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EX02.ひとりぼっちの日から幸せな日々へ ~チーリ視点~

 チーリがひとりぼっちになったのは連日大雨が降り続いていたある日。その中をチーリはパパとママと一緒にお出かけをしていたのです。ママから借りたローブを雨合羽代わりにしてチーリたちが橋の上を歩いていると、橋がいきなり崩落したのです。多分この雨のせいで土砂崩れが起きて橋ごと巻き込まれたのですね。


 チーリはちょうど橋を渡り終えた所だったのでなんとか落ちずに済んだですけど……チーリの後ろを歩いていたパパとママは真っ逆さまに落ちていったです。慌ててチーリが橋の下を覗きこんだですけどそこで見えたのは……橋の下で血だらけになって動かなくなったパパと、ママの服を着た骨だったです。


 ……ママから話には聞いていたですよ。リッチは魔法で本来の寿命に逆らっているので、活動している間は人と変わらないですけど、昇天してしまうと本来の姿に戻って骨とかミイラになってしまうって。

 そしてその傍らで全く動かないパパ。生きてたら少しは動いたりするはずですけど、全くでしたです。多分、一瞬で死んじゃったですね。


 だから、それを見た瞬間にチーリは思ってしまったのです。あぁ、パパもママも死んじゃってチーリはひとりぼっちになっちゃったって。


 チーリは、とても泣きたくなって、その場でうずくまりたくなったですけど我慢して、急いでその場を離れることにしたのです。

 それは、パパからもある約束事を言いつけられていたからなのです。


──もし自分が死んだら、2人はすぐにその場から離れてほしい。人間はおそらく2人に危害を加える存在ばかりだから。なあママ、チーリに姿を隠す魔法とかあったら教えられないか。多分それがチーリには一番必要だと思うぞ。


 そこは人が多く通る街道。だからチーリは、遺品を持って行くこともできずに、急いでその場を離れたです。



「ママ、パパ……さよならです。チーリ、がんばって生きるです」



 ******



 ……それからチーリにはとても辛い日々が訪れたです。怪物であるリッチと言っても子供だったこともあって見逃される時もあったですけど、大抵は嫌われるですし、懸賞金の対象でもあるリッチであるチーリを捕まえようとした目をギラギラにさせた男に追いかけられたなんてこともあったです。


「チッ! あのリッチのガキどこ行った!! あっち探すか……」


「……。……良かったのです。なんとか隠れきったのです」


 チーリのパパは、頭で考えるより先に体が動いちゃうタイプだったのですが、前にママに姿を隠す魔法を教えた方がいいって言ってくれたのは先見の明があったのです。そのおかげでチーリはこの姿を隠す魔法のおかげで何度も命を救われたのです。


 その後も何度もチーリは命を狙われたのですけど、リッチというのは生きることに執着しちゃうモノなので、チーリはなんとか生き続けたのです。

 でも、チーリは辛かったですし、とても寂しかったです。ママにもパパにももう会うことのできないこの世界をたった一人で生き抜いていくしかなかったのですから。


 幼いチーリにとっては、そうやって生きることがとても辛くて、疲れてしまったのですけど、リッチの性質のせいで生に対して執着し続けてチーリの気持ちを無視して生き抜こうとし続けていたのです。


 本音で言うと、チーリはもうその時、こんなリッチとしての性質さえ無ければもう生きていたくはなかったです。

 それから北へ北へと逃げたチーリですけど、ある森の中に扉を見つけて……そこに隠れる事にしたです。


 扉の中を入って地下の通路を通ると……そこはオンボロな教会で、誰かが先に住んでいる気配があったです。

 なのでチーリはその中の一室に隠れて住んで、お腹がすいた時はこっそりとごはんをわけてもらっていたです。


 そんな風に隠れ住む日々が終わったのは、その2ヶ月後の事でしたです。

 人間じゃない怖い気配が教会の中に現れたのです。生に執着するリッチからすれば、それはチーリに似たような存在で闇とか死とかそういう気配を感じる何かでしたです。


 だから慌ててチーリは隠れる事にしたのです。姿を隠す魔法を唱えて隠れたのですけど、すぐにばれてしまったのです。



「姿を隠しても無駄。私には正体が見えているから出てきて」

「……わかったのです」


 人間じゃない相手にチーリの魔法は無力で……チーリは諦めたです。でも、こういう危機的状況の時、ママを助けてくれた聖女みたいに助けてくれる存在が現れたりするかも……そんな事なんてありえないとわかりながら必死に頼み込んだです。

