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第37話【迷宮の一階】

石造りの階段が下に伸びている。


人が一人ならば悠々と通れる幅であるが、二人だと少し狭い感じの階段通路だった。


俺が下る階段を上から覗き込んでいるとクレアが言う。


「間違いない。オーガゾンビは、この中に下りて行ったな」


クレアは迷宮の入り口周辺を観察しながら言った。


足跡を探っているのだろう。


入り口のサイズからして、3メートルのオーガだとギリギリ通れるだろう広さの階段通路であった。


唐突に話は変わる──。


これは、ここまで来る道中でクレアから聞いた話であった。


この西の迷宮はジャブロー迷宮と呼ばれる古代の魔術師が作ったダンジョンらしいのだ。


ダンジョンの深さは地下三階まで冒険者によって確認されているが、それよりも深いかは確認されていない。


主に地下一階はゴブリンたちの巣で、地下二階がオーガの巣になっているらしい。


地下三階からは不明である。


地下三階から、それ以上進んだ冒険者が居ないからだ。


何故に居ないのか?


それは、挑んだ冒険者たちが帰って来ないからだ。


一階はゴブリン討伐で時折冒険者たちが清掃しにやってくる。


二階はオーガ退治として腕試しの冒険者たちがやってくる。


しかし、三階までは挑まない。


要するに、三階からは格段とレベルが上がるのだろう。


故に、この辺の冒険者たちは死ぬ覚悟がなければジャブロー迷宮の地下三階にはチャレンジすらしないのだ。


だからこそ一攫千金が眠っているとも言われているらしい。


『それでぇ、マジに入るのか、このダンジョンによ』


俺がダンジョンの入り口を覗き込みながら言うとクレアが当然だと言わんばかりの表情で答えた。


「当然だ。入るぞ」


あっ、マジで当然って言いやがったぞ……。


俺の予知能力が当たったぜ。


「ただし、地下二階までだ。地下三階までは進まないぞ」


『地下二階までにネクロマンサーが見つからなかったら?』


当然の質問だ。


そう言う可能性も高いだろう。


そもそもこんなところに住み着こうなんて考えるネクロマンサーだ。


そのぐらいの覚悟で引っ越してきていても可笑しくない。


クレアが地下に進む階段に一足踏み込んだところで答えた。


「地下二階範囲内でネクロマンサーを見つけられなかったら、それはそれで探索終了だ。帰るぞ。ギルデン公には、そのまま正直に報告する。後はこの土地を納める領主の問題だ。自分の問題は自分で解決するだろう」


『あっさりしているな……』


でも、クレアが土壇場でちゃんと引き返せるだろうか?


