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22.もう一人のバンシー

本日2更新目です。

未読の方は1話前からお読みください。

 海辺のすぐそばにある森、私は今その中を一人歩いている。それはこの森の中に、私と同じ種族であるバンシーの気配を感じたから。


「こんにちは、いるんでしょ? 出てきてちょうだい。私はあなたと同じ種族だから安心して」


 森の中で私がそう呼びかけてしばらくすると、ワンピースを着た少女が木陰から姿を現した。

 色素の薄い肌に陰気そうな表情で泣きはらしたかのように真っ赤な瞳。それらの特徴からも潜んでいたのはやぱりバンシーだったという事が一目でわかる。


「……」

「……」


 お互いに黙りこくったまま見つめ合う私ともう一人のバンシー。ちょっと変な空気になりそうな気配がしたので、私は先に自分から名乗る事にした。


「私、シィ。あなたは?」

「……バーシアだよ」


 バーシアと名乗った彼女を見て私がまず思ったのは……痩せぎすで頬までこけているように見えたこと。

 そしてこれがバンシー本来の姿で、ティセと出会った時の私はまさにこんな感じだったのだろう。ティセが私を見てごはんをたくさん食べさせようと躍起になったわけが今になってよくわかる。


 そんな風に私がバーシアを見ていると、何故か向こうも不審そうな目で私を見ている。

その視線の理由がわからなかった私はバーシアが次に発した言葉で気づかされてしまった。それはというと……。


「あなた、気配は確かにバンシーだとわかるけど……本当にバンシーなの? 随分柔らかそうな肉付きしていて……それにワンピースも着ていないの?」


 私が本当にバンシーなのか疑ってしまった視線だったようだ。

 ……まぁ気持ちはわかる。だって私はティセたちと暮らしていることによって、既にバンシーらしからぬ肉付きのよい体型をしているし、その上私は今修道服を着ている。確かにこれでバンシーだと主張するのはうたぐってしまうのもうなづける。


「信じられないかもしれないけれど私はバンシー。証拠にこの赤い目でわかると思う」

「……確かに、血のように真っ赤な瞳はバンシーね……うたぐってごめんなさい」


 バンシーの特徴である赤い目でなんとか納得してくれたらしく、バーシアはうたぐってしまったことを私に謝罪した。


「それで、あなたはどうしてこの森に?」

「……まぁ、色々あって。もう誰かに関わりたくないからこうして誰も来ないここに潜んでいるのよ」


 言葉を濁しながら私から視線をそらしたバーシア。彼女も彼女で何やら訳ありのようで、今世に生まれ変わったばかりの時の私と同じように、一人で隠れて生きることを選んだらしい。

 でも、言葉をぼかしたあたり、きっと出会ったばかりの私にはその理由を教えてはくれないだろう。

 私がそんな風に思っていると……。


「……いいわね」


バーシアがポツリと言葉を漏らした。


「え? いいねって何が?」


バーシアの言葉の真意がわからない。なので私は反射的に彼女へその理由を尋ねていた。


「だって、あなた……私からしてみたらとっても幸せそうだもの」


 幸せ? 私が……?

 自分ではよくわからないけれど……彼女にはそう見えるのだろうか。


「バーシアからしてみたら私がそう見えるの?」

「うん、バンシーとしてみたら、種族的にあるまじき姿をしているけれど……多分あなたはそれでいいのだと思うわよ。そして、きっとそれがあなたの進むべき道」


 バーシアはそう私に教えてくれると目を伏せってしまった。まるで、私とは生きる道が違うとでも言うかのように。

 そんな彼女を見た途端、私の中でいてもたってもいられなくなる感情が突如噴き出し、彼女に向かってある提案を切り出していた。


「ねぇ、あなたも一緒に来ない? きっと私と暮らしている人たちならあなたの事をきっと歓迎してくれるはず」


 どうして私がそんな提案を彼女へしたのか全くわからない。

 でも、ティセもチーリも彼女の事を受け入れてくれるに違いない。そう思ったから。


 しかしバーシアがうなづく事は無く、首を数度横に振ると困った顔をしながら私に口を開いた。


「……あたしは死ぬはずだった所を運良く生かしてもらった事があったおかげで、今こうして生きていられるの。

 それだけで充分幸せだから気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう」

「そう……わかった。」


 バーシアのその発言から、彼女にもかつて命の危機があったことが推測される。そして、誰かによってその危機を救われたことも……。

 死を呼ぶ存在として忌み嫌われ、討たれる存在のバンシーだと知りながらも、それでも私にとっての孤児院の院長さんやティセと同じように手を差し伸べた人が彼女にもいたようだ。

