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第31話【地雷の暗器】

俺はアッバーワクー城から帰ってきた晩に、夜がふけるまで本を読んでいた。


クレアは自分の寝室で寝ている。


俺は睡眠無効スキルのために寝ないから、いつも夜はひとりで寂しいのだ。


『空手道馬鹿百段は何度読んでも面白いな~。まったく飽きないぜ!』


この小説を読むのは三度目だ。


この洞窟ハウスには娯楽が少ない。


クレアの書庫には勉強になる本はたくさんあったが、娯楽要素が高い本は稀である。


何かの間違いで迷い込んだぐらいでしかないのだ。


だから俺は空手道馬鹿百段を何度も何度も何度も読んでいる。


だが、流石に三度も読むと飽きてきた。


俺は本を閉じると夜の庭先に出て行く。


外は月と星が煌めく明るい夜だった。


森の中から虫の音が聴こえてくる。


でも、俺には月や星を愛でるロマンチックな趣味はない。


虫と語り合うマニアックな趣味もない。


なので、庭先に立つと大きく股を開いてズシリと腰を落とした。


空手を真似る。


両腕の肘から曲げて脇を閉める。


強く握りしめた両拳を腰の脇に添えた。


『空手道、体馬の構え!』


馬に股がるような構えから体馬の構えと言われているらしい。


または騎馬立ちと呼ぶ流派もあるとか──。


そんな風に、空手道馬鹿百段に書いてあった。


まあ、とにかくだ。


体馬からの~。


『ふんっ!!』


下半身はどっしりと踏ん張り固定したまま、腰と肩の回転の後に右腕を真っ直ぐ捻りながら正拳を突き出す。


その一打でバシンっと拳がなった。


拳を放った直後、衝撃に備えて全身を硬直させる。


『右中段正拳突きだぜ!』


続いて同じように左腕で正拳突きを放った。


俺は連続で左右の正拳突きを繰り出す練習を続ける。


『空手道馬鹿百段の主人公ゴンザレスは、左右の正拳突きを毎日千本ずつ特訓しているんだよな。本当に馬鹿だわ~』


あの小説がフィクションなのは、いくら俺が異世界に転生してくるほどに厨二病だろうとも分かっている空想だ。


しかし、あの小説内では、それが継続できてこそ、空手の達人に近付けると言っていた。


ならば、実験である。


真似してみよう。


俺には時間がある。


クレアが寝ちゃったら暇なのだ。


本ばかり読んでいられるほど俺は読書の虫ではない。


集中力も続かない。


ラノベだったら読んでられたかも知れないが、この世界にはラノベはないのだ。


真面目な小説ですら殆ど少ない。


だから、とにかく夜は暇になる。


『このまま朝まで正拳突きを特訓して、千本目指そうかな~』


そんなわけで俺は正拳突きの練習に励んだ。


気分は酔拳の映画を観た後に、映画館を出てくる客が全員酔ってもいないのに千鳥足で酔拳を真似ているかのような感覚であった。


もっと分かりやすく言えば、ヤクザ映画の後に全員チンピラ風に歩いて映画館を出て来るような感覚だろうか。


要するに、今、俺には空手ブームが到来しているのだ。


空手マンになりきっている。


『このブームに乗っかって空手を習得してやるぞ!!』


そう俺は意気込んだ。


そして、朝が来る。


そのころには、俺は畑を鍬で耕していた。


空手は飽きた……。


空手ブーム終了である。


『熱するのも早ければ、冷めるのも早いのが、真の漢なり!!』


──って、ことにしておきます。


「おはよう、アナベル」


あっ、クレアが洞窟ハウスから出てきた。


寝惚け眼のクレアはスケスケなパープルネグリジェの下にブラックのエロエロランジェリーな下着をちらつかせながら立っていた。


手にはマグカップ、口には歯ブラシを咥えている。


うむ、朝からエロくて美しいクレアさんだな!!


よーーーし、遠慮無くガン見してやるぞッ!!


俺の嫌らしい視線に気付かないクレアは咥えていた歯ブラシを口から出すと俺に言った。


「なあ、アナベル。ちょっと家に入れ。見せたい物がある」


『なんだ、クレアの全裸か?』


「違う」


クレアは無表情のまま踵を返して家の中に入って行った。


『まったく……。少しは照れてくれよな。これではセクハラしている俺が変態みたいじゃあないか……』


俺は愚痴りながら家に入った。


するとリビングのテーブルの上に木製ゴーレムの手足が置いてあった。


腕が一本、足が二本だ。


『見せたい物って、これか?』


「そうだ」


『クレアのおっぱいとかじゃなくて、このガラクタか?』


「そうだ。だが、ガラクタではないぞ」


『じゃあ、なんなのさ?』


「暗器が内蔵された、貴様のパーツだ」


『なんだ、俺の新しい手足かよ』


「昨日の朝に、貴様に装着した左腕は、暗器の他に骨が金属製だったのだが、これは試作品の更に試作品だ。骨格はないが、腕にブレード、踵に刃が仕込んである。ないよりはましだろうから、オーガ討伐の前に装着していくぞ」


