番外編 第三話
「じゃあ話を戻すよ。夫婦っていう関係以外にも言葉は大事なんだ。例えばさくらと隼人みたいな恋人同士。さくらとご両親の親子の関係。俺とさくらみたいな先生と生徒の関係。さくらが言ったみたいに人間はいろんな人とつながって生きてるし、1人じゃ生きていけない。それはもう死んでしまっている人もそう。俺はね2回家族を失ってるんだ。」
自分の突然の告白にさくらの顔が少し強張った。
「最初の家族はまだ自分が5歳くらいの時で鮮明には覚えてはないけど2人目の両親のことは今でも鮮明に思い出す。2人から自分はいろいろな言葉をもらった。それは2人が目の前からいなくなって2度と会えなくなったとしてももらった言葉は今の自分を支えてくれてる。言葉は使い方を間違ってしまうととても怖いものになるけど正しく使えば他の人を救うものにもなる。俺はね、言葉は薬だと思うんだ。正しく使えば病気を治す道具になるし、間違った使い方をすれば逆に体にとって毒になってしまう。強い言葉には力があるけど、その力に依存して知らない間に多用してしまう。薬も強いものには効果は大きくても依存性があるものが多い。正しく使わないと本当に危険なものなんだよ。でも、薬は病気を治したりするには必要不可欠だよね。言葉もそう。孤独から自分を救ってくれたのはたった1人の幼なじみの言葉だったし、これから自ら命を経とうとしたときに救ってくれたのは死んだ2人目の母さんの言葉だった。たとえ自分の身に何があったとしても自分が思いを込めて人に伝えたことはその人の中で生き続ける。」
少しタイムリーだったのかさくらは自分の顔を見て涙をじっと我慢していた。どこかで自分の死期を予感しているように。その顔を見た自分は少し冷静になって考えた。自分が言っていること、自分がさくらに対して話している内容。自分がさくらに対して話している内容に対してとんでもない罪悪感がこみ上げてきた。
「ごめん。こんな状態のさくらに話す内容じゃなかったかもしれない。この授業はおそらくさくらのためじゃなくてさくらを思っている人のためのものかもしれない。俺では病気は治せないし、さくら側の気持ちは体験してないからわからない。自分が死ぬことの恐怖もわからない。ほんとにごめん。無神経だったかも。」
自然に涙が伝う。心が痛い。未熟者で、あまり考えずに授業して、死を迎えるかもしれない大切な生徒に向けて。
「先生。泣かないでください。せっかくの2人だけの授業なんです。最後までお願いします。それに、今の先生の言葉は今の私にちゃんと届いてます。無神経じゃありませんよ。おかげでちゃん病気治さなきゃって思いました。もっといろんな言葉を先生からも他の人からも聞きたくなりましたし、何より残したいって思いましたから。」
さくらの言葉で自分は涙が止まらなくなった。さくらから受けた優しさとまだ未熟な自分にする嫌悪感、拭い切れてない罪悪感からくる涙。自分は膝の上で強く拳を握っていた。さくらはその手をそっと包んだ。
「泣かないで。もっと先生から言葉がもらいたんです。これから生きていくために。」
自分は涙を拭い、頬を叩き気合を入れた。
「そうだな。先生が泣いてちゃ、何も教われないからな。先生がしっかりしないとな。よし、頑張るぞ。」
さくらの顔が少し笑った気がした。ここから授業を再開させた。
「さくら。俺はね、人間はタネを撒くものだと思うんだ。地球に自分の子を残すていうのもあるし、人間はそれ以外に自分の考えや思想、経験を人に伝えることも重要なんだ。人間の心を大きな野原だとしたら人の考えや思想を聞くとその野原に一つ種が植えられる。それが大きな木になるか綺麗な花になるかはわからない。でも、それを育てるのはその人次第。自分に必要と感じたらたくさん肥料をやったり水をあげたり大切に育てればいい。逆に必要でなかったら水をやらずに枯らせばいい。人は多くの人、環境から影響を受けて自分だけの野原を作る。そして、そこでできた種をまた他の人に植えてあげればいい。そうして人はどんどん繋がっていく。そのための言葉。そのための命だと思うんだ。俺はさくらたちとの授業でみんなの心に種まきをしているんだ。だから、俺の種はもうすでにさくらに少し撒いておいたからそれを育てるかはさくら次第。できればちゃんと育ててもらって、俺より長く生きて俺が死んだ後にいろんな人に伝えて欲しいかな。もちろん、これからもさくらたちにいろんな思想の種を撒いていくから。さくらたちからもらった種も自分の中でちゃんと根を張っているよ。」
「私たち何も先生に教えてないよ?」
「種って教えてもらうこと以外にもいろんなんところからもらうんだ。日常的な会話、授業中の発言、表情。いろんなところから俺はみんなから学んでる。むしろみんなから学ぶことの方が多い。単純に人数分って言うこともあるけど、みんな自分とは違った経験や、思想をしているからそれを人数分俺はみんなに教わっている。それはこれからも俺の中に残って大きなきか、綺麗な花になってくれる。さくらは名前の通り綺麗なさくらの木になるかな。春になるとかわいい綺麗な花を咲かせて俺の心の世界を彩ってくれる綺麗なさくらに。」
「先生。言葉が少し臭いですよ。」
「そうだったかな?」
さくらに向けて笑顔を見せる。もちろんこれが最後ではない。言葉に嘘はない。でも、どことなく悲しさがこみ上げてくる。
「ありがとう、先生。もし自分が死んでしまったとしても自分のこと大切に覚えている人がいるだけでこんなに嬉しいことはないよ。今の自分がやらなきゃいけないことも見えた気がする。でも、私は病気になんか負けないから。負けてられない。私、大きくなったら先生みたいな教師になりたいな。知識を教えるだけでなくて、生き方を教えられる先生になりたい。」
「なれるさ、きっと。俺なんかよりもっといい先生になれるよ。さくらは他の人とは少し違う経験をしてるから、病気で悩んでいる子にもその他の子にも、とても大きな優しさを持てるすごい先生になれるよ。さくらの先生である俺が保証する。」
2人で顔を合わせ笑い合った。すると時間はもうすでに9時になろうとしていた。
「そろそろ時間だね。じゃあ、授業で待ってるよ。」
「はい。先生の授業を楽しみにしてます。」
さくらの頭を撫で、席を立った。病室の扉に手をかけるとさくらに呼び止められた。
「先生。ありがとうございました。」
自分は振り返り、
「こちらこそありがと。じゃあ、またな。」
そうして自分は病室を出た。
これで彼岸花編完結です。
長い間、お付き合いいただきありがとうございました。