 しかし彼女は今回、私の手を取らずに一人で生きる道を選んだ。きっとこれが彼女の進みたい道だったのだろう。ならば私も無理にというわけにはいかないので、素直に引き下がった。


「……それじゃあたしはもう行くね。久しぶりに誰かと言葉を交わせて嬉しかったわ。じゃあね」


 そう言うとバーシアは、私の返事を聞かずに背を向け、そのまま一人森の奥へと消えていってしまった。

 ……この場にいたのが私じゃなくてティセだったなら、きっと有無を言わさずに彼女を連れていけたんだろうな。ちょっとティセのあの強引さが羨ましくなった、少しだけ。


「……私も戻ろうか」


 私もきびすを返して、ティセとチーリがいる海辺へと戻る事にした。



 ******



「あ、シィちゃん戻ってきた。おかえりシィちゃーん」

「おかえりなのですよー」


 私が海辺へと戻ってくると、ティセとチーリが、笑顔で私を迎えてくれた。そして周囲に漂うのは焼き魚のにおい。


「ただいま。……それ、さっき釣り上げたサンダーラブカ?」


先程釣り上げたばかりのサンダーラブカが既に焼き魚へと変わり果てていた。早いね。


「そうだよー、今日はここでお昼ご飯にしようと思って。シィちゃんも食べるよね?」

「おいしいのですよ、シィおねぇちゃんも食べるといいですよ」

「食べるよねって尋ねながら私に向かってもう差し出しているじゃないの……。まぁ食べるけれど」


 サンダーラブカの切り身を受け取った私は、早速頬張ってみた。……なるほど、意外とおいしい。……ただ、一つだけ疑問がある。


「ねぇティセ。どうして私が森にいる間にサンダーラブカを調理していたの? 別に私が戻ってきてからでも良かったのに。そしたら私も手伝えたよ」

「あー……、もしかしたらシィちゃんの具合が悪くなるかもしれないと思って。前にデリシャスベアーの解体を見て具合悪くなってたでしょ? だからさっき一人で森の中へ行ったのももしかしたらと思って……」

「あ、なるほど……」



 私はここでティセが私に気を遣ってくれたのだと気がついてしまった。


 ただ、前にも言ったようにデリシャスベアーと違って、サンダーラブカみたいな魚類に関しては食材にしか見えないので、全く問題は無い。

 だから今回の気遣いに関しては、あまり意味が無かったのだけれど、それでもそんなティセの気遣いに私は少し嬉しくなってしまったのだ。


 ……お花摘みと言ったことについてはもう少し別の言い方があるだろうと正直思うけども。


 そんなティセの気遣いに対して私は、これだけは口にしたいと思い、ティセに聞き取れるか聞き取れないかぐらいの小声で、ポツリとつぶやいた。


「……ありがとう、ティセ」

「へ? シィちゃん何か言った?」

「ううん、何も言ってないよ」


どうやらティセには私の声は聞き取れなかったようだ。

……うん、私にはまだこれが限界。面と向かって言うのはまだ……恥ずかしいもの。



 それから、サンダーラブカを釣り上げた後も色々な魚を釣り上げた私たちは家に持ち帰って暫くの間魚三昧(ざんまい)の日々を過ごすのであった。



 ごちそうさまでしたティセ。おいしかったよ。

今回登場したバーシアは、ひとまず出番はここまでなのですが、忘れた頃にまた出てくる予定です。


そして明日も2更新予定です。

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