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30.廃教会の正体

「ティセは異世界からこの世界にやってきた……?」

「そう、だからこの部屋にかかっている魔法も、ただの転移魔法じゃなくて異世界転移の魔法だってわかるの」


 私は耳を疑ってしまった。


 神や魔の者が住まう『天界』や『魔界』といった『異界』については召喚魔法でそれらの世界からび出すので実在するとは知っていたけれど、ティセが言う『異世界』については、かつてチーリから話を聞いていたことはあったものの、正直なところ作り話ぐらいにしか思っていなかったのだ。

 それがまさか目の前にいるティセが、異世界人だったなんて……。


 あれ、ということは……。


「……見た目が15歳ぐらいにしか見えないのに、34歳というのも異世界から来たことに関係があったr」

「ないよ!! これはただ単に私の血筋だよ!!!」


 それは違ったようで、私の言葉に『ちくしょー!!』と叫びながらティセは目に涙を浮かべてしまった。


 ……どうしよう。ボケようとした意図は無かったのに、結果的に茶化してしまったみたいになってなんとも気まずい上、私とティセの間に微妙な空気まで生まれてしまった。


 どうしよう……折角ティセが真面目に話してくれていたのに。


 その時だった。そんな私たちの間を取り持つようにどこからともなく助け船の声が聞こえてきたのだ。


「なるほど、ティセママは異世界からやってきたですか。それなら納得です」


 いつから話を聞いていたのかはわからないけれど、私とティセの姿が見えなくて探しに来たのだろうチーリがひょっこりと姿を現し、声をかけてきた。

 ちなみに、本日のチーリの格好は普段の露出の多い服を全て洗濯に出していたこともあって、ゴスロリ服。相変わらずゴスロリ服を着ると普段とは打って変わって深窓の令嬢みたいな雰囲気を醸し出すから不思議だ。


 ひとまず、蒼白した顔の救世主の登場に思わず安堵する私。


「チーリは、今のティセの話が本当だとわかるの?」

「勿論ですよ。チーリが今読んでいる魔導書にも異世界転移の魔法があったですし、この部屋に感じる魔力もそれの残滓ざんしだというのもわかるですから、異世界が本当にあるというのはわかっていたのですよ」


 でもそれだけでは、あくまで異世界が存在する事のみ確証が持てるだけで、ティセが異世界から来たという証明にはならないはず……。

 そんな私の疑問を、そう思うのは当然であるかのように、チーリは言葉を続ける。


「きっとシィおねぇちゃんが異世界の存在について疑っているのは、ティセママの見た目が、チーリたちの世界の人間と変わらないからだと思うです。

 だけど、ティセママは異世界人にしかない特徴を持っているです。それは聖魔法が使える事なのです」


「聖魔法が関係する……?」


「あまり知られてないですけど、聖魔法は異世界から来た人とその血を受け継いだ人しか使えないのですよ。異世界から来た人全員が全員聖魔法を使えるわけじゃ無いですけど、この世界に元々住んでる人に使える人はいないから、それだけでティセママが異世界人だってわかっちゃうです」


 なるほど。だからまるで突然変異のように現れるし、滅多にいないので聖女と認められると大抵は国の要人として丁重に保護されるのか。

 ……そのわりにはティセはろくな扱いを受けられずに冤罪までかけられそうになって逃亡したらしいけど。


「そして、どうしてこの教会の地下に、異世界転移の魔法が残ったままなのかもなんとなくわかるです」


 そう言うと、チーリは一体何処にしまっていたのか一冊の本を取り出した。

 かなり古い日記のようだけど……。


「このオンボロ教会に忍び込んでからティセママとシィおねぇちゃんに出会うまでの間に、チーリはこの教会に100年以上前に住んでいた人の日記を見つけてそれを読んでいたら、色々知ってしまったのです。

