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16.雪に閉ざされて

 収穫祭の日からしばらくすると雪が降り出すようになり、今ではすっかり外は冬の装いとなっていた。


 そんなある日のこと、一人先に目を覚ましていたチーリが何か慌てた様子でまだ眠っている私とティセを起こしにやってきた。


「ティセママ、シィおねぇちゃん、大変なのです。起きるのですよ」


「んん……、なに、チーリ」

「どうしたのチーリちゃん、まだ朝じゃないよね……」


 私とティセがその声に目を開けてみると窓の外は暗いので、少なくともまだ朝は来ていないように思える。

 しかし、実際はとっくに朝を迎えていたらしい。


「違うのですよ。大雪です。大雪で家が埋もれているのです」


 寝起きでまだ頭が働いていないというのもあって、チーリが何を言っているのかよくわからない。

 確か昨夜も雪は降っていたけどチラチラとだったはず。


「どういうこと」

「わぁ、見てシィちゃん。窓が雪でびっしり埋もれているわよ」


 ティセのその声に私が窓の方を見やると……確かに窓が一面真っ白だ。

 どうやら私たちが眠った後で大吹雪が起きて、たった一晩で教会の周りを雪が埋め尽くしてしまったらしい。


「ちなみに玄関も扉を開けると真っ白い壁で出られなかったのです」

「そっちもなのチーリちゃん!?」

「確認しに行こう、ティセ」


 そのチーリの言葉を確認するために、私たちが玄関まで行って扉を開けてみると……チーリの言葉通り、雪の壁ができ上がっていた。


「うわぁ、何この雪の量。外に出られないじゃないの」


 この廃教会には2階と呼べる部分がなく、さらに屋根裏から外に出ようにも窓が無い。

 その為、屋根裏から外に出ることもできないし、そもそもどれぐらい積もっているかわからないので、仮に屋根に穴を開けたとしてもそこも雪で埋もれている可能性だってある。


 そんなわけで、私たちは完全に閉じ込められてしまったようだ。


「うーん……、2年半ぐらいここに住んできたけどこんな大雪は初めてだわ……さて、どうしようかしら。まだ食糧の備蓄はあるけれどこのままだと飢えてしまうわよね」


 頬に手を当て悩むティセ。しかし私とチーリはというと……。


「前も言ったけど私は何も食べなくても平気」

「チーリも実は平気だったりするです」


 私はバンシーという妖精、そしてチーリはハーフリッチ。私にとっての食事はただの嗜好品の一種で必要が無い。

 チーリもまた、人間とアンデッドであるリッチのハーフで、今はリッチとしての血が色濃く出てきてしまっているため、肉体を成長させる為ならば必要だけど、生きるためだけなら私と同様に食事を摂る必要が実は無い。