何か興味を引かれる物が出てきたら、おそらく引き返さないぞ、この娘は……。


特に美少年グラビアが売っている本屋がダンジョンの三階に有ると知れたら、間違いなく絶対に引き返さないだろう。


それだけは間違いない。


逆に三階より下にアダルトショップが新装オープンするとか言ったら、今度は俺が引き返せない。


その辺は俺もクレアも悲しいかな同類だろう。


『それで、ネクロマンサーを見付けたら、どうするんだ?』


「まずは話し合いだろうな」


『話し合いが決裂したら?』


「事情によっては殺し合いに発展だろうな」


『やっぱりそうなるよね~』


とりあえず方向性は固めておく。


「では、入るぞ」


『いざ、ジャブロー迷宮に突入か~』


クレアが先頭で迷宮に下りて行った。


俺も続く。


やがて直ぐに上から射し込む太陽光が弱まって光が途絶えた。


だがしかし、俺には暗視の魔眼がある。


左目の視力だけが闇に溶け込む事なく階段通路を視界に納めていた。


薄暗い壁を這うムカデの姿まで、はっきりと見えている。


すると先頭を進むクレアが唐突に呟いた。


「暗いな」


そして、クレアが光の魔法を唱える。


野球のボールサイズの光る球体がクレアの上を飛び交い始めた。


たぶん光の精霊のウィル・オー・ウィスプだろう。


『あれ、クレア。ダークエルフって暗視があるから暗くても見えているんじゃなかったのか?』


俺も暗視魔眼スキルをボーナスポイントで取ったぐらいだ。


俺が暗視魔眼を有していることはクレアも承知である。


クレアは自分が呼び出した光球を眺めながら言った。


「我々ダークエルフの暗視能力は、貴様の暗視魔眼より性能が低い。星や月程度の光が必要なのだ。まったくの暗闇だと利かないのだよ」


そのための明かりらしい。


『あら、そうなの。俺の暗視魔眼のほうが性能が良いんだ~』


知らんかったわ~。


俺たちが話ながら地下へ下っていると、平たい地面の部屋に出た。


石畳の広い部屋だった。


だが、上の遺跡同様に荒れている。


『どうやらここから地下一階のようだな。まずは唐突に大部屋か~』


俺が周囲を見舞わせば、何もない広い部屋だった。


だが、薄汚れている。


床を見れば何かの骨が散らばっていた。


室内は廃墟に近い。


高い天井、太い岩の柱、天井が崩れて出来ただろう岩山の残骸。


部屋の広さは先が見えない。


俺の暗視魔眼も100メートル先までは見えないようだ。


この部屋は、そのぐらい広い。


そして、俺とクレアが大部屋に踏み込むや否や室内のあちらこちらから不気味な呻き声が聞こえてきた。


続いて人影が柱や岩山の影から歩み出て来る。


『おやおや、住人のお出迎えだぞ、クレア』


「アナベル、それは正確な表現ではないな」


『じゃあ、なんだ?』


「元は住人だった連中のお出迎えだな」


「なるほどなるほど」


物陰から姿を表した人影は、歪な動きで歩いていた。


頭をフラフラと振り、だらしなく歩いてくる。


そして奇怪に呻いていた。


それもそのはずである。


歩み出てきたのはゴブリンだ。


しかし普通のゴブリンたちではない。


俺は見立を口にした。


『こりゃ~、全員死んでるな』


そう、姿を表したゴブリンたちは死んでいる。


死んでゾンビ化したゴブリンたちであった。


ゴブリンゾンビだ。


俺は背中に背負った鞘からバスタードソードを引き抜くとクレアに訊く。


『それで、このチビッ子ゾンビたちをどうしますか、ショタコンスペシャリストのクレアさん?』


「すべて葬るに決まっているだろう。それに、これらは子供だとは認められないな。今の言葉は私えの無礼だぞ」


『おお、珍しく無礼だと自覚してくれるんだ~』


「黙れ、精神レベルだけがブタ野郎なゴーレムが」


『おおぅ……』


うほうほ、スゲーぞくぞくするぞ!!


ご褒美だ!!


本気の罵倒は、やはり一味違うぜ!!


「キョェエエエエ!!」


俺が感激に悶えていると数体のゴブリンゾンビが奇声を上げながら同時に飛びかかってきた。


俺の前方から三体のゾンビゴブリンが飛び迫る。


ゾンビなのに身軽だった。


『来るかっ!』


俺は前に大きく踏み込むと、両手で持ったバスタードソードを後方に振りかぶった。


そして、飛び迫るゴブリンゾンビにタイミングを合わせる。


『おらっ!!』


俺は横振りの一撃で三匹のゴブリンゾンビを切り裂いた。


『どうだ!?』


「ぐぇぇ……」


体の上下を真っ二つにされたゴブリンゾンビが床に散らばった。


上半身と下半身がお別れしたゴブリンは、それでも這いながら俺に迫ってくる。


『ゾンビなのに、活きがいいね~!』


俺は這い迫るゴブリンゾンビたちの頭を次々と割って行った。


だが、次々とゴブリンゾンビたちが物陰から姿を表す。


その数は無限のように思えるほどの大群である。


百や二百は居そうだった。


「下がるぞ、アナベル」


『了解、クレア!』


クレアが階段通路まで下がると俺が通路と大部屋の間に立ちはだかる。


『よ~し、ここで相手をしてやるぞ~』


戦略的ベストポジションだ。


大部屋の内部で戦えば全方向から同時にゴブリンゾンビを相手にしなくてはならない。


だが、狭い通路内では正面から一対一だ。


この通路の幅ならば、せいぜい二対一である。


一対多数ならば、狭いところで戦うのが定番の戦術だ。


俺もボッチの喧嘩でよくやった作戦である。


そして、俺の体力は無限だ。


何百匹を相手に戦っても疲れで押されることは皆無だろう。


一対一であれば、自分より弱いゴブリンゾンビぐらいなら、無限の数を連戦で相手に出来るはずだ。


故に、この戦いで敗北はあり得ない。


しかも後方にはフリーのクレアが控えている。


アーティファクトリペアや攻撃魔法で援護だってあるのだ。


遅れを取る理由が見当たらない。


皆無だ。


『どぉ~れ、ちょっと剣の練習相手になってもらおうかな~』


俺は生き生きしながらゴブリンゾンビたちと戦った。


戦況は楽勝である。



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