 この教会、表は普通の教会ですよみたいな顔をしてたですけど、裏では人身売買みたいなそういう黒いことをしてたみたいです」


 教会や司祭といった、弱者を保護する立場にある『聖職者』として民衆から慕われる者が裏では悪事を働いている、という作りばなしによくあるような荒唐無稽こうとうむけいなお話だと思っていたものがまさかここもその舞台となっていたとは……。


「異世界転移の魔法が使われたのも人身売買が目的で、転移させてきた別の世界の人間ならば足が付かないから、ということだったらしいです。さらにその人間が聖魔法を使えた場合は破格のお値段で国に売り渡せるから一攫千金もわけなかったみたいです。

 国は本当ならそれをやめさせる立場にあるのですけど、聖女を血眼になって探す必要も無くて次々に売られてくるのだからこんな甘い汁吸わないわけがないと、積極的に聖女を買い続けていたようなのです。

 そうして売られてきた聖女は、皇族や王族と結ばれた事で要人扱いされるようになった一部を除いて、使い捨て感覚で使い潰されてきたそうなのです。どんどんやってくるのですから当たり前といえば当たり前なのですけど」


 聖女を使い捨て感覚……。なるほど、ティセがひどい扱いを受けてきた上に冤罪までかけられそうになったのはその慣習が生き残ったままで、冤罪をかけようとしたのはもうお役御免と判断したからなのか。


……なんでだろう、そう思ってくると怒りがふつふつと湧いてくる。こんなに優しいティセをぞんざいに扱うだなんて。


「でも、悪いことは長く続かないものなのです。この教会にいた悪人たちはお金の取り分で内輪もめして結局同士討ちで破滅したそうなのです。

 この日記を書いた人はその後にやってきたみたいですけど、この地下室に作用し続けている異世界転移の魔法はあまりにも強すぎて止められず、結局放置する事になったそうなのです。

 そして、この教会に住む人が誰もいなくなってから何十年も経って、もう役目を終えている異世界転移の魔法に巻き込まれて、ティセママはこの世界に迷い込んでしまったという事になるです」


 今のチーリの話を聞いて、今まで、どうして、なんでと思っていたいくつかの疑問が解決したように感じた。


 この教会が打ち棄てられたかのようにボロボロだったのはもう何十年も人が住んでいなかったから。


 人目につかないように森の奥に建てられたのは、悪事に気づかれないようにする為で、教会は誰かに見つかってしまった場合にごまかす為の偽装。そしてこの地下通路は万が一のための逃亡用の通路。

 まあ、本来ならそれを咎めるはずの国まで加担しちゃったみたいだから、人目を憚ったようにした意味は結局無かったようだけど。


 チーリの口からこの教会の真の姿を知ってしまった私は、思わず眉間にしわを寄せてしまう。

 それはどうやらティセも同じらしいけれど、ティセの場合はそればかりではないようだ。


「今のチーリちゃんの話からすると、この異世界転移魔法は向こうから人をさらってくるためだけのもので、逆にこっちから行くことは無理そうよね。という事は……私は元いた世界にはやっぱり帰れないのね」


 異世界転移の魔法の先は、ティセが元いた世界に繋がっている。

 しかし、向こうの世界へ渡るためのものではなく、向こうから人をさらってくるためという一方通行的な役割なだけに、こちらから向こうに行くのは到底無理だろうとティセもそう結論付けたのだ。

 私もティセと同じ結論に達していると、チーリの話を聞いていたティセが少し悲しそうに持っていた人形を握りしめるのが見えた。


 そんなティセの悲しそうな顔を見ていたチーリは、首を傾げたかと思うとティセに尋ねた。


「んー、ティセママは帰りたいのですか?」


「へ?」


 チーリの言葉の意図が読めずに、少し間抜けな声とともに頭上に疑問符を浮かべたような表情になるティセ。

 そしてそれは私も同じで、ティセと同じような顔になってしまった。


 そんなティセと私の顔を見て、チーリは言葉が足りなかったのかなという面持ちをしながら、言葉を補足して改めてティセに尋ねた。



「えっと、単刀直入に聞いちゃうですけど、ティセママは元いた世界に帰りたいですか?」


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