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17.私の心傷

残酷な描写と判断できる箇所があります。

読む際はご注意ください。

 あの大雪から一週間。晴れた日が続いたので少しだけ雪は溶けたものの、まだ正面からは出られないほどに積もっている。

 私たちは買い出しに行くため、地下通路から外に出てルベレミナへ向かって歩いているところ。ちなみにチーリは冬になる前に買ったメイド服を着ている。


「チーリちゃんメイド服とても似合うよー」

「むふふー、チーリ照れちゃうのですよ。……お腹見えないのがチーリ的には残念ですけど」

「なんでそんなにお腹を出す事にこだわるのかな……」


 そんな会話をしている私たちが買い出しに行く目的はというと食糧の確保。そして買い出しに行くのは先日の大雪から実は2度目だったりする。


 先日の大雪後に、また大雪になったらまずいからと、直後にティセが買い出しに出かけて、春になるまで出かけずに済むぐらいの食糧を買ってきていたはずなのだけれど、どういうわけか食糧の減りが早くて、既に底をつきかけていたのだ。


 その原因はというと……。


「それにしてもチーリちゃん。いっぱい食べるようになったわねー」


 チーリだった。最近チーリの食べる量が増えているので、それで計算が合わなくなり、あっという間に食料の備蓄が無くなってしまったのだ。


「むー、ティセママのごはんがおいしいのと、チーリはまだ成長期だからもっと食べたいのですよ」

「そっかぁ。それじゃチーリちゃんの食べる分も考慮して食糧買ってこなくちゃね」


 チーリはいっぱい食べているにもかかわらず、肥満になる事も無いまま体型を維持しながら順調に成長しているので、ある意味理想の状態だ。

 そしてごはんがおいしいと言われて、まんざらでもない顔をするティセ。


 ちなみに私の食は細いので、逆にティセにもっと食べるよう促されていたりする。

 確かにティセのご飯はおいしいけれどこればかりは仕方ない。普通のバンシーだったらそもそも今の私が食べる分すら食べないんだからこれでも多い方なの。



 そんな風に私たちが雑談をしながら歩いているとやがてルベレミナの村の入口まで辿たどり着いた。

 相変わらず門番がいない村の中へ入ってみると、とある露店の前に人だかりができていた。一体どうしたんだろう。


「ティセ、あそこだけ人の山がある」

「そうだねー、何かやってるのかな?」

「チーリ気になるです、見てくるです」


 そう言うなりチーリは私たちが何かを言う前に露店へと駆け出して行ってしまった。

 飽くなき探求心の塊であるリッチの血が流れているから仕方ないとはいえ私たちが返事をするぐらいは待ってほしいよチーリ。


 ……まぁ、そこがチーリのかわいいところではあるんだけど。

 それはともかく早くチーリを追いかけなくちゃ。


「全くもうチーリは……ティセ、私たちも行こう」

「そうだねシィちゃん。チーリちゃん待ってー」


 チーリの後を追いかけた私たちは、露店の前で何かを感心した顔で眺めていたチーリを捕まえた。



「こら、チーリちゃんダメだよ、いきなり走り出すのは」

「むー、ごめんなのですティセママ、シィおねぇちゃん」

「それで、一体この人だかりの原因は一体……」


 チーリとすぐに合流できたので安堵した私が改めてその露店を見てみた瞬間、私の心臓が大きく鼓動を打った。


「シィおねぇちゃんすごいのですよ。とても大きなデリシャスベア―なのですよ」


 それは狩られて村へ運ばれたばかりの怪物だった。ちなみにデリシャスベアーはその名前の通り、味がとても良い高級食材になり得る怪物で、そして今私たちの目の前のデリシャスベアーは通常より遥かに大きいサイズで非常に珍しいものだった。

 そのデリシャスベアーの横には、屈強な体格の男たちが大きななたを携えている。

それが意味するのは……。


「成程、大物を狩ってきたから解体するところだったのね。確かにあんな大物はあまりいないから見世物になりそうね」


 どうしよう、私の動悸どうきが止まらない。


「うぇ……うっ……」


 その上、嗚咽まで漏れ出した。


「ちょ、どうしたのシィちゃん、顔色が真っ青よ? 解体する所を見るのは苦手だった?」


 普段から顔色が良くない私の変化にティセはすぐさま気がついたようだ。いつもはあんなにへっぽこのなんちゃって母親なのにこういう時ばかりは本当に母親らしい。

 だけどごめんティセ。私はそれだけで体調が悪くなったんじゃないの。


 今まさに解体しようとする現場を視界に入れた瞬間に、朧気おぼろげとなっていた前世の記憶が断片的に思い出されたの。


 それは、私が絶命する直前の記憶。その直前の記憶で最期に味わったのは、私の首にあたる固い金属の感触。


 あの男の人が持っているなたで思い出されたという事は……そっか。私はあんな感じの刃物で首を吹っ飛ばされて殺されたのか。


 それに気づいた途端、季節は冬のなのにまるで猛暑のように私の身体を変な汗が伝っていく。


 大丈夫、ただ記憶が思い出されただけだからなんともない。落ち着いて私。

 そう自分に言い聞かせて目の前の光景から目を離せば良かったのに、私はデリシャスベア―を再び視界に入れてしまった。


 私が動揺しているうちに、いつの間にか切り離されていたデリシャスベアーの首が光を宿さない瞳をこちらを向けている。


 それはまるで、


『次はお前の番だ』


 そう私に向かって告げているようで。



 襲い続けてくる恐怖心に耐えきれなくなった私はあっという間にいっぱいいっぱいとなって、突然意識が遠のいてしまった。

 そして、そのままその場に倒れそうになった私が意識を完全に失うまでの間で覚えているのは……私の名前を叫ぶ声と、私が倒れないように支えてくれたティセとチーリの手の感覚。



 ******



「──あれ、ここは……」

「あ、シィちゃん気がついた! よかったぁ……」

「シィおねぇちゃん大丈夫ですか?」


 意識を取り戻して目を開けた私の視界に入ったのはルベレミナの村の中ではなく、見慣れた廃教会の天井と、私を心配するように覗き込むティセとチーリの顔。

 どうやら気を失ってしまった私をティセとチーリが教会まで運んでくれたようだ。


「シィちゃん体調悪かったの? ごめんね私、気がつかなくて……」

「おなじくごめんなのですよ」


 そう言うなり私に謝り出すティセとチーリ。


「あ、違うの。2人が悪いんじゃないの……」


 私が気を失った原因は解体ショーの首を切り離されたデリシャスベアーなので、ティセもチーリも全く悪くない。だけど自分たちが悪いかのように2人は謝り続ける。


「……ありがとう2人とも。もう大丈夫だから」


 私は、本当に小さな声で2人にお礼を言った。


 もしもあそこに私しかいなかったとしたら、もしかしたらあのデリシャスベアーのように、私は気絶したまま首を切り落とされていたのかもしれない。それは、私が人から忌み嫌われるバンシーだから。


 だけどそうならずに済んだのは、倒れそうになった私を支えて、さらに廃教会まで運んできてくれた2人がいてくれたから。


 そして、2人がいてくれてよかったなと心の中で思う私の中に、前世の時の味わっていた温かい気持ちが再び少しずつ芽生え始めている事にここで私はようやく自覚したのだった。



 ……いいのかな。バンシーの私がまたその温かい気持ちを持ってしまっても。



 ******



「ところで2人とも、買い物は……?」

「あ」

「忘れていたです」



 ……これはむしろ私の方が謝らなければいけないかも。


 ……ごめんティセ、チーリ。

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