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27.少しずつ、少しずつ

第二章最後の話です。

「さて、ここで一つ私はシィちゃんとチーリちゃんにお話ししておかなくちゃいけない事があります」


 朝ごはんを済ませた私とチーリが食器を片付ける為に席を立とうとしていると、ティセが急にかしこまったような態度で私たちに話しかけてきた。


「どうしたのティセ」

「なんなのですティセママ、チーリ、食糧庫にあったおいしそうなチーズなんて食べてないのですよ?」


 いや、それ食べたと言ってるも同然だからねチーリ?


 それにしても、そんな大々的に発表するようなことって一体何だろう、それらしい兆しも何もなかったはずだけど……。


「私、なんと今日で34歳になりました!」

「……へぇ」


 どうやら今日はティセの誕生日だったようだ。しかし私は特になんとも思わなかったので、軽く相槌を返すに留めた。それに対してチーリはというと……。


「なんと、ティセママ誕生日だったのですか。おめでとうなのですよ」

「ありがとうチーリちゃん。まぁ、もう嬉しい年じゃ無いけどね……あはは」


 こちらは祝福するような反応。私と違って素直でよろしい。

 しかしそれにしても……。私はそれ以上に気になってしまうことがある。


「……ティセって本当に人間? 34にはどうがんばっても見えないんだけど」


 ティセは相変わらずの童顔で低身長だ。さらに顔のしわも全く無く、卵肌としか言いようがない程にケアが完璧に行き届いた肌で、いくら多めに年を見積もってもやはり15歳ぐらいにしか見えない。

 ここまで変わらないと、ティセもまた私たちと同じ人外の血が流れているんじゃないかと疑ってしまうのも当然なわけで……。


「んな、私はちゃんと人間よ! 見た目は確かに子供っぽいけど……確実に老化は……心と体をむしばみ始めているの……。はぁ……ちょっと外の空気吸ってこよう」


 見た目はともかく、内面までは若くないそうだ。

 そして先程までの明るい雰囲気から一転、自分で言った言葉に自分でショックを受けたかのように急にどんよりとした雰囲気となったティセは、そのままフラフラとどこかへと行ってしまった。


 なんだかものすごく悪いことをしてしまった気がして申し訳なくなってくる。

 そんなティセに対して心の中で謝っていると、いつの間にか隣に来ていたチーリが私の服をちょいちょいとつまんできた。


「シィおねぇちゃんシィおねぇちゃん」

「どうしたの、チーリ」


「チーリ、ティセママに誕生日プレゼント贈りたいです。でも何したらいいかわからないのです。シィおねぇちゃんなら何を贈るですか?」

「あ、そっか。誕生日プレゼントか……」


 生まれ変わる前に過ごしていた孤児院のみんなは、そもそも誕生日がいつなのかわからない子も多かったからか、知識として誕生日プレゼントという慣習があることはわかっていたけれど、贈ったことも贈られたことも……いや、贈られたことはあった。



──シーナちゃん! シーナちゃんの誕生日がいつかわからないからシーナちゃんが来た日が誕生日でいいよね? 収穫祭で買ってきたこの髪飾りあげるね!



 誕生日プレゼントと言えるかはわからないけれど、私と一番仲の良かった黒髪の子は、孤児院でお世話になった日が私よりも早かった事もあってか、私が連れてこられた日を覚えてくれていた。そして私が孤児院に入ってちょうど1年が経った日に、髪飾りを誕生日プレゼント代わりにくれたのだった。


