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09.3人での朝

 翌朝。


 目を覚ました私の視界にまず入ったのは、私を抱っこしたまま眠るティセの姿。

 そしてそのティセの脇には昨日新たに保護され、共に生活する事となったハーフリッチの少女であるチーリ。こちらは既に目を覚ましていたようだ。


「シィ、おはようなのです。とても爽やかな朝なのですよ」

「おはよう、チーリ」


 私が起きた事にチーリが気づくと、私へ挨拶をしてくれたので私もまたチーリに挨拶を返したのだけれど……爽やかだと言うチーリの顔は生気をあまり感じられず、さらにどことなく顔色も蒼く見える。


 ハーフリッチはこれが普通なのだそうだから仕方ないのだけれど、爽やかという言葉からはなんともほど遠そうな存在だ。

 バンシーである私もチーリの事言えない立場だけど。


「久しぶりにゆっくり寝る事ができたのです。昨日シィが私の元へ来たのがきっかけになったですのでシィには感謝してるです」

「別に感謝されるようなことしてない。最初出てってもらおうとしてたし」


 私が言ったように、最初はよくないモノがこの廃教会にいる気配があったので、追い出そうとしただけだ。言ってしまえばチーリとは敵対する可能性だって充分にあったわけだから、お礼を言われるのはどうにも違和感がある。


「それでも私は感謝したいのですよ。シィが来てなかったら、チーリは一人でずっとあの小部屋に隠れ住む生き方しかできなかったですから」


 何回も生まれ直している私と違って、チーリはその子供の見た目相応の年齢だ。確かにそれでは一人で生きていくすべをまだ知るはずがなかっただろうから、そう考えるとティセに保護されて良かったのかもしれない。


 私とチーリがそんな事を話していると、やがてティセも目を覚ましたようだ。


「んー、おはよう2人とも。チーリちゃん、すっかりシィちゃんと仲良しみたいね」

「そうなのですよ。シィはチーリにとって素敵なおねえちゃんなので、チーリは嬉しいのです」


 覇気の無い顔で、にんまりと嬉しそうに笑うチーリ。ちょっと怖いけれど、きっと私も同じように笑ったらこんな感じになるということだろう。こりゃますますティセの前で笑えない。


「そしてそれはシィだけでなく、ティセもなのですよ。チーリみたいな死の香りと色気むんむんリッチを保護して娘みたいに扱ってくれるなんて恐悦至極なのですよ。だから、チーリはティセのこと、これからはティセママと呼びたいのです」


 そう言いながらティセの体に頬をスリスリとさせるチーリ。チーリのその凹凸の殆どない一直線の体のどこに色気があるのかはともかくとして、ティセに心から懐いているのが見て取れる。そしてママと呼ばれたことが嬉しかったのかティセの顔がちょっと崩壊しかけている。


「それに、ティセママといると、なんだか体の内がこう、ふわぁってなっていく感覚があるのです」

「きっと、久しぶりに誰かと一緒に過ごせたから体の内から嬉しくなっちゃったんだよね」


 そう嬉しそうに返すティセだったけど……、本当にそうなのだろうか。


「……それ、聖女の力で浄化されかかってない? 大丈夫?」


 聖女とリッチ。明らかに正反対の属性である上に、ティセは聖女として働いてきた実績がある事からかんがみるに、力が強力に備わっている事がわかるのに対して、チーリの魔力は非常に弱々しいものだ。


 それを考えると、チーリはティセの聖女の力に呑まれて消滅しかかっているのでは……。


 そんな風に私は危惧してしまったけれど、ティセはそれを笑って否定した。


「あはは、大丈夫だよシィちゃん。浄化なら本当に一瞬で消滅しちゃうから」

「笑いながら怖いこと言わないでティセ」


 私はつい、ティセが笑いながら私とチーリを消滅させる姿を想像してしまった。

 ……なんでだろう。ティセは聖女のはずなのに、実は悪魔か何かではと思えてしまうほどにお似合いの姿だった。


「まぁ、多分聖女としての『生』の力というのが、リッチにとっては甘美な嗜好品みたいなもので、それに反応しているだけだと思うから心配はしなくて大丈夫だよ」

「心配する必要ないなら、安心してチーリはティセママに抱きつけるのです」


 その言葉を聞いたチーリは、さらにティセに体をすりつけながら目を細めている。


「……随分甘えん坊なんだね……あ」


 私はうっかり、そんなチーリに対して悪態をついてしまった。流石にそれは失言だ。

 しかし出てしまった言葉はもう戻らない。なので、私は怒られるに違いないと身構えているとティセは何故か困った顔をして私を見ている。


「うーん……。今の状態で言うなら、シィちゃんの方が甘えん坊さんに見えるよ」

「え? あ」


 そうだった。すっかり話に夢中になっていて忘れていたけど、私はティセに抱っこされたまま、それもティセと向き合うようにまたがった姿勢だ。


「う〜……」

「わ、赤くなったシィちゃんかわいい!」

「ほんとなのです。シィがかわいいのです」


「やめて……うぅ……」


 私は久しく忘れてしまっていた『恥ずかしい』という感情を、無意識に表に出してしまった。



  ******



 それから五分ほどして、私がようやく落ち着いたのを確認したティセは、私たちにこの後のお祈りと朝食について切り出した。


「さて、それじゃ朝のお祈りを済ませてから朝ごはんにしよっか。チーリちゃんはお祈りしなくて大丈夫だよ。多分チーリちゃんにとっては危険だから」

「わかったのですよ」


 ……まぁ、神に祈ったらそのまま成仏しそうだよね。リッチって。

 それはともかく、ティセのその言葉で毛布から出ておのおの立ち上がると、近くにあった姿見が私たち三人を映し出している事に気がついた。


 まじまじとその姿を見つめるティセ。


「それにしても3人がこうして並ぶと……びっくりするほどに地味な色合いだね」


 ティセのその言葉に改めて私たち3人の姿を注視してみると確かに地味だ。


 ティセは黒い長髪に紺の修道服。私は白と灰色混じりの髪に、暗い緑の修道服、その上青白い肌。チーリは真っ黒いローブに血の気の抜けた蒼い顔、ローブの下だけがこの3人の中で一際ひときわ異彩を放つ露出度の高い衣装。

 チーリの肌を除くと華美な要素を微塵も感じられない、なんとも地味な色合いの集団だ。


 顔立ちは3人とも整っているようには見えるので、私たちを見て着飾らなくてもったいないと思われるかもしれない。

 ただ、、いつも言っているとおり私は人間じゃないからそんな事は別にする必要ないのだけれど……。

 そしてチーリは……おしゃれはひとまず置くにしてもその露出の多い格好はどうなんだろう。


 そう思いながらチーリの方を見てみると……。


「むぅ、肌色要素があるのはチーリだけですか。ならばチーリ6歳、積極的に肌色担当になるのです。ばっちこいなのですよ」

「6歳児がそんな事をがんばらなくていい」


 ……誰かチーリに貞操観念について教育してあげて欲しい。多分チーリをこのまま野放しにしてしまうと将来、何か大変なことに巻き込まれそうな気がするから。


 この幼いハーフリッチの少女に、何故か頭が痛くなってしまう私だった。



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