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第二十二話

数日後にはすでにみんな書き終え自分が渡したい相手に渡した。驚いたのは自分宛に隼人たちが書いてくれたことだ。日頃の感謝を述べたもので隼人に関しては少し苦情のようなのもあったが嬉しかった。だがさくらの手紙から知りたくない情報まで入ってきた。そのことに関して日向さんとアポイントを取り、自分のために時間を取ってもらった。


「そろそろだと思っていたよ。」


「あらかじめ聞くことを拒否していた自分が悪いです。ここにきた理由がわかっているということはそうなんですね?」


「さくらちゃんのことだろ?そうだよ。彼女が君に教師を頼んだ理由で、君が聞くのを拒否していた子だよ。その様子だとわかってなかったみたいだね。」


「さすがに病気の子を推測して当てることは不可能です。皆さんみたいなプロではないですし、自分の中では医学の知識は本の中のものですから。そんなことよりさくらはどうなんですか?」


「そんなこと聞いてどうするの?」


部屋の外で聞いていた秘書の佐藤さんが話しかけてきた。


「その情報を知ったところで何があなたに変えられるの?それを聞いていい方向に向かうの?あなたが最初に言っていた平等に接することができるの?」


「佐藤くん、言い過ぎだよ。」


佐藤さんのいう通り。正論だ。でも自分にも譲れないことがある。


「佐藤さんがいう通りおそらくできないと思います。どこかさくらに対して接し方だったりが微妙に変わってしまう。」


「じゃあなんで?君は意味のないことを聞く人間じゃないと思っていたんだけど。」


「隼人のためです。あくまで日向さんの表情から読み取れる推測ですが、さくらの状況はあまり良くないんですよね?最悪のことを考えた場合さくらを失った時のあいつの行動がいいものになるとは到底思えない。それを止めるのは命を救う先生方ではなく、人を育てる先生である自分の役割です。」


真っ直ぐ佐藤さんの目を見て話した。知らぬ間に流れていた涙が頬を伝いながら。


「佐藤くん、ここまでいうのだったらいいんじゃないかな?寛くんにも覚悟する時間は必要だとは思うよ。準備も必要だしね。」


「私に決定権はありません。日向医院長がお決めになることですし。ただ、少し残念だっただけです。この人はどう転んでもまだ青臭いガキだということが。もう少し冷静に考えて、感情的にならない人だと思っていましたから。」


「佐藤くん!」


あんなに声を荒げる日向さんは始めてみた。


「すみませんでした。外で頭冷やしてきます。」


そう言い残すと佐藤さんは部屋から出て行った。


「すまない。僕の秘書が失礼なことを。佐藤くんは何か君に期待している部分があってそれが自分の思い描くような人間でなかったのかな?後で言っておくから今回の件は流してもらえないかな?」


「いいえ、佐藤さんのいうは正しいです。自分はまだ若いですから、いろいろな物事に対して幼稚なもの思想も多いと思います。さくらの病気のことを聞いて自分には何もできませんから。」


「仕方ないじゃないか。君は医者ではないのだから。」


「そうなんですけど思い出すんです。2人目の母親のこと。あの時自分が本当の息子だったら何かできたんじゃないかって。もし、血液型が母と一緒だったらって。母に対して何もできなかった自分がどうしてもちらつくんです。でも、今の自分なら残された人には何か力になれる。医者ではなくても、命は救えなくても。だからこそ今回は隼人たちのために力を使いたい。だからこそあらかじめ自分は知っておく必要があるんです。」


今の精神状態で結果を受け入れることができるかは定かではない。でも今回は自分よりも大きく傷つき、絶望してしまう人がいる。


「わかった。そこまでいうなら話そうか。さくらちゃんの容体のことだよね?君が感じている通り、さくらちゃんの容体は良くない。ドナーの検討もついてないし、抗がん剤の投与もスタートはいるが効果があまり期待できない。最悪の場合もって後数ヶ月。長くても1年弱だよ。個人情報だからあまりこう言ったことは言わないようにしているんだけど君たちの関係性を見ていたらね。さくらちゃんのご両親も君に感謝しているみたいだし。他言無用でお願いね。」


自分が思っていた通りだった。まだ確定はしていないし、ドナーだって見つかる可能性も十分ある。でも、今の自分がやることはおそらく最悪の場合の準備をすること。隼人にとって。さくらにとって。


「わかりました。自分は先生方を信用しています。だから、最悪の場合を考えるのは自分1人で十分です。先生方は命を救うことに集中してください。そうなってしまった時は自分に任せてください。保護者も隼人も、もちろんさくらも。僕の役割がないことを願います。失礼します。」


そう言って自分は医院長室を出た。外で待っていた佐藤さんが話しかけてきた。


「さっきは言い過ぎたごめんなさい。」


「謝らないでください。自分でも感じていたことなんで。」


「あなたと私は似たもの同士だと思っていたけど、違うみたいね。」


「そうですね。佐藤さんより若干自分の方が若いですし、守りたいものの範囲も違うかもしれません。言い返すわけではないですけど佐藤さんあまり社交的とは思えませんしね。自分の方がよっぽど人付き合いは上手です。」


「あなたに、人間関係のことで勝てるとは思ってないわ。だってあなたは、一つの会社を束ねてる人だからね。」


「別に自分が束ねているわけではないです。実際の社長は父です。自分はアシストしてるだけですから。」


「色々と知っている人間にとってその発言は嫌味以外のなんでもないわ。他の会社との関係を最初に構築したのはあなただし、いろいろな業種の人とのパイプがあることも知ってるから。」


「佐藤さんはどこまで知ってるんですか?怖くてたまらないんですけど。」


佐藤さんはその質問に答えず、ただただ笑顔で答えた。


「それでは時間なので失礼します。色々と準備したいこともあるので。」


「期待外れだったけど後悔はないようにしなさいよ。あんたの頭に1人の命が乗っかっているんだから。」


「佐藤さんって本当は優しいですよね。そう言ったところも本心が見えてこないから怖いんですが。」


複雑な精神状況の中でできる精一杯の笑顔で佐藤さんに答えた。気合を入れるために全力で頬を叩いた。その音が病院内に響いた。びっくりした人もいたみたいで頭を下げながら花屋に戻った。


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