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第42話【怪奇の潜伏】

俺が残りのオーガゾンビ三体を倒したところでクレアが背後からやって来た。


ウィル・オー・ウィスプの明かりで周囲が照らされる。


「アナベル、始末は済んだか?」


クレアは顔面から煙を上げるオーガゾンビの顔を覗き込みながら訊いてきた。


俺は手首をブラブラと振りながら答える。


『ああ、終わったぜ。クレアは出入り口のヤツを始末したのか?』


「ああ、済んだ。後で出入り口に挟まっている死体を引っ張り出してくれ」


『やっぱり力仕事は俺なのね~』


「当然だ」


俺が違和感に軋む右手をグーパーグーパーしながら話していると、視線を俺の手の平に向けたクレアが訊いてきた。


「先程、地雷魔法陣を使っただろう。爆音が私のところまで届いていたが、また指がイカレたのか?」


俺は俺の手の平を眺めながら返した。


『ああ、また小指の動きが可笑しくなったよ……』


「火力が強すぎなのだろう?」


『いや、でもこのぐらいの威力は欲しいからな。ならば俺の耐久力をアップさせるほうが賢明だろうさ』


「分かった。今度は貴様の部位の構造の検討をしてみよう。素材を替えれば強度も上がるだろうからな」


『まあ、その辺の話は帰ってから検討だな~』


続いて俺は声を弾ませながら言った。


『そんなことよりも~』


俺はスキップでクレアに近付いた。


そしてクレアの眼前に自分の頬を差し出す。


『ク~レ~ア~、ご褒美のチュ~して~♡』


そうである。


オーガゾンビをすべて倒したらチューをしてもらえる約束なのだ。


俺が浮かれながら問うとクレアはサラリと述べた。


「良かろう」


マジだ!!


マジでクレアが俺に愛の溢れるキッスをしてくれるんだ!!


なんか詰まらない言い訳でジョークとか言い出すかと思っていたが、本当にキスしてくれるようだ。


もう、超興奮してきたぞ!!


って、俺が浮かれていたら、クレアは自分の人差し指に口付けすると、その人差し指で俺の頬を軽く触れた。


「これでいいか?」


『えっ、なに、それ、そんなので終わりなのっ!?』


「終わりだ」


『ズルい、約束と違うぞ!! 子供じゃあないんだから、そんなので騙されるか!!』


激昂する俺とは異なり冷静なクレアは深い溜め息を吐いて俯いた。


「仕方あるまい。今の貴様はゾンビからの返り血で全身が汚いのだ。そんな貴様に口付けなんぞしたら、私が変な病気になるではないか」


『え~、やだヤダやだ! 生唇でキスしてくれなきゃあヤダっ!!』


「それじゃあ、帰って体を洗ったらだな。それまで我慢しろ」


『本当に……?』


「ああ、本当だ」


『本当に本当だろうな!?』


「ああ、約束は守る」


『うひょ~~んっ♡』


機嫌を直した俺は両手を上げながら小躍りした。


『わーい、わーい、キッスだ~、キッスだ~♡♡♡』


機嫌を直した俺は近くの死体に刺さったバスタードソードを引き抜くと背中の鞘に戻した。


『じゃあ、さっさと帰ろうか。帰ってギルデンのおっさんに報告して仕事は終わりだぜ。そして洞窟ハウスに帰ってチューだ、チュー!!』


「何を言ってるのだ、アナベル」


『へぇ?』


「帰るのはまだだぞ。まだネクロマンサーの捜索が終わっていないではないか」


『ええ~~、マジでネクロマンサーの捜索なんてするの~』


「少なくともこの階だけでも探索すると言っただろう」


『ちぇ……』


あー、もー、こんなところだけは真面目なんだから~。


俺はさっさと帰ってチューしてもらいたいのにさ~。


『しゃあないか……。それじゃあとことん付き合ってやるよ。その前にアーティファクトリペアで指を治してくれないか』


「分かった」


クレアが魔法で俺の指を治しながら訊いてきた。


「手足の地雷は、あと幾つ残っている?」


『手足は左足が残ってる。予備の札は使いきった。あとは貼ってある爆弾だけだ』


「まあ、この階を探索するだけだからな。暗器の武具もそんなに要らないだろう」


『二人でコンビを組めば、どんな敵が現れてもへっちゃらだぜ』


「だと良いのだがな。よし、魔法で修復終了だ、先に進むぞ」


『了解~』


そんなわけで俺とクレアはダンジョンの奥に進んで行った。


そして、大広間の奥に一つの通路を見付けると、その手前でクレアが足跡を探る。


俺はしゃがみ込むクレアの背後から訊いた。


『どうだ、クレア。何か分かったか?』


通路の床を指で探りながらクレアが答える。


「この先にォーガが進んだ痕跡は皆無だな。生きている時も死んでからも、この先にォーガが進んだ痕跡がない。ないが──」


クレアの声から険しさが伝わってくる。


『ないが、どうした?』


「オーガが進んだ足跡はないのだが、別の人物が進んだ足跡が残っている」


『人間か?』


「足のサイズ的には人間の大人だ。おそらく男性だろう」


『何人だい?』


「一人だ」


『じゃあ、この奥にネクロマンサーが一人で潜んでいると?』


「おそらくな。しかし、疑問点がある」


そう言うと通路の奥を睨み付けながらクレアが立ち上がった。


『疑問点って、なんだよ?』


クレアはポニーテールの後ろ髪を肩から払うとクールに答えた。


「足跡を残した人物は、この通路を一度しか通っていないのだ」


『一度だけ?』


「要するに、たった一度だけ、ここを通って奥に進んだだけだ。その後は一度も引き返していないのだ」


『入ったきり、出て来てないってことなのね』


「そうなる」


俺は腕を組んで考え込んだ。


だが、分からない。


進んだきり、戻って来ない。


要するに、どういうことだ?


推測できる状況は、奥に進んで平和に暮らしているか、奥に進んで死んでしまったかだ。


一番可能性が高いのは後者だろう。


『要するに、奥に進んで地下三階を目指して死んでしまったのかな?』


「可能性は低くはない」


『でも、たった一人で地下三階に挑むか、普通よ。だって地下三階は進んだ者が帰ってこないってほどの難所なんだろ。そこに一人で挑むって可笑しくないか?』


「可笑しいな。もしも奥に進んだのがネクロマンサーならば、普通はゾンビたちを引き連れて行くのが戦略だろう」


『ならば、地下三階に挑むのが目的じゃあねえな。ここらにゾンビを残して行ったところからして、籠城が目的か?』


「その可能性も充分あり得る」


だが、何故に籠城なんてするんだ?


疑問だ。


『まあ、奥に進んで当人に訊くのが一番早そうだな~』


「だな」


『それじゃあ、進もうか~』


「そうだな」


俺はクレアの返事を聞くと、さっさと通路に進んで行った。


俺が先頭で通路を進行する。


俺が懇願するのは、とっとと探索を済ませてクレアのキッスを貰う事である。


なので時間が勿体無い。


とっとと先に進んで、こんな冒険の真似事なんで、さっさと終わらせたいのだ。




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