18.春の訪れとチーリに羞恥心芽生えさせ隊活動誌
人によってはR-15要素と捉えてしまう描写があります。
苦手な方はご注意下さい。
私がティセとチーリに出会ってから大体9ヶ月が経過し、あんなに積もっていた大雪も今では大部分が溶け、すっかり春らしい気候となっていた。
生まれ変わった当初は『一人で生きていかなくちゃならない』とあんなに決心していた私だったけれど、既にその決心もどこへやら。
一緒に暮らすチーリの事を妹としてとてもかわいく思うようになり、保護者的立場であるティセにもまた、時折笑顔を向けるようになっていた。
まだ嬉し涙は流していないけどね。
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「すっかり外は春なのですよ。なのでチーリのこの色気溢れる流線型ぼでぃを活かせる服が再びお目見えなのですよ」
「だからどうしてそこをこだわるのかなこの7歳児は」
「シィおねぇちゃんは頭が固いのです。この未来の主導権は肌見せスタイルしかないのですよ」
季節が冬から春になるまでの間に、チーリは一つ年を重ねて7歳になっていた。
根っからのバンシーである私と違い、半分は人間の血が流れていることもあって、チーリは出会った当初よりも成長して、私の背丈を追い抜いてしまった。
それでもチーリは私のことを姉と呼んで慕ってくれているので嬉しい限りではあるけれど……私は相変わらず、チーリのその肌を見せたがる性分だけは理解できないままであった。
肌を見せることに対して相当の自信もあるらしく、一体何がそこまでチーリをかき立てるのか、皆目見当もつかない。そしてその横には、本来その格好をストップさせるべき監督責任のあるもう一人の困ったちゃんこと、チーリの母親代わりであるティセ。
……私はまだティセの事を母親と思ってないよ、心は許しているけど。
それはともかく、そんなチーリを見たティセはと言うと……。
「まぁ、チーリちゃんがいいというならそれでいいわよ」
「いやダメだってば」
すっかりさじを投げているティセと、そんなティセに対して即座にツッコミを入れる私。
「えー、だってこれはもう生き様とか、生き甲斐とかそういうものだからそこは尊重してあげないと」
「それはただの放任主義」
そんな感じに、なんともダメダメなティセだった。これはチーリの姉として、私がなんとかしなくちゃだめなやつだ。
「全くもう……ほらチーリ、ちょっとこっち来て」
私は、チーリの腕を取ると、隣の部屋へと連れていった。
「一体どうしたですかシィおねぇちゃん」
「今から私はチーリと同じような格好をする。それを見て、今の自分がどう見えるか客観的に判断して」
私は、敢えてチーリと同じような高露出度で肌色面積の大きい服を着ることにした。それを見たらきっとチーリにも周囲の目から自分がどう見えていたか、それに気づいた時、チーリにもきっと羞恥心が芽生えるに違いない。そう判断したから。
……えっと先に言っておくね。この作戦は失敗だったって。
私はまず今来ていた修道服を脱ぎ始めて、下着だけの姿に。
……その時点でチーリが『ほわぁ』と歓喜のため息を漏らしたことに気づけなかったのが失敗だった。
ちなみに、この部屋にはたまたま姿見があったので、今の自分の体をチラ見してみると、この廃教会で暮らし始めた当初は、肋が浮き出るほどに痩せこけて不健康そのものだった私の肢体は、今では肉もしっかりとついて、すっかり健康優良児みたいな体つきになってしまっている。
バンシーとして、そんな体つきになっているのは正直どうかとも思うけれど、この暮らしを続けていく以上、ある程度の妥協は必要だともう割り切っている。
そしてなによりまだぷにぷにという領域には達していないのでセーフのはず。
だって、ふくよかなバンシーなんて聞いたことないよ私。
とまあそれはともかく、私はそのままチーリと似たような露出度の高い服へと着替えた。
そんなわけで私の今の姿はチューブトップにホットパンツ。そしてなんとなく取らずにいた修道服の貫頭衣。
……露出度の高い衣装に貫頭衣の対比、あまりにもマニアックすぎる格好の気もするけど、チーリは普段から露出度の高い服に対してローブを纏っているのできっとおあいこのはず。
「というわけで、どう、チーリ。これが今のチーリと大体似たような姿だよ。これを見てどう思う?」
肌色率が非常に高いこの格好。これを客観的に見てチーリが今の自分の姿を恥ずかしいと自覚してくれると嬉しかったんだけど……そうはならないのが世の常。
何故かチーリは、手を胸元で合わせると、感激したような顔で私を見ている。
待って何その反応。
「シィおねぇちゃんのその姿、とても素晴らしいのです。是非ともチーリのお腹とシィおねぇちゃんのお腹をすりすりと重ね合わせたいのです」
「待ってなにその願望全く意味がわからなくて怖いんだけど」
「チーリはお腹マニアなのです。こう、すべすべとしたお腹を見るとチーリのお腹とスリスリさせたくなるのです。今チーリは至高のお腹を見つけたのです。なのでシィおねぇちゃんは是非ともチーリとお腹合わせを」
そう言いながらこちらへとにじり寄ってくるチーリ。蒼くて覇気の無い顔に笑顔を浮かべていてなんというかそれが非常に怖い。私、バンシーなのに今チーリを本気で怖がっている。
永らく忘れていた怖いという感覚に自分で驚きそうになるけれど今はそんな状況じゃない。なんとかしてチーリを止めないと。
「待って、待って待ってチーリ。落ち着いて。ここは落ち着いて話そう」
「待ったなしなのです。すべすべお腹見合って見合ってはっけよいなのです」
私の抵抗むなしく、チーリに抱きつかれた私は、何の意味があるのか私のお腹とチーリのお腹とで、すりすりさせあわせられてしまうのであった。
性的に襲われたとかじゃなくて、本当にただ私のお腹とチーリのお腹をすりすりとさせあっただけでそれ以上でもそれ以下でもなく……。
わからない、私にはチーリの願望が全くわからない。いや、チーリのお腹すべすべして気持ちよかったけど……違う違う、そんな話はどうでもいい。
そんなわけで、なんというか体力をごっそりと持っていかれたような感覚に陥りながら、私はようやくチーリから解放された。
一方のチーリはというと、まるで私から英気か何かを吸い取ったかのように、生気が全然感じられない蒼い顔のはずが、何故か生き生きとして見えるほどに満面の笑みだ。
……なんだか疲れた。そして私もチーリにこれ以上露出度の高い服をやめるよう説得するのは金輪際やめようと誓うのであった。
「ふぅー、とても満足したのですよ。ありがとうなのですよシィおねぇちゃん」
そう言いながら部屋から出ようとするチーリがドアを開けた瞬間、何か慌てたように私の元へと引き返してきた。
「大変なのです、廊下でティセママが尊すぎて死ぬとか言いながらぶっ倒れているのです」
「……ほっといていいよそんなやつ」
覗き見していたなティセのやつ。
全くもう、見てたんなら助けてよ。