 でも、私は今その髪飾りを持っていない。殺されたあの日もちゃんとつけていたはずだったのに、生まれ変わった時にはそれがくなっていたのだ。

 ちなみにだけど、バンシーを含めた妖精というモノは怪物と異なって、死ぬと体が光の泡となって消滅し、何年も経ってから再び生まれ変わるという特徴がある。


 ……それを踏まえると、あの髪飾りは私が殺された時に今の私へ引き継がれずに消滅したか、髪飾りを遺して私は消えてしまったという事になるのかな。


 ちょっと残念だな……。


「……シィおねぇちゃん? どうしたですか?」


 過去の記憶を頭の中で掘り返していた為に黙りこくる事になった私を見て、どうしたのかと疑問に思ったのだろう。私の袖を再びチーリがちょいちょいと引っ張ってきた。


「あ、ごめん、なんでもないよ。それじゃプレゼントするもの、探しに行こうか」

「なのですよ」


 私もチーリも自分で使えるお金を持っていない。なので、村に行って買い物をするということができないので、この森の中にあるものをプレゼントしようという事になった。


 教会の外へ出る為に玄関を開けると、ちょうどティセも外から戻ってきたところだったようで、私たちはティセに一言伝えてから外へ出る。


「ティセ、私ちょっと近くを散歩してくるね」

「チーリも一緒に行くです」


「あ、うん。二人とも気をつけて行ってきてね」



  ******



 教会の外に出て、森の中を散策しながらティセへプレゼントするものを探す私とチーリ。


「といっても、この森の中に何かあるとは思わないけど……」


 季節は秋。実りの秋と言われるこの季節だけれど、この森に関しては、その概念から外れたかのように見渡す木々にはそういった代物がっている様子は無く、この季節になったら食用である事を問わなければそのあたりに適当に生えているようなきのこすらも全く視界に入らない。


「ねえチーリ、この森でプレゼントするものを探すのって、かなり困難じゃない?」


「むー、シィおねぇちゃんの言うとおり、見事に何もないです。でも何もなかったらチーリは体でお礼するから大丈夫です。」


「だからやめなさいそういう発想をするのは」


 危ない危ない、チーリは何かとすぐ己の体を汚す選択肢を選ぼうとする。どうしてこの子はすぐそういう発想になってしまうんだろうか。

 本当に将来が心配になってくる。これは姉として私が守ってあげないと。


 それから森の中を歩くこと数十分……。あまりの何も無さに私がそろそろ諦めようかとチーリに声をかけるべく振り向くと、先に足を止めていたチーリが何かを見つめているのに気がついた。


「どうしたの、チーリ?」

「シィおねぇちゃんあそこ見るです。綺麗なお花が咲いてるですよ」


 チーリが指さしたのは小さい崖。なるほど、確かにその中腹に白い花が咲いているのが見える。


「チーリ、あの花プレゼントしたいです」

「でも、あの花結構高い位置に咲いているけどチーリ取れるの? 危ないんじゃないかな」


 崖下まで移動した私が改めてその花が咲いている位置を確認すると、大体下から3メートルほどの位置にその花は咲いていた。

 確かに登れない事は無いのだけれど、これで万が一怪我でもしてしまったらティセの誕生日を祝うどころでは無くなってしまう。

 私は不安に思ってしまったのだけれど、チーリにしてみれば全く問題ないらしい。


「大丈夫ですよ、チーリは浮遊魔法でチーリの体を浮かせてあの花をゲットするです。今のチーリは前に比べて魔力がまた上がったですので、あの花を取るくらい余裕のよっちゃんですよ」


