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第47話【伝説の将軍】

座禅を組む達磨大使の前に宝石で飾られた魔剣が置かれていた。


その魔剣を挟んで向かい側に俺とクレアが腰を下ろしている。


今は互いに剣を納めて平和的に話し合っていた。


椅子などがない殺風景な部屋なために俺は胡座で腰掛け、クレアは石畳に正座で座っている。


『おい、爺さん、座布団ぐらいないのかよ?』


「ないっ!」


『俺はともかくレディーに対して失礼だろ。クレアの綺麗な生足が傷付いたらどうするんだ』


「まだワシも引っ越してきたばかりで、座布団すらないのじゃよ」


『じゃあ、昼飯は引越蕎麦で構わんぞ』


『この世界では、蕎麦なんて贅沢品じゃぞ。そんなものがここにあるか!」


『じゃあ、何なら出せるんだ?』


「白湯だけじゃわい!」


そう言うとハゲジジイは湯呑みを直接的に火の魔法で暖め始めた。


「ほれ、白湯だ。これで我慢せい!」


『あちち、湯呑みごと温めるから、熱くて持てないじゃねえか!』


「あー、もー、このゴーレムはいちいち五月蝿いな。黙って飲めよ!」


『あっ、忘れてた。俺、ゴーレムだから熱さも感じないし、白湯も飲めないんだった……』


「ざけんなよ、この木偶の坊が!!」


ここでクレアが割って入った。


「そんなことよりも伺いたい、老師殿」


「なんじゃい、ダークエルフの娘?」


「私の名前はクレア。こちらの木偶の坊がアナベルと申します」


『誰が木偶の坊じゃ!』


「それで何が訊きたい、クレアとやら?」


「もしかなされると、あなた様は武芸武術だけでなく、白や黒魔法から冥府魔法まで取得なされたと言う、伝説の将軍ヨハン・レビル殿ではないでしょうか?」


『ヨハン・レビル?』


えっ、なに?


将軍様なの?


しかも伝説級の?


もしかして、このハゲジジイってかなりの有名人なのかな。


すると座禅を組んだまま背筋を延ばしたハゲジジイが偉そうな口調で返した。


『いかにも、ワシがヨハン・レビルじゃあ』


「やはりそうでありましたか……」


俺はクレアに顔を近付けると耳打ちするかのようにテレパシーで問う。


『誰なん、そのヨハン・レビルってさ?』


「異世界から転生してきたばかりのお前では知らなくても仕方ないか。この御方は人類最強と呼ばれた冒険者で武術魔術に引い出ており、冒険者を引退したあとには連邦共和国で将軍の地位まで昇りつめた人間だ」


『要するに、スゲー人なのね』


「そうなる」


『それで、なんでそんなスゲー人が、こんなダンジョンの三階に居るんだよ?』


「それはワシから説明しよう」


「『宜しくお願いします」』


俺とクレアは深々と頭を下げた。


「ワシは数年前に将軍の地位を捨て冒険者に戻ったのだ。もう王族の権力抗争を見るのにやきやきしての。だからまた、冒険者になって残りの人生を不老不死になるための研究に費やし始めたのだ」


こいつも不老不死か……。


先代傀儡の魔女マリアンヌと一緒だな。


「ほら、ワシって強いじゃん。だから権力に頼らなくっても不老不死の研究ぐらい出来るってわけなのよ。それに人としての寿命が足りなくなったら冥府魔法でリッチに変化しちゃえばいいじゃんか。そうなると人と暮らしていると問題が多くてな」


えぇ~~……。


こいつ時間稼ぎのためにリッチになるとかならないとか言い出してますよ。


その辺はマリアンヌよりゲス野郎だな~。


「まあ、そんでもって、このジャブロー迷宮の奥地なら不老不死のヒントや、最悪リッチ化して住み着くには悪くないかなって思ってさ。それで引っ越してきたわけよ」


『おいおいおい、そんなくだらない理由で村の人や兵士が死んだのかよ!』


俺が少し凄んだ感じでテレパシーを飛ばすと、ヨハン・レビルは表情を引き締めながら返した。


「このヨハン・レビルは元々が軍人だぞ。戦場で罪があろうがなかろうが多くの兵も民も殺してきた。挙げ句は冥府魔法にまで手を染めた外道だぞ。今さら数人の被害者が出たことで心を痛めるほど可愛らしくも老けていないわい!」


