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25.ノートの中身

「それじゃ2人とも、すぐ戻ってくるから留守番よろしくねー」

「ん」

「わかったのですよー」


 昨日3人でリタキリアへ買い出しに行き、帰ってきた直後に買い忘れたものがある事を思い出したティセ。

 しかし事情があってここから歩いて3日掛かるコトイオトから来ている事にしているのに連日リタキリアへ行くのは不審に思われるのではと判断したティセは、リタキリアではなく、南にあるルベレミナへ買いに行くことして、一人買い物へと向かったのだ。


 というわけで、今教会にいるのは私とチーリの2人だけ。


「それじゃ部屋に……何してるのチーリ?」

「なにか落ちてたです」


 ティセを見送ってからいつもの部屋へ戻る為に私が(きびす)を返すと、床に何かが落ちているのを見つけたチーリがしゃがみこんでそれを拾い上げた。


 どうやらノートらしいけど、私はそれに見覚えがあった。確か……。


「それ、ティセの日記じゃない?」

「なんと、ティセママの秘密詰め込みまくり帳だったですか」


 ティセとチーリと暮らすようになってから、時々ティセが一人でノートに何かを書いている姿を見かけたことがある。何を書いているのか尋ねたことはあったけれど、困った顔をして、一度として教えてくれたことはない。

 まぁ、教えてくれないことから察するに、まぁ日記だろうと私は判断していた。


「ねえチーリ、多分ティセはそれの中身を見られたくないに違いないから見ないでおこうよ」


「むー、だめなのですシィおねぇちゃん。チーリは知的欲求の塊のリッチの血が流れているのです。こんなものが落ちていちゃチーリは見ざるを得ないのです」


 全くもうこのイケナイ妹は。しかしまぁ私も実は何が書いているのか気になってはいたりする。


 ……ちょっとだけならいいよね?


「……ティセが帰ってくる前にちゃんと机の上に置いてね」


 折れた私を見て『おやっ』という顔をチーリがしたかと思うと、なんとも悪そうな笑みを浮かべながら私に話しかけてきた。


「シィおねぇちゃんもワルよのうです」

「少しだけだから、それに何か変態的な事が書かれてたらたまったもんじゃないからね。防犯上のためだから仕方ない」


 そう御託を並べながら私はチーリと一緒にティセのノートを開いてみた。



──○日、シィちゃん、食べる量は少ないけれど出したごはんは全部食べた。チーリちゃんも全部食べた。


──△日、どうやらチーリちゃんはかぼちゃが嫌いらしい。でも涙目になりながらがんばって食べていたので偉い。シィちゃんは全部食べるけれど好みがわからない。好物がわかったらもっと好きなもの食べさせてあげたいな。


──▼日、またシィちゃんに呆れられてしまった。母親失格だなぁ。がんばらないと。


──☆日、庭でチーリちゃんが派手に転んだ。どうやら石につまづいたらしい。すりむいて傷になってしまったけれど私の治癒魔法ではおそらくチーリちゃんには逆効果だと思う。なので、ばんそうこうで対処。ごめんねチーリちゃん。


「シィおねぇちゃん、これって……」

「うん、多分私とチーリの成長記録だね」


 私とチーリは、一度お互いの顔を見合わせてから別のページを開いてみる。



──◎日、チーリちゃんの身長が随分高くなってきた。すくすく成長しているので安心。一方、シィちゃんはあまり身長が変わっていない。でも、肌つやがよくなってきていて、あんなに浮かんで見えていたあばら骨も今では見えなくなりつつある。なので良い方に成長しているに違いない。


──◆日、シィちゃんが笑顔を見せてくれた。最初は口角が僅かに上がるだけだったのに、今ではよく微笑んでくれる。嬉しい。チーリちゃんはよく笑顔を見せてくれるけど、依然として蒼い顔。どうやったら顔色が良くなるのかな。



「……建前じゃなくって、本当に私たちの事を大切に思って母親らしく頑張ろうとしているんだね……まだ空回りしている時もあるけれど」

「チーリもシィおねぇちゃんも、ティセママに愛されているのがわかって……チーリ嬉しいのです」


 こうしてティセががんばっている事を改めて実感させられてしまうと……私も少しはティセに少しは優しくしようかな、なんて思いそうになるわけで。


 さらに私たちは別のページを開いてみる。


──☆日、2人をおんぶしてみる。シィちゃんとチーリちゃんは前におんぶした時より重くなった。体型はそんなに変わっていないので、順調に大きくなっているのがわかる。肉付きも改善しているので、このまま自分のペースで成長していってほしいな。