 それがよかったのですね。チーリは見逃してもらうばかりか家族として迎えられたのです。


 それがチーリと、シィおねぇちゃんとの、そしてティセママとの出逢いでしたです。


 それからはチーリにとって、とても幸せな日々でしたです。



 ******



 ──そして時は流れて、シィおねぇちゃんとチーリを引き渡せと言われたあの夜の事です。


 2人は国外に出る方法を色々練っていたですけれど、チーリは国外に出るのが良案だとはあまり思っていなかったのです。

 その理由は唯一と言っていいティセママの元いた世界への繋がり。これが切れてしまうともうティセママは元の世界に帰るのがほぼ不可能になってしまうからだったです。


 異世界転移の魔法を覚えるために魔導書を読んで、色々知ってしまったのですけど、世界は似ていても完全に同じじゃなくて、少しずつ異なる世界が折り重なるように存在しあっていているそうなのです。その中からティセママが住んでいた世界と完全に同じ世界へ繋げるとなると、それは広大な砂漠の中へ一度投げ捨てた砂の一粒を再び探しだすのと同じようなもので、現実的に考えれば不可能なのです。


 だからチーリは思ったです。異世界転移の魔法を使うチャンスは一度しかないって。

 でもその夜、チーリは改めて魔導書を読み直して見落としていた箇所に気づいて、一人愕然となっていたのです。


 チーリはティセママからお願いされて、異世界転移の魔法を習得したのですが、チーリの魔力では一から繋げる方法は無理で、地下の魔力残滓を吸収してなんとか向きを変えるぐらいにしかできないですので、チャンスは1回だけでしたです。ここまではティセママやシィおねぇちゃんにも話していたですが、それとは別に魔導書にはある注意書きがあったのです。


 それは『異世界転移の魔法は2人が定員』だって書いていたのです。つまり、誰か一人はここに残らなくちゃいけない。

 それはつまり……永遠の別れが訪れてしまうという事だったのです。


 これを知ってしまったらおそらく2人は行くのを拒否してしまうです。だけどもし行かなかったなら、3人とも捕まって大変な目に遭うに可能性だってあるです。


 なのでチーリはこの事を黙ったままにして、緊迫した状況になって、時間が無いその時を狙って2人に話して、2人にティセママのいた世界へ行ってもらう事にしたです。


 本当はチーリだって一緒に行きたいですし、2人とは別れたくないです。でも異世界転移の魔法はチーリたちが3人でいる事を許さなかったです。


 なのでチーリはティセママのいた世界へは行かずに、ここに残ることにしたのです。


 だって、チーリは本当ならこの世界に生まれてこられなかった存在なのですから。


 ティセママが偶然チーリのママを助けたという奇跡のおかげでチーリは生まれたですし、シィおねぇちゃんがあの夜、チーリが潜んでいた小部屋まで来てくれなかったらずっとあそこに閉じこもったままだったのです。


 ティセママしかいなかったら、チーリが潜んでから2ヶ月もの間、小部屋へ一度もティセママは来たことすらなかったのですから、多分その先も来なかったろうと思うですし、シィおねぇちゃんしかいなくても、そもそも教会に近づこうとしなかったに違いないです。シィおねぇちゃんは人を避けようとしちゃう性格ですからね。

 だから2人がいてこそだったのです。


 そんな風にチーリは、一人で残る決意をしたのですけど、やっぱりどこかで顔に出てしまったのですね、シィおねぇちゃんが不思議そうな顔でチーリの顔をあの日、ずっと見ていたですから。シィおねぇちゃんが気づいてしまったのは多分、チーリの心の弱さがその前の日から出ていたからですね。


 ティセママとシィおねぇちゃんを無事に別の世界へ送り届けた後は、またチーリは一人で、それも国の道具として生きることになりそうでしたから、少しでも心の拠り所が欲しくてティセママのお人形をわざわざ山場の前日にもらってしまったですから。


チーリはあまり表情が変わらないというのに、チーリが笑ったとか喜んでいるとか、不安そうにしているだとかをすぐ気づいてくれて……シィおねぇちゃんはやっぱりすごいチーリのおねぇちゃんだとあの時思ったです。



 ……ティセママ、シィおねぇちゃん。

 こんなチーリに居場所をくれて、ありがとうございますです。

 前にも言ったですけど、チーリは2人にならチーリのハジメテをあげてもいいと思っているです。


 そんな事言ったらきっとティセママはともかく、シィおねぇちゃんには怒られちゃうと思うですけど……チーリは本気です。



 それほどにチーリは、2人の事、大好きなのですよ。



 結局、チーリは焦っていて『大人2人』の『大人』という表記を見落としていたですので、なんとかチーリもティセママのいた世界へやってくる事ができたです。

 そして、この世界へ来る時に魔力を全て使い果たしたのと引き換えに……チーリはもうリッチじゃ無くなってしまったです。だけど、チーリにはまだリッチとしての本能が残っていたのです。



 それは、大好きなティセママとシィおねぇちゃんの心をつかむ方法という探究心です。これだけは残ったままだったようなのです。

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