EX01.チーリのママ ~チーリ視点~
「──というわけで私は命を救われて、そのおかげでパパに出会う事ができてあなたも生まれる事ができたのよ」
これはチーリがまだ5歳の時で、パパとママと一緒に暮らしてた時のお話なのです。
お話をする前に断っておくですが、チーリは『チーリ』の事を『チーリ』と呼ぶですし、それにですですうるさいですけど我慢してほしいのですよ。これはもう決して抗うことのできないチーリの癖なのです。
あとチーリが5歳の時から既に平然と難しい言葉を使うのは、リッチの血が流れている事もあって頭でっかちだからなのですのでそこはあまり追求しないで欲しいのですよ。
それはいいとして、チーリは5歳の時、パパとママに気になっていたある事を尋ねたです。
「ママはどうしてパパと出会ったですか?」
チーリは不思議に思ったのです。
だってあまりにパパとママには接点がないのです。ママはリッチだけあって魔法に長けているですけど、パパは全く魔力が無くて力仕事専門って感じの人なのです。パパが魔法を使うとかなら、ほんの少しだけ接点はありそうな気がしたですけど、そういった出逢いというわけでも無さそうだったのです。
だからどうやって出会ったのかとても不思議なのです。
「うーん……、出会った時のお話をする前にまずはここから話しておかないといけないね。実はアタシ、一度討伐されそうになったことがあるの」
「なんと、ママは命からがらどん詰まりだったのですか」
命の危機だったというわりに笑いながらママが教えてくれたのは、チーリが生まれる前の話。ママは今チーリたちが住んでいるハリカバに来る前はチノイという所に住んでいたそうなのですが、そこでリッチだとバレてしまったらしいのです。
ママの見た目は普通の人間と変わらないですし、それにすごい美人さんなのですけど、ただただ顔色が蒼いのです。
顔色はチーリも蒼いのでこれはリッチとしての血なのだと思うですけど、それでもママはいろんな人にモテモテだったそうなのです。だけどリッチだとバレたら命の危機に繋がりかねないと全て断っていたそうなのです。だけど……。
「まさか、断った人の中にアタシをストーキングしてたのがいたと思わなかったのよね。それでバレちゃって、通報されちゃったのよ」
「逆恨みされたですか?」
「まぁ、そうなるわねぇ……、それにほら、この国ってリッチは討伐の対象なのよ。通報して実際にリッチだったら報奨金がもらえるらしいから天秤にかけてそっちを選んだに違いないわね」
通報されてしまったのは仕方ない、急いでチノイから逃げだそうとしたママに不運が訪れたです。なんと王都からママを討伐するべく派遣されてきた聖女にママはばったりと出会ってしまったようなのです。
「その時はもう、顔を見た瞬間に思ってしまったわね……『終わった』って」
だけどリッチというのは生に執着するモノ。なのでダメ元ではあったけれど、チーリのママは聖女相手に必死に頼み込んだそうです。
「もう恥も外聞も関係なく土下座までしたわよ。『お願いします、見逃してください。私、なにも悪いことなんてしてません、ただ魔法の研究がし続けたかっただけです。それなのに、なんで……』 ……こんな風に」
聖女は自分とは敵対する関係で無駄だとわかっている、でもママは生きる為にそうせずにはいられなかったそうなのです。
「そしたらその聖女がね……私を助けてくれたのよ。私に自分が持っていたローブを掛けて、姿を隠す魔法……隠蔽魔法かしら。それを私にかけてくれたのよ」
そして、聖女はこう言ったそうなのです。
──これで大丈夫、あなたの姿は一時的だけれど、私以外の誰にも見えなくなっているわ。だから急いでこの町から逃げて。
「なんと、聖女が助けてくれたのですか?」
「そうなのよ。最初わけがわからなかったわよ。だって、人間……それも自分のような怪物を討伐するために存在するような聖女がアタシのようなリッチをかばったわけだもの。
だから、アタシは急いで逃げなくちゃいけなかったのに、そっちの理由の方が気になって尋ねちゃったわよ。どうして見逃すどころか、うまく逃げられるように助けてくれたのかって。そしたらね……」
──だって、あなたが嘘をついている顔には全く見えなかったもの。あなたの事は、逃がせるところまではかばってあげるわ。だからお願い。逃げ切って。
「その聖女はお人好しだったのですか?」
「多分そうかもね。怪物を助ける聖女だなんて聞いたことないもの。……だけどアタシにはそれがとても嬉しかった」
その後、なんとかママは命からがらチノイから逃げ果せて、ハリカバまでやってくると、疲れがピークになって、倒れ込んじゃったそうなのです。そしたらたまたま道の向こうから男の人がやってきたそうなのです。
「それがパパだったのよ。パパも私が人間じゃないって気づきながらアタシの事を助けてくれたの」
「なんと、そんな運命的な出会いだったのですか」
「えぇそうなのよ~。パパの腕に抱かれたアタシはね……うん、パパに一目惚れしちゃった。
そしてそれはアタシだけじゃなくて……パパもアタシに一目惚れだったそうよ。だって次の日にアタシにラブレターをくれたんだもの」
「出会っていきなり相思相愛だったですか。すごいです。らぶなろまんすなのです」
チーリのパパとママにそんな素敵な出会いがあったなんてチーリ感激でした。それにすごい偶然の重なりを感じたのです。
「それで、アタシがパパと暮らすようになって、暫くすると……」
「チーリが生まれたのですか?」
「えへへ~、そうなのよー」
そう言うママの顔は、とても嬉しそうに見えて、チーリも嬉しくなっちゃったですよ。
「あの時、聖女が助けてくれなかったらきっとアタシはもうこの世にいないし、チーリも生まれてこられなかった。いつかあの聖女にお礼を言いたいんだけど……きっと無理ね。だってアタシは討伐対象で、あっちは逆にアタシを討伐する立場だもの。
だからねチーリ。あなたが今後、大切にしたい人ができて、その人が困っていると思ったら率先して助けてあげなさい。それがきっといつかあの聖女への恩返しへと繋がっていくはずだから……」
「わかったです。チーリはチーリが大切にしたい人ができたら、ママの言葉通りに動くです。きっとチーリは、その為に生まれてきたに違いないのです」
そう決意を固めたチーリと、それを優しく見つめるチーリのママ。こんな感じにチーリは、パパとママと幸せに暮らしていたですが、その幸せは突然終焉を迎えたです。
ママからその話を聞いた数ヶ月後……チーリはひとりぼっちになってしまったのです。