 ページを開いていくたびに胸の内が温かくなっていく。

 誰かに想われるのって……やっぱりいいものなんだね。


 そしてこれを見せようとしなかったのは、きっと恥ずかしかったんだろうね。あんなにちゃらんぽらんとしている姿を見せるのに、その裏では真剣に私たちの事を考えていたから。


「ねぇ、チーリ。これ以上見るのはやめにしない?」


 私はこれ以上は見ない方がいいと判断して、チーリに問いかけた。


「むー、わかったです。チーリとしてはティセママのチーリとシィおねぇちゃんへの愛情たっぷりノートを最後まで読みたいですけど……」


 渋々ながらではあったものの、チーリとしても何か思うところはあったのだろう。

 普段ならばリッチの特性を盾にして最後まで見たがるだろう所をあっさりと引き下がると、落ちていた床の上に再びノートを戻した。


「多分机の上に置いたらチーリたちが見たって感づくかもしれないです。なので、気づかなかったふりをして床に戻すです」

「うん、それでいいと思う」


 そして私とチーリは、普段からいる部屋へと戻ることにした。

 私の前をどこか嬉しそうに歩くチーリを見ながら、私は思ってしまった。


 どうやらチーリは気がついていない、と。


 それはチーリがノートを閉じる前にパラパラとめくった時。私の視界にたまたま入った日記の最新部分にこう書かれていたのだ。



──†日、成長期らしいシィちゃんの服が窮屈そうになっているので冬服を買い換えないといけないかも。そして前にシィちゃんに怒られたので、今度こそチーリちゃんが冬でもお腹を出そうとするのは防がなくちゃ。



……ちょっとその光景を楽しみに思ってしまっている悪い姉の私であった。



 ******



 それにしても、ティセが育児記録をまめにつけているほどに、私たちの母親であろうとする事をがんばっていると実感させられてしまった私は、そんなティセへの感謝の気持ちが芽生えていた。

 そしてティセは今外出中。となると今がチャンスなのかもしれない。


「ねえチーリ」

「どうしたのですかシィおねぇちゃん」


「今日は私たちでご飯作ろっか。きっとティセも喜んでくれると思うよ」


 少しでもティセの気持ちに応えてあげたい。その想いから私は今日のご飯を作ってティセを驚かせつつ感謝の気持ちを伝えようと思ったのだ。

 私としてはいい提案だと思ったのだけれど、チーリの口から放たれた言葉でご飯を作ることを思いとどまってしまった。


「チーリがつくるご飯は、さいけでりっくな、いにしあちぶで、さてぃすふぁくしょんですけどいいのですか?」

「うんわかったチーリが何言ってるのかさっぱり理解できないけどひとまず危険なのだけは理解したやっぱやめよう」



 こわい。一体何を作る気なのチーリは。


 ……まぁ、私もそんな事を提案する割に実はご飯を作れないから、チーリの事を悪く言えないけども。



 結局この案は有耶無耶となってしまい、ティセにご飯を作ることはなかったのだった。


 ごめんね、ティセ。



 ******



「しまったわ、ついつい寄り道しちゃって遅くなっちゃったわね……あら?」


 私たちがご飯を作らないと結論づけてから1時間ほどして、ティセが教会へと戻ってきた。

 ただ、私もチーリも玄関ではなく別の部屋にいた事もあって、まだティセが帰ってきたことには気がついていない。

 玄関から中に入ったティセが、床に視線を落とすとそこには一冊のノート。先程まで私たちが中を覗き見していたノートだ。


「いけない、私ってばノートを落としていたのね。危ない危ない……見られてないといいんだけど」


 そう言いながらノートを拾い上げたティセはパラパラとページをめくり、ある部分で手を止めた。それは私とチーリが見ずに飛ばした、とあるページの日記。


──@日、今日シィちゃんが倒れた。多分デリシャスベアーの解体を見たからの気はするけれどどうもそれだけではない気がする。シィちゃんの視線の先にあったのはデリシャスベアーの首。何か首に関してトラウマでもあるのかな……。私の中でも一つだけ思い当たる事があるけれどまだ確信が持てないので今は保留。


「……」


ティセはそのページを黙したまま目を通してからノートを閉じ、私たちがいる部屋へと歩き出した。


「ただいまー、2人ともー!」

「あ、ティセママお帰りなのです」

「おかえりティセ」



……ティセの思い当たる事、それがなんなのか、そしてそれが正しいのか間違っているのか明らかになるのはもう少し後の話。

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