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15.収穫祭の村

「今日はなんだかいつも以上に賑わってるねー、なにかしら」

「もしやチーリを歓迎しての宴が始まったですか?」

「それは無い」


 私たちが冬服を買いにリタキリアの村へとやってくると、何だか村の様子が前来た時と随分異なっていた。すれ違う村人みんなが浮かれているような、そんな雰囲気。


 なので決してチーリだけでなく、私たちを歓迎してという事にはならない。

では一体なんなんだろうと思っていると、ティセが何かを思い出したらしく、独りちた。


「あー、そうだった。今日は収穫祭だったわね」


 その時だった。


いたっ……」


 思い出したり考えたりしているだけならなんとも無かったのに、ティセの口から『収穫祭』という言葉を聞いた瞬間、私の頭の中を痛みが走り抜けていく。

 私の前世は収穫祭の夜に幕を閉じたので、きっと私の体が『収穫祭』という言葉で無意識に恐怖を覚えているに違いない。


 ダメ、落ち着いて私。今日はあの時じゃない、全く別の日だから。


「シィちゃんもチーリちゃんも初めてだよね。収穫祭」


 私は自分の動悸どうきが速くなっている事をティセとチーリに悟られないように平静を装っていると、ティセが私とチーリに話を振ってきた。


「チーリは、もしかしたら両親と行った事があったのかもしれないですけど、覚えてないから初めてという事でいいのですよ」

「私は……ある」


 実際に参加したことは勿論無いけれど、前世、孤児院で過ごしていた3年の間に収穫祭は数回行われたので、収穫祭自体は初めてではない。参加したわけではないけど。

 ただ、孤児院のみんなが楽しそうにしていたので、参加していない私まで楽しくなっていたのだけは覚えている。

 私は頭が痛い事を悟られないように、淡々とその問いに答えた。


「え? シィちゃんあるの!?」


 ティセが驚いたような顔をしている。


「正確に言うと私は収穫祭を遠くから見ていただけ。でも、バンシーである事を怖がらずにいてくれた人からお土産をもらった事があるの」


 初めての収穫祭は院長から、2回目は孤児院で仲の良かった友達から。3回目は……2回目と同じ子からお土産をもらう約束だけして果たされることは無かったけれど。


「……そう」


 私の言葉を受けて、ティセが私に対して何か言いたそうな顔をしているように見えたけれど、ティセの口からは結局その言葉が紡がれることは無かった。



  ******



「さて、収穫祭の時は店じまいが早くなっちゃうから急いで服を買いに行くわよ、2人とも」


 ティセと手を繋いで私とチーリが服飾店に向かうと、確かに早めの閉店を知らせる旨の貼り紙がされていた。


「いらっしゃーい。あら、ティセさんこんにちは。今日は収穫祭を見に来たの?」

「こんにちはー。あはは、今日が収穫祭だって知らなくて来たのはたまたまだったんですよー。

 でもこの後行こうかなって思いまして」


 店の中に入ると、前に来た時と同じ店員さんが話しかけてきた。


「そして一緒にいるのは前に来た子と……初めて見る子ね」

「はじめましてなのです。チーリはチーリなのです」


 元気よく手を上げて返事をするチーリ。……顔色は蒼いけど。


「まぁ、元気な子ね」

「チーリは風の子元気の子なのです」


 チーリの人間離れした顔の青さを見てもなんとも思わないこの店員さん。

 人間ではないと気づかれないのは、私たちにとっては買い物がしやすくて助かるけれど、肝が据わっているというか目が節穴というか……


「それじゃチーリちゃん、着たい服を選んでね」

「むぅ、やっぱり選ばないとダメですか?」

「ダーメ。ちゃんと選ばないと今日は収穫祭には連れて行けないわよ」

「うぬぅ、わかったです。選ぶです」


 服飾店に来ても、まだ露出度の低い冬服を着るのに抵抗があるチーリだったけれど、収穫祭という餌を見せられた為、観念したようにじっくりと服を選び始めた。

 そして私の冬服を買うことも目的だったため、同じように私も服を探すことに。

以前のばにぃすうつみたいな失敗はもうしたくない。なので私もじっくりと服を吟味して、これでいいと思う服を見つけたのであった。


「ティセ、私はこれ」

「うん、わかったわ」


 ティセの反応が普通だった事から考えると、ちゃんと無難な服を選ぶことができたようだ。一方のチーリはというとまた悩んでいる様子だった。


「うーん、わからないのです。露出度の低い服はやっぱりチーリには魅力的に見えな……あ、これ……」


 文句を言っていたチーリだったけど、ある服を見た瞬間、生気が無い瞳を生気が無いなりに輝かせた。どうやら気に入った服があったらしい。


「ティセママ、チーリはこれにするのですよ」

「どれどれー。……って、これは」


 チーリが手渡した服、それは……メイド服だった。


「どうですかティセママ、チーリにこれはとても似合うと思うのですよ。今まで露出度が高い服でこのぼでぃすたいるを活かす事にこだわってたですけど、メイド服はその逆、低くてもこのチーリの魅力を発揮できるのではと思ったのです」


 そう自信満々にティセに胸を張るチーリ。

 ……それはそれでどうかと思う私だったけど、肌が出まくる今までの服と比べたら遙かにましだったので、私は何も言わなかった。

 きっとティセも同じ感想を持ったと思う。


「……最高じゃないのチーリちゃん! これは絶対チーリちゃんのベストコーディネートだよ!」

「やったのです、ティセママに褒められたのです」


 私の予想を裏切り、歓喜の声を上げるティセ。親代わりの身としていいのかそれで。

 そういえばティセは私にゴスロリ服とか着せようとしていた過去があったのでそれを踏まえると、ティセはそういうちょっとマニアックな服が好みなのかもしれない。


 それに気がついた瞬間、私は心の中で呆れを含んだため息をつきながら、遠巻きにそんな2人を見ていると、ティセが何か言いたげな顔をしてこちらへやってきた。


「ねぇ、シィちゃんシィちゃん!」

「……なに?」

「シィちゃんもメイド服を着てk」

「や」

「えー、そんなぁ!」


 すごく久しぶりに繰り出した、ティセの私へのしょうもないお願い一刀両断術『や』を食らってがっかりするティセ。


 全くもうティセってば、そんな誘いに乗るわけ無いじゃないの。




 その後、服を買い揃え終えた私たちは、収穫祭が開始された村の中を巡った。

 ティセが傍にいてくれたので、私のバンシーとしての能力も無効化され、そして幸いにも祭りの最中は頭が痛くなったり動悸が起きたりするような事も無く、私はひとしきり収穫祭を楽しんだのであった。


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