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46.それは一瞬で

ショックの強そうな残酷な表現に該当する描写があります。苦手な方はご注意ください。

また、本日は2更新予定です。

 呼び止められた私たちが振り向いた先に立っていた高い身分と思しき男。

 開口一番、ティセの事を偽聖女と蔑むあたり、どうやらティセの事を知っている国の関係者だという事がわかる。


 そんなこの男を、よりによってこいつかという、私たちには一度も見せたことが無いような、驚くほどに冷めた顔をしながらティセは口を開いた。


「……ショー・カーン将官、ぼうとも思ってもいないのに何しにここまで来たんでしょうか。私忙しいんですよ」


 冷めた表情と同様に、私たちが初めて見るような、慇懃無礼な態度で男と言葉を交わすティセ。

 まるで張り詰めた糸のような、『んでいないのに将官(招喚)』などというそんな冗談も言えないほどに緊張した空気が辺りを漂う。


「相変わらず無礼な奴だ。その上潜んでいる場所をごまかすような小賢しいまねをするとはな。わざわざ行く意味の無いコトイオトまで行かせる手間をかけさせおって」

「ええ、もうあなたたちの顔は見たくなかったので」


 態度も表情も変えることなく、ティセは応答を続ける。

 そのあまりにも緊迫した雰囲気に横にいる私とチーリは呑まれてしまい、ただ黙って2人の様子を見ることしかできない


「城の方でも噂になっているのだよ。怪物から村の危機を救ったバケモノと魔物使いの噂がな。もう私が来たことの目的はわかるな? 偽聖女よ」

「わかりませんね」


 しらばっくれようとするティセ。しかし私もチーリもそこまで聞いて理解した。

 この男の目的はティセでは無く……私とチーリだ。


「ふん、この期に及んでまだごまかそうとしているのか。そこのバケモノのガキ2匹がそうなのだろう。そいつらを城へ献上せよ。これは国からの命令だ。素直に引き渡せば、お前にかかっている嫌疑も全て晴れるぞ」

「何よ嫌疑って」


 私とチーリの事を知らない人間からすれば、私もチーリも化け物で『匹』扱いなのだろう。

 もうそれだけで、そちらに連れて行かれたらろくな扱いを受けないのだけはわかってしまう。

 というより、ティセにかかっている嫌疑とは……まぁ一つは思い当たるけれど、この男にすれば複数あるようだ。


「はっ、気づかないふりでもしているのか偽聖女。ろくに国のために働きもしないのに聖女を名乗ったお前が、国庫から金を持ち逃げした上、さらに国家を転覆させるためにそこの害悪なバケモノのガキ2匹を飼い慣らしている事だ」


 やっぱりバレてるねティセ、お金持ち出したこと。だけどその後の国家転覆容疑は流石に意味がわからない。

 私たちみたいな人外を育てるというのは、他者から見ればそのような脅威に見えるのだろうか……。


 そして私の横を見ると、私とチーリの事を化け物のガキとののしり、さらには身に覚えの無い国家転覆容疑までかけられたティセはすっかり怒髪天。堰を切ったように声を荒げた。


「ふざけないでよ! ちゃんと怪物退治してきたじゃないの!

 確かに女の子の姿をした怪物は無理だったけれど、それでも私、数百回は怪物を退治しているのよ!

 それなのに私には一銭も出さないってどういう事よ! 労働には対価がつきものでどう考えても正当な対価でしょ!

 というか私は兎も角2人を害悪だとか悪く言うのだけは絶対に許さない!」


 譲らないティセ。ティセと出会ったばかりの頃に国庫からお金を持ち出したと聞かされた時は、おいおいと思ったけれど、収穫祭での怪物退治を体験すると私でも思ってしまう。

 怪物退治の報酬がパンの耳とりんご一個と変なポエムだけじゃ割に合わなすぎると。


 そして、侮辱された私たちの事をこうして擁護してくれるティセ。そんなところが母親然としていて、本当に大切に思ってくれているんだなと改めて実感してしまう。


「というか、2人を連れて行って何をさせる気よ!」

「簡単な話だ。こういった怪物退治の道具として使うに決まっているじゃ無いか」


 道具扱いか私たちは。まぁ私とチーリの事を化け物のガキで『匹』と言うような人間ならばそういう扱いなのも当然のことなのだろう。

 しかしティセによるとそれだけじゃないらしい。


「隣国のノリナト帝国に攻め込む武力としても使うに決まっているでしょ! 私が聖女として働いていた時からそうだったじゃない!

 こんなに国力も無いのになんでそんなに他国へ攻めたがるのよ! アホでしょ!」


 怪物退治だけではなく、そんな事にも? 

 ちなみにノリナト帝国は平和主義で、他国に攻め入るようなことを良しとしない友好的な国だ。その代わり、自国を強固に守る為に強大な兵力を備えており、この国以外の多くの国とも和平と同盟を結んでいる。


 その為、この国がノリナト帝国へ攻め込もうとすればたちまち周囲の国から逆にボコボコにされてしまうというのが一般国民はおろか、子供にすらわかりきっている事だ。

 ……確かにそれを考えるとティセにアホ呼ばわりされても仕方ない。


「アホだと……?」


 その言葉に苛立ちの色を見せる将官。


「ええそうよ。この国はね、トップがあそこの将官含めてみんなアホなの。

 そもそもこんな所へ将官が直々に来ているってどういうわけ? 国の重鎮が直接でしかも護衛があそこの兵士一人だけ?

 アホ以外の何者でも無いとしか思えないわよ」


 アホアホと罵られ続けて腹を立てたのだろうか。予想以上に短気だったらしい将官が怒気をはらんだ顔で、後ろに控えていた兵士の方を振り向き、ティセに指を指しながら声を荒げた。


「ここまでこの私をコケにするとはな! 命知らずもいいところだ偽聖女め!

 都合良くお前については生死を問わないと言われてるからな。引き渡さない上に、先程からの無礼な言葉の数々、それ相応の覚悟はあるということだろう。やれ!!」

「はっ!!」


 将官の命令と共に、駆け出す兵士。それは剣を構えながら一直線にティセへと向かっていく。

 ティセも怒りで我を忘れていたのだろう『しまった!』という顔をしている。


 まずい、ティセが光の壁で防護しようにも、ティセめがけて斬りかかろうと向かっている兵士との距離はあまりにも短く、呪文を詠唱する時間すらも無い……このままじゃティセが!



「ティセ、危ない!」

 とっさに私は、今まで生きてきた中で、もっとも大きな声を上げながらティセを突き飛ばして、兵士の前に立ちはだかった。



 そうしないと、ティセを守れないから。



 標的が横に弾き飛ばされ、さらには連行しようとした私めがけて剣を振り下ろしてしまっている事に、兵士は一瞬『あっ!』とした顔になる。

 しかし、剣の勢いは止まる事なく、そのまま私めがけて振り下ろされると何かが弧を描いて飛んでいった。




 それは……。



 私の左腕だった。

次は18時更新予定です。

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