 私にそう答えたチーリがすかさず詠唱を始めると、チーリの体が徐々に浮かび始め、やがて花の高さまで無事に届いてしまった。

 どうやら先程の言葉通り、チーリの魔力は私たちと生活して成長する中で、少しずつ高まっていたらしい。


 そして、花を摘み終えたチーリはそのままゆっくりと降りてきて、摘んだばかりの花を私にも見せてくれた。


「シィおねぇちゃんも見るですよー。本当に綺麗な花なのです。ティセママへのプレゼント、ゲットなのですよー」


 相変わらずの蒼白顔で、心から嬉しそうな顔をするチーリ。その笑顔を見ていると私まで嬉しくなってくる。


「チーリの分はゲットしたですので、次はシィおねぇちゃんがプレゼントする分を探すですよ」


 おっと、チーリの笑顔にほっこりしてしまっていて忘れていた。まだ私はティセにプレゼントするものを見つけられていなかったんだ。

 だけど、こんなに森の中を歩いたのに見つけられたのはその花だけだったから、それ以外にプレゼントできるものがこの森にあるとは私は到底思えないわけで……。


 どうしよう……。うん、仕方ない。あれにしよう。



「私がティセにあげるものは決まったから大丈夫だよ。それじゃ、ティセも心配するだろうし急いで帰ろうか」


「なんと、チーリのあずかり知らぬ内でおどろきなのです。ならば帰るです」


 そしてチーリと一緒に私は教会へときびすを返したのだった。



「……私もそろそろ覚悟決めなくちゃね」


 小声である事を決意しながら。



  ******



 森から教会へと戻ってくると、ちょうどティセが帰ってこない私たちを心配したのか外に出て辺りをキョロキョロ見回しているところだった。


「ただいまなのですティセママ」

「ただいま」


「あ、2人ともお帰りー! なかなか帰ってこないから何かあったんじゃないかって心配しちゃったよー」


 危なかった、これでもう少し帰るのが遅くなっていたら、きっと教会を飛び出して血眼になって私たちを探し出そうとしたに違いない。


 私がそんな事を考えていると、チーリがティセの方へと向かい、先程摘んだばかりの白い花をティセに手渡した。


「これ、チーリからのプレゼントなのです。誕生日おめでとうなのです」


 その花を見せられたティセは最初驚いた様子だったけれど、受け取るやいなやすぐに嬉しそうな顔へと変わり、チーリに向かって微笑んだ。


「ありがとうね、チーリちゃん」

「むふふー、いえいえなのですよ」


 ティセが喜んでくれたから、チーリも嬉しそうだ。


 そして次は私の番だ。私はプレゼントになるものを見つけられていないけれど、ティセに感謝の気持ちぐらいは伝えたい。そして、プレゼントの代わりになるであろう、私が今ティセにできることはこれしか無い。


「ねぇティセ、目を閉じてくれる?」

「へ? いいけど……」


 私の突然のお願いに一瞬ポカンとした顔をしながらもティセは目を閉じた。それを確認すると、私は一呼吸置いてから、ティセのほっぺにそっと自分の唇を押し当てる。


 ……なんだか『ふひょっ』と変な声が聞こえた気がするけど気のせいだろう。

 そして、唇をほっぺから離した私は、続けてティセの耳元へ小さく感謝の言葉をささやいた。


「誕生日おめでとう……()()()()()。私とチーリの母親として、これからもよろしくね」


 そこまで言い終えた私がすぐさまティセから離れると、その言葉聞いたティセは何故かわなわなと体を震わせたかと思うと、腰を抜かしたかのように地面へと座り込んでしまった。


「ちょ、ティセどうしたの」


 予想外のティセの動きに困惑した私が思わずティセに声をかけると……。


「シィちゃんがデレた! やった!」


 何その反応。別にデレてないってば。


「なんと、シィおねぇちゃんが体でお礼したのです。私にはダメと言っておきながら、あっと驚くチーリなのです」


 チーリも違う、そういう言い方をするんじゃない。

 おかしいな、どうしてそういう反応になっちゃったんだろう。


「ちょっと2人とも、そんなんじゃないから。……一回くらいティセの事をそう呼んでもいいかなって思っただけだから」


 反論する私だったけれど、ティセは『ツンデレ!? ツンデレなのシィちゃん!!?』などと訳のわからないことを叫び出す始末。

 全くもう……。



 そう呆れる私だったけれど、私にチーリという、この世界から見捨てられたような人外2人を娘として大切に、そして献身的に保護してくれているティセの事を、私はすっかり母親として認識するようになってしまっていた。


 まだ、素直にお母さんと何度も呼ぶのには抵抗があるけれど、こうしてたまにならお母さんって呼んだりしてあげてもいいかな、なんて思ったりもするようになっていたわけで。


 そして、なんとなくだけど、私はティセとチーリと、これから未来さきも一緒にいられるなら、そのうち、2人には完全な笑顔と、嬉し涙を見せられる日が来るかもしれない。



 それがいつになるか全くわからないけれど、そんな気がする。


 改めて、誕生日おめでとう。ティセおかあさん。


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