表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/13

僧院ヒナと犯罪者来栖

 来栖は相手が奏介だと分かると、戸惑いの表情を消した。

「はっ、出たか。オタク野郎」

 奏介はこの上なく不機嫌な顔をすると、空のバケツを床に放った。

「なあ、もう一度聞くけど、お前今何をしようとしたのか分かってるのか?」

 何故か自信満々に胸を張る。

「婚約者と愛し合おうとしていた、それだけだ。俺は家同士が決めたヒナの婚約者だからな!」

「ここで? こんなところで? お前、発情期を抑えられない動物か何かか?」

「なっ……!」

 奏介は軽蔑の目を向ける。

「婚約者だかなんだか知らないが、無理矢理裸を見ようとしたんだろ? ヒナが嫌だって言ってんのに、許されるとでも思ってんのか?」

 来栖は歯がみした。

「夫婦になるのだからそんなの」

「だから嫌がってんだって。良いって言ってないんだよ。分かるか? そうだろ? ヒナ」

「当たり前だよ! 手錠までして! どういうプレイだよ! 籍入れてないんだから他人でしょ!? この強姦魔のド変態っ」

 ヒナはゆっくりと立ち上がった。

 奏介は息を吐いた。

「知らないみたいだから教えてやるよ。いくら夫婦でも、夫が妻を殴ったり、妻が夫を刺したりしたら犯罪なんだよ。ここは従業委員通路だ。嫌がるヒナに何をしようとしたか、監視カメラにばっちり映ってるからな?」

 来栖はにやりと笑う。

「そうかも知れないな。しかし、あの物置やこの従業員通路を提供してくれたのはここの経営者なのさ。君のような一般人にはできない芸当だろうが。ここに君の味方はいない」

 と、ヒナが逃げて来た方から複数の足音が聞こえてきた。

「あっちですっ」

 駆けてくるのは若い男性監視員二人だ。詩音達にヒナが物置に連れ込まれたと言ってもらったのだ。

 ヒナがすっと息を吸った。

「助けてくださーい! この人変態ですっ」

 奏介も手を振る。

「こいつ、女の子に手錠をかけて、無理矢理襲おうとしてましたっ」

 そして監視員達の会話。

「おい、あいつ押さえようっ」

「わかったっ」 

「やめろっ、俺はここの経営者と」

「何をごちゃごちゃ言ってるんだ、こいつ!」

 彼らは上から来栖のことを聞いていないのだろう。客にこう言われたら、変質者を捕まえるのは当然だ。

 床に組み敷かれた来栖は奏介を睨む。

「ヒナの父親は俺の味方だ。お前なんか」

 ヒナは奏介の隣に立った。

「おじいちゃん、どう思う?」

 首からかけているスマホに呼び掛ける。

 スピーカーホンから聞こえてきたのは老人の声だった。

『ほう、これが来栖の息子のやり口か』

「な、誰だ……?」

『うちの孫娘に手錠プレイだぁ? 良い度胸しとる。ただじゃおかんぞっ!』

 がちゃりと大きな音を立てて通話が切れた。

「おじいちゃんだよ。僧院史周(そういんふみちか)ね。知ってるでしょ?」

 来栖の表情が固まる。

「い、引退したはずじゃ。今僧院の当主は」

「引退したけど、お父さんとどっちが権力あると思う?」

「っ!」

「君らはちょっとここで待ってなさい、手錠を外せる工具を持ってくるから」

 そう言って、脱力した来栖を連れて行った。

 従業員通路に二人きり、ヒナは座り込んだ。

「はあ……さすがにドキドキした」

「まあ、計画通りだな。上手くおじいさんに繋いだし。あの罵倒も良かったぞ?」

「う、ん。そう、だね」

 見ると、ヒナの体が震えていた。

「あれ、おかしい、な。なんか今になって、怖かったって」

ヒナは自分の体を抱くが震えは酷くなるばかり。

「だ、大丈夫か?」

 奏介がしゃがむとヒナは潤んだ目を向けてきた。

「奏介君」

「どうした?」

「こ、怖かった。怖かったの。ボク、あいつに触れられて、怖かっ」

 奏介はヒナの頭に手を伸ばし、自分の胸元に引き寄せた。

「そうだな。頑張ったよ」

「うう、奏介君っ」

「よしよし。分かってるって」

「助けに来てくれて……ありがと」

「ああ、当たり前だろ」

 しばらくの間、ヒナは奏介の腕の中で目を閉じていた。

次回、婚約の解消は出来るのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヒナパパの人を見る目の無さっぷりは、経営者として致命的な気がするw 奏介に婿入りしてもらって、とっとと僧院を乗っ取って貰わないと。 ifルートの影響か、本編でもヒナがヒロインに見えてきた………
[良い点] ふむ……(´-ω-`) 頭おかしすぎて笑いが止まらなかったwww なぜ、あそこで強気になれるのかっ!さすがDeathね!来栖さん! [気になる点] 監視員が監視委員になってましたぜ。 [一…
[一言] こんなピンチを助けられたら落ちますわあ
2021/03/23 04:39 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