「あ! じゃあ私だけ餓死する危険あるじゃん!」


 その通り。食事に関して死活問題となっているのは、ティセだけなのだ。

 しかし、ここまで私たちに対して献身的になっているティセが餓死するという最悪の事態は避けたい。

なんとかして外に出る方法を考えないと。


「うーん、煙突から出るしかないのかなぁ」

「ティセ、それはだめ。すすまみれになるし、なにより煙突は危ない」


 それに、煙突から無事に外へ出られたとしても今度はどうやってそこから降りるのか。万が一を考えてしまうとやっぱりそれは避けた方が無難だ。


 ……なんだかティセが『シィちゃんが私のことを心配してくれてる! デレ期到来!?』とかわけのわからないことを言いながら破顔してるけどそんなんじゃないから。


「んー、ティセママもシィおねぇちゃんも何悩んでるですか?」


 そんな風に悩んでいる私とティセを見て、チーリが不思議そうな顔でこちらを見ている。


「だって、このままじゃ外に出られないじゃない」

「大丈夫ですよ。チーリ、出口がもう一箇所あるのを知ってるですよ。あそこならきっと出られるですよ」

「え!? そうなのチーリちゃん」


 2年半この廃教会に住んでいるティセにとってもそれは初耳だったようだ。


「チーリが初めてティセママとシィおねぇちゃんと出会った小部屋に行くです。チーリはそこから来たですよ」



  ******



 チーリの先導で小部屋まで辿り着いた私とティセ。しかし、パッと見では出口があるようには見えない。

 一体どこに出口があるのだろうと思っていると、チーリが部屋に置いてあった荷物をかし始める。


「確かこのあたりです。このあたりにあるです……あ、あったです」


 いくつかの荷物をチーリが動かすと、その下から床下収納のような扉が現れた。

「ここです。チーリはここから来たのですよ」


 そう言ってチーリが扉を開けると、階段が見えたと同時に、部屋の中へ冷たい風が流れ込んでくる。

 風の流れがあるということは、この扉の先はチーリの言葉通り、外へと続いているようだ。


「それじゃ行くのですよ。こっちなのです」


 再び私とティセが、チーリを先頭に階段を降りていくと、その先には頑丈に作られた煉瓦づくりの地下道が続き、さらにいくつかの小部屋がある。


 ……しかし、この地下は教会の雰囲気とは何かが違う。まるで、何か強力な魔法を使った跡みたいな、そんな魔力の残滓ざんしのようなものが、魔力の無い私でもひしひしと肌に感じられたのだ。


「ねぇティセ、このあたりって……」

「シィちゃんも感じるんだ。多分この小部屋のどこかで膨大な魔力が必要な魔法を誰かが使ったみたい」


 私とティセがそんな事を話しながら歩いていると、ある扉の前でティセが急に立ち止まった。

 その表情は、まるで何かに気がついたかのような……。


「ティセママ、立ち止まってどうしたですか?」

「どうしたのティセ」


 扉の前で何か考え込んでいたティセだったが……。


「んーと、ちょっとこの部屋覗いてみてもいい?」


 そう言いながらティセは、私たちが返事をするよりも先に扉の取っ手をつかんで、ゆっくりと開け始めた。

 先程、私とティセが感じていた魔力の残滓は、どうやらここが発生源だったようで、その気配が特に強く感じられる。


 部屋の中へ私たちが入るとそこには、前にこの教会に住んでいた人が置いていったのか、青い布やら大量の赤い三角の帽子やら黄色と黒が交互になった棒やらよくわからない道具が埃をかぶっていた。


「なんだろうこれ。忘れ物かな」

「面妖なものが散らかってるです」


 私とチーリがそれを不思議に見ていると、他にももう一つ、埃をかぶった小さな人形が横たわっているのが見える。


「人形もあるね……ティセ?」


 他の道具と同様に前の持ち主が置き忘れていったのだろうその人形には、何やら文字も書いていたけれど異国の言葉らしく、何と書いているのか私には全くわからない。


 その人形を持ち上げてまじまじと見つめていたティセは、やがてその人形をポケットへとしまい込んだ。


「これ持って行くね」


 一体そんな汚れた人形、どうして持って行く必要があるんだろう。

 私にはその理由がサッパリだったけれど、それについて、特に尋ねるようなことはしなかった。



 その後、別の部屋には寄らずに、私たちは再度チーリを先頭にして通路を歩いていると、やがて上り階段が見えてきた。


「ここなのです。この階段の上にある扉の先が外なのですよ」

チーリがそう言いながら、階段を上って扉を開けると……光が差し込んできた。


「わぁ、ようやく出られた!」

「なるほど、ここに通じてたの」


 その扉から外に出てみると、教会から少し離れた丘の上の小屋に出てきた。その小屋は、周りよりも少し高い位置に作られていて、どうやら今日のような大雪時に外へ出るための通路だったようだ。


「ティセ、良かったね。これで大雪のせいで教会から出られずにそのまま餓死する心配が……ティセ?」

「ここって……」


 心配事が無くなったので私は少し安堵しながらティセに話しかけたのだけれど……どうしたのだろう。

 ティセの表情は、この景色に見覚えがあって、いつ見たのかを思い出そうとしている、そんな顔になっていた。


「ティセママ、どうしたですか?」

「ぇあ? あ、ごめんね。出られて安心しきってボーッとしてたわ。それにしてもよかったわー……これで雪に閉ざされても安心だよ」


 私の気のせいだったのだろうか、私の呼びかけに反応する頃にはまたいつものティセの表情に戻っていた。


「ほんとに。これでティセが餓死していたら夢見が悪かった」

「なのですよ」



 それは兎も角、この通路のおかげで冬の心配事が無くなり、安堵する事ができた私たちであった。


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