表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/60

07.帰ってからいろいろと

「全部の用事済ませちゃったし、今日はもうルベレミナには行かずにこのまま帰ろっか、シィちゃん」

「ん」


 私の服を買って、全ての用事を終えてしまった私たちは、この後行く予定だったルベレミナの村へは寄らずに、そのまま帰路につくこととなった。


 私に向かって伸ばされたティセの手を何のためらいもなく取ると、私はティセと一緒に歩き始める。


 まだ出会って1日しか経ってないというのに、段々とティセへの警戒心が薄れてきている自分がいる。

 ……バンシーとしてあり続けるにはこのままでは良くないとわかっているのだけれど、やっぱり無意識に人の温もりを欲してしまっているようだ。


 そのまま村を出て、しばらく歩いていると、急に思い出したかのようにティセが口を開いた。


「そういえばシィちゃんと出会った時に着ていたボロボロのワンピースなんだけど……」


 ティセに『洗濯をするから』と言われて、今まで着ていた服を昨日取り上げられていたのをすっかり忘れていた。


「洗濯しようとしたら、ただでさえボロボロだったのが、ますます破けてどうしようもなくなったから、あれは捨てて今着ている修道服と今日買った服で我慢してくれる……かな?」


 着ていた服がボロボロだったのは自分でもわかっていたし、洗濯をして破れるのも仕方ない。わかっていたからこそ洗濯はしたくなかったのだけれど、あの服に大して愛着があるわけでもないし、替えの服もあるから別に構わない。


「いいよ。というかそれ目的で取り上げたと思ってる」

「あははー、実はそう! シィちゃんはおしゃれすべきだと思うもの」


 なんでティセがそんなに私におしゃれをさせたがるのかわからないけれど、美人さんだとか言ってたから、多分私がボロボロの服を着ているのが我慢ならなかったのだろう。


……おもちゃにされている気持ちも若干あるけれど、まあティセのわがままに付き合ってあげてもいいかと思ってしまう私であった。



 ティセが、実は別の理由で私から服を取り上げたなんて思いも寄らずに。



  ******



 廃教会に私とティセが戻ってくると、まだは高く、夕飯にもお風呂にも中途半端な時間。

 そんな私たちが何をしだしたかというと……。



「それじゃシィちゃんが食べたがっていた、私の聖女時代の主食だった『パンの耳を揚げたモノに砂糖をまぶしたもの』をおやつとして作ります! さあシィちゃん! 一緒に頑張ろうね!」

「ん」


 私がリタキリアの町でつぶやいた事がまだ有効だったようで、突発的なおやつづくり大会が勃発した。

 というかティセってパンの耳が主食だったんだね。

 それがわかってしまうと……城から逃げ出したのもうなづけてしまう。


「材料はこちら、パンの耳。油、そして砂糖! 作り方も簡単でパンの耳を油で揚げて、砂糖をまぶすだけ! 超お手軽だから一度に何百本も作れちゃうよシィちゃん!」

「前も言ったけどそんなにいらない」


 第一そんなに食べたら飽きてしまって、逆に嫌いになってしまうじゃない。全くもう、加減というものをわかってほしい。


「それじゃシィちゃん、私が一緒に見てあげるから作ってみようか」

「ん」


 返事をした私は、ティセに促されるままに、適温となった油に次々とパンの耳を落としていくと、油の破裂音が耳の中を突き抜けていく。うん、この音はとても心地がいい。


「あ! シィちゃん! 早く取り上げないと真っ黒になっちゃうよ!?」


 おっといけない。つい音を楽しむあまりに忘れてしまうところだった。私はティセの指示に従って、次々とパンの耳をすくっていく。

 幸いにもパンの耳は真っ黒にはならずに済んだようだ。


 そして私の横ではすくい取ったパンの耳に次々と砂糖をまぶしていくティセ。おいしそうな匂いが辺り一面に立ちこめていた。


 ……早く食べたいな……はっ、違う違う。私はバンシーなんだから別に食べる必要なんて無い。

 無いのに……早く食べたい。


 手元にあったパンの耳を全て揚げ尽くし、砂糖もまぶし終えたのでこれで完成だ。


 早速一つ試食してみる私。


「ん、おいしい」


 一本一本の大きさは小さいのであっという間に口の中からなくなってしまう。

 そんな私の視界には、まだたくさんあるできたてのパンの耳を揚げたやつ。


「……もう1本」


 ついつい何度も手が伸びてしまう。そんな風に次々と食べ続ける私の事を最初は黙って見ていたティセだったけれど……。


「えっと、シィちゃん? もう10本ぐらい食べちゃっているけど平気?」

「え、あ」


 しまった。ついおいしくて歯止めが利かなくなっていた。

 ……安くてお手軽に作れちゃうくせに、どんどん食べたくなる魔性の食べ物すぎる。


でもまだまだ残りはあるし。後で食べよう。



 ……すっかりこのパンの耳を揚げたモノのとりこになってしまっている私だった。



  ******



 パンの耳を揚げたモノを作り終えて、後片付けも済ませた私はというと、ティセと一緒にお風呂場にいた。

 昨日と同じように湯船にはきっちりとお湯が張り巡らされていて私は今日もまたティセの上に座って入らなければならなくなりそうだ。まるでわざとやっているかのように。

 ……なんだかティセが嬉しそうにこっちを見ているけど私は気にしないことにして、自分で頭と体を先に洗い始めた。


 昨日言ったとおり、私にはシャンプーハットは不要なので、当然ながら今日は使っていない。

 ……ティセが残念そうな顔で私の方を見ているけれどやっぱり私は気にしない。


 やがて頭と体を洗い終えた私に待っていたのは、昨日と同じ苦行。


「はい、それじゃ昨日と同じように肩までかって100数えてね」

「むぅ……」


 昨日と同じようにまた100まで数えないとティセに捕まって数え終えるまでは出してもらえないだろう。だから私は諦めてきっちりと100数えた。


「先に出る」


 私は湯船から出るなり、体をすぐに拭いて脱衣場へと戻った。そして、一人湯船に残ったティセはというと、私の姿が見えなくなったのを確認してからポツリと何かつぶやき出した。



「シィちゃんが最初に着ていたあの服。シィちゃんは気づいてなかったみたいだけど、ベットリと血の跡みたいなのがついていたのよね。まるで一度殺された後みたいに……だから洗っても着せたくなかったんだ……」



 そして、何かを決意したかのように、もう一言、小声でつぶやいた。



「もしそれが真実で、生まれ変わったばかりであそこに佇んでいたのなら……もう殺されるような目には絶対遭わせないからね、シィちゃん」



 その決意の言葉は、私とは別の、『もういない誰か』へ誓ったように聞こえるものだったけれど、生憎あいにくそのティセのつぶやきは、当然ながら先に脱衣場に戻っていった私にはどちらも耳に入ることは無かった。



 その後、私たちが夕飯を食べ終える頃にはすっかり外は暗くなり、昨日と同じように廃教会の中は静寂と闇の世界に包まれていた。


 ……やっぱり灯りぐらいはどうにかした方がいいのでは?


 私はそう思いながら、昨日と同じようにティセの上で向き合うように跨がると一枚の毛布にくるまりながら一緒に眠りにつくのであった。



本日は2更新予定です。

続きは18時頃投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