『なるほど、武装アップってわけかい』


俺は自分の左腕を動かしながら言った。


『それにしても、この左腕って鉄骨が入ってたのかよ』


「他のパーツには骨格が入っていない。だから特注の試作品だったのだ」


『それで、他の試作品の試作品には骨格追加の改造が間に合っていないと』


「そうだ」


言いながらクレアは俺の手足を魔法で取り外し始めた。


そして、パーツ交換作業を勝手に始める。


しばらく俺は、なすがままに手足を交換された。


そして、直ぐにパーツ交換作業は終わった。


俺が念ずると右腕の尺骨の下から左腕と同じように湾曲したブレードが飛び出した。


更に両足の膝からも短い刃が飛び出る。


『これが新たな暗器ですか、なるほどね。ないよりましな武器だな』


両腕のブレード、両足膝の刃、それに左肩の鉤爪か──。


『更にこれを貼っていけ』


クレアが小さな紙に画かれた魔法陣を数枚ほどテーブルの上に投げ出した。


それは5センチ四方ぐらいの紙だった。


片面に魔法陣が画かれている。


それらが10数枚ある。


『なに、この魔法陣?』


「地雷用トラップの魔法陣だ。魔力を注いで地面や壁に設置しておくタイプだ」


『地雷用って事は、踏んだり触れたりしたら爆発するのか?』


「当然だ。これを貴様に貼り付ける」


『俺に自爆しろと……。酷くねぇ?』


「そうだ、自爆しろ」


『お前は鬼だな……。オーガ以上の鬼だぞ……」


「勘違いするな。この爆発魔法陣は、魔法陣側にしか火力が放出されない。だから体に貼っていても、殆ど本体には衝撃が及ばない」


『殆どってことは、少しは衝撃が俺にも来るんだろ……?』


「普通の人間なら皮膚が焼けたり裂けたりするかも知れない。痛みで悶えるかも知れんな」


『ダメじゃん……』


「だが、貴様には痛覚無効があるだろ。だから多分だが大丈夫だ」


『多分かよ……』


クレアが魔法陣の紙を一枚取って、自分の手の平に乗せた。


「これをノリで貼り、更に包帯で隠す。そして、敵に触れて点火する」


『それで、至近距離からチュドーーンってわけかい……』


「そうだ」


『小火力を最大限に活かす戦法だな』


合理的ではある。


『でも、そんな物を手に付けてたら、私生活がまともに送れないじゃあないか?』


これでは寝ているクレアの乳や尻を、こっそり突っつけないじゃあないか。


乳や尻を撫で撫でしていて爆発したら大惨事だぞ。


乳がもげてしまう……。


「だから言っただろう。武器として使う寸前に魔力を注入してから仕様するんだ。魔力が注入されていなければ、スイッチはOFFのままだからな、暴発はしない。なんの問題もない」


『なるほど……。でえ、どうやって魔力を注入するんだ?』


「それはこれから練習だ」


『練習ですか……』


「何事もすべては練習だからな」


『面倒臭い……』


俺は魔力操作のコツを簡単に教わった。


そんなこんなで俺が魔力操作の練習をしている間にクレアがオーガ討伐の準備を整えて来る。


そして、一時間後──。


クレアの準備も済んだらしい。


「よし、行くぞ、アナベル」


自室から出てきたクレアは黒レザーの革ジャンを着ていた。


その下は黒のノンワイヤーブラの上にシースルー的な鎖帷子だ。


お臍がチラチラ見えている。


そして、下半身は短い黒の黒皮のタイトスカートに黒のガーターストッキング。


履き物は黒レザーのロングブーツだった。


そして髪型は長い銀髪をポニーテールに纏めている。


『ポ、ポニーテールっ!!!』


総合するに、エロいダークエルフの女子っぽくってグッドである。


特にポニーテールが男の子のハートを串刺しにしていた。


なんともサービス精神旺盛な衣装でしょうか!!


俺はクレアの格好を見て、手の平の爆弾魔法陣を不発させてしまう。


チュドンっと爆音が轟いた。


その火力で少し顔が焦げてしまう。


「まだコントロール出来ないのか?」


『ごめん、なかなか集中出来なくてさ……』


うむ、エロい!!


今日のクレアさんはサービス満点であります!!


なんか、オーガ退治の前に俺の青春が空回りしそうだぞ……。



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