第三十一話
さくらの葬儀は1週間後に行われた。隼人も自分もあまり交流がなかったであろう愛も参列した。隼人の両親からの連絡でどうやら隼人はずっと部屋に引きこもってまともに食事も睡眠もとっていないらしい。無理もない。中学生とはいえ、最愛の人が亡くなったのだから。むしろ中学校という多感な時期プラス、まだ自分の世界が広くない時だ。精神的ダメージは計り知れない。
「寛くん。ちょっと良いかな?」
日向さんに呼び止められた。あまり医師の方はこういった葬儀には参加しないようにしているらしいがさくらと日向さんは友達のように仲が良かったらしいので日向さんも参列していた。
「君のいう最悪な事態になってしまった。申し訳ない。」
「頭をあげてください。さくらも日向さんのこと恨んではいないと思います。生前のさくらが言ってましたよ。日向先生との時間は楽しいって。自分なんかに謝るんじゃ無くてさくらに精一杯感謝を伝えましょ。笑顔が似合う子でしたから。」
「そういってもらえるとずいぶん楽になるよ。」
日向さんは自分に近づき手を強く握った。
「お願いだ。さくらちゃんが大切にしたかったものを救ってくれないか?」
「大丈夫です。こうなることは望んでいませんでしたけど、準備は出来てます。さくらからの願いでもありますから。」
自分の役割はここから。望んでやることではないし、やりたくなかった。でも準備はしていた。残される人のために。日向さんと別れ、隼人を探す。
「隼人。」
自分は隼人を呼び止めた。
「・・・。」
隼人からの反応はない。隼人は以前と比べかなり痩せていた。目のくまもひどい。
「ほら隼人。渡邉先生だよ。」
隣にいた隼人の両親が自分の存在に気づき隼人に教える。それにも隼人は無反応だった。
「お母さん大丈夫です。少し隼人と2人で話したいので隼人借りて行って良いですか?」
隼人を連れて少しだけ人が少ないところに移動した。
「なんでそんな冷静でいられるの?」
少し驚いた。まさか隼人の方から話しかけてくるとは思わなかった。
「冷静に見えるか?」
「そうだよ。」
「そうか。多分俺たちの違いは、さくらと過ごした時間と、関係性。それと俺の経験かな。なれて良いものではないがかれこれ俺自身もかなりこう入ったことは体験してるからな。」
「・・・。」
「でも最も大きいのはさくらの状態を俺が知っていたということだな。」
「知っていたんだ。」
「ああ。正確にいえば知ってしまったかな。」
「なんで教えてくれなかったの?」
「知ってどうした?何かできたか?俺らは医者じゃない。さくらは医学の知識と経験のある人間でしか救えなかった。俺らはさくらの病気については何もできなかった。」
「そうかもしれないけど・・・。」
きつい言葉だったかもしれない。他の人から見れば心ない言葉にうつるかもしれない。
「隼人。帰るよ。」
隼人のことを迎えにきた親御さんが隼人を連れて行った。
「そうだ。隼人今度の授業きてくれないか?ご両親も一緒に。渡さなきゃいけないものがある。」
「今じゃダメなの?」
「ダメだな。さくらとの約束だから。」
「わかった。」
そう一言残して隼人は家に帰った。葬儀後さくらの両親と話す時間があった。さくらの両親は自分に何度も頭を下げて感謝を述べてくれた。
「ありがとうございます。日向さんから聞きました。さくらのために授業を引き受けてくださったって。」
「いいえ。きっかけはさくらですけど、自分が望んでいたものでもありました。自分もさくらには感謝しかありません。さくらには本当に大きなものをもらいましたし、過ごした時間はかけがえのないものでした。」
「そうですか。渡邉先生が授業をしだした頃からさくらの笑顔が増えて行ったんです。楽しそうに話すあの子のことを思い出すと・・・。」
さくらの母親は泣き出してしまった。
「そうですね。さくらは一番自分の授業を楽しみにしていてくれていたと思います。いつも笑顔で楽しそうでした。まだ自分の授業を見たことありませんでしたよね?今度授業をするのできていただけませんか?さくらがどんな授業を受けていたのか一度体験してください。少し変化球な授業になりますけどきっと何か感じていただけると思います。」
「そうですね。わかりました。お願いしますね。」
「頑張ります。」
さくらの両親に一礼をして、会場を後にした。
帰り道にて。
「愛。お願いがあるんだけど。」
「何?涙でも受け止めようか?」
「それは自分の役割が全部終わってからに開いて欲しいな。きっと泣いちゃうから。それよりも今は気合を入れるために背中をおもいっきり叩いて欲しい。」
「よし。なら覚悟してね。」
自分からは見えないが自分が想定しているより腕を振りかぶっていた。乾いた音が辺りに響いた。
「痛ってぇ。」
あまりの痛さに声を出してしまった。
「やるにしても限度ってもんがあるだろ。」
「おもいっきりって言ったのはそっちでしょ。」
「そうだけども。」
「どう気合は入ったんじゃない?」
「そうだね。ありがとさん。」
家に帰って服を着替えていると背中を見た真心が心配して話しかけた。
「どうしたのそれ。真っ赤に腫れて。」
ことの経緯を話したら、
「なら私も気合入れてあげるね。」
自分の頭じゃ理解できないことを言われた気がするがまさかそんなことしないよなと思ったら、真心は大きくて振りかぶってまた乾いた音が家中に響いた。




