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10.おへそ丸出しチーリとルベレミナの村

 お祈りを済ませてから朝ごはんまで食べ終えた私たち。今日は一体何をするのかとティセを見つめていると、何やら出かける準備をしている。


「ティセ、今日も何処かに行くの?」

「そうよー。今日は昨日行きそびれたルベレミナの町に行こうと思うの。チーリちゃんの服も新たに必要になっちゃったから買ってこないとね」

「んんー、チーリは平気なのですよ?」


 チーリは服がいらないと思っているようだけど……私はあった方がいいと思う。

 なにせチーリは、ローブ以外はビキニみたいな衣装をまとっているだけで露出度が非常に高く、おへそも丸出しで少なくとも6歳児がしていい格好ではない。それに……。


「ダメよチーリちゃん。その姿だと、リッチだと疑われて討伐されちゃう可能性が飛躍的に上がっちゃうよ。だから普通の服が必要なの」

「なんと。チーリのこのお色気むっふんありのままボディは危険だったですか」


 お色気だのありのままボディだのそういう妄言は置いておくとして、真っ黒な怪しいローブに、謎の杖。そして蒼白い顔をしているチーリは、たとえ半分は人間の血が流れていると言っても、見る人によっては人ならざる者の血が混ざっている事にすぐさま気がついてしまう可能性が充分にある。


 であるならば、昨日の私と同じように、普通の服を着てごまかすのが最もいいと思う。

 ただ、アンデッドの血が入っているハーフリッチであるチーリは、一応妖精である私と違っておそらくこの廃教会に残されていた修道服を着るのは難しいだろう。だから新しい服が必要なわけだ。


「そんなわけで、昨日シィちゃんに買ってあげたゴスロリ服だけど、一旦チーリちゃんに着てもらうわ。……いいよね、シィちゃん?」

「構わない。まだ袖も通してないし」


 幸いにも私とチーリは体格がほぼ同じに見える。であるならば、昨日買った服はチーリにそのまま着てもらうのがもっとも合理的だろう。

 というか、そのままチーリにあげても構わないと思っている。そもそもその服はティセの趣味で買ったもので私の趣味じゃないし。


「代わりに、あとでシィちゃんにも新しい服買ってあげるからね」

「いらない」


 私はゴスロリと一緒に買った白いワンピースだけで本当に充分なんだけど、どうしてもティセは私を着飾らせたいらしい。ちょっと迷惑。


「本当にいいですか、シィ」

「いいよ」


 そんな私の返答に、チーリが感激したように目をきらめかせた。相変わらず顔色は悪いけど。


「ありがたいのですシィ。シィは冷めた風な雰囲気あるですけど、やっぱり私に優しいシィおねぇちゃんなのです」


 いつの間にか私の事をおねぇちゃんと呼ぶチーリ。

『おねぇちゃん』と呼ばれる感覚に、面と向かって言われるお礼が合わさって、その、面映おもはゆくなってくる……。

 でも、それと同時に生まれ変わる前に過ごしていた孤児院で、私よりも小さい子たちに『おねぇちゃん』と呼ばれて慕われていた過去の記憶もよみがえってきて、なんとも懐かしい気持ちになる私だった。


 そんな風にちょっとばかりむずがゆい気持ちと感傷じみた気持ちが入り交じった状態になった為に、知らず知らずのうちに口角が上がっていたようだ。チーリがすかさずそれを指摘した。


「お、シィおねぇちゃんの口元が少しだけ嬉しそうに上がっているのです。かわいいのです」

「え!? あー! チーリちゃんずるい! 私もシィちゃんを喜ばせたり嬉し泣きさせたりしたいのに!」

「いや、待って2人とも。これは別に嬉しくなっているわけじゃないから」


 というかまだ諦めていなかったのかティセ。……まだまだ喜んだり嬉し泣きしたりしてあげないんだから。



  ******



「ねぇ、シィちゃん。チーリちゃんのゴスロリ服。すごく似合ってるよね……?」

「どこぞの令嬢みたい」

「なんだかそう褒められるとちょっと恥ずかしいのです」


 私に着せる予定だったゴスロリ服を代わりに着せられ、それに合うように髪も整えられたチーリ。

 普通ならば蒼白い顔というのは陰気な雰囲気が漂ってくるため、マイナス要素でしかない。

 しかし、ゴスロリ服をまとった事で、儚げな印象として逆にプラス要素として加味され、結果的に深窓の令嬢という様相となったチーリの姿は、非常に美しいものとなった。


「……あのさ、ティセ」

「え? なに?」


 横で興奮しているティセを落ち着かせるため、私は率直に思ってしまったことをティセに話した。


「多分チーリがこの格好のまま、村まで行くと逆に目立っちゃうし、人さらいに遭遇する可能性無い?」

「……あるかも」

「なんと。チーリは魅力的すぎて、既に八方塞がりだったですか」


 ゴスロリ服を纏ったチーリを町まで連れて行く時には、相当用心しなければならない。私たちはそう思うのであった。


 それにしてもチーリ……異様な程にポジティブな考えをしまくっていて、なんというか逆に感心してしまうなぁ……。



  ******



「それじゃ、ルベレミナの村へしゅっぱーつ!」

「ん」

「なのですよ」


 一人だけやたらテンションの高いティセ。おそらく、両サイドにいる私たちが手を繋いで一緒に歩くことによって、両手に花状態となったからなのだろう。ティセの横顔をちらりと見ただけで、それはもうご満悦というのが私たちにも伝わってくる。


「それでティセ、今日ルベレミナへ行くのはチーリの服のためだけ?」

「いや、今日はベッド用の新しい布団とか、食料も買うわよ。なので悪いけど2人とも、荷物持ちお願いね」


「わかった」

「了解なのですよティセママ」


 私たちがそう返事をしてから大体20分ほど歩いた頃だろうか。ようやくルベレミナの村と思しき家々の形が見えてきた。


 リタキリアの村には門番がいたのだが、こちらの村にはどうやらいないらしくて、誰かに断ることもなく私たちはそのまま村の中へと入ることができた。

 村の中をティセと手を繋いで歩いてみて感じたのは、人通りが少なく、閉まっているお店も多くて、正直なところ……。


「ティセ、こっちの方が寂れてない?」


 私は村の人に聞こえないように小声でティセに聞いてみた。


「うん、そうねぇ。最初来た頃はリタキリアとどっこいどっこいだったんだけど、あっちの方、市場あったでしょ。あれができてから、すっかりこっちは寂れちゃったのよね」

「悪印象に繋がることをズケズケと声の調子を抑えずに言うのは良くないと思う、ティセ」


 私が村の人に配慮して折角聞こえないよう小声で言ったのに、何でも無い事のように普通の声で話すティセは鬼か悪魔なのだろうか。

 幸いにもティセの言葉は村の誰にも聞こえていなかったようだけど、横で聞いていた私は内心冷や汗ものだった。


「すげーですティセママは。言いにくい事をズバッと言ってしまう鋼鉄の心を持っているのです」


 ほらチーリが、それをかっこいいことだと思ってしまっている。これではチーリの教育に悪い。


「チーリも憧れちゃダメ。ティセは空気読めてないだけだから」

「読めてないんじゃないよ。読む気ないの」

「余計に性質たち悪い」


 おかしい。ポジションとしてはティセが私たちの保護者という立ち位置のはずなのに、なんで私がそこに収まり始めているんだろう。



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