけさせているから変なことはしないこと。手書き用にメモ帳も用意してあります。これからはいろいろなところでメモを取ることがありますけど、少しずつでいいから慣れていってください。気になることや気づいたことがあったらメモをちゃんと取れるように。疑問点などがあればタブレットの中にある連絡先に僕と君たちのこれから行く部署の上司のアドレスがあるからそこに送ってください。できるだけ答えられるようにするから、積極的にコミュニケーションとってください。」
すでに何かメモを取っている様子もあった。
そこから色々と説明を始めた。給料や休日のことなど、会社全体に関わることだけ。最初はメモを取っていいなかった人も周りを見てからメモを取り始めた。期待できるかな。そんな中自分は終始噛み噛みだった。
「これで全体の説明が終わりです。最後に僕に敬語は結構です。僕もこれ以降は敬語を使わないようにします。そのほうが話しやすいでしょ。これから、どうぞよろしくお願いします。」
自分は深々と頭を下げた。
「これから各部署の人が迎えにきてくれるから。名前を呼ばれたら、その人についていってね。」