真っ直ぐ俺を睨む視線が威圧的だった。


怒りをぶつける眼差しではない。


冷めきった氷のような眼差しだった。


冷めた常識の中で生きてきた奇人の眼差しである。


まるで数億人も殺してきた殺人鬼のような眼差しだった。


ヨハン・レビルの言葉が続く。


「それと貴様は先程ワシに、責任を取れともうしたな。それすなわち、ワシに貴様が責任を取らせられるだけの実力があるとでも言いたいのか?」


「うう……」


沈黙──。


ジジイの言う通り、俺にはこのジジイに責任を取らせるだけの実力はない。


ないどころか、先程の沈黙の僅かの間に再び攻撃されるイメージを叩き付けられている。


座禅から素早く立ち上がっての正拳突き、下段廻し蹴り、空手チョップ。


それら三打を瞬時に打ち込まれるイメージだった。


そのイメージに対して俺は反撃どころか回避も防御も出来なかった。


全弾、無抵抗のまま着弾している。


結果、身体はバラバラだ。


木っ端微塵に粉砕されている。


イメージの攻防だけだが、やはり手足も出せなかった。


「イメージの世界で勝てぬのに、実践で勝てるとおもうたか?」


『お、思わん……』


「だろうな。それでは何故にワシがお前らを生かしているか分かるか?」


えっ、やっぱり殺す気だったのね!


『分からんな……』


そう、おそらく逃げても逃げきれないだろうし、殺そうと思えば容易く殺せただろう。


ヨハン・レビルは顎髭を撫でながら言う。


「それわな、ゴーレム。貴様が希に見る転生者だからじゃ」


転生者を知っている!?


『あんた、俺が転生者だと分かるのか!?』


「この世界に引越蕎麦なんて風習はない。それにしゃべれるゴーレムなんぞも居ない」


『ばれたら仕方ないか、俺は転生者だ!』


あ~、も~、焼け糞だ!!


どうにでもなれってんだ。


「じゃあ、何故にワシが転生者を殺さないか分かるか?」


『それは分からんな……』


「異世界転生の陰には必ず神や女神が存在する。そやつらに近付くチャンスだからだ」


『近付くチャンス?』


「ワシの願いは不老不死。即ち神のような永遠だ」


『それで神や女神の存在を探りたいと?』


「貴様も神からこの世界に送りこまれてきたのだろ、ワシと同じで!?」


こいつも転生者なのね……。


『んん~~』


俺は顎に手を当てて考え込んだ。


『あまり覚えてない……』


「覚えていない?」


『死ぬ前は無職のニートでダラダラ暮らしていたのは覚えているんだけどね」


「うむうむ」


『なんで死んだのかも、なんでここに居るのかも分からないんだわ~』


「この世界に転生する直前に神とか女神に会わなかったのか?」


『そんな記憶は御座いませんがな』


再び三人の間に沈黙が流れた。


そして、結論が纏まったヨハン・レビルが苦悩を口走る。


「あー、もー、こいつ使えねー。なに、このゴーレム小僧は、使えねーぞ!!」


クレアが無慈悲に言う。


「やはり、そんな使えないゴーレムは、早々に処分ですか?」


『えっ!!』


なに、この子!


ここに来て裏切りですか!?


「いや、今回だけは見逃してやる。ただし、アッバーワクウ城に戻ってギルデン公に伝えよ。このジャブロー迷宮はヨハン・レビルが占拠すると!」


『えっ、それを伝言したら生かして帰してくれるのか!?』


「ああ、約束しようぞ」


『「ラッキー!』」


俺とクレアは両手を叩き合って感激していた。


これは完全に命拾いしただろう。


まさにラッキーである。



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